私はマリだけどなにか? 全10話

當宮秀樹

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10「私はマリだけどなにか?」 特別編 アヤミ

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10「私はアヤミだけどなにか?」


「いらっしゃいませ~~」ショップの1日はシゲミの一声から始まった。

「テ~ジ店長、最近は石もカードも売上悪いですね。同時に客も少ないと思いませんか?なんか客引きの新商品考えましょうよ…」

「うん、解るんだけどね、シゲミちゃんもなんか考えてくんない? そうだ、考えてくれたらその商品の利益の10%を謝礼として給与に加算するよ!どう?」

シゲミは、俄然やる気に火が付いた。

「いらっしゃいませ~」

女子高生が入ってきた。

「あっ、シゲミさんですよね」

「はい、シゲミですが……」

「私に合う水晶を選んでもらえますか?」

「はい、承知しました」

シゲミはいつものように無作為に石を選んで渡した。

「えっ、もっと小さいの無いでしょうか?出来ればストラップの様なのが希望なんですけど…」

「当店には無いのね、ごめんね」

結局、客はなにも買わずに帰っていった。それからのシゲミは店の空いた時間や帰宅後も真剣になにか書いていた。数日後、テ~ジにノートを無造作に渡した。

「どうしたの、これ?」新商品原案と書いてあった。

テ~ジはノートを開き真剣に見つめた。

(シゲミ手作り水晶アクセサリー)

シゲミの水晶ストラップ・水晶ヘアーゴム・水晶バレッタ・水晶リング・ペンダント・ブレスレット・etc

「これ面白いね、でも発注は?製造は?」

「アヤミ姉ちゃんなら出来ると思います。以前、全国を旅しながら路上で売ってたことあるみたい」

「よく路上で商売してる、あの手作りアクセサリー?」

「そう、あれです」   

「以前ここでシゲミちゃんと大げんかした、あのアヤミさん?」

「そう、あのアヤミ姉ちゃん。あっ、でもそれはもう大丈夫です」

「そう、よかった」

それから数日して各2個づつサンプルが出来てきた。

「テ~ジ店長、見て下さい」

テ~ジはいつになく鋭い目で一つ一つ丁寧に眺めた。

「凄いよ、これは思った以上の出来だよ! で、仕入れ原価はどの位になるの?」

「高くても2二三〇〇円です。ストラップだと八〇〇円」

「じゃあ、仕入れの一.五倍ぐらいで店に置いてみようか?」


 早速、特設コーナーを設置し商品を並べた。 結果、その日の夕方には全二〇品すべて完売した。

テ~ジは気よくし「シゲミちゃん、早速お姉ちゃんと契約したいので、すぐにでも店に来てもらえないかなぁ?」

「はい、連絡します」

早速、アヤミが店にやってきた。テ~ジは不思議な感覚だった。どこが違うんだ?この二人は?

商談はすぐ成立した。店を、見渡していたアヤミは畳一枚ほどの空きスペースを指して呟いた。

「シゲミ、ここで週2回、実演させてもらえない?あんたが休みの時でいいからさ。どう?」

テ~ジは快諾した。シゲミの休みの時アヤミが公開作業することになった。 だが、ただの公開作業ではなく、見学に来た中高生相手に「貴女にあったアクセサリーを作りませんか?」という触れ込みで作成するというもの。


初日から客がきた「じゃあ、この石でネックレスお願いします」

「この石、持ってみて!」アヤミはもっともらしく石を手のひらで転がした。

「う~ん?これ駄目ね。こっちの石持ってみて~~。うん、これピッタリよ!これどう?」

「じゃあ、お願いします」

「じゃっ、これでね。で、デザインはどれにする?デザインに相性はないから、お好みのを選んでね」

「じゃあ、これでお願いします」

「はい三〇分位待ってね、急いで作るから店内見てて!」こんな具合にオーダーに答えていた。

近くで見ていたテ~ジがアヤミに聞いた。

「もしかしてアヤミちゃんも石と客の相性解るの?」

「やだ~店長、私も解りませんよ。シゲミがそういう言い方すると中高生は喜ぶよって。まっ、リップサービスです…」

テ~ジは思った。この姉妹は恐るべし、店の方向性が変わってきたぞ。

アヤミが来てから3ヶ月が過ぎた。

「シゲミちゃん家族って凄いね」

「なにがですか?」

「だって、まずシゲミちゃんが来て売上が上がって、アヤミちゃんへのオーダーも多くて店は大繁盛だよ!助かるよ」

「良かったですね、店長」

「どうだろう、今晩アヤミちゃん誘って閉店後に食事行かない?好きな物ご馳走するよ。どう?」

アヤミと連絡を取ったシゲミはテ~ジにOKサインを出した。 3人は繁華街にやってきた。

「いやあ、3人での食事初めてだね。なに食べる?」

二人は口を揃えて「寿司!」

その頃、母京子は「あの子達、まさか『寿司』って言わないでしょうね?」京子に悪寒が走った。

「へい、らっしゃい!どうぞ!」小樽でも老舗のみどり寿司。

「まずは、乾杯!好きな物食べていいからね」

シゲミとアヤミは顔を合わせてニヤッとした。

シゲミが「とりあえず、ウニとイクラとトロとアワビ6人前」

テ~ジは一瞬ドキッとしたが「どうぞ、どうぞ」

アヤミが「私も同じのでいいで~~す」

同じのでいい?ってことは?もしかして、僕の分は入ってないって事?

シゲミが「店長は食べないの?」

「いっ、いや、僕は青肌が好きだから……」

「やだ、うちのお母さんと一緒」

 テ~ジには彼女らの母親の気持ちが痛いほど解った。

「店長、このあとカラオケ行きませんか?」

「いいね、いいね、カラオケならいいね!」

「私達、ザ・ピーナッツ歌います」

さすが双子!いい選曲だ。 でも、二人は異常に音痴だった。 マイクは二人が占領し、結局テ~ジにマイクは一度も廻ってこなかった。

テ~ジは「もう、そろそろ帰ろうかね?」

アヤミが言った「店長ったら、まだ一時ですよ。こんなに早く帰ったら、神様のバチがあたりますよ…」

テ~ジはもうバチは当たってると思った。


翌朝、母親がシゲミを起こしにきた。

「今日はシゲミの出番でしょ!早く支度しなさい」

起きてきたシゲミに母は言った「昨日は遅かったの?」

「一時半頃だよ、おぇっ、おえっ……」

「なんだい二日酔いかい?」

「チョッチね」

「ところでお前達、寿司屋は行かなかっただろうね?」

「寿司屋だよ。久しぶりに高いの食った食った」

「ああっ。店長さん、今頃死んでるよ、きっと」

「大丈夫だよ。私達食べ方セーブしたし、店長は青肌とイカやタコばっかりだったから」

台所の影で「店長さん、ごめんなさい」と合掌する母だった。

「店長、おはようございます」

「おはよう」小さな声だった。

「昨日は楽しかったです!ごちそうさまでした。また、ご馳走して下さい」

「………」テ~ジは無言だった。

「たぶん今度は無いと思うけど」小声で呟いていた。

「あなたに合った水晶、見つけませんか?オリジナルもお作りしますよ~」シゲミは今日も絶好調。

「ごめん下さい」

PTA風の女性が入ってきた。見るからにクレームを言いたそうな雰囲気。

「この店の責任者の方おられて……!」

「はい、店長!お客様ですよ」

「……?店長の村井ですが」

「あなたにお聞きしますけど、この石を言葉巧みに理屈の解らない若い子相手に、売りつけているって聞いて、私、抗議に来ましたの」

「失礼ですけど、どちら様でしょうか?」

「誰でもいいでしょ!」

「そうはいきません。私どもが法に触れる売り方をしたんであれば、まずその内容をお聞かせ下さい。お宅様のお名前も!」

婦人は店長の言葉を無視して「この石のバイブレーションが合うとか合わないとか、子供達に巧みに嘘をついて売りつけていいものでしょうか?」

「私どもは売りつけておりません。どれを買うのかは、お客様の自由意思です」

「ここにシゲミっていう店員さんおられます?」

そばで聞いていたシゲミが「はい、私がシゲミと申しますがなにか?」

「あなたね、あなたの販売の仕方に問題があると言ってるの」

「はあ?具体的に云ってもらえますか?」

「今、云ったでしょ!何度も云わせないでよ」

「私は聞いてません。あなたが店長に勝手になにか話したんでしょ?私に言いましたか?」

「わかったわ。あなたの水晶の売り方に問題があるって云ってるんです。」

「なんで?」

「なんでって?こんな水晶の波長が人間の波長となんの関係があるっていうの?」

「はぁ?私にもなんの関係があるか解りませんけど」

出た!シゲミの、いつものおとぼけトークが出た~!とテ~ジは思った。

「なにを今更、言い逃れをしてるの?ったく!子供達がそう言ってますの」

「じゃあ、お聞きします。さっきあなたは理屈の解らない子供に売りつけたような言い方しましたよね?」

「ええ、言ったわ。それがなにか?」

「いいですか、その理屈の解らない子供のいう事を一方的に真に受け、判断しているあなたはどうなの?」

「どうなのってなによ・・・」

「そう言うのを偏見って言うのよ。ハッキリ言ってその様な、いかがわしい販売は当店ではしておりません。オープン以来ひとつもその類のクレームを受けたこともありません。 例えば、お正月にみなさん神社に行って商売繁盛のお札や御守り、破魔矢を買われますがあれはどうなのよ? あんなお札で商売繁盛に繋がると思いますか? 御守りで災難から逃れること出来ますか? あれこそ本当のまやかしじゃあないですか?あの売り方こそ異常じゃないですか? あっちは合法でこっちの売り方は違法ですか? 私に解るように教えて下さいませんか?」

明らかに形勢は逆転した。

テ~ジは「シゲミは天才だ!俺、彼女に付いていこう」

「今日は帰るわよ。必ずシッポ掴むからね」

そのPTAは捨て台詞を吐き帰って行った。シゲミはいつものように表に出て

「いらっしゃいませ~あなたに合う水晶どうですか?お手伝いしますよ」

テ~ジの心は完全にシゲミ依存症になっていた。 
数日後、アヤミが出番の日、あのPTA風の女性がまたやってきた。今度は他に3人の助っ人が加わっている。

「先日はどうも、この方達は同じ会の同士です」

「はあ?誰?」

アヤミはシゲミからはなんの説明も受けていなかった。

「どちら様ですか?」

「あなた、人を馬鹿にするのもいい加減におし!」

「はあ?あなた誰?そしてなに?」

「奥様達この方よ。インチキ石を高値で売りつけてる店員は」

一緒に来た助っ人が「まぁ!ふてぶてしい面構えだこと」

即、アヤミはぶち切れた。

「オバサン方、誰に物言ってんの?」

「あなたよ、他に誰かおられて?貴女も面白いこというのね、ほっほっほ…」

「喧嘩ならいくらでも受けて立つけど、その前に聞かせな。あんた達は誰で、なんで私に喧嘩売るの?まずそこからハッキリさせな」

「なに偉そうに、この前の威勢はどうしたのよ?」

「チョット待ちな」

アヤミは携帯でシゲミから話を聞いた。なるほどね、勘違いか……

「オバハン方、ちょっと待ってな、もう少しで面白いもの見せてあげる」

一五分後、スクーターに乗ったシゲミが現われた。

「お待ちどうさん」

シゲミを見た4人は言葉を失った。

シゲミが「なんだ、またあんたなの?今度はなに?」

アヤミが割って入った。

「チョット待てや、その前に私に謝れ! おい、そこの二人!それが礼儀だろうが?いきなり人を捕まえて、『なに偉そうにこの前の威勢はどうしたのよ』って言ったね、えっ!常識を語りたいなら、最低限の常識を守りな、そこの二人」

二人は小声で「ごめんなさい」

「声が小さい!聞こえない!」

「ごめんなさい」

「はい。シゲミ、バトンタッチ」

「今度はわたしね。今日はどうしたって?」

アヤミに出鼻を挫かれた4人だった。

「もういい、今日は帰る…」

シゲミが「どうしたの?言いたいことあってここに来たんじゃないの?」

「だから、もういいって言ってるの」

「良くないよ。ここに来たって事はだよ、自分達は間違ってないって思うから来たんでしょ?だったら言いなよ。私、聞くから」

アヤミは思った。シゲミのこのパターンは超しつこいよフフッ。

シゲミが「私が言おうか?中高生相手にくだらん石を売ってからに、少し懲らしめてやろうか!てか?4人もいたらびびるだろうってね……」

「いや、そこまでは言ってませんけど」

「だったら、なにが言いたいの?えっ!」

「だからもうよろしいのよ」

「いい、もう一度言うよ、私は石を売りつけてません。向こうが自分の意思で店に来て買っていくの、前にも言ったように買う側の問題。こちらからは何も云ってないの。神社でも安産のお札なんかは、このお札は安産に効きますなんて神主さん絶対言わないの、そんなこと言っちゃいけないのよ。買う側の問題だから。解った?解ったら商売の邪魔になるからお引き取り下さい」

側で聞いていたアヤミは、あいつ、いつも言ってるくせによく言うよ、たく……

4人は返り討ちにあい無惨に退散した。その後テ~ジが店に帰ってきた。

「あら、シゲミちゃん休みなのにどうかしたの?」

「店長の顔が見たくてきました。なんか店長のその間の抜けた顔、毎日見ないと不安なんで~す」

「いやぁそんなぁ~」

「店長なに照れてるの?シゲミにからかわれてるの解らないの?」

「シゲミちゃん本当に僕のことからかってるの?」

シゲミは「いえ、からかってませ~ん!」

テ~ジはアヤミの方を振り返って「ほらっ…」

「シゲミいいかげんにしな」

シゲミは「そんなことないですよ、店長また寿司食べに行きましょう。私と、ふ、た、り、で、ねっ!」

瞬間、テ~ジはみどり寿司を思い出し顔が青くなった。

「さっ仕事だ仕事、アヤミちゃん仕事しよう。あなたに合った水晶見つけませんか~~水晶で作るオリジナルストラップもお作りしますよ~」

騒動を何も知らないテ~ジだった。
                              

「ごめんください」

「はい、いらっしゃいませ」

「私、札幌の消費者保護の部屋の久慈和子と申します。こちらの店の代表の方おられますか?」

「ハイ、僕ですがなにか?」

「こちらの商品の売り方でお聞きしたいことがありまして訪問させていただきました」

「どういう事ですか?」

「こちらで水晶石の販売をなさってますね」

「はい」

「その売り方についてお聞きしたいのですが?」

「はい、どうぞ」

「こちらでは水晶に何かしらの、パワーまたは御利益があると言って販売なさっているとか聞きましたが、事実なんでしょうか?」

「い~えその様な売り方はしておりませんが」

「そうですか?私どもに苦情が寄せられておりますけど」

「もし苦情であれば直接その水晶をお持ち下さい。事実関係を調べた上で私が責任を持って返品させていただきますけど」

「こちらにシゲミさんという店員さんおられますか?」

「はい、あの娘ですけど」

「シゲミさんお仕事中すみませんが?」

「はい、なにか?」

「今店長さんにお話ししたんですけど」

「あなたの販売の仕方に・・・」

最後まで聞かないうちにシゲミが「あの~う、今仕事中なんですが行政指導か何かですか?消費者保護の部屋って公設ですか私設ですか?」

「私設ですけど何か?」

「名刺はあります?」

「いいえ、必要ありませんの」

「じゃああなたを証明するもの何かあります?」

「いいえ、私が言ってることはそうじゃありませんの」

「ちょっと待ってね『そうじゃありません』って、そのそうはなにを意味してるの?」

「いえ、その」

「公でもない、名刺も無いって、私はいったい何処の誰と話してるのかしら。ただのいちゃもんなら業務妨害で警察呼ぶよ!どうなの?」

「話しても無駄なようね!」捨て台詞を吐いて帰って行った。

シゲミの3連勝目であった。

「シゲミちゃんまたうるさいのが来たら頼むね。僕シゲミちゃんの言い方聞いたらホッとするんだ」

シゲミは店長の顔を見て「おめえがしっかりしろっ!」

「はいっ!」

瞬間二人は大声で笑った。


 それから数ヶ月なにもなく経過した。非番のアヤミが突然店を訪れた。

「シゲミ、うちの店の丁度裏手にスピリチュアルショップがオープンするらしいよ」

店長が「えっ、今改装中の店はスピリチュアルショップなの?シゲミちゃんどう思う?」

「結構なことじゃないですか」

「観光客は半数がひやかしなんだし、向こうに来る客はこっちにも顔出しますよ。どうせならスピリチュアルエリアとして知名度が上がれば楽しいのに」

テ~ジはシゲミのこういうポジテブな発想を尊敬していた。

そんな時「あのうすいません」

テ~ジが「はい、なんでしょうか」

「この度、裏にオープンするスピリチュアルショップの大広と申します。開店の挨拶に伺いました。どうぞ宜しくお願いいたします」

上品そうな女性だった。

「それはご丁寧にどうも初めまして。僕が店主の村井です。頑張って下さい。解らないことあったらいつでも気兼ねなく聞いて下さい」

「助かります、宜しくお願いいたします」

帰ったあとを潤んだ目線で彼女を追うテ~ジがいた。

「店長!」

「なに?」

「目が星になってんぞ」シゲミが言った。

「そんなことないサ~」

「あんたは沖縄人か?」
THE END
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