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12「理恵とピリカ」
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12「理恵とピリカ」
病院を辞めた心を痛めたピリカは次の職場をすぐに探す気にはなれず、数ヶ月が過ぎていた。
ピリカの家のポストには相変わらず嫌がらせの手紙が投函され続けた。
だんだん外出するのが面倒くさくなり週に一度買い出しに出るのが唯一の外出となった。
そんなある日、玄関のチャイムが鳴った。
「は~い。どちら様?」
「理恵だけど」
幼なじみの理恵だった。
ピリカはドアを開け「理恵どうしたの?」
「どうしたのじゃないわよ。メールしても返事は来ないし電話にも出ない。 あんた一体何やってるのよ?」
「どうもしないけど……」
「それで、どこか他に就活してるの?」
「いや、どこも受けてない」
「受けないでどうするの?」
「うん……?」
「それに何なのこの部屋の散らかりようは?」
「うん」
「チョット、あんたのジーパン貸して」
「?ハイ」
理恵はジーパンに履き替え部屋掃除を始めた。
「ありがとう」ピリカの気のない言葉だった。
掃除半ばでビニール袋に入った数十通の手紙を発見した。 理恵は悪いと思ったが、心配のあまりその手紙に目を通した。 そして理恵は大きな声を出した。
「なにこれ? ピリカに対しての嫌がらせじゃないの! どういう事なの? 説明して」
「うんいいの、手紙だけだから私、気にしてないから……」
「あんたが気にしないのはいいけど、とにかく私に説明しなさいよ…… わたしは、あんたの友達なんだから聞く権利がある」
わけが分からない理屈だと理恵は解っていたが、ピリカを思う気持ちの方が優先された。 同時にピリカが部屋に籠もった原因はこの手紙にあると理恵は確信した。
「もう帰って…… 一人にしてくれる?」
思いもよらない言葉に理恵は動揺した。
「帰るわよ、帰るけど、あんたになにがあったのかちゃんと説明して。 私には説明を聞く権利があるの……」
「なんの権利?」
「何だっていい、幼なじみの権利。 友達としての権利。 なんか文句あるわけ?」
「……ありがとう。でも、今日はほっといてほしい……」憔悴しきった力ない言葉だった。
理恵が帰った後、ピリカは急に虚無感に襲われそのまま布団に転がるように入ってしまった。 カーテン越しの光がやけに眩しく感じ、ますます逃げ込むようにもぐった。
もう、どうでもいい 私なんかほっといてほしい
それから数日が過ぎ玄関のチャイムが鳴った。 ドアスコープから理恵の姿が確認できた。
ドア越しにピリカは「なに?・」
「ピリカ、ドアを開けて……」
「まだ話す気ないから帰って……」
「帰るからこれを冷蔵庫に入れさせて」ドアスコープの前にスーパーの袋に入った食品をちらつかせた。 理恵はピリカがそう出るだろうと、予め冷凍食品を用意してきた。
ピリカはゆっくりとドアを開けた。 同時に理恵は右足をドアの隙間に強引に挟みこみ玄関内に押し入った。 そして、ピリカの顔を見たその瞬間理恵は立ちすくんでしまった。
そこに立っているピリカは、まるで掛け軸にある幽霊のように顔色は青白く、頬は痩せこけまるで別人のようだった。 とても痛々しく、胸が苦しくなった。
「これ差入れ…… 冷蔵庫に入れるね」とりあえず食品を冷蔵庫にしまおう、ドアを開け食品をいれた。 同時に暖かいものが理恵の目から溢れ落ちてきた。
理恵は「まだ、話す気になれないのかい……?」優しくゆっくりと語りかけた。
「ごめん……」
「倶知安に帰ろうか? 私、車買ったんだよドライブでもしない?」
「……」
「じゃぁ行こう」理恵が立ち上がった。
「あのね、ピリカね、犬とね、猫のタマとね、遊ぶのね、そんでね、そんでね…… 急にね二匹とも帰ったのね。 あとねピリカのお家のね、モモがね、遊びにね、来たんだ」
……? 理恵は我が耳を疑った。
「ピリカ! どうした?」同時にこらえていたものが一気に吹き出し涙がとまらない。
「……」今度は黙ったままだ。
理恵は気を取り直し優しく言った。
「倶知安に帰ろうか?」
「……」下を向いたままなんの反応もなかった。
どうしていいのか見当がつかないので、とりあえず前回訪問した時のままだった部屋を整理し始めた。 整理する手が小刻みに震え、早打ちしてる心臓の鼓動も感じられた。 短期間でこんなに変わり果てたピリカを全然予想していなかった。
理恵の頭に浮かんだのは、一刻も早くピリカのお母さんに知らせなくちゃ。 このままひとりにしてたらピリカが本当に駄目になっちゃう。 実家に戻そう。
その時「あれ……? 理恵じゃない…… 今日はどうしたの?」
「えっ?」理恵の頭がパニック状態になった。
「今日、休みなの?」
「う、うん、休みだよ、ピリカ大丈夫?」
「何が?」
「いや……」
「だって理恵、変な顔してるよ」
ピリカが正気に戻ったと思った瞬間、質問するなら今だと咄嗟に考えた。
「ピリカ病院辞めたって聞いたから会いに来たんだ」
「そう、わざわざ?」
「うん、それに車買ったから一緒にドライブしようかなと思って」
「でも私、今身体の調子悪いのね、折角だけど今度にする。 ありがとう」
「わかった、今度にしようね。 ところで最近どう?」
「どうって?」
「まあ、色々あるでしょ? 年頃の女の子なんだから」
生まれてこの方、こんなにピリカに言葉を選んで話したことなんかないと思った。
「就活中だよ」
本音を聞き出そうかどうしようか理恵は悩んだ。 今なら正気だから話してくれそうな気がするけど。もし、嫌なこと思い出させて、さっきみたいなピリカになったらどうしよう……
考えたらまた心臓の鼓動が早くなってきた。
心の中でピリカどうしたの? と叫んだ。
その時だった。ピリカが小さな声で「あのね、私のせいでね、犬と猫を死なせてしまったの、私の代わりに」
原因は勤務先の病院にあるかも知れないと思った。
「ピリカごめんね、話したくなかったら話さなくていいけど、病院で何があったのかだけでも聞かせてくれる?」
ピリカは一気に心のつかえを話し始めた。
「ピリカは何も悪く無いじゃない。 そのFさんっていうオバサンが全部仕掛けたことじゃない。 何なの? そのFさんは……」
理恵は心の底から怒りをおぼえた。
「わかった。私、今日から車の中で見張っててあげる。 そしてポストに手紙入れるところを押さえる。 話しをきっちり付けようじゃない。 そんな卑怯なやり方するの我慢できない……
まったくもう。私の親友に向って、なんぼのもんじゃい! ねぇ、ピリカ」
「ふふ……」ピリカがやっと笑った。
それから理恵は有給休暇を取り、ポストが見えるところに車を止め一日中見張りを始めた。
見張りを始めた翌日の夜中だった。 黒い服と帽子を深くかぶった人影がポストに何かを入れた。
とっさに車から飛び出し「チョット待ちなさいよ!」その黒服に声を掛け近寄った。
その時だった。対向車線に駐車していた車がライトを消したまま理恵めがけて急発進してきた。
理恵はとっさに身をかわしたが、足が車に接触し頭から倒れて気を失ってしまった。 気配を感じたピリカは部屋から出てフラフラと倒れた理恵に近寄った。
小さなかすれ声で「あ~っ あ~っ 理恵、理恵、起きて、ねぇ理恵」ぐったり倒れた理恵の
身体を一生懸命揺らした。 ピリカは助けを呼ぼうと辺りを見回したが、住宅地の夜中ということもあり誰も歩いていない。
しばらく呆然としているとそこに理恵の姿があった。
「理恵、大丈夫だったの? よかった。 ごめんね理恵、痛い思いさせて。 私、頑張るね……」
理恵は黙って微笑んだ。 次の瞬間、理恵は忽然と姿を消してしまった。
「理恵……!」
ピリカが足下を見ると理恵は血を流して倒れ込んだままだった。 同時にピリカもそのまま意識を失ってしまった。 新聞配達の青年が二人を発見し救急車で近くの病院に搬送された。
その後、警察がアパートの周りの現場検証に取りかかっていた。 ピリカは搬送先の病院で二時間後で意識を取り戻した。 周囲の様子から病院であることが伺えた。
「あのう…… すみません」ピリカは声を発した。
看護師が「気が付きましたか? 今、先生を呼びますから待ってて下さいね」
医師が入ってきた「どうですか? ここが何処かわかりますか?」
「病院ですか?」
「はい、ここは札南病院です。 あなたのお名前は?」
「立花美利河です」
「立花さんの住んでる住所わかりますか?」
「札幌市東区ひばりヶ丘三、五、二三」
「はい、意識障害はありませんね。 あなたはお友達と車の事故に遭われたみたいで、あなたのアパートの下で倒れていたんです。 検査しましたが外的障害はありません。 但し、栄養障害があるので点滴を受け、しばらく入院しましょう。 もう少しでご両親も来ると思いますから」
今のピリカには状況が理解できなかった。
確か……理恵が叫んだから私が外に出た……
そして理恵が倒れていてすぐに立上がり?
その辺の記憶がいまいちハッキリと思い出せない。
気が付いたら、白い壁と天井と医療機器が目に入った。
そうだ、なんで? なんで理恵が倒れていたの……?
ドアを叩く音がした。 入ってきたのは父と母。 が子を見た二人は、一瞬目を疑った。 目の前にいるのは、痩せこけ、顔色の悪い女の子だった。 たかが一ヶ月でこんなにも変わるものかと目を疑った。
「ピリカ大丈夫?」母親の優しい声。
母親の声を聞いた瞬間全ての記憶が甦ってきた。
「私は大丈夫! それより理恵、理恵ちゃん大丈夫?」
母親の目には涙が溢れていた。
ピリカは繰り返した「理恵ちゃんは?」
父親が口を開いた「ピリカ、落ち着いて聞いてほしい。 理恵ちゃんはさっき亡くなった」
父親は肩を落としそれ以上、話すことは出来なかった。
「なんで?私、理恵が倒れたあと話したんだよ。 ちゃんと立って話したんだよ! 私と……」言い終えた瞬間ピリカはまた気を失った……
ピリカはそのまま意識不明となった。
医者は「外傷は無いが、精神的ショックの為、一時的に気を失ったのだろう」と診断した。
様態が落ち着いたら警察の事情聴取の予定だった。
気を失ったピリカは体外離脱をしてエーテル層の中に意識を置き、ガイドのルーと会話を始めた。
「ルー、教えて。私の何が間違ってるの?」
「間違いはない」
「じゃあどうして?」
「因縁」
「何の因縁?」
「過去からの」
「もう死にたい」
瞬間景色が変わり、ピリカは砂浜に座っていた。
「ピリカ」誰かが語りかけて来た。
「?だれ……?」
「わ、た、し」
「理恵ちゃん?」
「そう、わたし理恵。 ピリカ、落ち込んじゃ駄目。 もっとしっかりしなさい」
「だって、あんな事あったし……それに理恵ちゃんが」
「私が選んだ事なんだから誰にも責任はないの。 ついでにいうと、タマも例の犬もこっちの世界で楽しくやってるよ」
「わたし、帰りたくない、もう嫌、わたしもここにいたい!」
「ピリカにはまだやることがある。 それが出来たらまた会おう」
「理恵ちゃん、理恵ちゃん、理恵ちゃん?」
もう砂浜に理恵の意識はなかった。
父親と母親は、もしかするとピリカの意識が戻ることを拒んでいるような気さえしていた。 倒れる前の病院でのことや親友の理恵の死とが重なり意識的に戻ることを拒否してるような感じがしてならなかった。
ピリカの目が開いた。
父親が「ピリカ、気が付いたかい?」
「……」
ピリカは何の応答も無いまま目だけが大きく見開いていた。
母親が「先生、どういう事でしょうか?」
「肉体的には栄養不良以外、何の問題も無いのです。 でも、娘さんはもしかして心を閉ざしているのか、一過性のものか?」
「それって、どういう事でしょうか?」
「何があったのか知りませんが、娘さんは極度のストレスで、元の自分に戻りたくない。 つまり現実社会からの逃避をしているのかもしれません……」
「つまり簡単に説明して下さい」
「周りの方の話や、また警察の話しから、私なりの推測なんですが、娘さんは現実逃避を意識的にされてるように思えるんです」
「それは回復するのでしょうか?」父が聞いた。
「当然、可能性はありますが心の問題は解明できない部分が多いので何ともいえません。
今は肉体的には問題ないという事ぐらいしか…… もう少し入院させましょう」
父親は警察にピリカが話していたFという霊能者と、勤務先の病院での事を話した。 ただ何故、親友の理恵ちゃんが車に跳ねられあのような事になったのかは見当がつかないと報告した。
刑事の見解は、その辺りが事件の経緯と関係性があるとふんでいた。 その後、病院からの証言と車のタイヤ痕、Fの会の消息から犯人は特定され逮捕に至った。
主犯はやはり富士珠子、通称F。 同時にそのFの会の元関係者二人が検挙された。 富士珠子の恨みからの犯行で、たまたま自分の飼ってる犬が病気で動物病院に行った時、医者の紹介写真からピリカを見て、一連の犯行を考え復讐を思い付いたと証言した。
警察が母親の所に来て報告をして帰った。 ピリカの母親は理恵の仏前に経緯を報告をし、泣きながら何度も何度も頭を下げた。
「おかあさん、もう頭を上げて下さい。 私は最後まで親友を守った娘の事誉めてやりたい。
よくやったって理恵を誇りに思ってます」
ピリカの母親は遺影を見ながら「理恵ちゃん、あなたには最大級の感謝をのべます。 本当に感謝してます。 ありがとうございました」言い終えると泣き崩れた。
その翌日、ピリカの父と母はピリカに報告に向った。 母は手を握りなが事の経緯を報告した。
「あんた幸せだね、身を挺して守ってくれる友達がいて。 理恵ちゃんに感謝しなよ。
容疑者はFという女性で逆恨みだった。 もう全て解決したから戻っておいで。 ミミやミロ、ユメとミルキーも心配してるよ」
その後、ピリカは病院を退院、倶知安の自宅で療養することになった。 誰が見ても魂の抜けた人間にしか見えないピリカの変わり果てた姿。
帰省してすぐ、ミミ以下全員がピリカに会いに来た。 みんな思い思いの事を話しかけているが、やはり無反応だった。
ミルキーがユメに「ピリカ姉ちゃんなんか変。 どうしたの?」
ユメはミミに「どういう事?」
四匹には全然意味が理解出来ず寂しげに部屋を出て行った。
母親は「あの子達に会わせたら何か反応あるかと思ったけど無理みたいね……」
父親が「気を長く持って回復を待とう」それは自分に言い聞かせているようだった。
病院を辞めた心を痛めたピリカは次の職場をすぐに探す気にはなれず、数ヶ月が過ぎていた。
ピリカの家のポストには相変わらず嫌がらせの手紙が投函され続けた。
だんだん外出するのが面倒くさくなり週に一度買い出しに出るのが唯一の外出となった。
そんなある日、玄関のチャイムが鳴った。
「は~い。どちら様?」
「理恵だけど」
幼なじみの理恵だった。
ピリカはドアを開け「理恵どうしたの?」
「どうしたのじゃないわよ。メールしても返事は来ないし電話にも出ない。 あんた一体何やってるのよ?」
「どうもしないけど……」
「それで、どこか他に就活してるの?」
「いや、どこも受けてない」
「受けないでどうするの?」
「うん……?」
「それに何なのこの部屋の散らかりようは?」
「うん」
「チョット、あんたのジーパン貸して」
「?ハイ」
理恵はジーパンに履き替え部屋掃除を始めた。
「ありがとう」ピリカの気のない言葉だった。
掃除半ばでビニール袋に入った数十通の手紙を発見した。 理恵は悪いと思ったが、心配のあまりその手紙に目を通した。 そして理恵は大きな声を出した。
「なにこれ? ピリカに対しての嫌がらせじゃないの! どういう事なの? 説明して」
「うんいいの、手紙だけだから私、気にしてないから……」
「あんたが気にしないのはいいけど、とにかく私に説明しなさいよ…… わたしは、あんたの友達なんだから聞く権利がある」
わけが分からない理屈だと理恵は解っていたが、ピリカを思う気持ちの方が優先された。 同時にピリカが部屋に籠もった原因はこの手紙にあると理恵は確信した。
「もう帰って…… 一人にしてくれる?」
思いもよらない言葉に理恵は動揺した。
「帰るわよ、帰るけど、あんたになにがあったのかちゃんと説明して。 私には説明を聞く権利があるの……」
「なんの権利?」
「何だっていい、幼なじみの権利。 友達としての権利。 なんか文句あるわけ?」
「……ありがとう。でも、今日はほっといてほしい……」憔悴しきった力ない言葉だった。
理恵が帰った後、ピリカは急に虚無感に襲われそのまま布団に転がるように入ってしまった。 カーテン越しの光がやけに眩しく感じ、ますます逃げ込むようにもぐった。
もう、どうでもいい 私なんかほっといてほしい
それから数日が過ぎ玄関のチャイムが鳴った。 ドアスコープから理恵の姿が確認できた。
ドア越しにピリカは「なに?・」
「ピリカ、ドアを開けて……」
「まだ話す気ないから帰って……」
「帰るからこれを冷蔵庫に入れさせて」ドアスコープの前にスーパーの袋に入った食品をちらつかせた。 理恵はピリカがそう出るだろうと、予め冷凍食品を用意してきた。
ピリカはゆっくりとドアを開けた。 同時に理恵は右足をドアの隙間に強引に挟みこみ玄関内に押し入った。 そして、ピリカの顔を見たその瞬間理恵は立ちすくんでしまった。
そこに立っているピリカは、まるで掛け軸にある幽霊のように顔色は青白く、頬は痩せこけまるで別人のようだった。 とても痛々しく、胸が苦しくなった。
「これ差入れ…… 冷蔵庫に入れるね」とりあえず食品を冷蔵庫にしまおう、ドアを開け食品をいれた。 同時に暖かいものが理恵の目から溢れ落ちてきた。
理恵は「まだ、話す気になれないのかい……?」優しくゆっくりと語りかけた。
「ごめん……」
「倶知安に帰ろうか? 私、車買ったんだよドライブでもしない?」
「……」
「じゃぁ行こう」理恵が立ち上がった。
「あのね、ピリカね、犬とね、猫のタマとね、遊ぶのね、そんでね、そんでね…… 急にね二匹とも帰ったのね。 あとねピリカのお家のね、モモがね、遊びにね、来たんだ」
……? 理恵は我が耳を疑った。
「ピリカ! どうした?」同時にこらえていたものが一気に吹き出し涙がとまらない。
「……」今度は黙ったままだ。
理恵は気を取り直し優しく言った。
「倶知安に帰ろうか?」
「……」下を向いたままなんの反応もなかった。
どうしていいのか見当がつかないので、とりあえず前回訪問した時のままだった部屋を整理し始めた。 整理する手が小刻みに震え、早打ちしてる心臓の鼓動も感じられた。 短期間でこんなに変わり果てたピリカを全然予想していなかった。
理恵の頭に浮かんだのは、一刻も早くピリカのお母さんに知らせなくちゃ。 このままひとりにしてたらピリカが本当に駄目になっちゃう。 実家に戻そう。
その時「あれ……? 理恵じゃない…… 今日はどうしたの?」
「えっ?」理恵の頭がパニック状態になった。
「今日、休みなの?」
「う、うん、休みだよ、ピリカ大丈夫?」
「何が?」
「いや……」
「だって理恵、変な顔してるよ」
ピリカが正気に戻ったと思った瞬間、質問するなら今だと咄嗟に考えた。
「ピリカ病院辞めたって聞いたから会いに来たんだ」
「そう、わざわざ?」
「うん、それに車買ったから一緒にドライブしようかなと思って」
「でも私、今身体の調子悪いのね、折角だけど今度にする。 ありがとう」
「わかった、今度にしようね。 ところで最近どう?」
「どうって?」
「まあ、色々あるでしょ? 年頃の女の子なんだから」
生まれてこの方、こんなにピリカに言葉を選んで話したことなんかないと思った。
「就活中だよ」
本音を聞き出そうかどうしようか理恵は悩んだ。 今なら正気だから話してくれそうな気がするけど。もし、嫌なこと思い出させて、さっきみたいなピリカになったらどうしよう……
考えたらまた心臓の鼓動が早くなってきた。
心の中でピリカどうしたの? と叫んだ。
その時だった。ピリカが小さな声で「あのね、私のせいでね、犬と猫を死なせてしまったの、私の代わりに」
原因は勤務先の病院にあるかも知れないと思った。
「ピリカごめんね、話したくなかったら話さなくていいけど、病院で何があったのかだけでも聞かせてくれる?」
ピリカは一気に心のつかえを話し始めた。
「ピリカは何も悪く無いじゃない。 そのFさんっていうオバサンが全部仕掛けたことじゃない。 何なの? そのFさんは……」
理恵は心の底から怒りをおぼえた。
「わかった。私、今日から車の中で見張っててあげる。 そしてポストに手紙入れるところを押さえる。 話しをきっちり付けようじゃない。 そんな卑怯なやり方するの我慢できない……
まったくもう。私の親友に向って、なんぼのもんじゃい! ねぇ、ピリカ」
「ふふ……」ピリカがやっと笑った。
それから理恵は有給休暇を取り、ポストが見えるところに車を止め一日中見張りを始めた。
見張りを始めた翌日の夜中だった。 黒い服と帽子を深くかぶった人影がポストに何かを入れた。
とっさに車から飛び出し「チョット待ちなさいよ!」その黒服に声を掛け近寄った。
その時だった。対向車線に駐車していた車がライトを消したまま理恵めがけて急発進してきた。
理恵はとっさに身をかわしたが、足が車に接触し頭から倒れて気を失ってしまった。 気配を感じたピリカは部屋から出てフラフラと倒れた理恵に近寄った。
小さなかすれ声で「あ~っ あ~っ 理恵、理恵、起きて、ねぇ理恵」ぐったり倒れた理恵の
身体を一生懸命揺らした。 ピリカは助けを呼ぼうと辺りを見回したが、住宅地の夜中ということもあり誰も歩いていない。
しばらく呆然としているとそこに理恵の姿があった。
「理恵、大丈夫だったの? よかった。 ごめんね理恵、痛い思いさせて。 私、頑張るね……」
理恵は黙って微笑んだ。 次の瞬間、理恵は忽然と姿を消してしまった。
「理恵……!」
ピリカが足下を見ると理恵は血を流して倒れ込んだままだった。 同時にピリカもそのまま意識を失ってしまった。 新聞配達の青年が二人を発見し救急車で近くの病院に搬送された。
その後、警察がアパートの周りの現場検証に取りかかっていた。 ピリカは搬送先の病院で二時間後で意識を取り戻した。 周囲の様子から病院であることが伺えた。
「あのう…… すみません」ピリカは声を発した。
看護師が「気が付きましたか? 今、先生を呼びますから待ってて下さいね」
医師が入ってきた「どうですか? ここが何処かわかりますか?」
「病院ですか?」
「はい、ここは札南病院です。 あなたのお名前は?」
「立花美利河です」
「立花さんの住んでる住所わかりますか?」
「札幌市東区ひばりヶ丘三、五、二三」
「はい、意識障害はありませんね。 あなたはお友達と車の事故に遭われたみたいで、あなたのアパートの下で倒れていたんです。 検査しましたが外的障害はありません。 但し、栄養障害があるので点滴を受け、しばらく入院しましょう。 もう少しでご両親も来ると思いますから」
今のピリカには状況が理解できなかった。
確か……理恵が叫んだから私が外に出た……
そして理恵が倒れていてすぐに立上がり?
その辺の記憶がいまいちハッキリと思い出せない。
気が付いたら、白い壁と天井と医療機器が目に入った。
そうだ、なんで? なんで理恵が倒れていたの……?
ドアを叩く音がした。 入ってきたのは父と母。 が子を見た二人は、一瞬目を疑った。 目の前にいるのは、痩せこけ、顔色の悪い女の子だった。 たかが一ヶ月でこんなにも変わるものかと目を疑った。
「ピリカ大丈夫?」母親の優しい声。
母親の声を聞いた瞬間全ての記憶が甦ってきた。
「私は大丈夫! それより理恵、理恵ちゃん大丈夫?」
母親の目には涙が溢れていた。
ピリカは繰り返した「理恵ちゃんは?」
父親が口を開いた「ピリカ、落ち着いて聞いてほしい。 理恵ちゃんはさっき亡くなった」
父親は肩を落としそれ以上、話すことは出来なかった。
「なんで?私、理恵が倒れたあと話したんだよ。 ちゃんと立って話したんだよ! 私と……」言い終えた瞬間ピリカはまた気を失った……
ピリカはそのまま意識不明となった。
医者は「外傷は無いが、精神的ショックの為、一時的に気を失ったのだろう」と診断した。
様態が落ち着いたら警察の事情聴取の予定だった。
気を失ったピリカは体外離脱をしてエーテル層の中に意識を置き、ガイドのルーと会話を始めた。
「ルー、教えて。私の何が間違ってるの?」
「間違いはない」
「じゃあどうして?」
「因縁」
「何の因縁?」
「過去からの」
「もう死にたい」
瞬間景色が変わり、ピリカは砂浜に座っていた。
「ピリカ」誰かが語りかけて来た。
「?だれ……?」
「わ、た、し」
「理恵ちゃん?」
「そう、わたし理恵。 ピリカ、落ち込んじゃ駄目。 もっとしっかりしなさい」
「だって、あんな事あったし……それに理恵ちゃんが」
「私が選んだ事なんだから誰にも責任はないの。 ついでにいうと、タマも例の犬もこっちの世界で楽しくやってるよ」
「わたし、帰りたくない、もう嫌、わたしもここにいたい!」
「ピリカにはまだやることがある。 それが出来たらまた会おう」
「理恵ちゃん、理恵ちゃん、理恵ちゃん?」
もう砂浜に理恵の意識はなかった。
父親と母親は、もしかするとピリカの意識が戻ることを拒んでいるような気さえしていた。 倒れる前の病院でのことや親友の理恵の死とが重なり意識的に戻ることを拒否してるような感じがしてならなかった。
ピリカの目が開いた。
父親が「ピリカ、気が付いたかい?」
「……」
ピリカは何の応答も無いまま目だけが大きく見開いていた。
母親が「先生、どういう事でしょうか?」
「肉体的には栄養不良以外、何の問題も無いのです。 でも、娘さんはもしかして心を閉ざしているのか、一過性のものか?」
「それって、どういう事でしょうか?」
「何があったのか知りませんが、娘さんは極度のストレスで、元の自分に戻りたくない。 つまり現実社会からの逃避をしているのかもしれません……」
「つまり簡単に説明して下さい」
「周りの方の話や、また警察の話しから、私なりの推測なんですが、娘さんは現実逃避を意識的にされてるように思えるんです」
「それは回復するのでしょうか?」父が聞いた。
「当然、可能性はありますが心の問題は解明できない部分が多いので何ともいえません。
今は肉体的には問題ないという事ぐらいしか…… もう少し入院させましょう」
父親は警察にピリカが話していたFという霊能者と、勤務先の病院での事を話した。 ただ何故、親友の理恵ちゃんが車に跳ねられあのような事になったのかは見当がつかないと報告した。
刑事の見解は、その辺りが事件の経緯と関係性があるとふんでいた。 その後、病院からの証言と車のタイヤ痕、Fの会の消息から犯人は特定され逮捕に至った。
主犯はやはり富士珠子、通称F。 同時にそのFの会の元関係者二人が検挙された。 富士珠子の恨みからの犯行で、たまたま自分の飼ってる犬が病気で動物病院に行った時、医者の紹介写真からピリカを見て、一連の犯行を考え復讐を思い付いたと証言した。
警察が母親の所に来て報告をして帰った。 ピリカの母親は理恵の仏前に経緯を報告をし、泣きながら何度も何度も頭を下げた。
「おかあさん、もう頭を上げて下さい。 私は最後まで親友を守った娘の事誉めてやりたい。
よくやったって理恵を誇りに思ってます」
ピリカの母親は遺影を見ながら「理恵ちゃん、あなたには最大級の感謝をのべます。 本当に感謝してます。 ありがとうございました」言い終えると泣き崩れた。
その翌日、ピリカの父と母はピリカに報告に向った。 母は手を握りなが事の経緯を報告した。
「あんた幸せだね、身を挺して守ってくれる友達がいて。 理恵ちゃんに感謝しなよ。
容疑者はFという女性で逆恨みだった。 もう全て解決したから戻っておいで。 ミミやミロ、ユメとミルキーも心配してるよ」
その後、ピリカは病院を退院、倶知安の自宅で療養することになった。 誰が見ても魂の抜けた人間にしか見えないピリカの変わり果てた姿。
帰省してすぐ、ミミ以下全員がピリカに会いに来た。 みんな思い思いの事を話しかけているが、やはり無反応だった。
ミルキーがユメに「ピリカ姉ちゃんなんか変。 どうしたの?」
ユメはミミに「どういう事?」
四匹には全然意味が理解出来ず寂しげに部屋を出て行った。
母親は「あの子達に会わせたら何か反応あるかと思ったけど無理みたいね……」
父親が「気を長く持って回復を待とう」それは自分に言い聞かせているようだった。
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「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
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