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11「復 讐」
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11「復 讐」
ピリカは大学を卒業し社会人となった。 就職先は札幌市に数店舗ある動物病院に決まり、
春から獣医としての生活が始まった。
獣医師とはいっても一人で犬や猫をある程度診られるようになるには個人の資質にもよるが、
才能豊かで勤勉な獣医師でも三年間は修行が必要となり、この間の収入は普通のOLより多少高い程度。
ピリカにとって厳しい環境であっても、動物の病気が癒え退院する時の飼い主の姿を見るのが心の慰めだった。
「ワンちゃんどうなさいましたか?」
トイプードルが具合悪そうにしていた。
「はい、この三日間ほど食欲が無く食べてもすぐ吐くんです」
「なにか普段と変わったことや食べ慣れないもの物等は食べませんでしたか?」
「心当たりありません」
「そうですか、では診察しますので待合室でお待ち下さい」
ここからがピリカ独特の診察方法である。
「君、どこが痛いの?」
「むかつく。 っていうかあなた話せるの?」
「……はい」
「この前、ボール食べた」
「ボール? どんなの?」
「柔らかくて堅いやつ」
「……?う~ん解らない。 レントゲン撮ろう」
飼い主を呼んで「最近、何か異物を飲み込むようなことありませんでしたか?」
「記憶無いです」
「そうですか。では一応レントゲン撮りますね」
レントゲンに映し出されたのは丸い影だった。
「これ見てもらえますか?」胃の下部に丸い影が確認された。
飼い主が「あっ! スーパーボールかもしれません」
「スーパーボールですか?」
「数日前、私とスマートボールで遊んでいたんです。 途中でボールが見あたらなくなって止めたんです。 もしかしてこの子が飲んだんだのかも……?」
「そうらしいですね。 院長と相談しますのでお待ち下さい」
飼い主が出て行った。
「あんた、丸いボール食べたでしょ?」
「食べた、食べた」
「そのせいよ、お腹が痛いのは」
「取って、取って」
「こんなに大きいの簡単に取れません。 っていうかよく食べたね? 喉、痛くなかった?」
「痛かった」
「なんで食べたの?」
「つい弾みで」
「あっそう、何日か入院よ」
「入院ってなんだ?」
「ここにお泊まりするの」
「なんで?」
「なんでも」
院長と話し開腹手術の為一週間程の入院となった。 ピリカが動物と会話が出来る事は関係者には秘密であった。
ある日、仕事を終え病院から帰る道すがら、ずっと変な気配を感じていた。 その気配は数日間続いた。 自宅マンションはオートロックだが、建物に入る際には周囲に注意しながら素早く入った。
「どうしよう……」ピリカは不安を覚えた。
郵便物には「インチキ獣医」と書かれた封筒が入っていたり、嫌がらせが連日続いた。
そんな頃だった。
「どうなさいましたか?」子猫を連れて診察室に男性が入ってきた。
「この子、タマといいます。 最近元気がないんですが、どこか調子が悪いのでしょうか?」
診た感じどこも悪そうな雰囲気はなかった。
「念のため体温を計って採血します。 待合室でお待ち下さい」
二人っきりになったピリカは「何処か具合悪いの?」
人間に突然話しかけられた猫は驚いた。
「驚かしてゴメンね。 私は動物と話が出来るの怖がらないでね」
「痛くない。知らないオバサンさん勝手に連れて来た」
「そう? でも一緒に来たのは男の人よ」
「違う……」
「まっいいけど」
検査結果、予想通り数値には何ら異常はみあたらない。
再び猫に「どういう事? ねぇ君本当にどこも痛くないの?」
「どこも、なんともない」
待合室から飼い主と思われる男性を呼び、数値になんの異常も見あたらないことを告げた。
その男性は「そうですか、おかしいなぁ? なんか元気がないのですが……」
「そうですか。 でも白血球の数や他の数値にも異常が見あたらないですし、もし、また何んらかの症状が出ましたらその時におこし下さい」
男性は素直に帰って行った。
仕事を終えたピリカはいつも通りの道順で帰宅した。 翌早朝、勤務先から携帯に電話が入った。。
「ハイ、立花です」
「ピリカ先生、昨日山口様のタマっていう猫を診たよね……」
「ハイ、どこも悪い数値がなかったので、治療せずに帰ってもらいましたけど。 なにかありました?」
「それが瀕死の重傷で運ばれてきて、手当の甲斐なく死んでしまったんだ」
「えっ、データー診てもらえばわかりますが、どこも疾病や数値の異常はなかったんです。 これから病院に行きます。 飼い主さんに解剖の許可をもらって下さい」
電話を切ったピリカはその場に座り込んだ。 なんで……? どうして……? そんな大事な疾病を見逃してしまったの? タマさんごめんなさい。 泣きながら手を合わせた。
病院に到着したピリカはすぐに診察室に入った。
「……あれ? 猫ちゃんは?」
「飼い主さんが解剖を拒否されて連れて帰ったよ」
「院長、死因は解らないのですか?」
「うん、来た時は瞳孔が開いた状態で、心臓マッサージしたが蘇生しなかったよ。 君も、充分注意してくれないかな。 どこも悪くないのに、わざわざここには来ないからね」
「……はい、すいませんでした」
その日は気が晴れないまま仕事を済ませ病院を出てすぐだった。 後ろからバイクの音がして振り向いた刹那ピリカめがけて突進してきたのだった。 避けようと身をかわした瞬間、ピリカは壁に激突して倒れてしまった。 バイクはそのまま立ちさった。 異常音を聞きつけ病院から院長が出て来た。
「……? どうした! 立花君大丈夫か?」
「あっ、院長…… 大丈夫です。 申し訳ありません……」ピリカはなんのことかわからず頭が混乱していた。
その数日後、病院に一通の内容証明が届いた。 内容は先日死んだタマの飼い主からのもの、
タマの死に対して誤診による致死という一方的な文面。 損害賠償金、百万円を要求するという
内容だった。
院長が「このような事は医療では有り得ること。 あとは弁護士に一任する。 君は自分の仕事を全うしなさい」
診察室に戻るとチワワが診察に来ていた。
気を取り直したピリカは「どうしましたか?」診察を始めた。
飼い主は「下痢が三日ほど続いてるんです。 どうしてですか?」
「はい、すぐ血液検査しますので待合室でお待ち下さい」
二人きりになり犬に「どこが調子悪いの?」と直接聞いた。
「わからない、なんにも痛くない」
「下痢してるのに、お腹痛くないの?」
「下痢? 痛くない。 帰る……」
ピリカの脳裏に先日のタマのことが過ぎった。
「あんた、今の飼い主さんのこと、どの位知ってるの?」
「昨日だよ、帰りたいお母さんって帰りたい」
「あんたもしかして拾われたの?」
「違うよ」
「なにが違うの?」
「わかんないよ」
「わからないってどういうこと?」
「わからないから早く帰して」
「ハイ、ちょっと待ってね」
そう返答したがどこか腑に落ちないピリカだった。
飼い主に「血液にもレントゲンにも異常が見あたりませんでした。 このまま帰って様子をみるか入院して様子を診ましょうか?」
「う~ん、とりあえず帰って様子をみます」
「そうですか」
チワワが帰った後、ピリカは院長室に向った。
「院長、今日もタマの時のようにどこも悪くないペットが受診にきたんです。 私、なにか腑に落ちないんですが」
「そうか、チョット受付の青ちゃん呼んでくれるかな?」院長も少し気になった。
「青ちゃん、忙しいところすまないね。 先日のタマと今日のチワワ、医師の指名あった?」
「はい、立花先生って指名でした」
「そう…… わかったありがとう」
「立花君、これはなにかあるかもしれないよ。 君、心当たりはないのかね?」
「直接関係してるかどうかわかりませんんけど、最近ストーカーっぽい影が感じられます」
「そういえば、先日のバイクの件もあったね……」
「あっ、ハイ」
「本当に心当たり無いのかね?」
「私、お付き合いしてる人もいませんし、告白されたこともありません」
「そっか、とりあえずしばらくは用心しようか」
ピリカは嫌な予感を感じながら、その日の勤務を終えた。 帰りは周囲に気を配り、真っ直ぐ自宅に戻った。 翌朝早く携帯が鳴った。 院長からだった。
「立花君おはよう。 例の犬が重傷体で運ばれてきたよ。 間違いなくなんらかの裏があると思う。 とりあえず今は病院に来なくていいから。 あとで出勤してほしい。 気をつけて」
「はい、ありがとうございます」
「ルーどういうことなの? 教えて」なんの返答もない。
ピリカは周囲に気を配りながら家を出た。 その時だったピリカの影を感じて隠れたと思われる人影があった。 ピリカは勇気を出してその影に近づいた。 女性の気配。
勇気をだして声を掛けた「チョット待って下さい……」
その影は振り返りもせず走り出した。
「チョット待って下さい…… 止まって下さい」
ピリカの呼びかけを無視して女は走り続けた。 ピリカも全力で走りその影の前に走り寄った。
「待って下さい!」振り返って見たその顔は中年の婦人。
ピリカは息を整えて「すいませんが、私になにか用事あるんですか?」
「別に、誰あんた?」
「だって、ここんところ私をつけ回してるじゃありませんか」
「なんで私があなたをつけ回すのよ?」
ピリカは内心、そういわれればそうだけど……それ以上の言葉が出ない。 この人が私をつけ回してる事は確かだが……でも、なんで? 証拠はない。
「すいませんでした。 私の勘違いでした…… 申し訳ありません」
なんで、なんで、私が謝るの…… やるせない気持ちで涙が出て来た。 その時、携帯が鳴った。院長からだった。
「ハイ、立花です」
「犬が死んだよ。 やはり解剖を拒否して帰って行った。 君は今、どの辺?」
「これから地下鉄に乗るところです」
「そっか、気をつけるんだよ」
「ハイ」
病院に着いてドアを開けた。
「おはようございます」
受付の青ちゃんが「立花先生おはようございます。 院長室に来るようにって」
「ハイ」
院長室のドアをノックして「立花です」
「どうぞ」
「おはようございます」
「おはよう。 さっき話したように犬が死んだんだけど、原因が解らないまま引き取られた。 タマの時と同じだよ。 青ちゃんの証言のように、いずれも君が指名されたんだ。 たぶんなにか関係してると思う。 とりあえず様子を見るから君はしばらく山田先生の助手をしてほしい」
「ハイわかりました。それと今朝、家を出たところで女の人に尾行されまして、私が気が付いたのを察知してその女性は逃げたんです。 なんとか先回りをして話しかけたんですけど、私のことなんか知らないっていうんです。 私もなんの証拠もないのでつい謝ってしまったんですけど間違いなくつけ回されてました」
「そのご婦人に面識はないのかい?」
「はい、まったく思い当たりません」
「そっか、思い出したら私に報告して下さい。 じゃぁ山田先生の助手お願いしますよ」
「はい、失礼します」
ピリカは、その女性の顔をなんとか思い出そうとしていた。 それから数日が過ぎたがストーカーの影も無く、これという異変も感じられなかった。 そんな時、地下鉄のホームで手を振っている女性の姿があった。
「ピリカちゃん元気してた~」声の主はピリカが以前アルバイトしていたススキノのRONという店のホステス理恵だった。
「あっ理恵さんお久しぶりです。 これからお勤めですか?」
「そう、これからなの、わたし店移ったのよ。 今度、飲みに来てね」
理恵から名刺をもらい話しそこそこに別れた。 理恵さんか…… あれから七年になるけどまだススキノで頑張ってるんだ。……う? あれ? なにか気にかかった。
自宅に戻り真っ先にパソコンのキーボードを叩いた。 札幌市Fさん。 出て来た写真を拡大してみた。 うそっ! このオバサンだったの? なんで、今頃になって ?どうして? 思案にくれた。
もし院長に事情を話したら私が今まで隠してきた能力が表に出るし、そうしたら病院にいづらくなる。 だって院長より動物の心がわかるなんて院長も格カッコつかないよね。 今度の休み倶知安に帰って相談しよ。 なんで今頃になってあのFさんが…… 気が晴れない日が数日続いた。
久々の帰省。 なんだか足が重い。
「ユメ、ミルキーただいま~ 元気にしてた?」
「ピリカ姉ちゃんお帰り」
「ユメただいま。 ミルキーの面倒みてる?」
「うん、とってもいい子だよ」
「ユメ、あんたミルキーのお母さんみたいだね」
「そうだよ、ちゃんとおっぱいも出るもん」
「そっかい、それは動物にはよくあることなんだよ。 母親のようにしてるとお乳が出るんだよ」
「わ~い! 私、ミルキーのお母さんだ」
「ガンバってねユメ母さん。 で、私のお母さんは?」
「出かけた」
「お父さんは?」
「一緒」
母親に電話をした「私、今どこ? そう、わかった。 待ってる」
ミルキーに「ミルキー大きくなったね。この家どうですか?」
「ピリカ姉ちゃん、私がこの家に来てから、もう二回も雪降った。 なんで新入りみたいなこというの?」
「あっ、ごめんね。 ユメがお乳が出るって言うから、そうだよねおかしいよね。 それにしてもユメは何で今でもお乳あげてるの?」
「だってミルキーが欲しがるから」
「ミルキー、あんたまだお乳飲んでるのかい?」
「はい、飲んでるポン」
「もう止めなさい」
「なんでポン?」
「ユメのエネルギーがだんだんなくなって倒れちゃうからよ」
「ユメ倒れたら……嫌だポン」
「そう、だからもう飲むの止めなさいね」
「ハイ、ポン」
「あんた、話し終わった後のポンはどんな意味があるの?」
「……?」ミルキーは理解出来ないでいた。
ユメが「お姉ちゃん、ミルキーはわかってないのよ自分の癖を」
ピリカとユメは笑った。 そして母親が帰宅した。
「ただいま~」
「あっお母さんだ! ポン」ミルキーが走った。
「お帰り。今日はどうしたの? 突然帰ってきて」
「うん、お父さんとお母さんに話し聞いて貰おうと思って」
その夜、食事をしながら、学生の頃ススキノでアルバイトした事以外、一通りの経緯をピリカは話した。
父親が口を開いた「そっか、逆恨みか…… 事が事だけに難しい問題だな」
母は「院長にあんたの能力知れたらマズイのかい?」
「だって院長と私の見解が違ったらまずいと思わない? いつも院長の診断が正しいとは限らないし。 今回だってタマも犬もどこも痛くないってあの子達がいうの。 でも、もし院長だったら何らかの病名を付けると思うのね」
「なんで院長はわからないっていえないのさ?」
「動物病院という所は動物が調子悪いから高いお金を払って受診するの。 人間のように健康診断だけでは滅多に受診しないの、保険も無いのに…… つまり、犬や猫が病院に来る場合はなんらかの病気なの、わからない場合はストレスのせいにする場合もあるけど……」
「なんか、人間の医者みたい」母が言った。
父親は「ピリカ、お前はどうしたいと思ってる?」
「うん、だから悩んでるの、辞めるか続けるか」
母親が「続けるにしても病院に迷惑掛からないのかい?」
「そう、もしこれがまだまだ続くようなら、病院の存続に係わると思う。 ネット配信なんてされたら一気に広がるから、あんな小さな病院なんてあっという間に潰れちゃうかも……」
「辞めちゃいなさい。 そして倶知安に戻って来なさい。 倶知安だって獣医の仕事はいっぱいあるわよ」母らしいコメントだと思った。
「でも、ここで辞めたら私が負けを認めたような気がするし、そんなことで負けるのシャクなの、なによりも、私への復讐のために死んだ犬と猫に申し訳ない」ピリカの目から涙が落ちていた。
「ピリカ姉ちゃんどったの? ポン」ミルキーが心配そうに言った。
「そっか、これ以上病院に迷惑掛けたくないなら、ちゃんと院長と話しをして結論を出しなさい。父さんと母さんはお前の味方だから、どっちの道を選んでも応援する。 なぁ、母さん」
「うん、ピリカお前の好きにしなさい。 お前の人生なんだから」
「うん、ありがとう。一晩考えて結論出すね」
翌朝早くピリカは「お母さんおはよう」
「はい、おはよう」
「私、辞める事にしたから」
「そうかい…… わかった」
「但し、このままでは辞めないから……」
「どういう事?」
「その嫌がらせをした相手に謝罪させるの」
「おやり! ガツンとやっておやり!」
「ねぇ、ピリカ姉ちゃん、昨日からどうしたポン?」
「ごめんねミルキー、心配かけて、でもこれ人間世界の話しだから説明するの難しいんだ」
「ポン?」
ピリカは辞表を持って院長室を訪ねた。
「院長、短い間でしたがお世話になりました。 今月で退職させてください」
「例の件のことかね? あんな事で君が辞めなくてもいいと思うけど、僕はそんなちっぽけな人間じゃないよ」
「はい、ありがとうございます。 ですが、やはり辞めさせていただきます。 私が居ることでこの病院に迷惑が掛かるなら、まずは辞めるべきだと考えました。 でも、個人的にその人達とはしっかり向き合いたいと考えております。 決着が着いたらまたここでお世話になるかどうか相談させて下さい」
ピリカの決意の固さを感じた院長は辞表を受け取った。 ピリカは病院を去る時呟いた。
「ごめんね、タマとワンちゃんごめんね私のために」
ピリカは大学を卒業し社会人となった。 就職先は札幌市に数店舗ある動物病院に決まり、
春から獣医としての生活が始まった。
獣医師とはいっても一人で犬や猫をある程度診られるようになるには個人の資質にもよるが、
才能豊かで勤勉な獣医師でも三年間は修行が必要となり、この間の収入は普通のOLより多少高い程度。
ピリカにとって厳しい環境であっても、動物の病気が癒え退院する時の飼い主の姿を見るのが心の慰めだった。
「ワンちゃんどうなさいましたか?」
トイプードルが具合悪そうにしていた。
「はい、この三日間ほど食欲が無く食べてもすぐ吐くんです」
「なにか普段と変わったことや食べ慣れないもの物等は食べませんでしたか?」
「心当たりありません」
「そうですか、では診察しますので待合室でお待ち下さい」
ここからがピリカ独特の診察方法である。
「君、どこが痛いの?」
「むかつく。 っていうかあなた話せるの?」
「……はい」
「この前、ボール食べた」
「ボール? どんなの?」
「柔らかくて堅いやつ」
「……?う~ん解らない。 レントゲン撮ろう」
飼い主を呼んで「最近、何か異物を飲み込むようなことありませんでしたか?」
「記憶無いです」
「そうですか。では一応レントゲン撮りますね」
レントゲンに映し出されたのは丸い影だった。
「これ見てもらえますか?」胃の下部に丸い影が確認された。
飼い主が「あっ! スーパーボールかもしれません」
「スーパーボールですか?」
「数日前、私とスマートボールで遊んでいたんです。 途中でボールが見あたらなくなって止めたんです。 もしかしてこの子が飲んだんだのかも……?」
「そうらしいですね。 院長と相談しますのでお待ち下さい」
飼い主が出て行った。
「あんた、丸いボール食べたでしょ?」
「食べた、食べた」
「そのせいよ、お腹が痛いのは」
「取って、取って」
「こんなに大きいの簡単に取れません。 っていうかよく食べたね? 喉、痛くなかった?」
「痛かった」
「なんで食べたの?」
「つい弾みで」
「あっそう、何日か入院よ」
「入院ってなんだ?」
「ここにお泊まりするの」
「なんで?」
「なんでも」
院長と話し開腹手術の為一週間程の入院となった。 ピリカが動物と会話が出来る事は関係者には秘密であった。
ある日、仕事を終え病院から帰る道すがら、ずっと変な気配を感じていた。 その気配は数日間続いた。 自宅マンションはオートロックだが、建物に入る際には周囲に注意しながら素早く入った。
「どうしよう……」ピリカは不安を覚えた。
郵便物には「インチキ獣医」と書かれた封筒が入っていたり、嫌がらせが連日続いた。
そんな頃だった。
「どうなさいましたか?」子猫を連れて診察室に男性が入ってきた。
「この子、タマといいます。 最近元気がないんですが、どこか調子が悪いのでしょうか?」
診た感じどこも悪そうな雰囲気はなかった。
「念のため体温を計って採血します。 待合室でお待ち下さい」
二人っきりになったピリカは「何処か具合悪いの?」
人間に突然話しかけられた猫は驚いた。
「驚かしてゴメンね。 私は動物と話が出来るの怖がらないでね」
「痛くない。知らないオバサンさん勝手に連れて来た」
「そう? でも一緒に来たのは男の人よ」
「違う……」
「まっいいけど」
検査結果、予想通り数値には何ら異常はみあたらない。
再び猫に「どういう事? ねぇ君本当にどこも痛くないの?」
「どこも、なんともない」
待合室から飼い主と思われる男性を呼び、数値になんの異常も見あたらないことを告げた。
その男性は「そうですか、おかしいなぁ? なんか元気がないのですが……」
「そうですか。 でも白血球の数や他の数値にも異常が見あたらないですし、もし、また何んらかの症状が出ましたらその時におこし下さい」
男性は素直に帰って行った。
仕事を終えたピリカはいつも通りの道順で帰宅した。 翌早朝、勤務先から携帯に電話が入った。。
「ハイ、立花です」
「ピリカ先生、昨日山口様のタマっていう猫を診たよね……」
「ハイ、どこも悪い数値がなかったので、治療せずに帰ってもらいましたけど。 なにかありました?」
「それが瀕死の重傷で運ばれてきて、手当の甲斐なく死んでしまったんだ」
「えっ、データー診てもらえばわかりますが、どこも疾病や数値の異常はなかったんです。 これから病院に行きます。 飼い主さんに解剖の許可をもらって下さい」
電話を切ったピリカはその場に座り込んだ。 なんで……? どうして……? そんな大事な疾病を見逃してしまったの? タマさんごめんなさい。 泣きながら手を合わせた。
病院に到着したピリカはすぐに診察室に入った。
「……あれ? 猫ちゃんは?」
「飼い主さんが解剖を拒否されて連れて帰ったよ」
「院長、死因は解らないのですか?」
「うん、来た時は瞳孔が開いた状態で、心臓マッサージしたが蘇生しなかったよ。 君も、充分注意してくれないかな。 どこも悪くないのに、わざわざここには来ないからね」
「……はい、すいませんでした」
その日は気が晴れないまま仕事を済ませ病院を出てすぐだった。 後ろからバイクの音がして振り向いた刹那ピリカめがけて突進してきたのだった。 避けようと身をかわした瞬間、ピリカは壁に激突して倒れてしまった。 バイクはそのまま立ちさった。 異常音を聞きつけ病院から院長が出て来た。
「……? どうした! 立花君大丈夫か?」
「あっ、院長…… 大丈夫です。 申し訳ありません……」ピリカはなんのことかわからず頭が混乱していた。
その数日後、病院に一通の内容証明が届いた。 内容は先日死んだタマの飼い主からのもの、
タマの死に対して誤診による致死という一方的な文面。 損害賠償金、百万円を要求するという
内容だった。
院長が「このような事は医療では有り得ること。 あとは弁護士に一任する。 君は自分の仕事を全うしなさい」
診察室に戻るとチワワが診察に来ていた。
気を取り直したピリカは「どうしましたか?」診察を始めた。
飼い主は「下痢が三日ほど続いてるんです。 どうしてですか?」
「はい、すぐ血液検査しますので待合室でお待ち下さい」
二人きりになり犬に「どこが調子悪いの?」と直接聞いた。
「わからない、なんにも痛くない」
「下痢してるのに、お腹痛くないの?」
「下痢? 痛くない。 帰る……」
ピリカの脳裏に先日のタマのことが過ぎった。
「あんた、今の飼い主さんのこと、どの位知ってるの?」
「昨日だよ、帰りたいお母さんって帰りたい」
「あんたもしかして拾われたの?」
「違うよ」
「なにが違うの?」
「わかんないよ」
「わからないってどういうこと?」
「わからないから早く帰して」
「ハイ、ちょっと待ってね」
そう返答したがどこか腑に落ちないピリカだった。
飼い主に「血液にもレントゲンにも異常が見あたりませんでした。 このまま帰って様子をみるか入院して様子を診ましょうか?」
「う~ん、とりあえず帰って様子をみます」
「そうですか」
チワワが帰った後、ピリカは院長室に向った。
「院長、今日もタマの時のようにどこも悪くないペットが受診にきたんです。 私、なにか腑に落ちないんですが」
「そうか、チョット受付の青ちゃん呼んでくれるかな?」院長も少し気になった。
「青ちゃん、忙しいところすまないね。 先日のタマと今日のチワワ、医師の指名あった?」
「はい、立花先生って指名でした」
「そう…… わかったありがとう」
「立花君、これはなにかあるかもしれないよ。 君、心当たりはないのかね?」
「直接関係してるかどうかわかりませんんけど、最近ストーカーっぽい影が感じられます」
「そういえば、先日のバイクの件もあったね……」
「あっ、ハイ」
「本当に心当たり無いのかね?」
「私、お付き合いしてる人もいませんし、告白されたこともありません」
「そっか、とりあえずしばらくは用心しようか」
ピリカは嫌な予感を感じながら、その日の勤務を終えた。 帰りは周囲に気を配り、真っ直ぐ自宅に戻った。 翌朝早く携帯が鳴った。 院長からだった。
「立花君おはよう。 例の犬が重傷体で運ばれてきたよ。 間違いなくなんらかの裏があると思う。 とりあえず今は病院に来なくていいから。 あとで出勤してほしい。 気をつけて」
「はい、ありがとうございます」
「ルーどういうことなの? 教えて」なんの返答もない。
ピリカは周囲に気を配りながら家を出た。 その時だったピリカの影を感じて隠れたと思われる人影があった。 ピリカは勇気を出してその影に近づいた。 女性の気配。
勇気をだして声を掛けた「チョット待って下さい……」
その影は振り返りもせず走り出した。
「チョット待って下さい…… 止まって下さい」
ピリカの呼びかけを無視して女は走り続けた。 ピリカも全力で走りその影の前に走り寄った。
「待って下さい!」振り返って見たその顔は中年の婦人。
ピリカは息を整えて「すいませんが、私になにか用事あるんですか?」
「別に、誰あんた?」
「だって、ここんところ私をつけ回してるじゃありませんか」
「なんで私があなたをつけ回すのよ?」
ピリカは内心、そういわれればそうだけど……それ以上の言葉が出ない。 この人が私をつけ回してる事は確かだが……でも、なんで? 証拠はない。
「すいませんでした。 私の勘違いでした…… 申し訳ありません」
なんで、なんで、私が謝るの…… やるせない気持ちで涙が出て来た。 その時、携帯が鳴った。院長からだった。
「ハイ、立花です」
「犬が死んだよ。 やはり解剖を拒否して帰って行った。 君は今、どの辺?」
「これから地下鉄に乗るところです」
「そっか、気をつけるんだよ」
「ハイ」
病院に着いてドアを開けた。
「おはようございます」
受付の青ちゃんが「立花先生おはようございます。 院長室に来るようにって」
「ハイ」
院長室のドアをノックして「立花です」
「どうぞ」
「おはようございます」
「おはよう。 さっき話したように犬が死んだんだけど、原因が解らないまま引き取られた。 タマの時と同じだよ。 青ちゃんの証言のように、いずれも君が指名されたんだ。 たぶんなにか関係してると思う。 とりあえず様子を見るから君はしばらく山田先生の助手をしてほしい」
「ハイわかりました。それと今朝、家を出たところで女の人に尾行されまして、私が気が付いたのを察知してその女性は逃げたんです。 なんとか先回りをして話しかけたんですけど、私のことなんか知らないっていうんです。 私もなんの証拠もないのでつい謝ってしまったんですけど間違いなくつけ回されてました」
「そのご婦人に面識はないのかい?」
「はい、まったく思い当たりません」
「そっか、思い出したら私に報告して下さい。 じゃぁ山田先生の助手お願いしますよ」
「はい、失礼します」
ピリカは、その女性の顔をなんとか思い出そうとしていた。 それから数日が過ぎたがストーカーの影も無く、これという異変も感じられなかった。 そんな時、地下鉄のホームで手を振っている女性の姿があった。
「ピリカちゃん元気してた~」声の主はピリカが以前アルバイトしていたススキノのRONという店のホステス理恵だった。
「あっ理恵さんお久しぶりです。 これからお勤めですか?」
「そう、これからなの、わたし店移ったのよ。 今度、飲みに来てね」
理恵から名刺をもらい話しそこそこに別れた。 理恵さんか…… あれから七年になるけどまだススキノで頑張ってるんだ。……う? あれ? なにか気にかかった。
自宅に戻り真っ先にパソコンのキーボードを叩いた。 札幌市Fさん。 出て来た写真を拡大してみた。 うそっ! このオバサンだったの? なんで、今頃になって ?どうして? 思案にくれた。
もし院長に事情を話したら私が今まで隠してきた能力が表に出るし、そうしたら病院にいづらくなる。 だって院長より動物の心がわかるなんて院長も格カッコつかないよね。 今度の休み倶知安に帰って相談しよ。 なんで今頃になってあのFさんが…… 気が晴れない日が数日続いた。
久々の帰省。 なんだか足が重い。
「ユメ、ミルキーただいま~ 元気にしてた?」
「ピリカ姉ちゃんお帰り」
「ユメただいま。 ミルキーの面倒みてる?」
「うん、とってもいい子だよ」
「ユメ、あんたミルキーのお母さんみたいだね」
「そうだよ、ちゃんとおっぱいも出るもん」
「そっかい、それは動物にはよくあることなんだよ。 母親のようにしてるとお乳が出るんだよ」
「わ~い! 私、ミルキーのお母さんだ」
「ガンバってねユメ母さん。 で、私のお母さんは?」
「出かけた」
「お父さんは?」
「一緒」
母親に電話をした「私、今どこ? そう、わかった。 待ってる」
ミルキーに「ミルキー大きくなったね。この家どうですか?」
「ピリカ姉ちゃん、私がこの家に来てから、もう二回も雪降った。 なんで新入りみたいなこというの?」
「あっ、ごめんね。 ユメがお乳が出るって言うから、そうだよねおかしいよね。 それにしてもユメは何で今でもお乳あげてるの?」
「だってミルキーが欲しがるから」
「ミルキー、あんたまだお乳飲んでるのかい?」
「はい、飲んでるポン」
「もう止めなさい」
「なんでポン?」
「ユメのエネルギーがだんだんなくなって倒れちゃうからよ」
「ユメ倒れたら……嫌だポン」
「そう、だからもう飲むの止めなさいね」
「ハイ、ポン」
「あんた、話し終わった後のポンはどんな意味があるの?」
「……?」ミルキーは理解出来ないでいた。
ユメが「お姉ちゃん、ミルキーはわかってないのよ自分の癖を」
ピリカとユメは笑った。 そして母親が帰宅した。
「ただいま~」
「あっお母さんだ! ポン」ミルキーが走った。
「お帰り。今日はどうしたの? 突然帰ってきて」
「うん、お父さんとお母さんに話し聞いて貰おうと思って」
その夜、食事をしながら、学生の頃ススキノでアルバイトした事以外、一通りの経緯をピリカは話した。
父親が口を開いた「そっか、逆恨みか…… 事が事だけに難しい問題だな」
母は「院長にあんたの能力知れたらマズイのかい?」
「だって院長と私の見解が違ったらまずいと思わない? いつも院長の診断が正しいとは限らないし。 今回だってタマも犬もどこも痛くないってあの子達がいうの。 でも、もし院長だったら何らかの病名を付けると思うのね」
「なんで院長はわからないっていえないのさ?」
「動物病院という所は動物が調子悪いから高いお金を払って受診するの。 人間のように健康診断だけでは滅多に受診しないの、保険も無いのに…… つまり、犬や猫が病院に来る場合はなんらかの病気なの、わからない場合はストレスのせいにする場合もあるけど……」
「なんか、人間の医者みたい」母が言った。
父親は「ピリカ、お前はどうしたいと思ってる?」
「うん、だから悩んでるの、辞めるか続けるか」
母親が「続けるにしても病院に迷惑掛からないのかい?」
「そう、もしこれがまだまだ続くようなら、病院の存続に係わると思う。 ネット配信なんてされたら一気に広がるから、あんな小さな病院なんてあっという間に潰れちゃうかも……」
「辞めちゃいなさい。 そして倶知安に戻って来なさい。 倶知安だって獣医の仕事はいっぱいあるわよ」母らしいコメントだと思った。
「でも、ここで辞めたら私が負けを認めたような気がするし、そんなことで負けるのシャクなの、なによりも、私への復讐のために死んだ犬と猫に申し訳ない」ピリカの目から涙が落ちていた。
「ピリカ姉ちゃんどったの? ポン」ミルキーが心配そうに言った。
「そっか、これ以上病院に迷惑掛けたくないなら、ちゃんと院長と話しをして結論を出しなさい。父さんと母さんはお前の味方だから、どっちの道を選んでも応援する。 なぁ、母さん」
「うん、ピリカお前の好きにしなさい。 お前の人生なんだから」
「うん、ありがとう。一晩考えて結論出すね」
翌朝早くピリカは「お母さんおはよう」
「はい、おはよう」
「私、辞める事にしたから」
「そうかい…… わかった」
「但し、このままでは辞めないから……」
「どういう事?」
「その嫌がらせをした相手に謝罪させるの」
「おやり! ガツンとやっておやり!」
「ねぇ、ピリカ姉ちゃん、昨日からどうしたポン?」
「ごめんねミルキー、心配かけて、でもこれ人間世界の話しだから説明するの難しいんだ」
「ポン?」
ピリカは辞表を持って院長室を訪ねた。
「院長、短い間でしたがお世話になりました。 今月で退職させてください」
「例の件のことかね? あんな事で君が辞めなくてもいいと思うけど、僕はそんなちっぽけな人間じゃないよ」
「はい、ありがとうございます。 ですが、やはり辞めさせていただきます。 私が居ることでこの病院に迷惑が掛かるなら、まずは辞めるべきだと考えました。 でも、個人的にその人達とはしっかり向き合いたいと考えております。 決着が着いたらまたここでお世話になるかどうか相談させて下さい」
ピリカの決意の固さを感じた院長は辞表を受け取った。 ピリカは病院を去る時呟いた。
「ごめんね、タマとワンちゃんごめんね私のために」
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