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二「エバの愛した人々」
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二「エバの愛した人々」
大城はビール二十缶を追加でたのんだ。
「じゃぁTEIZIの話しするわね。 彼は花ちゃん繋がりなの。 彼がまだまだ世に出る前は普通に
ストリートミュージシャンで、週末になると青森からギターを抱えてやってきて都内のいたる所で歌ってたの。 時にはアヤカなど有名なミュージシャンのライブに飛び入りで出ていって歌うのよ頼まれてもいないのに
勝手に……」
中浦が「それってどういうことなんですか?」
「ゲリラの襲撃みたいなものなのよ。 当然スタッフに取り押さえられるわけなんだけど。本人はまったく
反省してないの、反省どころか『僕の行動のなにが悪い?』ってな感じよ。
TEIZIは五年ほどそんな奇行を繰り返してたのね。 特に井の頭公園が好きでよく屋外ステージで
歌ってたらしいの。 そんなある日ハナちゃんがTEIZIの前を通りかかったの。
「おっ、そこのお姉さんオラの歌っこさ聞がねえだが?」
「歌? はい聞かせて下さい」
「おっ、なにが聞きたい?」
「そうね、あなたのオリジナルがいいかなぁ。 あなたのフィーリングにあった歌聞かせてちょうだい」
少し離れたところにいたカップルの男性が「おい、あれって花子じゃねぇのか?」
「そうよ、花子さんだ! それにあのギターの男性ってTEIZIとかいう変態ミュージシャンよね」
「そうだ間違いない。 こりゃ面白くなりそうだもっと近くで見物しようぜ」
カップルはステージのそばに移動した。
「僕、TEIZIです。 シンガーソングライターってやってます。 じゃぁ、姉さん一曲歌うはんで
聞いてけれや。 オリズナル曲『猫まるめ』歌います」
アルペジオの綺麗な前奏から始まった。 が、歌に入ったとたんカップルは天を仰いだ。
そのカップルは以前一度だけTEIZIの歌を聞き憶えあったがその時と全然進歩してないと思った。
進歩したのはイントロだけ。 歌は以前にも増して独特の癖が耳障りいや嫌悪感さえ憶えた。
花子はじっとTEIZIのオーラを確認するように後方を凝視していた。 やがて曲が終り花子は拍手をした。
「ありがとうございました。 引き続き『平安の夜』を聞いてやって下さい」
今度も少し長めのイントロがやたら美しく、平安時代のゆったりとした時の流れを感じさる優美な感覚。
イントロが心地よく感じさせた。 が、歌にはいると崖から突き落とされたような感に襲われ、
カップルは再び天を仰いでいた。
曲を終えた刹那だった花子が「TEIZIさんありがとうございました。 とっても好かったですよ」
「姉さんありがとうね。お 世辞言っていただいて」
「お世辞ではありません。 本当に素晴らしいイントロ」
「イントロ……?」
「はい、イントロ」
「歌は?」
「歌はイマイチかな?」
TEIZIは少しイラっとして「姉さんも言いにくいことズバリいってくれるな」
「なんで?」
「オラ、仮にもミュージシャンだべ。 これでも歌うたいだんべよ、歌っこの評価もしてけれよ」
「歌ですか…… 歌はTEIZIさんにはチョット正直不向きかも。 歌よりも編曲者が向いてると思います」
「編曲…… なんで?」
「歌手がいて作詞作曲家がいます。 でもそれだけでいい曲と言えるでしょうか? そこに編曲家がいて
曲に魂を吹き込んで奥行きが出て完成された曲になる。 人間も骨と肉だけだとタダの生物。
そこに魂が宿って初めて人といえるのでは?」
「はあ……?」TEIZIは突然ギャラリーのオバサンが今まで考えてもみなかったことをどうどうと
話すものだから戸惑いを隠せない。
カップルの男が「さすが花子さんだよ、TEIZIを一発で見抜いてみせた」
「あんた何者なんだね?」
「花子」
「花子さんは何なさってるお人だが?」
「ただの花子です」
「お仕事は音楽関係の方ですか?」
「いいえ」
「じゃぁ、なんでオラの歌のことを分かるんだね?」
「私は歌のことは分かりません。 でもあなたのことは今のふたつの曲と歌から伝わってきたし想像できたけど」
「オバハンに、なんでオラの歌のなんたるかが分かるのってかって聞いてるべ」TEIZIは少し苛立った
口調で。
花子は笑顔で「あなたの生年月日は?」
「な、な、なんだいきなり…… ははぁんさてはオラの話しをはぐらかそうっていう魂胆だなや。
どうだ図星だべ……」
「だから生年月日は?」
「はい、昭和五十五年四月二十三日だ! あっ、言っちまっただ」
花子の目は宙を仰いだ「うん、あなたは発想は豊かです、感覚も申し分ない。 が、歌の感覚というか耳の
感覚が乏しいかも……」
TEIZIはじっと耳を傾けて聞いていた。
花子は続けた「編曲の仕事なされば。 けっこう向いてると思う。 音楽に対しての情熱は充分なんだから
編曲の才能を磨いたら面白そうね……」
「ひとつ聞いていいだが?」
「どうぞ」
「さっきからオラのどこ見てるだが?」
「うん、ガイドを」
「ガイドってなんなんだっぺか? さっ、もしかして守護霊ってやつだが?」
「そうともいう」
「おめぇ、おっかねぇ姉さんだな」
「あんたも結構変よ」
「が、は、は、はは。 面白い婆さんだな~~や。 このお姉さん気に入ったでや俺に一杯おごらせて
くんねえか?」
そうして井の頭公園の近くにある居酒屋「とりあえずビール下さい本店」に二人は座っていた。
TEIZIが「花子さんは何やってらの?」
「私はサンロードで長年座って色んな人の話し相手になってる」
「話し相手って、さっきみたいなガイドがなんとかってやつが?」
「まっ、そんなとこ」
「さっきみたいにづけづけもの言うだが?」
「言い方は色々あるわよ。 人を視て相手が分かりやすいように話す」
「へ~おったまげたなぁ。 オバハン神様か?」
「人間。 その前にわたしは花子」
「申し訳ねぇな。 許しでけろ」
「ふふ、いいわよ。 で、なんで私と飲みたいと思ったの?」
「うん、そこだ、さっき言ってた編曲の話しだぁ。 おら、そげな事いわれたの初めてだったはんで
ビックリしたべや」
「あぁ、あの話しね、話したとおりそのまま」
「オラ、瞬間的にあだまっこさ電気走ったんだ。 確かに他人の歌を歌う時オラなりにイントロばいつも
アレンジするんだ。 イントロの時はみんな聞いてくれるんだけど、歌を歌うと反応が変わるはんで、
どうしてかなぁっていつも不思議だったんだ。 だから花子さんに言われた瞬間に解かったんだぁ。
電気が走るってやつ。 ビックリした……!」
「そう、好かったわね」
「うんだ、オラの路線をちょっと変えてみるべがな」
「ガンバってね。 今日のあなたのイントロよかったわよ」
「今度サンロードに差入れ持って行くはんで、またオラと話しして下さい。 今日はありがとうございました。」
エバが「その後、TEIZIは東京の井の頭に居を構え、アレンジの勉強をしたの。
その頃からハナちゃんがTEIZIさんと一緒に私の店に飲みにきたの。 それからの付き合いになるわよ。
あの人のアレンジは型にはまってないから面白いのよ。 普通は時代劇の挿入歌にエレキでガンガンの
ロック調なんて使わないでしょ。
どちらかというと三味線などの和楽器を使ったそれこそ時代劇風な曲調がそれまであたりまえだったの。
でもTEIZIはその従来の型を無視、自由な発想で編曲するのよ。 でも曲の基本は崩さないところが
受けてるらしいのよ。 私は音楽は専門外だからよく解らないけど。 ハナちゃんの影響が大きいわね」
大城が「TEIZIさんはズバリどんな人間なんですか?」
「彼はねぇ、KYと呼ばれてるらしいけど、私は純朴で一本気な人って思ってるの。 自分で思い込んだら
脇目もふらずまっしぐらなのよ。 手段を選ばないところが誤解されてKYと呼ぶ人もいるの」
中浦が「奥さんはおられるんですかね?」
「独身。 彼に合わせられる女性っていないと思うよ」
中浦が「どうしてですか?」
「女性はとかく男性を型にはめたがるじゃない。 彼はそういうの嫌いなの。 いつも自分の思うがままに
行動したい、だから結婚は合わないかも。 でも、これは私の見方だけど…… 本人はどう思ってるか?」
大城が「青森から出て来て下積み時代のエピソードなど聞かせてもらえないしょうか?」
「そうねぇ、詳しく知らないけど彼はなんでも前向きなのよ。 後ろを振り返ることがなかったわね。
そこは私も見習うところがあったわよ」
「たとえばどんな?」
「そうね、青森から出て来て音楽業界に知り合いもなくいきなり編曲の仕事なんて、依頼がくるわけないのが
あたりまえ。 でも彼は音楽事務所に顔を出しては断られる日々が永遠と続いたの。でもあきらめないの。
とにかく僕の編曲した音楽を聴いてほしいと何社も訪ねたらしいの。 時には罵声を浴びせられたらしいの。
アルバイト先や友人にも『もう諦めたら』ってなんども言われたのね。 でも、そんな中でハナちゃんだけ
はいつも黙って頷いていたらしい。 ハナちゃんのことだから彼の先というか未来を視ていたのかもしれない。
そんな時だった、井の頭公園で友達のミュージシャンと、いつもの野外ステージでアレンジしたAyakaの
曲を何曲か披露したのよ。 それをたまたま耳にした音楽プロデューサーの目に止まったのね。
それからはとんとん拍子。 今ではアレンジ依頼が後を絶たないらしいの。 彼独特のアレンジが世に
受けたのね。 あのリョウやアヤカも編曲の依頼にくるらしいの」
中浦が「あのリョウやアヤカもですか?」
「そう、その二人は昔TEIZIが素人の頃、無断でステージに上がり歌ったらしいのよ」
「えっ、 勝手にステージにですか?」大城が身を乗り出して聞いた。
「そうなのゲリラよゲリラ。 TEIZIはKYだからそんなこと平気なのよ。 それが今の彼の根底にあるの」
大城が「ゲリラの結末はどうなったのですか?」
「本人はなにも言っていないけど、たぶん警察沙汰かそれに変わることがあったかもしれないね?
なんせ付いたあだ名がKY・TEIZIだから」
中浦が「そうですか、あのTEIZIさんが…… 貴重な話しありがとうございました」
大城が「他にどなたか著名人の方でインパクトあるような方おりませんでしたか」
「うん、イラストレーターの零亜さんも顔を出してたよ」
「どんな方でした」
「零亜さんと一緒に来られた川添さんという方ほうが面白かったわよ。 その方が言うにはねぇ」
大城が「チョット待って下さい。 いまレコーダーのバッテリー変えます」
「そう、十五年ほど前かしら零亜さんが連れてきたお客さんで、年の頃なら当時四十五歳前後その男性は
話してる途中で止まっちゃう人なのよ。 そして急に面白いことを口走るの……」
「零亜さんいらっしゃいませ~ ご無沙汰~ 元気してたの?」
「うん元気だよ。 エバさんも元気?」
「当然よ、こちらの方は?」
「川添って僕の幼なじみさ、宜しく」
「わたくしエバと申します。 この店のママをやっております。 初めまして」
「はい、川添です」
そこで話しは途切れた。
「ごめんねママ、こいつは話の途中で次元を飛び越える癖があるんだ。 仲間うちで『宇宙人川添』
で通ってるんだ」
「あ、そうなんですか…… 川添さんは宇宙人なんですかでも私は驚かないわよ。 この店に来る人は
宇宙人が多いの、ていうか地球外生物さんが多いから、川添さんのような方は大歓迎!」
「どうも川添です」
エバが「それ聞きましたけど」
「あははは」川添は赤ちゃんのように純粋な顔をして笑った。
「こういう奴なんだ。 これからもこいつ宜しく頼むね」
三人はグラス片手に「乾杯」
「それから、川添さんはひとりでも店に遊びに来るようになったの。 川添さんのなにが面白いって話しなんだけど、感性が並外れて変わってるの…… よく話していたのが『人間の頭に宇宙が広がってる』っていうのよ」
中浦が「人間の頭に宇宙?」
「そう、時たま電池が切れたように止まるっていったでしょ。 そういう時はたいがい『宇宙に行ってきた』
って言ってたの、こんな事も言ってた『人間の目に見える宇宙は本当の宇宙じゃなく仮の宇宙だ』って……
『本当の宇宙は自分の中に存在し、神みたいなのと繫がっている』っていうのよ、面白いでしょ」
中浦が「その川添さんって何かの宗教関係者ですか? なにやってる人なの? 大丈夫なの?」
「全然普通、普段は何なさってるの? って一度だけ聞いたの、よそしたら井の頭線の保線区だっていうから
ちゃんとしたの鉄道マンなのよ。 でも、酒がすすむとスイッチが入るのよ。
なんでも自分の奥深くと繫がりやすくなるって言ってたよ」
大城が「川添さんのなにかエピソードのようなもの無いですか?」
「宗教臭いというかそういうスピリチュアル世界の話しはそれだけよ。 とにかく酒が入ると時間の
流れが止まって、数分、長い時で十分位は止まってしまうのよ。 なんかソクラテスみたいでしょ、
たぶん彼も同じ類の人間だと思う。 鉄道マンやってなきゃ絶対に哲学者かなにかそれに類した職業ね」
中浦が「やっぱエバさんのところにはいろんなタイプの方が集まるんですね」
「商売が商売だから当然かもね。 私の商売ってある意味、憂さを晴らしたくって立ち寄るところでしょ、
だから宿命なのかもね」
大城が「長年やってたら客の相手も疲れないですか?」
「逆よ、楽しいわよ。 だって向こうから話題とお金持って遊びに来るわけでしょ。 おまけに私はタダ
酒ご馳走になれるし、だからなん十年も商売やってられるの。 私は好きでやってるのよ。
他は知らないけど…… やっていて辛いと思うんだったら辞めりゃあ
いいの…… どんな商売でもそうだけど愚痴ったらキリないでしょよ。 そういう性質の人は何年経ってもどこへ行っても愚痴ってるのよ。
私はいつも『じゃぁどうなれば幸せなの?』って聞いてやるの。 そしたら途端に考え込むの『幸せって何だっけ?』ってね。 あんたは、明石家さんまさんかってねまったく。 金でもいい、物でもいい、
幸せがそれらにあるんだったら、それを手に入れるよう努力すればいいのよ。
金や物がある人は悩みが無く自殺者がいないとでも思っているのかしらねぇ……
金や物が手には入ったら分かるわよ。 その類の人達はそれらが手に入っても、何かにかこつけて永遠に
愚痴ってるわよ。
あっ、そうだ思い出した。 店で働いていたゴースト安部ちゃんがいた。 この人も面白いタイプ。
安部さんていう娘なんだけど幽霊と一緒に生活してる娘なのよ」
大城が「幽霊ってあの幽霊……?」
「そう、あのゴーストの幽霊よ」
中浦が目を丸くして「ど、どういうことですか?」
「彼女がひとりで…… いや、ふたりで初めて店に来た時だったわ」
「いらっしゃいませ~」
安部ちゃんがいきなり「バーボン頂けますか?」
「ぶっきらぼうな言い方だったの。 おまけに横には彼女そっくりな幽霊が立ってるのね。あ~また
厄介なのが入ってきたなって思ったのよ。 当然でしょ、なんせ着てる服まで同じなのよ」
「エバさんですよね」
「はい、そうですけど……わたしエバです」
幽霊を指さして「彼女にも、一杯あげて下さい」
「……あっ、はいかしこまりました」
エバはバーボンをその彼女の左にそっと差し出した。
「わたし、安部アズミといいます。 横にいるのが姉のミワ。 エバさんには視えてますよね」
「えっ、あっ、はい……」
「私達は住む世界が違っても、いつもこうして一緒なんです」
「お姉さんは病気か何かでお亡くなりに?」
「そうです白血病で昨年他界しました」
姉のミワがいきなり「肉体は無いけど妹とは心で繫がってるの」
エバがミワに「どうして向こうの世界に逝かないのですか?」
アズミは「ふたりでこの世でやり残した事があるの、それを成就するまでは姉は旅立ちません」
「立ち入ったこと聞くようだけど事情聞いていい? でも、話したくなければかまわないの」
「姉は白血病にかかりそれを克服する運命に合ったの。 そしてその事が切掛けで将来医者になり白血病の
専門医で世の中に貢献するはずだったの。 それが白血病に心まで冒され自らこの世を去ったんです。
でも、どういう訳か妹の私と繋がりが断ち切れずこういうことになってます」
「へぇ~ 面白い現象ね。 お互いどんな感じがするの?」
ミワが「肉体がない以外は全然以前と同じです」
アズミは「私も姉と一緒に生活してたころと変わりません」
「でも、これからアズミさんは肉体が確実に老化するでしょ。 その辺のところはどう考えてるの?」
ミワが「私に老いはありません。 ただ私も一緒に加齢するというイメージを持つと見た感じが老けて
見えるんです」
「なるほどね、そっちは想念の世界だからね。 で、これからどうするのよ?」
「それで私達エバさんの意見が聞いてみたくなっておじゃましたんです」
「私のことはどこで聞いたの?」
「エバさんのことはけっこう有名です」
「片乳って事?」
アズミが「えっ、エバさん片乳なんですか?」
「やばっ!」
ふたりと霊は大笑いし、緊張していた部屋の空気が一瞬にして和んだ。
「私の意見ってとくに無いよ、あんた達が今後どうしたいわけ?」
アズミが「何をしたらいいのか分からない」
「ミワさんは?」
「わたしも」
「あのさ、ミワさんは他の霊の存在は視えるの?」
「はい、今はこっちの世界の存在なので意識すると視えます」
「その存在の思いは?」
「意識したら理解できます」
「じゃぁ、アズミさんが少しカウンセリングの勉強するの。 ゆくゆくはミワさんが相手のガイドと会話をして
アズミさんに伝えるのよ。 アズミさんがその情報をもとにカウンセリングするっていう手もあるわね」
アズミが「それって心霊占いみたいな?」
「正確には占いじゃ無くカウンセリング。 ただ相談者の情報入力のしかたがミワさんの場合は相談者の
ガイドから直接入手をするの。 それをアズミさんに伝達し判断して相談者とカウンセリングするの……
早い話が、私がひとりでやってるカウンセリングという裏家業を、あなた達はふたりでするのよ。
ミワさんが通訳をしてアズミさんが判断してカウンセリングするの」
アズミとミワは黙ってしまった。
「どうしたのよ急に黙り込んで…… もういちど言おうか?」
アズミが「違うんです。 ビックリしてるんです」
「何が? わたしなにか変なこと言った?」
「いいえ、うれしいです。 こんなに的確に素晴らしいヒントをもらえて、私達感動して言葉が出てこないの」
アズミは頭を下げた。
「でも、すぐに出来る仕事じゃないよ。 なんせわたしの場合はお店があって理解してくれたオーナーが
いたから徐々にこんな立場になったけど、ところでアズミさんは今お仕事何やってるのよ?」
「スーパーのレジ打ちしてますけど」
「親御さんは厳格な方?」
「普通ですけど?」
「じゃぁ週に何度かこの店で働きなよ、働きながらカウンセリングのしかたをわたしの横で見て憶えなさい。
わたしも協力するから。 ただしここはオネェの店だからあんたは元男っていうことで働きなさいな」
「もと男って?」
「鈍いわね、すぐピンときなさいね。 本当は男で施術をして、今は女っていう
シチュエーションにするの…… 理解できるの?」
「わたしがオカマですか?」目を丸くして言った。
「オカマじゃないの、オネェよ、ちゃんと区別しなさいね。 分かった?」
「はい」
「それと言葉もオネェ言葉よ。 普段女性が使う言葉をイヤらしくデフォルメするのそれがオネェ言葉。
それと極端な気遣いをしなさいねチョット、ミワさんあんたなに笑ってるのよ。
この店には変な霊が憑いた客も多いのよ、油断したらあんたが暗い世界に持っていかれるよ。
心はいつもニュートラルにして怒りは大敵。 相手の思うつぼだからね。
じゃぁ、これから宜しくね。それといい男には手を付けないでね。 いい男はみんなわたしのものだから。
手を付けたらその場でクビだから! 以上」
「こうして不可思議な関係が六年続いたの」
大城が「その後、彼女たちつまりアズさんは独立したんですか?」
「死んだのよ……」
中浦が「えっ、どうしてです? なにがあったのですか?」
「この話をするとわたし辛くなるの…… 本当はこの話はよそうって心に決めて来たのビール呑んだら
口がゆるんでしまった……」
「なんとかお願いしますよ。 そうだ大城君ビール追加してくれるかな。 なんなら
10リットルサーバーごともってこいって。 それとオードブルもほしいな」
「そう、 じゃぁ話すけど」
大城はビール二十缶を追加でたのんだ。
「じゃぁTEIZIの話しするわね。 彼は花ちゃん繋がりなの。 彼がまだまだ世に出る前は普通に
ストリートミュージシャンで、週末になると青森からギターを抱えてやってきて都内のいたる所で歌ってたの。 時にはアヤカなど有名なミュージシャンのライブに飛び入りで出ていって歌うのよ頼まれてもいないのに
勝手に……」
中浦が「それってどういうことなんですか?」
「ゲリラの襲撃みたいなものなのよ。 当然スタッフに取り押さえられるわけなんだけど。本人はまったく
反省してないの、反省どころか『僕の行動のなにが悪い?』ってな感じよ。
TEIZIは五年ほどそんな奇行を繰り返してたのね。 特に井の頭公園が好きでよく屋外ステージで
歌ってたらしいの。 そんなある日ハナちゃんがTEIZIの前を通りかかったの。
「おっ、そこのお姉さんオラの歌っこさ聞がねえだが?」
「歌? はい聞かせて下さい」
「おっ、なにが聞きたい?」
「そうね、あなたのオリジナルがいいかなぁ。 あなたのフィーリングにあった歌聞かせてちょうだい」
少し離れたところにいたカップルの男性が「おい、あれって花子じゃねぇのか?」
「そうよ、花子さんだ! それにあのギターの男性ってTEIZIとかいう変態ミュージシャンよね」
「そうだ間違いない。 こりゃ面白くなりそうだもっと近くで見物しようぜ」
カップルはステージのそばに移動した。
「僕、TEIZIです。 シンガーソングライターってやってます。 じゃぁ、姉さん一曲歌うはんで
聞いてけれや。 オリズナル曲『猫まるめ』歌います」
アルペジオの綺麗な前奏から始まった。 が、歌に入ったとたんカップルは天を仰いだ。
そのカップルは以前一度だけTEIZIの歌を聞き憶えあったがその時と全然進歩してないと思った。
進歩したのはイントロだけ。 歌は以前にも増して独特の癖が耳障りいや嫌悪感さえ憶えた。
花子はじっとTEIZIのオーラを確認するように後方を凝視していた。 やがて曲が終り花子は拍手をした。
「ありがとうございました。 引き続き『平安の夜』を聞いてやって下さい」
今度も少し長めのイントロがやたら美しく、平安時代のゆったりとした時の流れを感じさる優美な感覚。
イントロが心地よく感じさせた。 が、歌にはいると崖から突き落とされたような感に襲われ、
カップルは再び天を仰いでいた。
曲を終えた刹那だった花子が「TEIZIさんありがとうございました。 とっても好かったですよ」
「姉さんありがとうね。お 世辞言っていただいて」
「お世辞ではありません。 本当に素晴らしいイントロ」
「イントロ……?」
「はい、イントロ」
「歌は?」
「歌はイマイチかな?」
TEIZIは少しイラっとして「姉さんも言いにくいことズバリいってくれるな」
「なんで?」
「オラ、仮にもミュージシャンだべ。 これでも歌うたいだんべよ、歌っこの評価もしてけれよ」
「歌ですか…… 歌はTEIZIさんにはチョット正直不向きかも。 歌よりも編曲者が向いてると思います」
「編曲…… なんで?」
「歌手がいて作詞作曲家がいます。 でもそれだけでいい曲と言えるでしょうか? そこに編曲家がいて
曲に魂を吹き込んで奥行きが出て完成された曲になる。 人間も骨と肉だけだとタダの生物。
そこに魂が宿って初めて人といえるのでは?」
「はあ……?」TEIZIは突然ギャラリーのオバサンが今まで考えてもみなかったことをどうどうと
話すものだから戸惑いを隠せない。
カップルの男が「さすが花子さんだよ、TEIZIを一発で見抜いてみせた」
「あんた何者なんだね?」
「花子」
「花子さんは何なさってるお人だが?」
「ただの花子です」
「お仕事は音楽関係の方ですか?」
「いいえ」
「じゃぁ、なんでオラの歌のことを分かるんだね?」
「私は歌のことは分かりません。 でもあなたのことは今のふたつの曲と歌から伝わってきたし想像できたけど」
「オバハンに、なんでオラの歌のなんたるかが分かるのってかって聞いてるべ」TEIZIは少し苛立った
口調で。
花子は笑顔で「あなたの生年月日は?」
「な、な、なんだいきなり…… ははぁんさてはオラの話しをはぐらかそうっていう魂胆だなや。
どうだ図星だべ……」
「だから生年月日は?」
「はい、昭和五十五年四月二十三日だ! あっ、言っちまっただ」
花子の目は宙を仰いだ「うん、あなたは発想は豊かです、感覚も申し分ない。 が、歌の感覚というか耳の
感覚が乏しいかも……」
TEIZIはじっと耳を傾けて聞いていた。
花子は続けた「編曲の仕事なされば。 けっこう向いてると思う。 音楽に対しての情熱は充分なんだから
編曲の才能を磨いたら面白そうね……」
「ひとつ聞いていいだが?」
「どうぞ」
「さっきからオラのどこ見てるだが?」
「うん、ガイドを」
「ガイドってなんなんだっぺか? さっ、もしかして守護霊ってやつだが?」
「そうともいう」
「おめぇ、おっかねぇ姉さんだな」
「あんたも結構変よ」
「が、は、は、はは。 面白い婆さんだな~~や。 このお姉さん気に入ったでや俺に一杯おごらせて
くんねえか?」
そうして井の頭公園の近くにある居酒屋「とりあえずビール下さい本店」に二人は座っていた。
TEIZIが「花子さんは何やってらの?」
「私はサンロードで長年座って色んな人の話し相手になってる」
「話し相手って、さっきみたいなガイドがなんとかってやつが?」
「まっ、そんなとこ」
「さっきみたいにづけづけもの言うだが?」
「言い方は色々あるわよ。 人を視て相手が分かりやすいように話す」
「へ~おったまげたなぁ。 オバハン神様か?」
「人間。 その前にわたしは花子」
「申し訳ねぇな。 許しでけろ」
「ふふ、いいわよ。 で、なんで私と飲みたいと思ったの?」
「うん、そこだ、さっき言ってた編曲の話しだぁ。 おら、そげな事いわれたの初めてだったはんで
ビックリしたべや」
「あぁ、あの話しね、話したとおりそのまま」
「オラ、瞬間的にあだまっこさ電気走ったんだ。 確かに他人の歌を歌う時オラなりにイントロばいつも
アレンジするんだ。 イントロの時はみんな聞いてくれるんだけど、歌を歌うと反応が変わるはんで、
どうしてかなぁっていつも不思議だったんだ。 だから花子さんに言われた瞬間に解かったんだぁ。
電気が走るってやつ。 ビックリした……!」
「そう、好かったわね」
「うんだ、オラの路線をちょっと変えてみるべがな」
「ガンバってね。 今日のあなたのイントロよかったわよ」
「今度サンロードに差入れ持って行くはんで、またオラと話しして下さい。 今日はありがとうございました。」
エバが「その後、TEIZIは東京の井の頭に居を構え、アレンジの勉強をしたの。
その頃からハナちゃんがTEIZIさんと一緒に私の店に飲みにきたの。 それからの付き合いになるわよ。
あの人のアレンジは型にはまってないから面白いのよ。 普通は時代劇の挿入歌にエレキでガンガンの
ロック調なんて使わないでしょ。
どちらかというと三味線などの和楽器を使ったそれこそ時代劇風な曲調がそれまであたりまえだったの。
でもTEIZIはその従来の型を無視、自由な発想で編曲するのよ。 でも曲の基本は崩さないところが
受けてるらしいのよ。 私は音楽は専門外だからよく解らないけど。 ハナちゃんの影響が大きいわね」
大城が「TEIZIさんはズバリどんな人間なんですか?」
「彼はねぇ、KYと呼ばれてるらしいけど、私は純朴で一本気な人って思ってるの。 自分で思い込んだら
脇目もふらずまっしぐらなのよ。 手段を選ばないところが誤解されてKYと呼ぶ人もいるの」
中浦が「奥さんはおられるんですかね?」
「独身。 彼に合わせられる女性っていないと思うよ」
中浦が「どうしてですか?」
「女性はとかく男性を型にはめたがるじゃない。 彼はそういうの嫌いなの。 いつも自分の思うがままに
行動したい、だから結婚は合わないかも。 でも、これは私の見方だけど…… 本人はどう思ってるか?」
大城が「青森から出て来て下積み時代のエピソードなど聞かせてもらえないしょうか?」
「そうねぇ、詳しく知らないけど彼はなんでも前向きなのよ。 後ろを振り返ることがなかったわね。
そこは私も見習うところがあったわよ」
「たとえばどんな?」
「そうね、青森から出て来て音楽業界に知り合いもなくいきなり編曲の仕事なんて、依頼がくるわけないのが
あたりまえ。 でも彼は音楽事務所に顔を出しては断られる日々が永遠と続いたの。でもあきらめないの。
とにかく僕の編曲した音楽を聴いてほしいと何社も訪ねたらしいの。 時には罵声を浴びせられたらしいの。
アルバイト先や友人にも『もう諦めたら』ってなんども言われたのね。 でも、そんな中でハナちゃんだけ
はいつも黙って頷いていたらしい。 ハナちゃんのことだから彼の先というか未来を視ていたのかもしれない。
そんな時だった、井の頭公園で友達のミュージシャンと、いつもの野外ステージでアレンジしたAyakaの
曲を何曲か披露したのよ。 それをたまたま耳にした音楽プロデューサーの目に止まったのね。
それからはとんとん拍子。 今ではアレンジ依頼が後を絶たないらしいの。 彼独特のアレンジが世に
受けたのね。 あのリョウやアヤカも編曲の依頼にくるらしいの」
中浦が「あのリョウやアヤカもですか?」
「そう、その二人は昔TEIZIが素人の頃、無断でステージに上がり歌ったらしいのよ」
「えっ、 勝手にステージにですか?」大城が身を乗り出して聞いた。
「そうなのゲリラよゲリラ。 TEIZIはKYだからそんなこと平気なのよ。 それが今の彼の根底にあるの」
大城が「ゲリラの結末はどうなったのですか?」
「本人はなにも言っていないけど、たぶん警察沙汰かそれに変わることがあったかもしれないね?
なんせ付いたあだ名がKY・TEIZIだから」
中浦が「そうですか、あのTEIZIさんが…… 貴重な話しありがとうございました」
大城が「他にどなたか著名人の方でインパクトあるような方おりませんでしたか」
「うん、イラストレーターの零亜さんも顔を出してたよ」
「どんな方でした」
「零亜さんと一緒に来られた川添さんという方ほうが面白かったわよ。 その方が言うにはねぇ」
大城が「チョット待って下さい。 いまレコーダーのバッテリー変えます」
「そう、十五年ほど前かしら零亜さんが連れてきたお客さんで、年の頃なら当時四十五歳前後その男性は
話してる途中で止まっちゃう人なのよ。 そして急に面白いことを口走るの……」
「零亜さんいらっしゃいませ~ ご無沙汰~ 元気してたの?」
「うん元気だよ。 エバさんも元気?」
「当然よ、こちらの方は?」
「川添って僕の幼なじみさ、宜しく」
「わたくしエバと申します。 この店のママをやっております。 初めまして」
「はい、川添です」
そこで話しは途切れた。
「ごめんねママ、こいつは話の途中で次元を飛び越える癖があるんだ。 仲間うちで『宇宙人川添』
で通ってるんだ」
「あ、そうなんですか…… 川添さんは宇宙人なんですかでも私は驚かないわよ。 この店に来る人は
宇宙人が多いの、ていうか地球外生物さんが多いから、川添さんのような方は大歓迎!」
「どうも川添です」
エバが「それ聞きましたけど」
「あははは」川添は赤ちゃんのように純粋な顔をして笑った。
「こういう奴なんだ。 これからもこいつ宜しく頼むね」
三人はグラス片手に「乾杯」
「それから、川添さんはひとりでも店に遊びに来るようになったの。 川添さんのなにが面白いって話しなんだけど、感性が並外れて変わってるの…… よく話していたのが『人間の頭に宇宙が広がってる』っていうのよ」
中浦が「人間の頭に宇宙?」
「そう、時たま電池が切れたように止まるっていったでしょ。 そういう時はたいがい『宇宙に行ってきた』
って言ってたの、こんな事も言ってた『人間の目に見える宇宙は本当の宇宙じゃなく仮の宇宙だ』って……
『本当の宇宙は自分の中に存在し、神みたいなのと繫がっている』っていうのよ、面白いでしょ」
中浦が「その川添さんって何かの宗教関係者ですか? なにやってる人なの? 大丈夫なの?」
「全然普通、普段は何なさってるの? って一度だけ聞いたの、よそしたら井の頭線の保線区だっていうから
ちゃんとしたの鉄道マンなのよ。 でも、酒がすすむとスイッチが入るのよ。
なんでも自分の奥深くと繫がりやすくなるって言ってたよ」
大城が「川添さんのなにかエピソードのようなもの無いですか?」
「宗教臭いというかそういうスピリチュアル世界の話しはそれだけよ。 とにかく酒が入ると時間の
流れが止まって、数分、長い時で十分位は止まってしまうのよ。 なんかソクラテスみたいでしょ、
たぶん彼も同じ類の人間だと思う。 鉄道マンやってなきゃ絶対に哲学者かなにかそれに類した職業ね」
中浦が「やっぱエバさんのところにはいろんなタイプの方が集まるんですね」
「商売が商売だから当然かもね。 私の商売ってある意味、憂さを晴らしたくって立ち寄るところでしょ、
だから宿命なのかもね」
大城が「長年やってたら客の相手も疲れないですか?」
「逆よ、楽しいわよ。 だって向こうから話題とお金持って遊びに来るわけでしょ。 おまけに私はタダ
酒ご馳走になれるし、だからなん十年も商売やってられるの。 私は好きでやってるのよ。
他は知らないけど…… やっていて辛いと思うんだったら辞めりゃあ
いいの…… どんな商売でもそうだけど愚痴ったらキリないでしょよ。 そういう性質の人は何年経ってもどこへ行っても愚痴ってるのよ。
私はいつも『じゃぁどうなれば幸せなの?』って聞いてやるの。 そしたら途端に考え込むの『幸せって何だっけ?』ってね。 あんたは、明石家さんまさんかってねまったく。 金でもいい、物でもいい、
幸せがそれらにあるんだったら、それを手に入れるよう努力すればいいのよ。
金や物がある人は悩みが無く自殺者がいないとでも思っているのかしらねぇ……
金や物が手には入ったら分かるわよ。 その類の人達はそれらが手に入っても、何かにかこつけて永遠に
愚痴ってるわよ。
あっ、そうだ思い出した。 店で働いていたゴースト安部ちゃんがいた。 この人も面白いタイプ。
安部さんていう娘なんだけど幽霊と一緒に生活してる娘なのよ」
大城が「幽霊ってあの幽霊……?」
「そう、あのゴーストの幽霊よ」
中浦が目を丸くして「ど、どういうことですか?」
「彼女がひとりで…… いや、ふたりで初めて店に来た時だったわ」
「いらっしゃいませ~」
安部ちゃんがいきなり「バーボン頂けますか?」
「ぶっきらぼうな言い方だったの。 おまけに横には彼女そっくりな幽霊が立ってるのね。あ~また
厄介なのが入ってきたなって思ったのよ。 当然でしょ、なんせ着てる服まで同じなのよ」
「エバさんですよね」
「はい、そうですけど……わたしエバです」
幽霊を指さして「彼女にも、一杯あげて下さい」
「……あっ、はいかしこまりました」
エバはバーボンをその彼女の左にそっと差し出した。
「わたし、安部アズミといいます。 横にいるのが姉のミワ。 エバさんには視えてますよね」
「えっ、あっ、はい……」
「私達は住む世界が違っても、いつもこうして一緒なんです」
「お姉さんは病気か何かでお亡くなりに?」
「そうです白血病で昨年他界しました」
姉のミワがいきなり「肉体は無いけど妹とは心で繫がってるの」
エバがミワに「どうして向こうの世界に逝かないのですか?」
アズミは「ふたりでこの世でやり残した事があるの、それを成就するまでは姉は旅立ちません」
「立ち入ったこと聞くようだけど事情聞いていい? でも、話したくなければかまわないの」
「姉は白血病にかかりそれを克服する運命に合ったの。 そしてその事が切掛けで将来医者になり白血病の
専門医で世の中に貢献するはずだったの。 それが白血病に心まで冒され自らこの世を去ったんです。
でも、どういう訳か妹の私と繋がりが断ち切れずこういうことになってます」
「へぇ~ 面白い現象ね。 お互いどんな感じがするの?」
ミワが「肉体がない以外は全然以前と同じです」
アズミは「私も姉と一緒に生活してたころと変わりません」
「でも、これからアズミさんは肉体が確実に老化するでしょ。 その辺のところはどう考えてるの?」
ミワが「私に老いはありません。 ただ私も一緒に加齢するというイメージを持つと見た感じが老けて
見えるんです」
「なるほどね、そっちは想念の世界だからね。 で、これからどうするのよ?」
「それで私達エバさんの意見が聞いてみたくなっておじゃましたんです」
「私のことはどこで聞いたの?」
「エバさんのことはけっこう有名です」
「片乳って事?」
アズミが「えっ、エバさん片乳なんですか?」
「やばっ!」
ふたりと霊は大笑いし、緊張していた部屋の空気が一瞬にして和んだ。
「私の意見ってとくに無いよ、あんた達が今後どうしたいわけ?」
アズミが「何をしたらいいのか分からない」
「ミワさんは?」
「わたしも」
「あのさ、ミワさんは他の霊の存在は視えるの?」
「はい、今はこっちの世界の存在なので意識すると視えます」
「その存在の思いは?」
「意識したら理解できます」
「じゃぁ、アズミさんが少しカウンセリングの勉強するの。 ゆくゆくはミワさんが相手のガイドと会話をして
アズミさんに伝えるのよ。 アズミさんがその情報をもとにカウンセリングするっていう手もあるわね」
アズミが「それって心霊占いみたいな?」
「正確には占いじゃ無くカウンセリング。 ただ相談者の情報入力のしかたがミワさんの場合は相談者の
ガイドから直接入手をするの。 それをアズミさんに伝達し判断して相談者とカウンセリングするの……
早い話が、私がひとりでやってるカウンセリングという裏家業を、あなた達はふたりでするのよ。
ミワさんが通訳をしてアズミさんが判断してカウンセリングするの」
アズミとミワは黙ってしまった。
「どうしたのよ急に黙り込んで…… もういちど言おうか?」
アズミが「違うんです。 ビックリしてるんです」
「何が? わたしなにか変なこと言った?」
「いいえ、うれしいです。 こんなに的確に素晴らしいヒントをもらえて、私達感動して言葉が出てこないの」
アズミは頭を下げた。
「でも、すぐに出来る仕事じゃないよ。 なんせわたしの場合はお店があって理解してくれたオーナーが
いたから徐々にこんな立場になったけど、ところでアズミさんは今お仕事何やってるのよ?」
「スーパーのレジ打ちしてますけど」
「親御さんは厳格な方?」
「普通ですけど?」
「じゃぁ週に何度かこの店で働きなよ、働きながらカウンセリングのしかたをわたしの横で見て憶えなさい。
わたしも協力するから。 ただしここはオネェの店だからあんたは元男っていうことで働きなさいな」
「もと男って?」
「鈍いわね、すぐピンときなさいね。 本当は男で施術をして、今は女っていう
シチュエーションにするの…… 理解できるの?」
「わたしがオカマですか?」目を丸くして言った。
「オカマじゃないの、オネェよ、ちゃんと区別しなさいね。 分かった?」
「はい」
「それと言葉もオネェ言葉よ。 普段女性が使う言葉をイヤらしくデフォルメするのそれがオネェ言葉。
それと極端な気遣いをしなさいねチョット、ミワさんあんたなに笑ってるのよ。
この店には変な霊が憑いた客も多いのよ、油断したらあんたが暗い世界に持っていかれるよ。
心はいつもニュートラルにして怒りは大敵。 相手の思うつぼだからね。
じゃぁ、これから宜しくね。それといい男には手を付けないでね。 いい男はみんなわたしのものだから。
手を付けたらその場でクビだから! 以上」
「こうして不可思議な関係が六年続いたの」
大城が「その後、彼女たちつまりアズさんは独立したんですか?」
「死んだのよ……」
中浦が「えっ、どうしてです? なにがあったのですか?」
「この話をするとわたし辛くなるの…… 本当はこの話はよそうって心に決めて来たのビール呑んだら
口がゆるんでしまった……」
「なんとかお願いしますよ。 そうだ大城君ビール追加してくれるかな。 なんなら
10リットルサーバーごともってこいって。 それとオードブルもほしいな」
「そう、 じゃぁ話すけど」
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