引きこもりに異世界は難しい。

のあるみ缶

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最終話 しわしわの大きな手

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 エフィにとって、エル爺とアレックスは自分の魂を捧げてでも取り戻したい大切な家族だった。
 そしてエル爺にとって、エフィは自分の命をかけてでも守りたい最愛の孫だ。

 二人の想いは''優しすぎる''せいで対立を生むことになる。

 「エル爺……、それは、どんな魔法なの?」
 エフィの表情はさっきまで赤らめていたものとは違い、怖れと不安に近い表情だ。
 エル爺はしばらくの沈黙ののち、静かに口を開いた。

 「これはじゃな……、この世界の元となる魂をワシのものと書き換える魔法じゃ」
 ――エフィとワシの魂を書き換えるんじゃ。

 エル爺は真剣な表情でエフィを見つめ、その''秘密''を告白する。
 エフィは何を言われたのか分からないような表情をしていた。
 震え、一歩後ずさり、状況が呑み込めない。

 エル爺たちにまた会うためにこの世界の魔法を完成させたのに、エル爺はエフィと離別するための魔法を完成させた。
 それは悲しくて優しい二人の想いだ。

 俺はエル爺から''この大魔法''のことは聞いていた。
 知ったからこそ、話し合わなければならないと考えた。
 この家族は優しすぎるあまりお互いの想いを知らないままだった。

 ――俺はエフィの気持ちもエル爺の気持ちも、お互いに知ってほしいと思ったんだ。

 それが対立や悲嘆に発展することは分かりきっていた。
 でも、最期の時までお互いの''想い''に気づかないのはそれこそ悲しいことだと思った。

 「なんでっ! なんでそんなことしたのっ!!」

 エフィは聞いたことのないような怒声で声を荒げた。
 そしてエル爺の傍まで駆け寄り、服を掴む。

 「私は、エル爺とアレックスに会いたくて……! この世界を、作ったのに!」

 エフィは泣きながらエル爺に抗議する。
 エル爺はエフィの姿を悲しそうな目で見ていたが、決意も感じられた。

 「このままいけば私は、私たちは消えるけどっ。それで……いいの、望んでない…」

 エフィは顔を伏せ、泣き続ける。
 エル爺はいつものようにエフィの頭を撫でるのではなく、膝をついてエフィの目線まで合わせる。

 そして優しく、諭すようにエフィに言葉をかけた。
 「のうエフィ……、幸せとはなんじゃと思うかの」
 「幸せ……? それは、皆がいて……楽しく過ごして……」

 エフィは涙を拭きながらエル爺の質問にたどたどしく答える。
 エル爺はエフィの涙を一緒に拭いながら答えを話した。

 「ワシはな、人生が終わるその瞬間に''やり遂げた''と胸を張れることじゃと思っておる」
 「なんでもいいんじゃよ。――本をたくさん読んだ、――自然を愛した、――家庭を築いた」
 「そしてワシは……、――最愛の孫娘を''未来''へ送り出したい」

 エル爺は目を細め、優しい表情で続ける。

 「ワシは一度死んだ身じゃが奇跡が起きた」
 「この奇跡で、お前が幸せであれるようにと、未来へ送り出すのがワシの役目じゃ」
 「エフィ、今のお前は最期に''やり遂げた''と胸を張れるかの」

 エフィはエル爺の想いを聞き、涙目を丸くしていた。
 祖父の想いを真正面から話され、それを受け止めようとしている。

 「私は……」
 エフィは顔を伏せ、少しの沈黙の後。

 「エル爺とアレックスが全てだったの。それは、今も変わらないの。」

 エフィは自身の服を掴み、たどたどしく続けた。

 「でも、ね。なつめに出会って、もっとしたいこと、たく、さん出てくるのっ」
 「私が''したこと''は後悔していない。ただ、未来を夢見てしまうの」

 エフィは泣き震え、隠していた想いを告白する。
 それはこの200年間、ずっとずっと押し殺してきたものなのかもしれない。
 自身が消えることを悟っても、表に出さないように隠してきたこと。

 ――誰かが門を開けて
 ――連れ出してくれて
 ――たくさんの綺麗な色で溢れている……

 「……そんな、許されないことを思ってしまう私を、神様は見過ごさなかったんだと思った」
 「身勝手に呼び覚ましたエル爺とアレックスを差し置いて、こんな……」
 「でも次は''ひとりじゃないから、寂しくない''んだってっ、またそうやって自分が寂しくないようにってっ…!」

 エル爺は泣き叫ぶエフィを強く抱きしめる。
 強く、強く、その想いを肩代わりするように。

 「エフィ、なんじゃ、勘違いしておるのう」
 頭を撫でながらエル爺は答える。

 「ワシらはお前に感謝しておる、身勝手なんて思っておるはずがなかろうて」
 「未来を見ていいんじゃ、エフィ。楽しく、煌びやかな未来で笑って居てくれさえいれば」

 「それにじゃな……、仮に神様が許さなかったとしたらワシが一喝入れてやるわいっ!」

 エル爺は拳を上げ、神に対抗する。
 俺はその勇姿に呆れ混じりの安心感を感じた。

 アレックスがエフィの傍までやってきて、頬を舐め、涙を拭う。
 エフィはアレックスの頭を撫でるがアレックスはエル爺の隣へ行き、そこへ座った。

 「ワンッ!!」

 アレックスはエフィを正面から見据え、一声。
 まるでアレックスもエル爺と共に神へ一喝入れる気だ。

 「アレックス…、あなたも私を許してくれるの?」
 エフィが微笑みながらそう聞くと、更に一声「ワンッ!」と鳴いた。

 俺は二人と一匹に近づき、まずはエル爺へ頭を下げた。

 「エル爺さん、さっきは声を荒げてすみませんでした」
 「それに''大魔法''のことについても」

 エル爺は立ち上がり、俺の肩に手を乗せて続ける。

 「いや、お前さんの決断はワシらの最善じゃったと思う」
 「想いを告げられてよかった、ありがとう夏目」

 俺は顔を上げ、安堵した。
 そこには優しい表情のエル爺が居て、俺の行動を肯定してくれた。
 エフィも駆け寄ってきて、俺に抱きついた。

 「なつめっ、ありがとう! エル爺と話をさせてくれてっ」
 「私の未来を考えてくれてっ」

 エフィはぎゅーっと力を込め抱きしめてくれる。
 俺はその頭を愛おしく撫でた。

 「それにじゃな、夏目よ」
 エル爺はコホンッと一呼吸おき、話す。

 「ワシが自分のことのように嬉しいと言ったのは嘘じゃないぞ?」
 エル爺はニヤリとしながらからかう。

 アレックスも「ワンッ」と鳴きながら尻尾を振っている
 俺は気恥ずかしくなり、下を見ると顔が赤くなったエフィと目が合った。

 「えへへ…」「あはは…」
 俺たち二人は照れくさくなり笑いあう。
 気恥ずかしい空気でいるとエル爺が空気を換えてくれた。

 「さてこの''大魔法''の決行日じゃが、ひと月後に行う」

 ひと月後というのは、何かあるんだろうか?
 もしまだ時間があるのなら、もっと家族の時間を……。
 俺はエル爺に確認をする。

 「エフィの状態にもよりますが、ひと月後じゃないといけなんでしょうか?」
 「もし、まだ余裕があるならもう少し先にして家族の時間を……」

 俺がそう聞くとエル爺は首を横に振った。

 「エフィの魂はギリギリじゃ。恐らくもってひと月じゃろう」
 「そしてその魂と世界の揺らぎを狙うんじゃ」

 エル爺はこの''大魔法''の仕組みを解説してくれる。
 エフィの魂と世界は密接に結びついており、通常では書き換えは不可能らしい。
 しかし魂と世界の結びつきが綻ぶタイミングを見計らい、書き換える。

 そして本来あるべき魂をエフィの体に戻し、エル爺の魂を世界と結びつける。
 ただ、エル爺は死者であるためその魂では世界は10分と持たない想定だ。
 別れとしてはあまりにも、短い。

 「それは、もし…」

 俺は不安に駆られた。
 もし失敗したりしたら、エフィは。
 いや、エル爺が最愛の孫娘を未来に送り出すために作った''大魔法''だ。
 きっと成功する。

 「天才孫娘の祖父じゃぞ。必ず送り出す」

 俺の不安を察してかエル爺は力強く言葉を送ってくれた。
 俺はその言葉に強い安心感を得る。

 「この200年、長かったようであっという間じゃったが、ここを出る日が近づいておる」
 「夏目の言葉を借りるとなると、''引きこもり卒業じゃの''」

 エル爺は笑いながら煙管を吹かす。
 俺とエフィは微笑みあい、ただ少し寂しさも感じた――



 それからこのひと月は可能な限り家族みんなで過ごすことになった。
 エル爺はたまに''大魔法''の最終調整や綻びがないかの確認のために書斎に居るが、エフィとの時間を第一優先に過ごしていた。

 そして世界が終わる予兆も現れてきていた。
 食材は消え、屋敷の何部屋かは扉を開けてもそこに部屋はなかった。
 徐々に''消えていく''世界に動揺はしつつも、エフィは笑顔を絶やさなかった。

 「こ~やって~、マナを集めて浮かぶ光をイメージっ!」

 エフィは俺に簡単な魔法を教えてくれた。
 それは光を放ち、周囲を明るくする魔法だった。
 伊達?眼鏡をかけた先生モードのエフィは誇らしげに魔法を見せる。

 「これを応用するとね、ほらっ」
 
 光は霧散し、キラキラ光り注ぐ。
 それは粉雪のように舞い、辺りの草木が瑞々しくなる。

 「おぉ……、これが魔法か!」
 俺はその綺麗な光景を眺め、あることを思いつく。


 「なぁエフィ、この光を弾けさせたり噴水のように出すことってできるのか?」
 俺がそう聞くとエフィはきょとんとしてたが、すぐに好奇心に満ちた表情で駆け寄ってきた。
 顔が近い……。

 「なにそれっ!? 楽しそうっ!!!」
 エフィは魔法を行使し、上空に弾けさせたり指から噴水のように光を噴射した。
 アレックスも大喜びで、エル爺も俺たちを見つめながら微笑ましく笑っていた。

 テンションが上がったエフィは飛び跳ねながらいくつもの光を打ち上げる。
 まるで花火師がステップを踏みながら打ち上げしているようだ。
 ただ……、テンションの上がりすぎたエフィはひと際大きい光を何発も放ち、エル爺が椅子から転げ落ちたのはまたのお話。


 ――ある日。
 扉がノックされ、俺の部屋にエフィが来る。
 俺は寝る前の習慣で本を読んでいたのだが、小さな来客に一度本を閉じる。

 「どうしたんだ? エフィ、寝れないのか?」

 俺は一度部屋にエフィを招き、椅子に座った。
 エフィは少し元気が無さそうに立ちすくんでいたが、俺のところに小走りで走ってきたかと思うと俺の膝に座り始める。

 「なつめ……、ありがとう」

 俺は膝に乗ったエフィにドキドキしていたが、その言葉を聞いてすぐに我に返る。
 そして少し微笑ましくなり、エフィの頭を撫でた。
 
 「なんだ、それを言いに来たのか?」

 エフィは俺の顔は見ず、足をぶらぶらさせながら話してくれる。

 「私ね、まだ怖いんだ」
 「どうしたってエル爺とアレックスは私の前から居なくなっちゃう」
 「ずっと一緒だった家族に、''また''会えなくなるのが怖いの」

  エフィの手は少し震えており、まだ心の準備ができていないのが伝わる。
 必死に家族を取り戻し、この世界を支えてきたエフィを俺は優しく抱きしめた。

 「ひゃっ」

 エフィの顔に熱がこもるのが伝わり、ぶらぶらさせていた足が止まる。
 しかし小さな身体は緊張でガチガチだ。

 「な、なななつめっ、どどどどうしたのかしらっ!?」
 話し方が変になってるぞ。

 俺はそれが可笑しくて、少し笑ってしまった。
 だが俺は、自分の気持ちを、想いをエフィに伝える。

 「エフィがどんな想いで家族を取り戻したのか、全部はわからない」
 「だからこの先、それを塗り替えるくらい幸せにする……。いや、したいんだ。」

 抱きしめられながら想いを伝える俺の顔を、エフィは覗き見る。
 
 「一生、幸せにしてくれる?」
 「あぁ、世界一幸せにしてやる」

 エフィは目を細め、幸せそうに笑った。
 そして俺の腕に手を添え、体重を預けてくる。
 俺の腕は少し、力がこもった。



 ――世界が揺れた。
 「っ!? むっ胸が……!」

 世界の揺れと同時にエフィが苦しみだす。
 俺は抱きしめていたエフィを支えなおし、顔を見る。

 「エフィっ! エフィっ!!」

 汗と苦痛で歪むその表情に俺は声を荒げた。
 バタバタとした足音が聞こえ、扉が勢いよく開かれる。

 「エフィっ! 大丈夫か!?」
 「ワンッ! ワンッ!」

 エル爺とアレックスがやってくる。
 俺は気が動転し、うまく言葉が出ない。
 ――なにが? ――どうしたらいい? ――エフィはどうなって?

 「夏目! エフィを庭へ運ぶんじゃっ!」
 エル爺の声に我に返った俺は急いで庭へ運ぶ。
 その間も世界は揺れ、事の重大さを察する。

 「なつ、め……、うぅっ!」
 運んでる最中、エフィが声をかけてくれるが苦しさでまた呻く。
 これは、世界が……でもまだひと月も経っていない――

 庭へ連れ出した俺は、エル爺の指示に従って一度エフィを寝かせる。
 世界の揺れは収まり、エフィの呼吸も少し落ち着いているようだった。

 「これは前兆のようなものじゃろう。急ぐぞ、夏目」

 エル爺はエフィの頬を撫でながらそう呟く。
 アレックスもエフィに寄り添い、鳴いている。

 「急ぐ」と言われ、想定外のことが起きたと俺は察する。
 そうしないと間に合わないという意味だろう。
 エル爺は立ち上がり、そして告げる。

 「——今から魔法を行使する」

 エフィは起き上がり、エル爺の顔を見つめた。
 急な別れが迫り、言葉が出てこない。そんな表情をしている。

 「エル、爺っ! でも、でもっ……!」

 胸を押さえ、声を上ずらせるエフィにエル爺は再び膝をつき、頭を撫でる。
 ――私は。

 エフィ・ソワーズとしての私は家族に、エル爺とアレックスに何かしてあげられただろうか。
 私の気持ちだけで蘇らせ、200年以上もこの世界に縛り、そして次は未来へ背中を押させる。

 そんな親不孝な子供が居るのだろうか。
 私は怖い。
 本当はエル爺もアレックスも、ようやく解放されると喜んでるんじゃ――

 「エフィ、''幸せ''をありがとう」

 エル爺が涙ぐんだ表情で、私に告げた。
 祖父が泣いた所を初めて見た私は動揺する。

 「違う、私はっ!みんなをこの世界に縛り付けてっ……ごめんなさい……っ」
 「こんな、親不孝な私で……何もしてあげられなくてっ」

 「――お前の笑顔が、――存在が、ワシの心に空いた穴を塞いでくれていたんじゃよ」
 「カイルの、お前の両親を失ったワシが耐えられたのもエフィの笑顔のおかげじゃ」

 エル爺は強く、私を抱きしめてくれる。
 そしてその瞬間、私たちの周囲から魔法陣の光が溢れた。
 エル爺の''大魔法''が発動する。

 「エル爺……! アレックス……! 私っ」

 そして光が強まり、真っ白になる。
 光が和らぐと、屋敷やお気に入りのお庭が消えていた。
 辺りは何もない空間で、光が下から上へ流れていくのが見える。

 「魔法が成功したようじゃ。安心したわい」
 エル爺は辺りを見回し、安堵していた。

 ''成功''……それは''家族''との別れを意味する。
 私はエル爺とアレックスの顔を見たいのに、涙が視界を邪魔する。
 早く……伝えなきゃ、最期の言葉を。

 「エル、爺っ、アレ、ックスっ」
 伝えたいのに言葉が、詰まる。
 今までの思い出が走馬灯のように巡り、声が出ない。

 すると、両頬にしわしわで、大きくて、温かい手の感触。
 私の大好きな感触。

 「エフィ……、未来へ行きなさい」
 「そして世界一、幸せになりなさい」

 エル爺が柔らかい表情で私に道を諭す。
 その''愛''が私の不安や恐怖をかき消してくれる。

 白い友人も傍に来てくれ、頬を舐め、頬ずりをしてきた。
 そしてエル爺の隣に戻り、尻尾を振っている。

 「エル爺、アレックス……」
 
 私は涙を拭い、思い直す。
 エル爺とアレックスが愛してくれたのは、笑顔の私。
 最期に笑顔じゃないと、未来へ行けないよね。

 「私、未来へ行くねっ」

 そう私が笑って言うと、エル爺とアレックスはもう一度抱きしめてくれる。
 罪悪感が消えたわけではない……だけど。
 家族の愛が私の背中を押してくれた。


 ――俺は胸に温かいものを感じていた。
 それは日向ぼっこをしているような、そんな温かさだった。

 「夏目よ」

 エル爺が俺へ視線を移す。
 そして立ち上がり、俺に向き直る。
 柔らかく、温かい表情で俺へ手を差し伸べた。

 「お前さんの優しさが、ワシらを最期まで家族にしてくれた気がするのう」
 「幸せになれ、夏目よ」

 俺はエル爺の手を取り、涙ぐむ。
 この人の手はしわしわで、なのに大きくて、温かい。
 俺はエル爺に憧憬の念を抱いた。

 「エル爺さんっ、俺……エフィを世界一幸せにして……」
 「俺も、世界一幸せになります」

 「あぁ、当然じゃとも」
 エル爺は笑い、繋いだ手に力を込める。

 「ワンッ」
 アレックスも一声鳴き、当然と言っているようだ。

 「エフィ」
 
 俺はエフィの名前を呼び、膝をつく。
 そして――

 「愛してる。世界一幸せにさせてほしい」

 エフィは目を丸くし、顔を赤らめるがすぐに笑顔になる。

 「私もだよ、なつめっ」

 エフィの手を取り、エル爺たちに向きなおる。
 繋いだ手に二人は力を込め、伝える。

 「行くよ、エル爺さん。アレックス」
 「あぁ」 「ワンッ」

 エル爺たちはそう一言だけ言い、頷く。
 エフィは胸に手を置き、最後の一言を告げる。

 「私っ! エル爺とアレックスの家族でよかったっ!」
 「たくさん! たく、さんっ……愛して、くれて、ありがとうっ!」

 エフィは我慢していた涙がまた溢れ、想いを吐露する。
 しかしそのアメジストのような綺麗な瞳は、しっかりエル爺とアレックスを見つめていた。

 「幸せにっ……してくれてっ! ありがとうっ!!」

 それを聞いたエル爺は一歩踏み出そうとするが、すぐに止め、笑みを零す。

 「ワシもじゃよ、エフィ」
 「ワシはお前の祖父で、家族で、心から幸せじゃった」
 「のう、アレックスもそうじゃろ?」

 エル爺はアレックスの頭に手を置き聞くと今までで一番大きな声で鳴く。

 「ワンッッ!!」

 俺たちはそれに笑みが零れてしまい、笑いが空間に広がる。

 「……じゃあの、エフィ。夏目」
 エル爺が別れを告げる。

 「うんっ」「はいっ」
 俺たち二人は笑顔を交わし、光の奥へ、進んでいった――

 光の奥へ進んでる最中、エフィが俺を見上げて告白する。
 「なつめっ愛してるっ!」

 いきなり言われた俺はびっくりドキドキだ。
 「な、なんだ急に!可愛いな」

 俺は照れ臭くなり、頬をかく。
 握られた手に力がこもり、エフィは赤らめながら話す。

 「さっき、ちゃんと言えなかったから……えへへ」
 俺は「そうだっけか」と笑い、エフィも「そうなの~っ」と笑う。

 笑いあう俺たちは光の奥へ進み、包まれる――
 俺はこの世界を、エル爺とアレックスを一生涯忘れないだろう。
 この家族の愛を、形を、''これからの家族''に伝えていくために。

 そして引きこもっていた''俺たち''に、背中を押してくれた大きな手を。



 ――エフィと夏目が去った。
 ワシの「宝物」がキラキラ輝きながら、未来へ進む姿を眺めていた。
 本当に、本当に自分のことのように嬉しいわい。

 「のうアレックス、ここは温かかったのう」

 アレックスは尻尾を振りながら「ワンッ」と鳴く。
 ワシはアレックスの頭を撫で、エフィと夏目が去った道に背を向けた。

 ――するとそこには。

 「!?……カイル……」

 振り替えった先には、かつて失った息子の姿があった。
 カイルは凛々しい表情で、ワシを見据え、手を指し伸ばしていた。

 驚愕したが、すぐに安堵がやってきた。
 あぁ……そうじゃな、カイル。
 ワシはその手を取り、カイルに''報告''する。

 「お前の娘は天才でのう、200年もかかっちまったわい」
 カイルは微笑み、ありがとうと言われた気がした。

 「……あぁワシは、やり遂げたぞ」

 ――そしてエル爺とアレックスは光に包まれていった。





 ◆◇◆エピローグ
 ''あの楽園''を出てから、俺とエフィは元の世界へ戻った。
 「元の」と言っても、俺の世界ではなくエフィの世界だ。

 200年以上経ったエリシア公国は王国が滅亡していたり、代わりに小国が増えていたり、エフィの知識からかなり様変わりしていたようだ。

 エフィたちの屋敷は廃墟となってはいたが、誰にも手をつけられていなかった。
 どうも昔、たくさんの死体がそのまま放置された影響で悪霊が出るという噂が広まり、誰も近づかない場所になっていたらしい。

 ――エフィ達が襲われた時のことだろう。

 俺たちは廃墟になった屋敷に行き、墓石の前に立つ。
 ここは、エル爺とアレックスの墓だ。

 「エル爺さん、アレックス。ありがとう」
 俺とエフィは墓石に花を添え、祈る。

 月に一度はこうしてお墓参りをしている。
 俺たちはこの世界へ戻ってから、少し外れた山奥に住んでいた。

 多少魔物は出るが、エフィの魔法のおかげで安全は保たれている。
 俺も魔法を教えてもらいながら仕事や魔物退治の日々だ。
 そのことを伝えてもよかったのだが……。

 今日はエル爺とアレックスに大切な報告があって来た。

 「私ね、赤ちゃんができたよ」

 そう、エフィのお腹には新しい命が誕生した。
 俺たちの幸せの結晶が、エル爺たちが作ってくれた未来が、ここにあるんだ。

 「まだ漠然としてて、あれなんですけど……」
 「なつめ~っ! ちゃんと’’パパ’’の自覚を持ってよねっ」

 情けない「パパ」に「ママ」は笑いながらお説教をする。
 俺たちの幸せな日々が 「この子」にも聞こえているかな、聞こえているといいな。

 「うん、エフィとこの子は俺が世界一幸せにするよ」
 「~っ! うんっ! ……あっ」

 顔を赤らめながら喜ぶエフィがお腹を押さえながら笑う。

 「今この子動いたかもっ! 一緒に世界一幸せにしてもらおうね~っ」

 俺はエフィの肩を抱き、エフィは俺の肩に頭を乗せる。
 祝福を受けるかのように……暖かい風が吹き、木々が揺れた。


 引きこもりに異世界は難しい。完
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