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2石と手紙
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2石と手紙
東京都三鷹市井の頭、閑静な住宅地。 高校生の神居誠 十八才(通称ドリル)は日課となっていた
散歩で井の頭公園に来ていた。
今日も平日だというのに多くのカップルが公園を散歩したりボートに乗ったりで楽しそうにしていた。
ここ井頭公園は学生の街。吉祥寺駅から南に歩いてすぐの公園で、昔から人気のデートスポットでもある。
ドリルは井之頭辨財天堂でお参りするのが日課であり散歩コースになっていた。
今日も夕方の散歩し辨財天堂に手を合わせた。
庚申塔の方に目を向けた時、塔の下に何やら紫色の卵形の石をみつけ、
それが光った様な感じがしたので近寄った。
確かにその石は他の石とは違い、自ら光を発してる様に感じられ、ドリルは恐る恐る左手でそっと拾った。
一瞬、左手に電気が走ったようにチクチクと感じられた。
ドリルは帰ってからゆっくり確かめようと、そのままリュックに石を無造作に入れ散歩を続けた。
一時間程の散歩を終え帰宅したドリルは手を洗い、その石も一緒に洗おうとリュックから取り出し洗った。
自分の部屋に戻りサッシの下に石を置き乾かした。
ドリルは趣味はお気に入りのヤイリー社のフォークギターを取り出し、今練習中のレッドツェペリンの
天国への階段を弾き始めた。
弾き始めて五分ほど経った頃だった窓が小さく振動し始め何やら音がした。
なにが起きたのか解らず、ただ呆然とギターを抱えたまま見入っていた。
石は振動と同調するかの様に光りだし、その光には微妙な強弱が感じられた。
不思議な事もあるものだと石を手にした。
瞬間、後ろからいきなりの声がした。
「こんにちは。 こんにちは……」と繰り返えす声が聞こえたのでドリルは恐る恐る
声の方を振り返った。
瞬間「えっ……?」ドリルは声を発した。
部屋に緊張が走った。
そこにはドリルの知らない何者かが立っていた。
「ど・泥棒……?」ドリルは声にならない声で叫んだ。
その存在は「こんにちわ。 驚かないで突然ごめんなさい」
ドリルは「あなたは誰? 何でここにいるの?」とうぜんの質問である。
ここまで話すのが今のドリルには精一杯だった。
その存在は「突然驚かせてすみません。 私はファイと申します。
あなたが先ほど拾ったその石の事で、私は百五十年ほど未来から来ました」
「百五十年……? 未来・・・?」
「あんた、頭大丈夫ですか?」
「ごめんなさい。 納得出来ないですよね。 証明するしか方法はないわ。
今日あなたはもう一度、井の頭公園へ行く事になります。
そしてサンロードを二往復します。 今はそこまでしか解りません。
明日また寄らせて下さい同じ時刻にきます。
また来ます。 その時は信じてくれると思います。
ほ、本当に失礼しました。
突然でお許し下さい。 じゃあ!」ファイは一方的に話し終えるとその場から消えた。
「今のなに? ひとりで勝手に語って、なんで勝手に帰るんだよ? まったく。
腹立つ、急に部屋に入って来て信じろと・・・?
ふざけるじゃねえよなまったく。 絶対、公園なんて行かねえし……」
ドリルはぶつぶつ呟きながらまたギターを弾き始めた。 しばらくして母親からメールが来た。
「井の頭線不通になった、タクシーが全然走ってないので拾えない。
すまないけどサンロードに迎えに来て荷物持って欲しい。マコトへ。 母より」
「何だよ、吉祥寺か……」
ドリルは吉祥寺にむかった。 サンロードに入ってから待ち合わせ場所に直行した。
そのまま荷物を持ってサンロード入口を出た時、母親が
「マコト申し訳ない。西友で買いをし忘れた物があるの。戻っていいかい、ごめんね……」
「ああ、かまわないよ。 行こう」 そう言った時ファイの言葉が脳裏をかすめた。
「まじかよ? あいつの話しそのまんまかよ?」
ドリルは好奇心と同時に何なんともいわれぬ不安を憶えた。
翌日ドリルはいつものように学校から戻り日課の散歩をこなした。
途中、井之頭の辨財天堂で昨日の事を思い出し帰宅した。
内心ドリルはいくつかの質問を考えていた。
そしてその時が来た。 昨日のように紫の石が微細な振動を始めた。
突然、霧のような揺らめきの中からそれは現れた。
「こんにちわ。 昨日はごめんね、ドリル」
もう呼び捨てかよ?
ドリルは妙に馴れ馴れしいと思った。
「こんにちわ。 昨日、君の言った通りになったから・・・まあ、とりあえず話を聞くよ……」
「そう、信用してくれたんだ。 ありがとう」
「いや、まだ半分ですけど」ドリルが即答した。
ぶっきらぼうにドリルは言った「で、話しってですか……?」
「実は私がここに来た理由は、この手紙なんだ」ファイは手紙をドリルに渡した。
その手紙の宛名は同じクラスの板垣久美子だった。
「……?」ドリルは皆目見当がつかなかった。
「ねえ、ファイさん。 これどういう意味?」当然の質問であった。
「僕のことはファイと呼び捨てでいいよ。 じゃあ、これから説明するよ。
この差出人は板垣久美子さんのおばあちゃんのトメさんで、板垣久美子さんへの手紙なんだ」
「えっ? 確か、お婆さんは昨年亡くなったって聞いたけど?」
「そう。 そのトメさんなんだけど、彼女へひとつ言い忘れたことがあったらしく僕は彼女へ
渡してくれるように頼まれたんだ」
「なんで君が?」ドリルは首を傾げながら聞いた。
「ドリルがその石の持ち主になったからなんだ。 その石には昔からある役目があるんだ。
その石を所持した人間は霊界とこの世との伝達人の使命が科せられるというものなんだ。
以前の持ち主は高齢のため他界したんだ。 遺族はその使命を知らないまま昨日の井之頭辨財天堂に
棄ててしまったんだよ。 もう五十年も前の事だった。
そこへドリルが昨日通りかかり、その石と五十年ぶりに縁を作ってしまったんだ……」
「なんで僕なの?」
「ドリルはその石を洗う時に可哀想と思った。 それでその石は君を選んでしまったんだ。
君と石が同調したのはその石の意思だったんだ。 君が石に選ばれたのさ」
「石の意思? ダジャレかよ! 僕、勝手に選ばれても困るんだけどな……」
「ここは、不運だと思ってあきらめてくれないあ」
「まっ、大体のことは解ったけど、その手紙を板垣さんにどう説明して渡すの?」
「方法は二つあるんだ」
一つは彼女の夢に侵入して渡す方法
但し、夢から覚めると忘れやすいというリスクがある
二つ目は彼女に直接手渡す方法
但し、受け取ってから三分以内に読んでしまわないと手紙は消滅してしまう。
「直接読んで聞かせる方法はどう? 一番簡単で早いと思うけど」
「じゃあ、その手紙読んでごらん?」
ドリルは手紙を広げた。 言葉に詰まった。
「……?」手紙は白紙だった。
「ねっ、解った? 第三者は宛先しか読めないのさ」
「とりあえず三分以内に読むように伝えてこれ渡すよ。
でも板垣さんになんて言って渡そうか? 渡す切掛けが難しいよ。 ファイも考えてくれよ……」
「それがドリルの今後の仕事になるんだ。 だから頑張って」そう言って消えた。
翌日の放課後、板垣久美子を校庭の裏に呼び出した。
「ドリル君、私になにか用でも……?」
「こんなこと信じてくれないと思うけど、板垣さんの去年死んだお婆さんからの手紙を、あるルートで
あの世から僕が預かったんだ。 それで受け取ったら三分以内に呼んでほしい。 それが過ぎると手紙が
消滅するんだ」ドリルは言い終えてホッとした。
「何それ……? なんで私のお婆ちゃんなの?」
「何か君に言い残した事があったらしく、それが重要なことだったみたいで、
今回、僕に依頼されたんだ。 僕もなんで僕なのか解らないけど……」
板垣久美子は半信半疑で手紙を受け取り素早く読んだ。 しばらくして彼女の目から涙が頬を伝って落ちた。
そして手からその手紙が消えた。
「板垣さん・・・大丈夫? どうだった?」
「ドリル君ありがとう。私、お父さんの事で長年悩んでいた事があったの。
この手紙で私の誤解だったと解ったわ。 それをお婆ちゃんが気にしていて、生前私に話して
聞かせようと思ってたらしいの。
それが出来ないまま他界したので死んでからも気にしていたみたいなの。 ドリル君ありがとう。
私、最初は半分疑ってたけど、あの手紙はお婆ちゃんに間違いないわ。 お婆ちゃんの言い回しと
筆跡も同じだし、よく説明できないけど手紙から伝わる雰囲気がお婆ちゃんと同じだった・・・
ありがとう、ドリル君」
「何の事か解らないけど誤解が解けて良かったね、お疲れさん」
「でも不思議ね、あの世からの手紙なんて。 三流SF小説みたいな事あるのね」
「僕も今回が初めての経験なんだ。 だからまったく見当がつかないよ、今日の事は内緒にしてね。
面白い話があったら教えるから」
ドリルは不思議な達成感みたいなものを感じた。
これがドリルとファイと不思議な石との出会いであり、不思議な世界を旅する物語の始まりとなった。
ある日の夕方、突然ファイが手紙を持ってドリルの部屋に現れた。
「やぁ!いたの?」
「あっと、びっくりした……」ドリルは目を見開いた。
「驚かしてごめん」
「あのさあ、今度から現れる時、何かドアをノックするとか合図のようなものしてくれない?」
「ノックする体が無いからノック出来ないし…… そうだ! その石を振るわせるっていうのはどう?」
「うん、それでいいよ」
「これからそうするね。 今日はこの手紙を渡して欲しいんだ」
そう言いながら手紙をドリルに渡した。
「ハイ! 水島信夫? どっかで聞いたこと…… もしかしてこの人って広域暴力団の水信会の
組長と同じ名前だけどまさか・・・違うよね……?」
「そうだよ」
「えっ! 今回はお断りします」ドリルは即答した。
「大丈夫だよ。 本人に会わなくてももうひとつの夢に侵入する方法を試したらどう?」
「あっそれ、聞こうと思っていたんだよね。 どうするの?」
「夜寝るときに左手に石を持ち、右手に手紙を持って頭の中で水島信夫って何度も名前をいいながら
寝るんだ。 そうすると起きた所が水島信夫氏の夢の中っていう訳さ。
後は彼に説明してから手紙を渡す。 但し、こういう人達は夢の中でも荒っぽいのが多いからね。
ちなみに殴られてもダメージは無いけど夢の中の君は多少痛いかも。
肉体が無いからって無茶しないようにね」
「なにそれ……」
その夜ドリルは説明された通りの手順で眠りに入った。
ここは水島信夫の夢の中。 子分と思われる者三人と水島信夫が渋谷のクラブで酒を飲んでいた。
これから他の組の者と何かあるらしい。
水島が「いいか、お前達。 俺に何かあっても俺にかまわず逃げろ。もし俺がおっちんでしまったら
この家業から足洗え。 そしてまっとうに暮らせ・・・解ったな」
「ヘイ頭、解りました。 でも俺は頭を必ず護ります」
「ありがとうな、政晴」この一部始終を視ていたドリルは
「なんなんだ? これからもしかして抗争? そんな時にどうやって手紙を渡すの……?」
夢の中のドリルは焦っていた。
次の瞬間、ドリルは水島信夫の前に立っていた。 これが夢のいい加減さである。
護衛役の政晴が急に立ち上がりドリルを威嚇した。
「何だ、てめえ! どっから出て来やがった?」
「はっ僕も解りません。 これ読むように申し使ったんで渡しに来ました」
上着のポケットから手紙を出そうと、手を内ポケットに入れた瞬間水島はドリルが胸からピストルを
取り出すと思った。 次の瞬間、水島はソファーの後ろに隠れた。 政晴と他二名はドリルに飛びついた。
「ま、ま、待って下さい。 これは手紙ですから」政晴はドリルの手から手紙をむしり取った。
「頭、これ」と水島に手紙を渡した。
「なんでぇ・・・これは?」
それには《信夫へ、ヒサより》と書いてあった。
死んだ母親から水島信夫に宛てた手紙。
「俺をなめとんか、こらっ!」水島はドリルの胸をつかんだ。
「おう、若いの。 俺の母親はとっくにあの世に行っちまってる。 もう少しましな嘘をつきな。 こらっ!」
ドリルも必死だった「まずは読んでもらえませんか? それから判断して下さい。 頼みます」
必死にドリルは訴えた。
「読むだけなら読んでやらぁ!」水島は急に態度を変えた。
ゆっくりと手紙を開いた。
『信くん。突然の手紙で驚かせてごめんね。
あなたは優しい子だった。 人の道を外したのはお母さんのせいなの。
私も子供の頃にお母さんからいつも厳しく育てられた。
いつも反発したかったけど出来なかった。
そしてお母さんが親になった時、母親のイヤだった躾の仕方を何故か信くんにやってしまったの。
お前は当然反発したけど私はお前になにもしてやれなかった。
今になって本当に悪く思っています。 信くん、ごめんなさい・・・母より』
その手紙を水島信夫は読み終えて、あっさり棄ててしまった。
次の瞬間、拳銃がドリルに向けられた。
そこで夢から覚めた。
「かぁ~殺されるところだった」
夢と知ってはいても、そのリアルさにドリルは、いたたまれなくなった。
それから数ヶ月が過ぎ、広域暴力団の水信会は突然解散。 水島信夫組長以下百三十五名は刑に服す者、
かたぎに戻る者、田舎に帰って家業を継ぐ者が続出し極道の世界では、この事を発端に組を解散する
動きが相次いだ。
それを知ったドリルは自分のやっている誰にも語れない不可思議な役割が、少しは世の為になってることを
誇らしく思った。
ドリルの部屋の石が振動し、ファイが手紙を持ってやってきた。
ファイは手紙を渡し「これ……」
「ファイさあ、今日はチョット聞きたいことあるんだ」
「僕のわかる事ならいいけど、なに?」
「ファイはどこの世界からここに来てるの?」
「僕はね、君たちに解りやすく説明すると、君達は四次元で僕は五次元だよ」
「ここは三次元じゃないの?」
「正確には三次元に時間が加わるから四次元なんだ」
「じゃあ、この手紙も五次元から?」
「そうだよ」
「死んだ人が逝く世界?」
「そう、但しその上に逝く人もいるよ」
「その上って?」
「解りやすくいうと神に近くなるってことさ」
「えっ、神様っているの?」
「大いなる神は存在するよ。 君たちの考える神と違うけど、本当の神はチョットずぼらだけど存在するよ」
「ずぼらな神か……? 面白い。 じゃ、悪い事やって死んだ人はどうなるのさ?」
「ドリルはどうなると思う?」
「三次元とかに落ちるの?」
「違うんだ。 やはり五次元に戻るんだよ」
「戻るって? この世より上ってこと?」
「そう、それとこの世の人は全てが上の次元からの転生なんだ。 こっちの世は下なんだよ。
これにはルールがあって、上の次元からから下の次元にしか転生出来ないというものなんだ。
そういう意味で人間は数多の時限の中でいうと下の次元なのさ」
「じゃあ、地獄の世界も人間より上な訳? ファイ、それっておかしくない?」
「おかしくないよ。全ての人間は死んだら周波数がこの世の人間より高くなるんだ。
但し、死に方によっては思いっきり周波数の低い状態を選ぶ魂がいるんだ。
つまり一般的にいう地獄ってやつ。
みんな自分で選んでるのさ。
この世だって神様の様な人もいれば地獄の大将みたいな存在もいるだろう。
魂は本来の周波数の高い所に戻るけど、なかには死んだ事を知らずに、周波数の低い場所を漂ったり、
マイナーな世界に移行するものもいる。 閻魔様が決めるんでなく全ては自分で行き先を決めてるのさ」
「じゃあ、仏教の見解と違うね?」
「あれはあれで一つの戒めとしていいと思うよ。 本当は今、僕が説明した様に地獄も五次元。
解ってもらえたかい?」
「なんとなく……」
「そのうちドリルにも解るよ」
「で、本題。 はい、これ今度の仕事だよ」
東京都三鷹市井の頭、閑静な住宅地。 高校生の神居誠 十八才(通称ドリル)は日課となっていた
散歩で井の頭公園に来ていた。
今日も平日だというのに多くのカップルが公園を散歩したりボートに乗ったりで楽しそうにしていた。
ここ井頭公園は学生の街。吉祥寺駅から南に歩いてすぐの公園で、昔から人気のデートスポットでもある。
ドリルは井之頭辨財天堂でお参りするのが日課であり散歩コースになっていた。
今日も夕方の散歩し辨財天堂に手を合わせた。
庚申塔の方に目を向けた時、塔の下に何やら紫色の卵形の石をみつけ、
それが光った様な感じがしたので近寄った。
確かにその石は他の石とは違い、自ら光を発してる様に感じられ、ドリルは恐る恐る左手でそっと拾った。
一瞬、左手に電気が走ったようにチクチクと感じられた。
ドリルは帰ってからゆっくり確かめようと、そのままリュックに石を無造作に入れ散歩を続けた。
一時間程の散歩を終え帰宅したドリルは手を洗い、その石も一緒に洗おうとリュックから取り出し洗った。
自分の部屋に戻りサッシの下に石を置き乾かした。
ドリルは趣味はお気に入りのヤイリー社のフォークギターを取り出し、今練習中のレッドツェペリンの
天国への階段を弾き始めた。
弾き始めて五分ほど経った頃だった窓が小さく振動し始め何やら音がした。
なにが起きたのか解らず、ただ呆然とギターを抱えたまま見入っていた。
石は振動と同調するかの様に光りだし、その光には微妙な強弱が感じられた。
不思議な事もあるものだと石を手にした。
瞬間、後ろからいきなりの声がした。
「こんにちは。 こんにちは……」と繰り返えす声が聞こえたのでドリルは恐る恐る
声の方を振り返った。
瞬間「えっ……?」ドリルは声を発した。
部屋に緊張が走った。
そこにはドリルの知らない何者かが立っていた。
「ど・泥棒……?」ドリルは声にならない声で叫んだ。
その存在は「こんにちわ。 驚かないで突然ごめんなさい」
ドリルは「あなたは誰? 何でここにいるの?」とうぜんの質問である。
ここまで話すのが今のドリルには精一杯だった。
その存在は「突然驚かせてすみません。 私はファイと申します。
あなたが先ほど拾ったその石の事で、私は百五十年ほど未来から来ました」
「百五十年……? 未来・・・?」
「あんた、頭大丈夫ですか?」
「ごめんなさい。 納得出来ないですよね。 証明するしか方法はないわ。
今日あなたはもう一度、井の頭公園へ行く事になります。
そしてサンロードを二往復します。 今はそこまでしか解りません。
明日また寄らせて下さい同じ時刻にきます。
また来ます。 その時は信じてくれると思います。
ほ、本当に失礼しました。
突然でお許し下さい。 じゃあ!」ファイは一方的に話し終えるとその場から消えた。
「今のなに? ひとりで勝手に語って、なんで勝手に帰るんだよ? まったく。
腹立つ、急に部屋に入って来て信じろと・・・?
ふざけるじゃねえよなまったく。 絶対、公園なんて行かねえし……」
ドリルはぶつぶつ呟きながらまたギターを弾き始めた。 しばらくして母親からメールが来た。
「井の頭線不通になった、タクシーが全然走ってないので拾えない。
すまないけどサンロードに迎えに来て荷物持って欲しい。マコトへ。 母より」
「何だよ、吉祥寺か……」
ドリルは吉祥寺にむかった。 サンロードに入ってから待ち合わせ場所に直行した。
そのまま荷物を持ってサンロード入口を出た時、母親が
「マコト申し訳ない。西友で買いをし忘れた物があるの。戻っていいかい、ごめんね……」
「ああ、かまわないよ。 行こう」 そう言った時ファイの言葉が脳裏をかすめた。
「まじかよ? あいつの話しそのまんまかよ?」
ドリルは好奇心と同時に何なんともいわれぬ不安を憶えた。
翌日ドリルはいつものように学校から戻り日課の散歩をこなした。
途中、井之頭の辨財天堂で昨日の事を思い出し帰宅した。
内心ドリルはいくつかの質問を考えていた。
そしてその時が来た。 昨日のように紫の石が微細な振動を始めた。
突然、霧のような揺らめきの中からそれは現れた。
「こんにちわ。 昨日はごめんね、ドリル」
もう呼び捨てかよ?
ドリルは妙に馴れ馴れしいと思った。
「こんにちわ。 昨日、君の言った通りになったから・・・まあ、とりあえず話を聞くよ……」
「そう、信用してくれたんだ。 ありがとう」
「いや、まだ半分ですけど」ドリルが即答した。
ぶっきらぼうにドリルは言った「で、話しってですか……?」
「実は私がここに来た理由は、この手紙なんだ」ファイは手紙をドリルに渡した。
その手紙の宛名は同じクラスの板垣久美子だった。
「……?」ドリルは皆目見当がつかなかった。
「ねえ、ファイさん。 これどういう意味?」当然の質問であった。
「僕のことはファイと呼び捨てでいいよ。 じゃあ、これから説明するよ。
この差出人は板垣久美子さんのおばあちゃんのトメさんで、板垣久美子さんへの手紙なんだ」
「えっ? 確か、お婆さんは昨年亡くなったって聞いたけど?」
「そう。 そのトメさんなんだけど、彼女へひとつ言い忘れたことがあったらしく僕は彼女へ
渡してくれるように頼まれたんだ」
「なんで君が?」ドリルは首を傾げながら聞いた。
「ドリルがその石の持ち主になったからなんだ。 その石には昔からある役目があるんだ。
その石を所持した人間は霊界とこの世との伝達人の使命が科せられるというものなんだ。
以前の持ち主は高齢のため他界したんだ。 遺族はその使命を知らないまま昨日の井之頭辨財天堂に
棄ててしまったんだよ。 もう五十年も前の事だった。
そこへドリルが昨日通りかかり、その石と五十年ぶりに縁を作ってしまったんだ……」
「なんで僕なの?」
「ドリルはその石を洗う時に可哀想と思った。 それでその石は君を選んでしまったんだ。
君と石が同調したのはその石の意思だったんだ。 君が石に選ばれたのさ」
「石の意思? ダジャレかよ! 僕、勝手に選ばれても困るんだけどな……」
「ここは、不運だと思ってあきらめてくれないあ」
「まっ、大体のことは解ったけど、その手紙を板垣さんにどう説明して渡すの?」
「方法は二つあるんだ」
一つは彼女の夢に侵入して渡す方法
但し、夢から覚めると忘れやすいというリスクがある
二つ目は彼女に直接手渡す方法
但し、受け取ってから三分以内に読んでしまわないと手紙は消滅してしまう。
「直接読んで聞かせる方法はどう? 一番簡単で早いと思うけど」
「じゃあ、その手紙読んでごらん?」
ドリルは手紙を広げた。 言葉に詰まった。
「……?」手紙は白紙だった。
「ねっ、解った? 第三者は宛先しか読めないのさ」
「とりあえず三分以内に読むように伝えてこれ渡すよ。
でも板垣さんになんて言って渡そうか? 渡す切掛けが難しいよ。 ファイも考えてくれよ……」
「それがドリルの今後の仕事になるんだ。 だから頑張って」そう言って消えた。
翌日の放課後、板垣久美子を校庭の裏に呼び出した。
「ドリル君、私になにか用でも……?」
「こんなこと信じてくれないと思うけど、板垣さんの去年死んだお婆さんからの手紙を、あるルートで
あの世から僕が預かったんだ。 それで受け取ったら三分以内に呼んでほしい。 それが過ぎると手紙が
消滅するんだ」ドリルは言い終えてホッとした。
「何それ……? なんで私のお婆ちゃんなの?」
「何か君に言い残した事があったらしく、それが重要なことだったみたいで、
今回、僕に依頼されたんだ。 僕もなんで僕なのか解らないけど……」
板垣久美子は半信半疑で手紙を受け取り素早く読んだ。 しばらくして彼女の目から涙が頬を伝って落ちた。
そして手からその手紙が消えた。
「板垣さん・・・大丈夫? どうだった?」
「ドリル君ありがとう。私、お父さんの事で長年悩んでいた事があったの。
この手紙で私の誤解だったと解ったわ。 それをお婆ちゃんが気にしていて、生前私に話して
聞かせようと思ってたらしいの。
それが出来ないまま他界したので死んでからも気にしていたみたいなの。 ドリル君ありがとう。
私、最初は半分疑ってたけど、あの手紙はお婆ちゃんに間違いないわ。 お婆ちゃんの言い回しと
筆跡も同じだし、よく説明できないけど手紙から伝わる雰囲気がお婆ちゃんと同じだった・・・
ありがとう、ドリル君」
「何の事か解らないけど誤解が解けて良かったね、お疲れさん」
「でも不思議ね、あの世からの手紙なんて。 三流SF小説みたいな事あるのね」
「僕も今回が初めての経験なんだ。 だからまったく見当がつかないよ、今日の事は内緒にしてね。
面白い話があったら教えるから」
ドリルは不思議な達成感みたいなものを感じた。
これがドリルとファイと不思議な石との出会いであり、不思議な世界を旅する物語の始まりとなった。
ある日の夕方、突然ファイが手紙を持ってドリルの部屋に現れた。
「やぁ!いたの?」
「あっと、びっくりした……」ドリルは目を見開いた。
「驚かしてごめん」
「あのさあ、今度から現れる時、何かドアをノックするとか合図のようなものしてくれない?」
「ノックする体が無いからノック出来ないし…… そうだ! その石を振るわせるっていうのはどう?」
「うん、それでいいよ」
「これからそうするね。 今日はこの手紙を渡して欲しいんだ」
そう言いながら手紙をドリルに渡した。
「ハイ! 水島信夫? どっかで聞いたこと…… もしかしてこの人って広域暴力団の水信会の
組長と同じ名前だけどまさか・・・違うよね……?」
「そうだよ」
「えっ! 今回はお断りします」ドリルは即答した。
「大丈夫だよ。 本人に会わなくてももうひとつの夢に侵入する方法を試したらどう?」
「あっそれ、聞こうと思っていたんだよね。 どうするの?」
「夜寝るときに左手に石を持ち、右手に手紙を持って頭の中で水島信夫って何度も名前をいいながら
寝るんだ。 そうすると起きた所が水島信夫氏の夢の中っていう訳さ。
後は彼に説明してから手紙を渡す。 但し、こういう人達は夢の中でも荒っぽいのが多いからね。
ちなみに殴られてもダメージは無いけど夢の中の君は多少痛いかも。
肉体が無いからって無茶しないようにね」
「なにそれ……」
その夜ドリルは説明された通りの手順で眠りに入った。
ここは水島信夫の夢の中。 子分と思われる者三人と水島信夫が渋谷のクラブで酒を飲んでいた。
これから他の組の者と何かあるらしい。
水島が「いいか、お前達。 俺に何かあっても俺にかまわず逃げろ。もし俺がおっちんでしまったら
この家業から足洗え。 そしてまっとうに暮らせ・・・解ったな」
「ヘイ頭、解りました。 でも俺は頭を必ず護ります」
「ありがとうな、政晴」この一部始終を視ていたドリルは
「なんなんだ? これからもしかして抗争? そんな時にどうやって手紙を渡すの……?」
夢の中のドリルは焦っていた。
次の瞬間、ドリルは水島信夫の前に立っていた。 これが夢のいい加減さである。
護衛役の政晴が急に立ち上がりドリルを威嚇した。
「何だ、てめえ! どっから出て来やがった?」
「はっ僕も解りません。 これ読むように申し使ったんで渡しに来ました」
上着のポケットから手紙を出そうと、手を内ポケットに入れた瞬間水島はドリルが胸からピストルを
取り出すと思った。 次の瞬間、水島はソファーの後ろに隠れた。 政晴と他二名はドリルに飛びついた。
「ま、ま、待って下さい。 これは手紙ですから」政晴はドリルの手から手紙をむしり取った。
「頭、これ」と水島に手紙を渡した。
「なんでぇ・・・これは?」
それには《信夫へ、ヒサより》と書いてあった。
死んだ母親から水島信夫に宛てた手紙。
「俺をなめとんか、こらっ!」水島はドリルの胸をつかんだ。
「おう、若いの。 俺の母親はとっくにあの世に行っちまってる。 もう少しましな嘘をつきな。 こらっ!」
ドリルも必死だった「まずは読んでもらえませんか? それから判断して下さい。 頼みます」
必死にドリルは訴えた。
「読むだけなら読んでやらぁ!」水島は急に態度を変えた。
ゆっくりと手紙を開いた。
『信くん。突然の手紙で驚かせてごめんね。
あなたは優しい子だった。 人の道を外したのはお母さんのせいなの。
私も子供の頃にお母さんからいつも厳しく育てられた。
いつも反発したかったけど出来なかった。
そしてお母さんが親になった時、母親のイヤだった躾の仕方を何故か信くんにやってしまったの。
お前は当然反発したけど私はお前になにもしてやれなかった。
今になって本当に悪く思っています。 信くん、ごめんなさい・・・母より』
その手紙を水島信夫は読み終えて、あっさり棄ててしまった。
次の瞬間、拳銃がドリルに向けられた。
そこで夢から覚めた。
「かぁ~殺されるところだった」
夢と知ってはいても、そのリアルさにドリルは、いたたまれなくなった。
それから数ヶ月が過ぎ、広域暴力団の水信会は突然解散。 水島信夫組長以下百三十五名は刑に服す者、
かたぎに戻る者、田舎に帰って家業を継ぐ者が続出し極道の世界では、この事を発端に組を解散する
動きが相次いだ。
それを知ったドリルは自分のやっている誰にも語れない不可思議な役割が、少しは世の為になってることを
誇らしく思った。
ドリルの部屋の石が振動し、ファイが手紙を持ってやってきた。
ファイは手紙を渡し「これ……」
「ファイさあ、今日はチョット聞きたいことあるんだ」
「僕のわかる事ならいいけど、なに?」
「ファイはどこの世界からここに来てるの?」
「僕はね、君たちに解りやすく説明すると、君達は四次元で僕は五次元だよ」
「ここは三次元じゃないの?」
「正確には三次元に時間が加わるから四次元なんだ」
「じゃあ、この手紙も五次元から?」
「そうだよ」
「死んだ人が逝く世界?」
「そう、但しその上に逝く人もいるよ」
「その上って?」
「解りやすくいうと神に近くなるってことさ」
「えっ、神様っているの?」
「大いなる神は存在するよ。 君たちの考える神と違うけど、本当の神はチョットずぼらだけど存在するよ」
「ずぼらな神か……? 面白い。 じゃ、悪い事やって死んだ人はどうなるのさ?」
「ドリルはどうなると思う?」
「三次元とかに落ちるの?」
「違うんだ。 やはり五次元に戻るんだよ」
「戻るって? この世より上ってこと?」
「そう、それとこの世の人は全てが上の次元からの転生なんだ。 こっちの世は下なんだよ。
これにはルールがあって、上の次元からから下の次元にしか転生出来ないというものなんだ。
そういう意味で人間は数多の時限の中でいうと下の次元なのさ」
「じゃあ、地獄の世界も人間より上な訳? ファイ、それっておかしくない?」
「おかしくないよ。全ての人間は死んだら周波数がこの世の人間より高くなるんだ。
但し、死に方によっては思いっきり周波数の低い状態を選ぶ魂がいるんだ。
つまり一般的にいう地獄ってやつ。
みんな自分で選んでるのさ。
この世だって神様の様な人もいれば地獄の大将みたいな存在もいるだろう。
魂は本来の周波数の高い所に戻るけど、なかには死んだ事を知らずに、周波数の低い場所を漂ったり、
マイナーな世界に移行するものもいる。 閻魔様が決めるんでなく全ては自分で行き先を決めてるのさ」
「じゃあ、仏教の見解と違うね?」
「あれはあれで一つの戒めとしていいと思うよ。 本当は今、僕が説明した様に地獄も五次元。
解ってもらえたかい?」
「なんとなく……」
「そのうちドリルにも解るよ」
「で、本題。 はい、これ今度の仕事だよ」
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