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変身ヒーローと異世界の魔物
さらなる変身の力
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必殺技でもない攻撃で、ケルベロスは転がった。
よろよろと立ち上がるが、血を吐き出していた。
それほどの一撃だったというのか。
「どういう、ことだ……」
「見た目が変わった途端、動きが速くなりやがった」
「それだけじゃない。一撃でこの威力。明らかに今までと違う」
ケルベロスの疑問は俺自身も聞きたいことだった。
『忘れているようですから説明しましょう』
「くそがっ!」
ケルベロスはお構いなしに向かってくる。
まあ、脳内で会話してるなんて思っていないだろうし、わかっていても向かっては来るだろうな。
ただ、この姿になってから、相対的にケルベロスの動きが遅く感じるようになったせいで、集中していなくても攻撃を躱すのは難しくなかった。
『ファイトギアフォームはスピードとパワーに特化したシステムです。全身スーツの上から覆う鎧は簡素なものになり、頭を覆うマスクも抵抗の少ない形状になります』
「なぜ、当たらない!」
ケルベロスの攻撃はさらにスピードが上がった。
それでも、その違いがわかるほどに俺の動体視力と動きは鋭くなっていた。
『ですので、先に警告しておきますが、防御力は著しく落ちます。具体的に言えば、このケルベロスの攻撃をまともに受けた場合、一撃で致命傷となるでしょう』
うーん。警告されても警戒する気にはなれなかった。
何しろ動きが丸見えで当たる気がしない。
それどころか、何度かカウンターも入りそうなんだけど、取り敢えずAIの説明を聞きたかった。
『そして、このフォームは身体能力の向上にもナノマシンを使っているので、武器を形成することができません』
それじゃあ、どうやって攻撃するんだ?
あ、いや……さっき殴ったか。
『その通りです。このフォームでの攻撃方法は肉弾戦です。そして、相手に直接エネルギーを叩き込む』
赤い光が拳に宿る。ナノマシンから流れるエネルギーが集まってくるのを感じた。
『チャージアタックワン、メテオライトブロー!』
三つの頭が三方向から噛みつこうと迫ってきたので、俺はカウンターで殴りつけた。
「ギャイン!」
犬の鳴き声のような声を上げて吹っ飛ぶ。
……大丈夫か?
動物虐待に見えないよな。
だいたい、あいつはもう何人も人間殺してるんだ。
俺の世界の法律でも殺処分は確定だろう。
「ガ、ガフッ……」
「はぁ……はぁ……」
「こうなったら、全力であれを撃つ」
「ああ、そうだな。人間どもと遊べなくなるのはつまらんが、町ごと消してやる」
ケルベロスは何やら物騒な相談をしていた。
そして、一声吠えると威圧感が膨れ上がる。
魔力もさらに増したのか。
「火の神の名において、我が命ずる!」
「雷の神の名において、我が命ずる!」
「闇の神の名において、我が命ずる!」
俺は、一瞬でケルベロスの間合いに入った。
あの魔法は、撃たせない。
『チャージアタックスリー、イラプションアッパー!』
拳が熱く燃える。
「「「闇の力を爆発――」」」
がら空きの腹をしたから突き上げるように殴ると、拳が爆発してケルベロスを空へ舞い上げた。
俺はそれを追いかけるように高く飛ぶ。
ケルベロスは空中できりもみしながら、血を吐き出していた。
『スペシャルチャージアタック、スターライトストライク!』
輝く拳をケルベロスに叩きつけてそのまま地面へ一直線――。
エネルギーが直接地面にぶつかり爆発する。
その衝撃波は、辺りの建物を吹き飛ばした。
土煙が視界を奪って、どうなったのか確認できない。
手応えは十分。
殴りつけた俺の手も少し痺れているくらいだ。
少しずつ辺りの様子が見えてくる。
俺がケルベロスと共に殴りつけた地面は、大きな穴になっていた。
まるで――隕石が衝突したようなクレーターと言ってもいい。
拳は間違いなくケルベロスの体を捉えたはずだったが、ケルベロスの体は無い。
だが、外したわけでもなかった。
頭だけになったケルベロスが俺の前に倒れていた。
体は、粉々になって砕けてしまったようだ。
残った頭も徐々に姿が薄くなっていく。
「……人間ごときに……我らが、破れるとは……」
「悪いな。正確には、俺は半分人間じゃないんだ」
「だ、だが……お前を倒せなかった、ということは……我らは魔王の器では、なかった……ということだな」
「魔王?」
「受け入れるしか、ないな……。強い者だけが生き残る。それが、魔族の、お……き……て……」
俺の言葉には答えずに、ケルベロスの頭は消滅し、その場には三つ叉のクリスタルだけが残った。
『敵の消滅を確認、ファイトギアフォームを解除します』
あれ? そんなことソードフォームの時は一々言わなかったような気が。
そう思ったときには、すでに俺の変身は解除されていた。
そして、全身を筋肉痛が襲う。
「…………!? いてぇ……いででででで……」
『最後にもう一つ。身体機能をナノマシンで向上させているため、本来は使われないはずの筋肉も使うので、使用時間に比例して変身解除後に筋肉痛になります。今の戦闘は二分くらいだったので、その程度で済みましたが……。五分以上の使用は控えた方が良いですよ。恐らく数日は動けないくらいの痛みに襲われますから』
「……そういうことは、先に言え……!」
あ、だめだ。
声を出すだけでも結構体に響く。
「ア、アキラさーん!」
ケルベロスを倒したときの体勢のまま動けずにいると、俺が作ったクレーターの中にヨミが降りてきた。
っていうか、とても嫌な予感がする。
「ちょっ……ちょっと待て」
大声が出せない。
ヨミは俺の言葉がまったく耳に入っていない様子で、走って俺に抱きついてきた。
「――――!!」
ケルベロスとの戦いでも、こんなに痛い思いはしなかったってのに……。
「……あら? アキラさん?」
「お前……後で、説教だ……」
「どうかしたんですか? 生まれたての子鹿のように震えていますけど」
「……全身が、筋肉痛で、痛いんだよ……」
「あ、そうだったんですか。すみません、気付かなくて」
ヨミはやっと俺の体を離して背を向けた。
「……何の、つもりだ」
「おんぶします」
「いや、いい……」
「でも、動けないんですよね」
『彰、ここは素直に甘えておきましょう。このままここで立ち止まっているわけにもいきませんし』
抗議したくても体がいうことを聞かない。
ほとんどヨミのなすがままに背負われた。
「あ……アキラさん。これは、もしかしてケルベロスの……」
そうだった。
確か、ギルドに討伐依頼が出されていない魔物のクリスタルは、討伐した者に所有権があるんだった。
「持てるか?」
大きさは握りこぶし三つ分。
「大きさほど重くはありませんよ。ただ、純度の高い魔力が感じられます」
「そうか……。取り敢えず拾っておいてくれ、妹の捜索費用の足しになるかも知れない」
「はい」
ヨミはクリスタルを拾って、俺と共にクレーターから地上に出た。
すると、一気に歓声が上がる。
怪我を負った町の人や冒険者たちが「うおおおおお」とか「やったー」とか「すげえ」とか。とにかくいろんな声が重なっていて何を言っているのかは正確にはわからない。
ただ、この町で、今生きている人たち全員が喜んでいるということだけは、間違いなかった。
ジョサイヤが妻のレイナに支えられながら俺たちのところへやってきた。
「ア、アキラ殿……なんといって良いか……本当に、ありがとう。私の想いをたったこれだけの言葉でしか伝えられないのが、もどかしいぐらいですよ」
「いや、それだけで十分だ……それに、犠牲者も出てるしな」
俺がもっと早くに変身できていれば、ここまで犠牲は出なかった。
しかし、それを言えばヨミが気にする。
大事なことは、ケルベロスを倒して、生き残った人たちがいる。
それを大切にしていかなければならない。
「それより、奴の放った火を消しにいってくれ」
ケルベロスの魔法による町の被害は、奴が死んでも消えたわけじゃない。
そこら中にまだ炎が残っている。
……まあ、一番大きな被害は、俺の必殺技で作ったあのクレーターだろうが……。
「安心してください。それはすでに生き残った騎士団の魔道士たちと冒険者たちが協力して消火活動と救出活動を行ってくれている。さあ、アキラ殿も怪我をしているのなら魔法医へ参りましょう」
「それこそ、気にするな。ただの、筋肉痛だ」
「では、私の家の客間で寝ている方がいいですかな」
「ジョサイヤの家は無事だったのか」
「お陰様で。家を失った者にも客間を開放しているので、アキラ殿もそちらでお休みください」
俺はお言葉に甘えることにして、町の中心部に向かった。
……確かに、全体を見ればジョサイヤのお屋敷は無事な方だった。
ただ、ガラスは三分の一ぐらい砕けているし、右端の部分が壊れていた。
でもまあ、贅沢は言えない。今はとにかく寝たい。
家の扉は開け放たれていた。
メイドや執事が忙しなく動いている。人の出入りも激しい。
俺はその中にイライザの姿を見つけたので、ヨミに追ってもらった。
「ああ、アキラ様! ありがとうございます。あのケルベロスを討伐してくれたと聞きました」
「もうちょっと、被害を減らせたらよかったんだけどな」
「いいえ。生き残れただけでも十分です」
「あの、ジョサイヤさんから客間を使っていいと聞いているのですが。できれば早くアキラさんを休ませてあげたいんです」
ヨミが急かすようにそう言った。
「あ、申し訳ありません。お呼び止めしてしまって。お二人には、いつもの客間を使うように申し使っております。他の客間には家を失った町の方々に使っていただいているので、お気を付けください」
そう言うと、すぐにどこかへ行ってしまった。
きっと、町の人たちの世話をしているんだろう。
いつもの客間ならヨミもわかる。
俺はそのまま安心したようにまぶたを閉じた。
「彰、ネムスギアのAIには良いと思う心も悪いと思う心もない。あるのは人間と同じ心だ」
これは、過去の夢だ。
未来の父親で、記憶喪失の俺を拾ってくれた博士。
彼が開発途中のネムスギアについて俺に説明してくれた。
「……それじゃ、人間の心にも良いと思う心も悪いと思う心もないってことになるんじゃないか?」
「ないさ。生まれたばかりの赤ちゃんに、何が判断できる。それは、成長する過程で学び育んでいく心だからだ」
「AIは生まれたばかりの赤ちゃんと同じってことか」
「そう、ネムスギアに認められたものが、共に成長しその過程でAIも学び心を育む。だから、ネムスギアと共に生きる者の魂には二つの心が宿る。正確には、一つの心であり、二つの心でもあるのだが」
「そいつらがケンカしたら大変だな」
「彰。心と心はぶつかり合う。どんなに仲の良い親友でも、生涯をかけてケンカをしない者などいないだろう。それは、人間が不完全だから仕方のないことだ」
「普通の人間同士なら、距離を置いたり、話し合いをしたり、解決策はあるだろうけど、同じ人間の中で二つの心がケンカしたら、自我が崩壊するんじゃないか?」
「ネムスギアが認める人間というのは、きっとそうならない者なのだろう。だから、私ではダメだったのだ」
「……俺は、博士のようにいい人間じゃないかも知れないぜ。何しろ、博士に拾われるまでの記憶なんてないからな。極悪人だった可能性も否定できない」
「それを言ったら、ネムスギアのAIだって極悪に育つかもしれんぞ」
「そんなんで、デモンに対抗できるのか?」
「だからこそ、なのだよ。そしてもし、いつかAIがお前の心が悪だと思うことをしようとしたら止めてやってくれ。逆に、AIがお前のしていることを悪だと認識して止めるかも知れない。人間の――誰かの正義を正義だと信じるな。お前たちの心が信じたことが大切なんだ。それが、人類の――」
テレビのスイッチを切ったように、夢はそこで途切れた。
バタバタと廊下を走る足音で俺は目が覚めた。
手を握ってみる。
……多少の痛みは感じるが、普通の筋肉痛のレベルだ。昨日のように動けないほどじゃない。
俺が起きると、隣りに寝ていたヨミが目を覚ました。
「あ、おはようございます」
「あのさ、一応ベッドは二つあるんだから、そっちで寝ろよ」
「うなされているようでしたから、心配だったんですよ」
「変なことはしなかっただろうな」
「私、そんなはしたない女じゃありません」
朝っぱらから言い争うのもバカバカしい。
俺はベッドから降りて着替えた。
「もう筋肉痛は大丈夫なんですか?」
ヨミも、いつもの服を着てミニスカートを作る。
「見ての通りだ。っていうか、やっぱり買った方が良いだろ、スカート」
「別にいいですよ。私のために使うお金があったら、早く妹さんを見つける資金にしたいですし」
資金と言えば、俺はテーブルに置かれたクリスタルを持った。
確かに見た目ほど重くはない。
ケルベロスが三つの頭を持っていたからなのか、クリスタルも三つ叉だった。
そして、その奥には紫色の淡い光が見える。
いくらになるのか、俺には判断できない。
王都のクリスタル屋に持っていくことになるだろうが、その前にギルドか?
「ま、取り敢えず朝食だな」
「はい」
俺はヨミと一緒に食堂へ行った。
よろよろと立ち上がるが、血を吐き出していた。
それほどの一撃だったというのか。
「どういう、ことだ……」
「見た目が変わった途端、動きが速くなりやがった」
「それだけじゃない。一撃でこの威力。明らかに今までと違う」
ケルベロスの疑問は俺自身も聞きたいことだった。
『忘れているようですから説明しましょう』
「くそがっ!」
ケルベロスはお構いなしに向かってくる。
まあ、脳内で会話してるなんて思っていないだろうし、わかっていても向かっては来るだろうな。
ただ、この姿になってから、相対的にケルベロスの動きが遅く感じるようになったせいで、集中していなくても攻撃を躱すのは難しくなかった。
『ファイトギアフォームはスピードとパワーに特化したシステムです。全身スーツの上から覆う鎧は簡素なものになり、頭を覆うマスクも抵抗の少ない形状になります』
「なぜ、当たらない!」
ケルベロスの攻撃はさらにスピードが上がった。
それでも、その違いがわかるほどに俺の動体視力と動きは鋭くなっていた。
『ですので、先に警告しておきますが、防御力は著しく落ちます。具体的に言えば、このケルベロスの攻撃をまともに受けた場合、一撃で致命傷となるでしょう』
うーん。警告されても警戒する気にはなれなかった。
何しろ動きが丸見えで当たる気がしない。
それどころか、何度かカウンターも入りそうなんだけど、取り敢えずAIの説明を聞きたかった。
『そして、このフォームは身体能力の向上にもナノマシンを使っているので、武器を形成することができません』
それじゃあ、どうやって攻撃するんだ?
あ、いや……さっき殴ったか。
『その通りです。このフォームでの攻撃方法は肉弾戦です。そして、相手に直接エネルギーを叩き込む』
赤い光が拳に宿る。ナノマシンから流れるエネルギーが集まってくるのを感じた。
『チャージアタックワン、メテオライトブロー!』
三つの頭が三方向から噛みつこうと迫ってきたので、俺はカウンターで殴りつけた。
「ギャイン!」
犬の鳴き声のような声を上げて吹っ飛ぶ。
……大丈夫か?
動物虐待に見えないよな。
だいたい、あいつはもう何人も人間殺してるんだ。
俺の世界の法律でも殺処分は確定だろう。
「ガ、ガフッ……」
「はぁ……はぁ……」
「こうなったら、全力であれを撃つ」
「ああ、そうだな。人間どもと遊べなくなるのはつまらんが、町ごと消してやる」
ケルベロスは何やら物騒な相談をしていた。
そして、一声吠えると威圧感が膨れ上がる。
魔力もさらに増したのか。
「火の神の名において、我が命ずる!」
「雷の神の名において、我が命ずる!」
「闇の神の名において、我が命ずる!」
俺は、一瞬でケルベロスの間合いに入った。
あの魔法は、撃たせない。
『チャージアタックスリー、イラプションアッパー!』
拳が熱く燃える。
「「「闇の力を爆発――」」」
がら空きの腹をしたから突き上げるように殴ると、拳が爆発してケルベロスを空へ舞い上げた。
俺はそれを追いかけるように高く飛ぶ。
ケルベロスは空中できりもみしながら、血を吐き出していた。
『スペシャルチャージアタック、スターライトストライク!』
輝く拳をケルベロスに叩きつけてそのまま地面へ一直線――。
エネルギーが直接地面にぶつかり爆発する。
その衝撃波は、辺りの建物を吹き飛ばした。
土煙が視界を奪って、どうなったのか確認できない。
手応えは十分。
殴りつけた俺の手も少し痺れているくらいだ。
少しずつ辺りの様子が見えてくる。
俺がケルベロスと共に殴りつけた地面は、大きな穴になっていた。
まるで――隕石が衝突したようなクレーターと言ってもいい。
拳は間違いなくケルベロスの体を捉えたはずだったが、ケルベロスの体は無い。
だが、外したわけでもなかった。
頭だけになったケルベロスが俺の前に倒れていた。
体は、粉々になって砕けてしまったようだ。
残った頭も徐々に姿が薄くなっていく。
「……人間ごときに……我らが、破れるとは……」
「悪いな。正確には、俺は半分人間じゃないんだ」
「だ、だが……お前を倒せなかった、ということは……我らは魔王の器では、なかった……ということだな」
「魔王?」
「受け入れるしか、ないな……。強い者だけが生き残る。それが、魔族の、お……き……て……」
俺の言葉には答えずに、ケルベロスの頭は消滅し、その場には三つ叉のクリスタルだけが残った。
『敵の消滅を確認、ファイトギアフォームを解除します』
あれ? そんなことソードフォームの時は一々言わなかったような気が。
そう思ったときには、すでに俺の変身は解除されていた。
そして、全身を筋肉痛が襲う。
「…………!? いてぇ……いででででで……」
『最後にもう一つ。身体機能をナノマシンで向上させているため、本来は使われないはずの筋肉も使うので、使用時間に比例して変身解除後に筋肉痛になります。今の戦闘は二分くらいだったので、その程度で済みましたが……。五分以上の使用は控えた方が良いですよ。恐らく数日は動けないくらいの痛みに襲われますから』
「……そういうことは、先に言え……!」
あ、だめだ。
声を出すだけでも結構体に響く。
「ア、アキラさーん!」
ケルベロスを倒したときの体勢のまま動けずにいると、俺が作ったクレーターの中にヨミが降りてきた。
っていうか、とても嫌な予感がする。
「ちょっ……ちょっと待て」
大声が出せない。
ヨミは俺の言葉がまったく耳に入っていない様子で、走って俺に抱きついてきた。
「――――!!」
ケルベロスとの戦いでも、こんなに痛い思いはしなかったってのに……。
「……あら? アキラさん?」
「お前……後で、説教だ……」
「どうかしたんですか? 生まれたての子鹿のように震えていますけど」
「……全身が、筋肉痛で、痛いんだよ……」
「あ、そうだったんですか。すみません、気付かなくて」
ヨミはやっと俺の体を離して背を向けた。
「……何の、つもりだ」
「おんぶします」
「いや、いい……」
「でも、動けないんですよね」
『彰、ここは素直に甘えておきましょう。このままここで立ち止まっているわけにもいきませんし』
抗議したくても体がいうことを聞かない。
ほとんどヨミのなすがままに背負われた。
「あ……アキラさん。これは、もしかしてケルベロスの……」
そうだった。
確か、ギルドに討伐依頼が出されていない魔物のクリスタルは、討伐した者に所有権があるんだった。
「持てるか?」
大きさは握りこぶし三つ分。
「大きさほど重くはありませんよ。ただ、純度の高い魔力が感じられます」
「そうか……。取り敢えず拾っておいてくれ、妹の捜索費用の足しになるかも知れない」
「はい」
ヨミはクリスタルを拾って、俺と共にクレーターから地上に出た。
すると、一気に歓声が上がる。
怪我を負った町の人や冒険者たちが「うおおおおお」とか「やったー」とか「すげえ」とか。とにかくいろんな声が重なっていて何を言っているのかは正確にはわからない。
ただ、この町で、今生きている人たち全員が喜んでいるということだけは、間違いなかった。
ジョサイヤが妻のレイナに支えられながら俺たちのところへやってきた。
「ア、アキラ殿……なんといって良いか……本当に、ありがとう。私の想いをたったこれだけの言葉でしか伝えられないのが、もどかしいぐらいですよ」
「いや、それだけで十分だ……それに、犠牲者も出てるしな」
俺がもっと早くに変身できていれば、ここまで犠牲は出なかった。
しかし、それを言えばヨミが気にする。
大事なことは、ケルベロスを倒して、生き残った人たちがいる。
それを大切にしていかなければならない。
「それより、奴の放った火を消しにいってくれ」
ケルベロスの魔法による町の被害は、奴が死んでも消えたわけじゃない。
そこら中にまだ炎が残っている。
……まあ、一番大きな被害は、俺の必殺技で作ったあのクレーターだろうが……。
「安心してください。それはすでに生き残った騎士団の魔道士たちと冒険者たちが協力して消火活動と救出活動を行ってくれている。さあ、アキラ殿も怪我をしているのなら魔法医へ参りましょう」
「それこそ、気にするな。ただの、筋肉痛だ」
「では、私の家の客間で寝ている方がいいですかな」
「ジョサイヤの家は無事だったのか」
「お陰様で。家を失った者にも客間を開放しているので、アキラ殿もそちらでお休みください」
俺はお言葉に甘えることにして、町の中心部に向かった。
……確かに、全体を見ればジョサイヤのお屋敷は無事な方だった。
ただ、ガラスは三分の一ぐらい砕けているし、右端の部分が壊れていた。
でもまあ、贅沢は言えない。今はとにかく寝たい。
家の扉は開け放たれていた。
メイドや執事が忙しなく動いている。人の出入りも激しい。
俺はその中にイライザの姿を見つけたので、ヨミに追ってもらった。
「ああ、アキラ様! ありがとうございます。あのケルベロスを討伐してくれたと聞きました」
「もうちょっと、被害を減らせたらよかったんだけどな」
「いいえ。生き残れただけでも十分です」
「あの、ジョサイヤさんから客間を使っていいと聞いているのですが。できれば早くアキラさんを休ませてあげたいんです」
ヨミが急かすようにそう言った。
「あ、申し訳ありません。お呼び止めしてしまって。お二人には、いつもの客間を使うように申し使っております。他の客間には家を失った町の方々に使っていただいているので、お気を付けください」
そう言うと、すぐにどこかへ行ってしまった。
きっと、町の人たちの世話をしているんだろう。
いつもの客間ならヨミもわかる。
俺はそのまま安心したようにまぶたを閉じた。
「彰、ネムスギアのAIには良いと思う心も悪いと思う心もない。あるのは人間と同じ心だ」
これは、過去の夢だ。
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「ネムスギアが認める人間というのは、きっとそうならない者なのだろう。だから、私ではダメだったのだ」
「……俺は、博士のようにいい人間じゃないかも知れないぜ。何しろ、博士に拾われるまでの記憶なんてないからな。極悪人だった可能性も否定できない」
「それを言ったら、ネムスギアのAIだって極悪に育つかもしれんぞ」
「そんなんで、デモンに対抗できるのか?」
「だからこそ、なのだよ。そしてもし、いつかAIがお前の心が悪だと思うことをしようとしたら止めてやってくれ。逆に、AIがお前のしていることを悪だと認識して止めるかも知れない。人間の――誰かの正義を正義だと信じるな。お前たちの心が信じたことが大切なんだ。それが、人類の――」
テレビのスイッチを切ったように、夢はそこで途切れた。
バタバタと廊下を走る足音で俺は目が覚めた。
手を握ってみる。
……多少の痛みは感じるが、普通の筋肉痛のレベルだ。昨日のように動けないほどじゃない。
俺が起きると、隣りに寝ていたヨミが目を覚ました。
「あ、おはようございます」
「あのさ、一応ベッドは二つあるんだから、そっちで寝ろよ」
「うなされているようでしたから、心配だったんですよ」
「変なことはしなかっただろうな」
「私、そんなはしたない女じゃありません」
朝っぱらから言い争うのもバカバカしい。
俺はベッドから降りて着替えた。
「もう筋肉痛は大丈夫なんですか?」
ヨミも、いつもの服を着てミニスカートを作る。
「見ての通りだ。っていうか、やっぱり買った方が良いだろ、スカート」
「別にいいですよ。私のために使うお金があったら、早く妹さんを見つける資金にしたいですし」
資金と言えば、俺はテーブルに置かれたクリスタルを持った。
確かに見た目ほど重くはない。
ケルベロスが三つの頭を持っていたからなのか、クリスタルも三つ叉だった。
そして、その奥には紫色の淡い光が見える。
いくらになるのか、俺には判断できない。
王都のクリスタル屋に持っていくことになるだろうが、その前にギルドか?
「ま、取り敢えず朝食だな」
「はい」
俺はヨミと一緒に食堂へ行った。
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前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
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