世界を救った変身ヒーローだったのに、人類に危険視されて異世界へ追放されたのだが

天地海

文字の大きさ
24 / 214
変身ヒーローと異世界の魔物

異世界変身ヒーロー対ケルベロス

しおりを挟む
「ぐあっ……」
 声を上げたのはケルベロスだった。
 俺のマテリアルソードが、右前足の攻撃を受け止めた。
 そして、そのまま足の一部を斬り落としたのだ。
 ケルベロスは飛び退って俺を睨んだ。
「何だ? お前は?」
「こことは違う世界を救ったヒーローだったんだが、その世界にとっては脅威でもあるらしい、ぜ」
「あ、アキラさん……」
 俺はヨミを抱き起こす。
「また、助けてもらいましたね。やっぱり、私のことを――」
「それだけ言える元気があるなら、今回は致命傷ではないんだな」
「……あ、はい。きっと進化したお陰かと」
「でもまあ、戦える状態じゃないだろ。すぐにここから離れろ。ディレックも虫の息だがまだ生きてる。連れて行ってあげてくれ。ヨミを助けるために身を挺してくれたんだ」
「はい」
 ヨミはすぐに倒れているディレックに駆け寄った。
 俺はガイハルトを抱えている女たちにも叫んだ。
「お前らも、そいつを連れてこの場から離れろ!」
「あ、あんた……あの時の……」
「今はその話をしてる場合じゃないだろ」
「そ、そうね。わかったわ」
 エヴァンスも生きているが、センサーの反応だとあいつが一番軽傷のようだ。
 また、逃げる隙を窺ってるのかもな。
 放っておいても自力で逃げるだろう。
 こうして、ケルベロスと対峙するのは俺だけになった。
 見ると、すでに右前足の怪我は治っている。
 さすがにあの程度ではすぐに再生するか。
 魔物が再生するのは経験済みだからそれほど驚くことはなかった。
「世界を救った、だと? 笑わせるなっ!」
 ケルベロスは地面を抉るほど強く蹴って突っ込んできた。
 前足の爪を交互に突き出してくる。
 俺はそれをかいくぐって斬りつけてケルベロスの後ろに回った。
「チィッ!」
 前足を地面に突き立てて、すぐに方向転換して俺の方に向き直る。
 ケルベロスの前足は血に濡れてはいるが、すでに傷は塞がっていた。
 これまでのこの世界の魔物との戦いから、傷が塞がっても与えたダメージがなくなっているわけではない、ということは分析できていた。
 この攻撃を繰り返していけば、いずれは倒せるだろうが……。
 それまでネムスギアのエネルギーが持つのか、わからない。
 ケルベロスの体力というか生命力のようなものが可視化できていれば、そういう戦い方もありだろうが。
「火の神の名において、我が命ずる!」
「雷の神の名において、我が命ずる!」
「闇の神の名において、我が命ずる!」
「「「闇の力を爆発させよ! ヘルフレア!」」」
 接近戦では分が悪いと考えたのか、ケルベロスは闇に染まった炎を放った。
 雷撃と共に俺に向かって三方から向かってくるが、避けられない速度ではなかった。
 地面を削って、辺りの建物をさらに破壊するだけ。
『チャージアタックワン、クレセントスラッシュ!』
 俺はそのままケルベロスの腹下に飛び込む。
 マテリアルソードから放たれた斬撃は、三日月を描くように煌めいて、ケルベロスの腹を斬り裂く。
「ぐああああああっ!」
 地面を転がりながら苦悶の表情を浮かべた。
『チャージアタックスリー、レイストームスラッシュ!』
 立ち上がる間を与える気はない。
 マテリアルソードを振るうと、無数の斬撃が雨のようにケルベロスに叩きつけられた。
 一撃一撃も軽い攻撃ではない。
 土煙が舞い、ケルベロスの体はその場で何度も小さくバウンドする。
 技が過ぎ去ると、そこには全身を赤く血で染め上げたケルベロスが横たわっていた。
 ……倒した……?
 いや、まだ死んでいない。
 致命傷ですらないはずだ。
 なぜなら――。
 魔物は死ぬとクリスタルだけになる。
 だが、ケルベロスの体は消えるような気配はなかった。
「……油断して、近づいてくるかと思ったがな」
「どうやら馬鹿ではないらしい」
「幻惑魔法でも使えれば、クリスタルだけになったように見せられただろうがな」
 ケルベロスの三つの頭がそれぞれにそう言って、立ち上がった。
 やはり、普通の技では倒せないか。
 こうなったら必殺技を使うしかない。
 今の俺に制御できるだろうか。
「お前、強いんだな」
「そうだな。それは認めるべきだろう」
「そして、強いということは我らにとっても意味がある」
「……何を言ってるんだ?」
 これだけ俺が押しているというのに、ケルベロスは笑っていた。
 嫌な感じだ。
 俺の方が無傷で、ケルベロスにはダメージを与えている。
 それは紛れもない事実なのに、まだ余裕があるように見えた。
「来たるべき日は今だったと言うことか」
「こいつとの激しい戦いを乗り越えたとき、我らは魔獣を超える」
「見せてやろう。我らの本気を」

「「「ウオオオオオオオォォォォン!!」」」

 三つの頭が大きく吠える。
 すると、ケルベロスの姿がどんどん小さくなっていく。
『警告します。先ほどよりも未知のエネルギーが増大しました』
 それは、何より対峙している俺自身の肌が感じていた。
 大きさは人と同じくらいにまで小さくなった。
『具体的には体長2メートルくらいです』
 だが、威圧感が違う。
 魔力のない俺には感じられないが、きっとそれが増えたんだろう。
「あの姿で人間を玩具にするのは面白いんだがな。大きな体長を維持するために無駄な魔力を使っているんだ」
「これが、我らの真の姿」
「お前の強さを見込んで本気で相手してやろうというのだ。あまりガッカリさせるなよ」
 いきなり、俺の前にケルベロスの姿があった。
 マテリアルソードを構える暇もない。
 頭から俺の胸の辺りに突っ込んでくる。
 もろに喰らって吹き飛ばされた。
 空中で宙返りをして、地面に降り立つ。
 なんとか体勢を整えて、ケルベロスを見るが、そこに奴の姿はなかった。
『左です!』
 AIのセンサーが感知する。
 俺は反射的にマテリアルソードでガードする。
 ダメージは受けなかったが、前足で薙ぎ払われた。
 地面にマテリアルソードを突き立てて、踏みとどまる。
 自分の目でケルベロスの動きを追うのは無理だ。
 センサーの反応を頼りに、ケルベロスの居場所を把握する。
 奴は、まだ動いてはいなかった。
「クククッ、少し安心したぞ」
「今のはほんの小手調べだ」
「それでもその程度のダメージなら、合格だ」
 口の中に血の味が広がる。
 まともに喰らったタックルのダメージか。
 小さくなって身軽になっただけじゃない。
 一つ一つの攻撃も重く鋭くなっている。
 力を凝縮しているみたいだ。
『来ますっ!』
 AIがそう警告したときにはすでに俺の視界にはケルベロスはいない。
 センサーだけがその動きを捉える。
 右側から向かってくる。
 マテリアルソードで何とか受け止めるが、次の瞬間には背後に回っていて、体が反応できない。
 さらに前から。
『チャージアタックスリー、レイストームスラッシュ!』
 避けるのが無理なら、こちらから仕掛けるしかない。
 それも、狙いを付けて攻撃するのは不可能。
 動きを予測してその辺りを斬るしかない。
 だが、斬撃の雨は土煙を上げるだけで、手応えはない。
「遅いなぁ」
 耳元で声がする。
『警告が、間に合いません』
 センサーが動きを捉えても、それを認識して対応するまでにラグがある。
 ガードすら間に合わずに後ろ足で蹴り飛ばされた。
 地面に叩きつけられたダメージは大したことない。
 ネムスギアはその程度の衝撃はものともしない。
 ただ、ショルダーガードを形成していたネムスギアには爪痕が刻まれていた。
 さっきまでとは立場が逆だ。
 致命傷ではないが、確実にダメージが蓄積していく。
 このままじゃ、いずれ……。
 必殺技を、使うしかないか……?
 あれなら、どれだけ体力やら魔力があっても一撃で消し飛ばせるんじゃないか。
『これまでの敵の動きから計算すると、必殺技は空振りに終わると結論づけます』
 空振り?
 素早く動いても、そこら中を巻き込むぐらいで使えば、当たるんじゃないか。
『いえ。それでも躱されます。そして、それだけのエネルギーを一度に放出した場合、ネムスギアは即時解除されます』
 最悪の展開だな、それは。
「おいおい。立ち止まってる余裕があるのか?」
「くっ」
 ケルベロスが攻撃を再開させた。
 どの方向から来るのがわかっても追いつかない。

 もっと速く、動かなければ。

 もっと速く。

 速く、速く、速く。

『システム変更準備が完了しました。ファイトギアフォーム、スタンバイ。認証を求めます』
 唐突にAIが告げた。
 俺の意志からネムスギアが導き出した答え。
 それは、ネムスギアの別の姿。
「……変身!」
『起動コードを認証しました。ネムスギア、ファイトギアフォーム、展開します』

 白を基調とした鎧が赤へと変わる。
 そして、ショルダーガードがなくなり、全体的に厚みのない鎧になった。
 頭を覆うマスクのような兜も、角が頭の後ろへ反り返り、流れるようなデザインへと変わっていた。

 姿が変わっただけじゃない。
 動体視力もよくなっているのか、センサーに頼らなくてもケルベロスの動きが見えた。
 体を反らして躱す。
「何!?」
 後ろから前足を伸ばしてきた。
 俺は頭を下げて避ける。
「ま、また!?」
 右から左から、下から上から、前から後ろから。
 どの方向から来るのか見える。
 そして、見える以上に体が動く。
 俺は何度かケルベロスの攻撃を見て、掴めそうだと思ったので手を伸ばした。
「ば、馬鹿な!?」
 驚愕の声を上げたケルベロスよりも、前足を掴んだ俺の方が驚いた。
『チャージアタックワン、メテオライトブロー!』
 握った拳が赤く輝く。
 俺はそのままケルベロスの胴体を殴り飛ばした。
「ガハッ!」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」

チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。 だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。 魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。 だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。 追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。 訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。 そして助けた少女は、実は王国の姫!? 「もう面倒ごとはごめんだ」 そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

処理中です...