私はマリだけどなにか? 全10話

當宮秀樹

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9「私はマリだけどなにか?」 特別編 シゲミ

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9「私はシゲミだけどなにか?」


 観光の町小樽に中高校生相手の小物店があった。

店の名はスピリチュアルショップ・TG。ここはメイン通りから少し奥に入った、間口三.六メートルの小さなショップ。知る人ぞ知るスピリチュアル小物専門店。
スピリチュアルに関する物なら一通り扱っていた。水晶・占い各種カード・仏像・ロザリオ・本・お香など、手ごろな価格が学生には買いやすく、店はそれなりに繁盛していた。

「いらっしゃいませ。ご自由に見て下さい」

今日も修学旅行で小樽観光に来た女子学生がやってきた。

「あの~う、こちらでお客の相性にあった水晶を選んでもらえると聞いて来たんですけど……?」

「はい、あなた用ですか?」

「いえ、彼なんですけど…」

「結構ですよ。彼の写真持ってたら見せてもらえますか?」

「どうぞ、彼です」

「おっ、好い顔してるねぇ…ハイ、解りました」

店主のテ~ジはその写真に手をかざし眼をとじた。次の瞬間、数ある水晶の中から、ひとつの石を選び「これですね!」と言いながらそっと女の子の手に渡した。

「これが彼のエナジーと、あなたのエナジーの調和を司る水晶ですね。あなたも購入されるとより良い効果が生まれるかもしれません」

「じゃあ、私のも選んで下さい」

「はい、ありがとうございます。ひとつ一五〇〇円ですけどふたつだとおまけして二五〇〇円になります」

そばで見ていた女の子も「あの~、私もお願いします」その子も携帯の写真を見せた。

ひととおり客が帰った。昨日から店で働くことになったパートのシゲミが「テ~ジ店長さん、凄いですね!私、そんな能力全然ありませんけど……」

「僕もそんな能力ないよ」笑顔で答えた。

「えっ?でもさっき…エッ?」

「あっ、あれね。あれデタラメ」

シゲミは我が耳を疑った。

「嘘なんですか?」

「嘘じゃないよ、デタラメだよ」

「…?どう違うんですか?」

「嘘は故意的につくもの。デタラメは、かも知れないということ。もしかしたら当たってるかも知れないでしょうが?鰯の頭も信心からって言うでしょう?当のお客も半信半疑だからいいの。今までクレームも無いし!」

瞬間、シゲミは就職先を間違ったと後悔した。その日の夕方、同じように水晶を求める女子学生の団体が来た。シゲミが応対していた。

「すみません」と云いながらスマホの写真を見せた。

シゲミは躊躇せずに手のひらを水晶にかざし眼を閉じた。とっても順応しやすい性格である。テ~ジはしっかりとその様子を見ていた。

今日も店が開いた。

「いらっしゃいませ~あなたに合った石探しませんか?当店がお手伝いさせてもらいますよ…」

テ~ジが指示していないのに勝手に呼び込みをやってるシゲミがいた。この娘に天性の素質を感じた。久々のヒット!と思った。

「オネェさん、すいません」

「はい、なんですか?」

「あの~、手相占いの好い本ありませんか?」

「ありますよ、この辺の本が初心者にお勧めですよ」

「じゃあ、これ下さい」

客が帰った後テ~ジが聞いた。

「手相占い、詳しいのかい?」

「いいえ、知りません」

「だって、さっき客に…」

「あっ、あれはデ、タ、ラ、メ、です」

テ~ジはまたまたシゲミに天性の才能を感じた。ある時、店に手紙が届いた。

「先日、水晶をふたつ購入した学生ですが、おかげさまで彼との間が深まりました。水晶の効果に驚いています。ありがとうございました」

テ~ジはシゲミに手紙を渡し「デタラメとはこういう事を云うんだよ!」得意げな顔で訳の解らない理屈を力説した。

「お姉さん、私のお母さんが体調を崩して入院してるんです。御守りに渡したいので、どれか効く石ありませんか?」

「ありますよ」なにも考えずシゲミは即答した。

「このムラサキ水晶なんか病気が癒えそうですよ!」

「じゃぁ、これ下さい」

「はい、二〇〇〇円です」

客が帰って頃合いをみてテ~ジは「大事なこと云うの忘れてたけど、身体に関することはコメントしないでね。当事者にとっては大事なことなんだ。責任が負えないコメントはくれぐれも避けてね」

「は~い」シゲミは案外軽かった。

それからひと月後、店に一通の手紙が届いた。

「ひと月程前、母の病気が癒えるようにと、紫水晶を購入した女子学生です。あの石を選んでいただいた綺麗なお姉さん、ありがとうございました。お姉さんに選んでいただいた石を母親に渡してから体調が日に日に良くなり、先日無事退院できました。後から聞かされたんですけど、母親は癌だったようです。母親の回復を医者も不思議だと云ってたそうです。
それだけではありません。昨日、私が学校行くのに家を出て直後、急に紫水晶が気になったので、家に戻り母親から石を借りて家を出たんです。いつも乗るバスに間に合わず、ひとバス遅れて乗りました。そして次のバス停の前で悲惨な光景を目撃しました。私が乗る予定だったバスがダンプカーと激突し横転してたんです。あのバスに乗ってたら災難に遭っていたと思います。私が無事だったのは、この紫水晶のおかげだと思っております。この石を勧めてくれたお姉さんに感謝します。スピリチュアルショップ・TG 素敵なお姉様へ  
山口ミオ」

それを読んだシゲミは「あっそう」と、そのまま手紙を丸めてゴミ箱に棄ててしまった。シゲミにはどうでもいいことだった。

それを物陰から見ていたテ~ジは、この女ただ者でないと思った。

「今日から世の中4連休。忙しくなるから頼むね、シゲミちゃん」

シゲミは4連休か…ちぇっ、めんどうくせ~と心で思っていた。

「いらっしゃいませ~。あなたの意識を波動チューニングしませんか~」

「この娘は、どこでそんな言葉を覚えてきたんだ?」テ~ジは思った。この仕事が天職のようだ。久々のホームランか?盆と正月が一度にきたようだ。

3人の女子高生が入ってきた。

「いらっしゃいませ」

3人は店内を見渡していた。

「このタロットって本当に当たるの?」

シゲミが答えた「当たりますよ、タロットの歴史は古いですから。今でも存在するっていうことは、当たるからだと思いませんか?」

見本用のタロットを手にしたシゲミは「1回やってみます?」

「えっ、いいですか?」

タロット用のフェールトを取り出しテーブルに広げた。

「で、なにを占いたいの?」

「私は大学受験と看護師と進路で迷ってます。私に向いてるのはどちらかタロットで解りますか?」

側で聞いていたテ~ジは、シゲミでもタロットは無理だろう…と思った。

「解りますよ」カードをシャッフルし作業に入った。

一枚のカードを取り出し「はい、このカードがあなたの未来を暗示してるの。よくみるのよ。いくよ」

シゲミは、これ見よがしにカードを開いた。

「はい、結論から言うと看護師ね。あなたは勉強はあまり好きでない。あなたの持って生まれた武器はズバリ!母性愛。看護師は天職かも。考えた事無い?」

「あります、あります」

「ありますは1回でいいの」

みんな爆笑すると同時に驚いていた。残り二人も占ってもらった。

「いいかい、タロットは誰でも出来るの。カードに大まかな意味があるから、まずそれを覚えること。それを元にインスピレーションを働かせるの。 世の中には偶然がないの。どんな占いにも偶然は無い。 ただし、同じ内容で何回も引かないこと。たとえそれが意に反するカードでもね。どうしても再び占いしたい場合は期間をおいて半年後にすること。 未来はたえず変化するの。決まった未来は無いからよ。 あなた達にも簡単にできるわ…どう、買わない? たったの三五〇〇円。3セットまとめたら三〇〇円引きの三二〇〇円でどう? ただし、あのハゲ店長に内緒よ」

3人は口を揃えて「頂きます」

「ハイ、ありがとうございました!」

3人が帰った後テ~ジがやって来た。

「シゲミちゃん、タロット出来るの?」

「出来ない」

「?えっ……だって今の彼女たちに……?」

「あれ全部デタラメです。わたし一度だけ、姉が持ってたタロットの本読んだことあって、たまたまそのカードの内容を覚えてたの。でも、3人目の髪の長い娘のカードは解らないから直感です。テ~ジさんも占いましょうか?」

「いや、僕はけっこうです・・・」

テ~ジは、この女・・・完全に俺を上回ってると思った。


 ある時、店に少し派手目の女性が入ってきた。

シゲミは「いらっしゃいま……なにしに来た!」急に言葉を荒げた。

「あんた、お客にその態度はどういうことよ?」

「ひやかしはお断りしま~す」

「バッカじゃないの?小樽の客は観光客が多いの。観光客の多くは冷やかし。小樽の店員ならよく覚えておきな」

「ふん、なに偉そうに、なにがひやかしよ、ひやかしみたいな顔してさ!バ~~カ!」

「ひやかしみたいな顔ってどんな顔よ?」

「そんな顔よ!バッカじゃねぇの?」

それを聞きつけたテ~ジがやってきた。

「どうもすみません………?プッ……」その客の顔を見た瞬間吹き出した。同じ顔の二人のシゲミが言い合いしていたからだった。

客のシゲミが言った「お宅が店主のテ~ジさん?いつもこのお馬鹿な妹がお世話になっております。双子の姉のアヤミです。どうも」

「お姉さんですか?シゲミさんにはお世話になってます。私が店主のテージです。初めまして」

「あなたがデタラメに石を売ってらっしゃる、テ~ジさんですか?」

テ~ジはシゲミの顔を睨んだ。

シゲミが「で、今日はなに?」

「用事でそこまで来たからチョット寄ってみたの」

「買わないなら、商売の邪魔だから帰ってくれますか…」

「なによ、水晶でも買おうかなって思ってるのに、その態度は?テ~ジさん、私に合った石ありますか?」

「勘弁して下さいよ…」テ~ジが頭をかきながら言った。

それを見ていたシゲミが「お客様、私が選んであげましょうか?」

「あなたに解るの?」

「商売ですから・・・」

無作為に石を選び「これなんてピッタリですよ、失恋の痛みを忘れさせてくれますよ!」

「な~に!てめ~、シゲミ……こら!」

アヤミは最近、彼に振られたばかりだった。

「まあまあ冷静に、二人とも。喧嘩は家に帰ってからご自由に」

「この店、気分悪いから帰る!」アヤミはそう言い残して店を出た。

「テ~ジさん、塩撒いて!塩!」

「シゲミちゃん、折角様子を見に来てくれたんだからさ…」

「すいませんでした」

お客が入ってきた。

「いらっしゃいませ」満面の笑みを浮かばせたシゲミだった。

女は怖い・・・テ~ジは思った。

仕事を終え、シゲミは自宅に帰った「ただいま~!」

アヤミが近寄ってきた。

「お帰り!楽しかったねぇ!あの店主の顔見た?」

「見た、見た。あのビックリした顔。面白かった最高!」

母親の京子が近寄ってきた「あんた達、またやったのね!で、どうだったの?母さんにも教えてちょうだ~い」

「ガ、ハ、ハ、ハ」3人の笑い声が家中に響いた。   

「おはようございます」シゲミは出社した。

「おはようシゲミちゃん。昨日帰ってからまたお姉ちゃんと喧嘩したのかい?」

「いえ、普通ですけど」

「あっそう?」昨日のあれはなに? 

「いらっしゃいませ~」

今日もショップTGの1日が始まった。


「店長、水晶の在庫少なくなって来ましたよ」

シゲミが入社してから水晶とタロットカードは以前の3倍売れていた。今では、そのふたつを求める客が増えた。中には小樽に来られない友達の分まで購入する旅行客も多くいた。
小樽のショップTGの水晶とタロットが中高生女子の間で人気があった。特にシゲミという店員が触れた水晶はご利益があると噂された。


「ごめんください」

「いらっしゃいませ」テ~ジが接客した。

「 私、ショッピング北海道、記者の小黒タカコと申します。実はこちらの店員さんの触れた水晶に、なにか不思議なパワーが秘められていると聞いて取材に来ました。どなたか責任者の方にお話しを聞きたいのですが?」

「僕が店主でオーナーの村井と申します。そんな話し聞いたことありませんけど?」内心マズイのが来たと思った。

「えっ?今、若い子の間では噂ですよ。小樽のパワースポットと言ってる人もいるんですよ」

「いや、僕は初めて聞きましたけど?」

「こちらにシゲミさんという従業員の方おられますか?」

「はい、彼女ですけど」テ~ジはシゲミを指さした。

「オーナーさん、彼女にお話ししてもよろしいですか?」

「彼女に聞かないと解りませんし、店内は狭いので他のお客さんに迷惑かと…」

「じゃあ、スタッフは表で待ってます。私が彼女に取材の許可を取ってもかまいませんか?」

「あっ、それでしたらどうぞ」断る理由が無くなった。

心の中では「シゲミちゃん、拒否しろ」と念じていた。

「あのう、シゲミさん。取材の件で、お時間宜しいでしょうか?店長さんの許可はもらってますけど…」

「店長はなんて?」

「シゲミさんが許可したら、かまわないと言われました」

「そうですか。じゃあ、手短にどうぞ」

「では、表で店をバックに写真を一枚撮って、それから簡単なインタビューお願いします」

「あいつインタビュー受けやがった・・変なこと言うなよ!」テ~ジは心の中で祈った。

「では質問しますから答えて下さい」

「どうぞ」

「この店は中高生の間で有名になってることはご存じですか?」

「いいえ、知りません」

「小樽のスピリチュアルショップ・TGのシゲミさんは、お客様の顔とバイブレーションを視てその客に相応しい水晶や小物を選んでくれるって、そして選んでくれた水晶に特別のパワーがあるとう評判ですけど…それについてどう思われますか?」

「そうですか、そんな噂が立ってるんですか?知りませんでした。私がやってることは宝石や服を、お客様にお奨めするのと同じですけど。あなたは宝石や服を買いに行きますか?」

「ハイ行きますけど・・・?」

「似たような指輪があった時、どれにしようかと悩んでいるところに、それを察知した店員さんが来て『こちらの方がお似合いですよ…』って話しかけてきたら?私のやってることは、ただそれだけのことです。あとは、買った人が勝手に解釈してるだけだと思います。そんな効果のある石があったら私が買います。そして高く売りつけますよ。そんな中高生の噂で、小樽までわざわざ取材しにご苦労さまでした。以上」

シゲミは何事もなかったように店に入っていった。小黒タカコが視線を落として言った。

「今日は取材になりませんね、撤収しましょう。彼女の云うとおりよね。噂に惑わされるとこだった。まったく…撤収、撤収」

難を逃れたテ~ジは、シゲミは本当に素晴らしいと思った。敵に回したら怖いタイプとは彼女のこと……

石の売り場ではシゲミが「オネェちゃん、この石の効果知ってる?普通の水晶と少し違うのよ!私が選んであげる。今も札幌の雑誌社が噂を聞きつけ、取材に来たとこなのよ」

シゲミの神経は図太かった。


THE  END

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