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1ハーデス観光株式会社
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1ハーデス観光株式会社
ツアー雑誌MOMO編集記者の新見が取材でハーデス観光を訪れた。
「MOMOの新見と申します。 本日はよろしくお願いいたします。
では、社長さんのお名前を教えていただけますか?」
「はい、私はハーデス観光代表の高橋明美と申します」
「早速ですがハーデス観光さんのハーデスとは何を表わしてますか?」
「ハーデスとは、黄泉の国、冥土、つまり霊界ですね」
新見が首を傾げ「黄泉の国、冥土、それはどういうことですか? 具体的にお話し願いますでしょうか?」
「はい、その名のとおり霊界の観光が当社のツアー商品です。 ご存じの通り霊界とは死後に
逝く世界をいいます。 本当は、あの世が実存の世界で、この世は仮りの世界なんですよ。
この世界はいっときの夢のようなものです。 言い方を変えるなら私たちは今、旅の途中なんです。
帰る家は別に存在するのです。
それがハーデスの世界なの。
手前どものツアーで行くハーデスは多数存在します。 簡単に申しますと地獄絵図のような
世界から宇宙を創造した世界まで。
この世もある意味その一部ですがね。
私を含め、当社スタッフがツアーとして解りやすくするために、何度か霊界に足を運び、
大きく七つのハーデスに分けました。 詳細は、ホームページにも書いてありますが簡単に説明いたします。
まずハーデスには時間という概念が存在しません。 どんなレベルのハーデスにも時間が無いのです。
思いが即形になります。
そこが一般的に霊界と呼ばれる時間のない世界と、今私たちの住む時間軸のあるこの世との大きな違いです。
新見はすこし怪訝な顔をしながら「例えば……?」
「現世では想像が形になるまで時間差が生じます。 仏教でいうところの因果です。
原因があって必ず結果が生ずる。 そして原因と結果までそれぞれタイムラグがあります。
結果が来世に持ち超されたり、早い場合今生で現れたりもします。
ハーデス世界は、そのタイムラグが存在しません。 原因と結果が同時に存在するんです。
時間が存在しないということは、思うと同時にその思いが即形になる。
だから誤魔化しが一切通用しないのです。
理解していただけましたか?」
「それって、邪悪なことを思うとすぐ形になるという事ですか?」
「はい、ご理解が早いです。 写し鏡のように思いが即自分にはね返ってくるので、上の世界では
人間世界のような悪は存在できないのです」
「ありがとうございます」
「では、私どもが分類したハーデスを下から順に説明いたします。 本当は下からという表現も
的確でありませんが、便宜上で上下をつけてます。 ご理解ください。
では、まず第一から説明します。
第一ハーデス
これは、人間世界でいう地獄のハーデス。
自分の欲望のためには手段を選ばない。 他人の物を奪い、傷つけ、自分を優位に立たせることしか
考えていない、修羅場の世界をいいます。 欲望丸出しの地獄世界です。
人だけでなく町や社会や建物全てが歪です。 住人の想念が町全体の形に反映されるからです。
第二ハーデス
これは、自我優先のハーデス。
自分のことしか考えていない個人優先の世界。 自殺者や金や地位、名誉といった自分のことだけが
優先される世界です。 第一ハーデスと似ていますが、根本が個人優先主義なので、直接他人に
危害を加えないところが第一との大きな違いです。
でも、結果的に間接的危害を及ぼす事は普通にあります。
第三ハーデス
ここは人間界に最も似ているハーデス。
我々の住む物質世界的な要因の強いハーデス。 但し、物を中心に思考します。
人間界と大きく違うのはそこです。 思いやりは欠損しております。 物欲界という表現を我々は使います。
自分主義の強い世界はこの辺で終わりです。
第四ハーデス
ここは、自分の意識の合う者同士が集団を作って生活してます。
この世で、たとえ親子や夫婦であっても意識が違うと一緒に生活しません。
生活する集団が個々に違います。 この考え方は霊界全般では当たり前の概念です。
こっちの世界のように気の合わない者同士が一緒に住むことは絶対ありません
何故なら自分の意識が合う場所、そこが一番落ち着くからです。 人間界は意識が違っても自分の思い
を押し殺したりして関係を保ちます。 このハーデスは魂のレベルのあった者同士が一緒に住まう世界です。
人間界より素晴らしい世界です。 簡単に表現するなら与え合う世界。 余談ですが、本当は魂に
レベルなんてのはありません。 私どもが便宜上わかりやすく使ってるだけです。 誤解しないで下さい。
第五ハーデス
ここは、俗にいう神界と呼ばれるハーデスです。
神々と呼ばれる存在が住まう世界。 人間の特に日本人のいう神とニュアンスは少し違います。
これは集団意識の違いになるので説明は避けますが、仏教で表現するなら菩薩界に相当します。
人間的な葛藤はありません。
第六ハーデス
ここは、全て調和。 宇宙意識のハーデスです。
人間的な意識はもうここにもありません。 当然、善悪など相対する意識は一切無く、仏教で表現
するなら空の世界観、もしくは如来界でしょうか…… 私のレベルでは上手く表現できないハーデスです。
善悪という概念を超越してます。
第七ハーデス
ここは、宇宙そのもの。 あるいは宇宙を作った存在かもしれません。
創造主でしょうか? 言葉にするとどうしても私の意識的制限があり、恥ずかしい話し、
宇宙観が小さくなってしまうので、非常に説明が難しいです。 それほど人間的な表現が難しいのが
この第七ハーデスです。 以上が私どもがくわけした七つのハーデスです。
解っていただけましたか……? ご質問があればどうぞ」
「実際に社長さんも視てきたのですか?」
「はい、当然です。 私の考案した装置ですから」
「それはどのような装置なのですか?」
「はい、我が社の開発した装置は、強制的に体外離脱さ、エーテル体という霊体で各ハーデスを
旅するんです。 必ず、私どもの馴れた社員が添乗いたします」
「それって、既に市販されているヘミ進化という装置とは違うんですか?」
「おおきく違います。 ヘミ進化装置は自分が体外離脱して霊界を視てくると云う商品で、
どちらかというと客観的に視てくるというものです。 3D映画を見ている感覚に近いかも知れません。
また、誰でも体外離脱出来るという保証もありません。 我が社のハーデスとはリアル感がまったく違います」
「ハーデスは誰でも体感出来るのですか?」
「今のところ百パーセント出来ます。 万一、出来ない場合はお代は頂きません。 二次元的客観視が
他社なら、三次元的主観感覚が当社です。 両者を経験するとその違いがハッキリ解ります。
当然、当社は説明したように馴れた者が添乗します。 万一の場合は添乗員が責任を持って誘導します。
因みに今まで一度も事故はありません」
「料金はいかほどなんでしょうか?」
「一から六ハーデスがワンセットで六十万円。 一ハーデス一時間、計六時間。 途中、休憩を挟みます。
オプションは一ハーデス十五万円です」
「オプションもあるんですか?」
「例えば、死んだ母親のハーデスを視てくるとか、尊敬するマイケルやジョンレノンに会うとかその
他諸々あります。 すべて一ハーデス十五万円です。 但し、基本ハーデスに組み込むことも出来ます。
例えば第一ハーデスを体験しないでその代わりに死んだ父親が住んでいるハーデスを加え全六ハーデスに
するというものです」
「チョイスも出来るんですか?」
「はい、当然可能です。 二以降のお客様は、第一と第二を飛ばされる方が結構多いです。
あのハーデスは暗いし、悪臭がひどいですから……今ひとつ人気がありません。 でも存在するかぎり
無視できません。 この世での考え方、行いの教訓になるから必要と考えてます。 だから私どもは
セッティングしております」
「臭いもするんですか?」
「当然です。これは経験されないと解らないと思いますが、下位のハーデスは異臭がします。
空気も澱んで重く感じますし、何よりそのハーデス全体が薄暗く、常に誰かに監視されてるというか、
突き刺さるような視線を感じます。 その視線が気になったら最後、そのハーデスを出るまで
感じられる場合もあります。 不思議とだんだんその世界に慣れますけどね。
実際に体験しないと解らないと思います。 ハッキリいいますが錯覚でも誘導催眠でもありません」
「私も個人的に経験したくなりました。 予約は電話でよろしいのでしょうか?」
「電話もしくはメール、あるいはご来店いただくかです。 どんな方法でもかまいません」
「準備とか必要ないのですか?」
「はい、三日前から心をニュートラルに保って下さい。 怒りや執着を持ってるとそのハーデスに
引き込まれやすいからです。 添乗員が付いてますから大丈夫ですけど、出来れば執着がない方がベストです」
「それではこの辺でインタビューを終了いたします。 お疲れ様でした。 ありがとうございました。
高橋社長、私も興味あります。ぜひ体験してみたくなりました」
「そうですか、じゃあ企業秘密をひとつ教えます。 他言しないで下さい」
「はい、他言しません」
「はい、これは決して悪いことではありません。 例えば、第五、第六ハーデスを何回か経験すると
その波動が体験者つまりお客様と同調して意識が引上げられます。
それが、この世に戻っても持続するんです。
当然個人差はありますが…… ここだけの話し悟り体験です。 もう少しこの装置を発展させれば
実際に悟りを開けるかもしれません。 これは私が第五ハーデスで科学者から聞いたことですが、
昔、といってもアトランティスの頃ですが、実際にその装置で悟っていたらしいの。
エジプトには悟りの部屋という所があり、そこに何日間か籠もっていたらしいの。 いずれ当社が
その装置を作ってしまおうと考えております。 準備はもう進んでおります」
「高橋社長、夢のあるお仕事ですね、完成のさいは是非、当社MOMOにご一報下さい。
また、大々的に取り上げますから」
「いいえ、大々的に騒がれるのは私共は望んでいません」
「高橋社長は欲のないお方ですね。 尊敬しちゃいます」
「私が言いたいのは損得ではなく、この世に悟った人ばかりになるとこの世は存在しなくなるからです」
「……? 理解できないのでじっくり考えてみたいと思います。 今日はありがとうございました。
じゃあ、今週の土曜日に予約入れますけど。 その体験も記事に書かせてもらっていいですか?」
「それは全然かまいません」
「凄く楽しみです。 今からワクワクします」
「じゃぁ、私が添乗しますね、数日間は心をニュートラルにして下さい」
新見は、第一から第六ハーデスのフルコースを選択した。 注意事項が書かれた説明書を渡された。
『ハーデス体験誓約書』
※一,万一精神的な障害があった場合は自己責任とする。
※二,ハーデス世界の政治やその他の組織への関与、社会に影響を及ぼす行為はしない。
※三,各自の思い描く世界観とハーデスが違った場合、クレームの申し立てはしない。
上記記載に従います。 新見は六十万円と誓約書を高橋社長に渡した。
高橋が「では、こちらの部屋にお入り下さい」
通された部屋は四から五畳ほどの小さな部屋。 正面には簡単な装置が設置され、部屋の中央に
リクライニングの椅子が二つ並べてあった。 白衣を着た女性が装置を操作していた。
その女性が「私がこの機械操作担当の水上です。 宜しくお願いします。 この装置を耳ではなく、
頭の前と後ろに装着して下さい」
渡された装置はヘッドホンのような形をしていた。 頭の前と後ろにあてがい、その椅子に仰向けになった。
その後、両耳にイヤホンが装着された。 同じ装置を高橋社長も装着し横になった。
二人のリード線は一台のモニター付き装置に接続されていた。
「いいですか、これから経験する全てのハーデスは、今の新見さまの魂が住む世界ではありません。
あくまでも今いるこの世界が現実です。
不安に感じた時あるいは私が指示した時はこのコマを回して下さい」
水上は手の平に入る大きさのコマを新見に渡した。
「このコマがずっと衰えることなく回り続けている所は疑似体験、つまりハーデスの世界です。
コマの回転が段々弱くなってくるハーデスはこちらの世界です。 理屈はこうです。
時間が無い為、コマは永遠に回り続けます。 時間の制約があるこの世界は、必ずコマの回転が弱まって
倒れます。 つまり新見さんのいるこの世界です。 覚えておいて下さい。
では、これからリラックスするための音楽が流れます。
目を瞑り眉間に意識軽くを集中して下さい。 じゃあ、始めます。 よい旅を」
水上は部屋の照明を絞り、装置を作動させた。 新見にいいしれぬ高揚感が訪れ、
横に何かの意識が感じられた。
その意識が語りかけてきた「リラックスして下さいね。 段々と視界が開けてきますけど、まだ
ジッとしてて下さい。 私が案内しますから心配はいりません」
こうして新見のハーデス旅行が始まった。
ツアー雑誌MOMO編集記者の新見が取材でハーデス観光を訪れた。
「MOMOの新見と申します。 本日はよろしくお願いいたします。
では、社長さんのお名前を教えていただけますか?」
「はい、私はハーデス観光代表の高橋明美と申します」
「早速ですがハーデス観光さんのハーデスとは何を表わしてますか?」
「ハーデスとは、黄泉の国、冥土、つまり霊界ですね」
新見が首を傾げ「黄泉の国、冥土、それはどういうことですか? 具体的にお話し願いますでしょうか?」
「はい、その名のとおり霊界の観光が当社のツアー商品です。 ご存じの通り霊界とは死後に
逝く世界をいいます。 本当は、あの世が実存の世界で、この世は仮りの世界なんですよ。
この世界はいっときの夢のようなものです。 言い方を変えるなら私たちは今、旅の途中なんです。
帰る家は別に存在するのです。
それがハーデスの世界なの。
手前どものツアーで行くハーデスは多数存在します。 簡単に申しますと地獄絵図のような
世界から宇宙を創造した世界まで。
この世もある意味その一部ですがね。
私を含め、当社スタッフがツアーとして解りやすくするために、何度か霊界に足を運び、
大きく七つのハーデスに分けました。 詳細は、ホームページにも書いてありますが簡単に説明いたします。
まずハーデスには時間という概念が存在しません。 どんなレベルのハーデスにも時間が無いのです。
思いが即形になります。
そこが一般的に霊界と呼ばれる時間のない世界と、今私たちの住む時間軸のあるこの世との大きな違いです。
新見はすこし怪訝な顔をしながら「例えば……?」
「現世では想像が形になるまで時間差が生じます。 仏教でいうところの因果です。
原因があって必ず結果が生ずる。 そして原因と結果までそれぞれタイムラグがあります。
結果が来世に持ち超されたり、早い場合今生で現れたりもします。
ハーデス世界は、そのタイムラグが存在しません。 原因と結果が同時に存在するんです。
時間が存在しないということは、思うと同時にその思いが即形になる。
だから誤魔化しが一切通用しないのです。
理解していただけましたか?」
「それって、邪悪なことを思うとすぐ形になるという事ですか?」
「はい、ご理解が早いです。 写し鏡のように思いが即自分にはね返ってくるので、上の世界では
人間世界のような悪は存在できないのです」
「ありがとうございます」
「では、私どもが分類したハーデスを下から順に説明いたします。 本当は下からという表現も
的確でありませんが、便宜上で上下をつけてます。 ご理解ください。
では、まず第一から説明します。
第一ハーデス
これは、人間世界でいう地獄のハーデス。
自分の欲望のためには手段を選ばない。 他人の物を奪い、傷つけ、自分を優位に立たせることしか
考えていない、修羅場の世界をいいます。 欲望丸出しの地獄世界です。
人だけでなく町や社会や建物全てが歪です。 住人の想念が町全体の形に反映されるからです。
第二ハーデス
これは、自我優先のハーデス。
自分のことしか考えていない個人優先の世界。 自殺者や金や地位、名誉といった自分のことだけが
優先される世界です。 第一ハーデスと似ていますが、根本が個人優先主義なので、直接他人に
危害を加えないところが第一との大きな違いです。
でも、結果的に間接的危害を及ぼす事は普通にあります。
第三ハーデス
ここは人間界に最も似ているハーデス。
我々の住む物質世界的な要因の強いハーデス。 但し、物を中心に思考します。
人間界と大きく違うのはそこです。 思いやりは欠損しております。 物欲界という表現を我々は使います。
自分主義の強い世界はこの辺で終わりです。
第四ハーデス
ここは、自分の意識の合う者同士が集団を作って生活してます。
この世で、たとえ親子や夫婦であっても意識が違うと一緒に生活しません。
生活する集団が個々に違います。 この考え方は霊界全般では当たり前の概念です。
こっちの世界のように気の合わない者同士が一緒に住むことは絶対ありません
何故なら自分の意識が合う場所、そこが一番落ち着くからです。 人間界は意識が違っても自分の思い
を押し殺したりして関係を保ちます。 このハーデスは魂のレベルのあった者同士が一緒に住まう世界です。
人間界より素晴らしい世界です。 簡単に表現するなら与え合う世界。 余談ですが、本当は魂に
レベルなんてのはありません。 私どもが便宜上わかりやすく使ってるだけです。 誤解しないで下さい。
第五ハーデス
ここは、俗にいう神界と呼ばれるハーデスです。
神々と呼ばれる存在が住まう世界。 人間の特に日本人のいう神とニュアンスは少し違います。
これは集団意識の違いになるので説明は避けますが、仏教で表現するなら菩薩界に相当します。
人間的な葛藤はありません。
第六ハーデス
ここは、全て調和。 宇宙意識のハーデスです。
人間的な意識はもうここにもありません。 当然、善悪など相対する意識は一切無く、仏教で表現
するなら空の世界観、もしくは如来界でしょうか…… 私のレベルでは上手く表現できないハーデスです。
善悪という概念を超越してます。
第七ハーデス
ここは、宇宙そのもの。 あるいは宇宙を作った存在かもしれません。
創造主でしょうか? 言葉にするとどうしても私の意識的制限があり、恥ずかしい話し、
宇宙観が小さくなってしまうので、非常に説明が難しいです。 それほど人間的な表現が難しいのが
この第七ハーデスです。 以上が私どもがくわけした七つのハーデスです。
解っていただけましたか……? ご質問があればどうぞ」
「実際に社長さんも視てきたのですか?」
「はい、当然です。 私の考案した装置ですから」
「それはどのような装置なのですか?」
「はい、我が社の開発した装置は、強制的に体外離脱さ、エーテル体という霊体で各ハーデスを
旅するんです。 必ず、私どもの馴れた社員が添乗いたします」
「それって、既に市販されているヘミ進化という装置とは違うんですか?」
「おおきく違います。 ヘミ進化装置は自分が体外離脱して霊界を視てくると云う商品で、
どちらかというと客観的に視てくるというものです。 3D映画を見ている感覚に近いかも知れません。
また、誰でも体外離脱出来るという保証もありません。 我が社のハーデスとはリアル感がまったく違います」
「ハーデスは誰でも体感出来るのですか?」
「今のところ百パーセント出来ます。 万一、出来ない場合はお代は頂きません。 二次元的客観視が
他社なら、三次元的主観感覚が当社です。 両者を経験するとその違いがハッキリ解ります。
当然、当社は説明したように馴れた者が添乗します。 万一の場合は添乗員が責任を持って誘導します。
因みに今まで一度も事故はありません」
「料金はいかほどなんでしょうか?」
「一から六ハーデスがワンセットで六十万円。 一ハーデス一時間、計六時間。 途中、休憩を挟みます。
オプションは一ハーデス十五万円です」
「オプションもあるんですか?」
「例えば、死んだ母親のハーデスを視てくるとか、尊敬するマイケルやジョンレノンに会うとかその
他諸々あります。 すべて一ハーデス十五万円です。 但し、基本ハーデスに組み込むことも出来ます。
例えば第一ハーデスを体験しないでその代わりに死んだ父親が住んでいるハーデスを加え全六ハーデスに
するというものです」
「チョイスも出来るんですか?」
「はい、当然可能です。 二以降のお客様は、第一と第二を飛ばされる方が結構多いです。
あのハーデスは暗いし、悪臭がひどいですから……今ひとつ人気がありません。 でも存在するかぎり
無視できません。 この世での考え方、行いの教訓になるから必要と考えてます。 だから私どもは
セッティングしております」
「臭いもするんですか?」
「当然です。これは経験されないと解らないと思いますが、下位のハーデスは異臭がします。
空気も澱んで重く感じますし、何よりそのハーデス全体が薄暗く、常に誰かに監視されてるというか、
突き刺さるような視線を感じます。 その視線が気になったら最後、そのハーデスを出るまで
感じられる場合もあります。 不思議とだんだんその世界に慣れますけどね。
実際に体験しないと解らないと思います。 ハッキリいいますが錯覚でも誘導催眠でもありません」
「私も個人的に経験したくなりました。 予約は電話でよろしいのでしょうか?」
「電話もしくはメール、あるいはご来店いただくかです。 どんな方法でもかまいません」
「準備とか必要ないのですか?」
「はい、三日前から心をニュートラルに保って下さい。 怒りや執着を持ってるとそのハーデスに
引き込まれやすいからです。 添乗員が付いてますから大丈夫ですけど、出来れば執着がない方がベストです」
「それではこの辺でインタビューを終了いたします。 お疲れ様でした。 ありがとうございました。
高橋社長、私も興味あります。ぜひ体験してみたくなりました」
「そうですか、じゃあ企業秘密をひとつ教えます。 他言しないで下さい」
「はい、他言しません」
「はい、これは決して悪いことではありません。 例えば、第五、第六ハーデスを何回か経験すると
その波動が体験者つまりお客様と同調して意識が引上げられます。
それが、この世に戻っても持続するんです。
当然個人差はありますが…… ここだけの話し悟り体験です。 もう少しこの装置を発展させれば
実際に悟りを開けるかもしれません。 これは私が第五ハーデスで科学者から聞いたことですが、
昔、といってもアトランティスの頃ですが、実際にその装置で悟っていたらしいの。
エジプトには悟りの部屋という所があり、そこに何日間か籠もっていたらしいの。 いずれ当社が
その装置を作ってしまおうと考えております。 準備はもう進んでおります」
「高橋社長、夢のあるお仕事ですね、完成のさいは是非、当社MOMOにご一報下さい。
また、大々的に取り上げますから」
「いいえ、大々的に騒がれるのは私共は望んでいません」
「高橋社長は欲のないお方ですね。 尊敬しちゃいます」
「私が言いたいのは損得ではなく、この世に悟った人ばかりになるとこの世は存在しなくなるからです」
「……? 理解できないのでじっくり考えてみたいと思います。 今日はありがとうございました。
じゃあ、今週の土曜日に予約入れますけど。 その体験も記事に書かせてもらっていいですか?」
「それは全然かまいません」
「凄く楽しみです。 今からワクワクします」
「じゃぁ、私が添乗しますね、数日間は心をニュートラルにして下さい」
新見は、第一から第六ハーデスのフルコースを選択した。 注意事項が書かれた説明書を渡された。
『ハーデス体験誓約書』
※一,万一精神的な障害があった場合は自己責任とする。
※二,ハーデス世界の政治やその他の組織への関与、社会に影響を及ぼす行為はしない。
※三,各自の思い描く世界観とハーデスが違った場合、クレームの申し立てはしない。
上記記載に従います。 新見は六十万円と誓約書を高橋社長に渡した。
高橋が「では、こちらの部屋にお入り下さい」
通された部屋は四から五畳ほどの小さな部屋。 正面には簡単な装置が設置され、部屋の中央に
リクライニングの椅子が二つ並べてあった。 白衣を着た女性が装置を操作していた。
その女性が「私がこの機械操作担当の水上です。 宜しくお願いします。 この装置を耳ではなく、
頭の前と後ろに装着して下さい」
渡された装置はヘッドホンのような形をしていた。 頭の前と後ろにあてがい、その椅子に仰向けになった。
その後、両耳にイヤホンが装着された。 同じ装置を高橋社長も装着し横になった。
二人のリード線は一台のモニター付き装置に接続されていた。
「いいですか、これから経験する全てのハーデスは、今の新見さまの魂が住む世界ではありません。
あくまでも今いるこの世界が現実です。
不安に感じた時あるいは私が指示した時はこのコマを回して下さい」
水上は手の平に入る大きさのコマを新見に渡した。
「このコマがずっと衰えることなく回り続けている所は疑似体験、つまりハーデスの世界です。
コマの回転が段々弱くなってくるハーデスはこちらの世界です。 理屈はこうです。
時間が無い為、コマは永遠に回り続けます。 時間の制約があるこの世界は、必ずコマの回転が弱まって
倒れます。 つまり新見さんのいるこの世界です。 覚えておいて下さい。
では、これからリラックスするための音楽が流れます。
目を瞑り眉間に意識軽くを集中して下さい。 じゃあ、始めます。 よい旅を」
水上は部屋の照明を絞り、装置を作動させた。 新見にいいしれぬ高揚感が訪れ、
横に何かの意識が感じられた。
その意識が語りかけてきた「リラックスして下さいね。 段々と視界が開けてきますけど、まだ
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