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変身ヒーローと異世界の国々
天使の降臨
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白い羽が舞い落ちる。
太陽を背に一人の少女がこちらを見下ろしていた。
白いワンピースのドレスの上にブレストプレートを身につけている。
絹糸のような金髪は首の後ろ当たりで三つ編みにされていた。
頭の上には光の輪。そして背中には白い翼があった。
ゆっくりと翼を動かしながら降りてくる。
やっとその顔を窺うことが出来た。
まるで作り物の人形のような美しさ。
瞳は寒気を覚えるほど冷たく感じた。
音を立てることもなく、まるで綿毛が地面に降りるかのように、ふわりとスカートをなびかせながら地に足を付けた。
圧倒的な存在感と神々しさ。
俺とは違う意味で別の世界の存在のような気がした。
何者なのか聞くまでもない。
こいつこそが天使だ。
「なぜです!? なぜグレースが……」
バルトラムに抱かれているグレースの体が消えていく。
魔族には人間で言うところの心臓はない。
だから、胸を貫かれたとしても、それが致命傷になるとは限らない。
魔力を使って肉体を再生できるから。
ただ、それを超えるほどのダメージを与えられたとき、再生することが出来ずにクリスタルだけが残されることになる。
「バ、バルトラム……ご、ごめんなさい……せっかく、一緒に生きていくって……覚悟を、した……の……に……」
「無理にしゃべらないでください! 魔力を肉体の再生に使えば……」
「……それは、難しいわ……。あいつの攻撃は、私の……ま、魔力も、削り取って……しまった」
センサーで調べるまでもないだろう。
それほどまでにグレースの体が弱々しく見えた。
「グレース! 僕の魔力を送り込みます! それを使えば……」
「無駄なことは……止めて。他者の、魔力は……補助的にしか……使えないことは、バルトラムだって……知ってる、はずだわ……。基礎と……なるはずの、私の魔力が……ここまで……失われて、しまったら……、あなたの魔力を……無駄に、してしまう……」
「それじゃあ、僕はどうしたらいいんですか!」
「私の分まで、生きて……天使なんかに……殺されないで……」
それがグレースの残した最期の言葉だった。
グレースの体は光の粒のようになって空へ吸い込まれていく。
バルトラムの腕には赤い十字架のようなクリスタルが残されていた。
「……これを、守ってください」
バルトラムは一番近くにいたレオノーラにクリスタルを託し、天使に向かって行く。
その瞳は怒りと悲しみに塗りつぶされているように見えた。
「……どうして、グレースを殺した……」
「この世界の秩序を乱すものは排除する。それが我々の使命だ」
感情のこもっていない声で、事務的に天使が答えた。
「彼女は人間を殺していない! そして、これからもこの世界の人間を襲わないと約束したのに、それでも魔族だから殺されるのか!!」
バルトラムは怒りを爆発させた。穏やかな表情と口調は姿を消し、負の感情に支配されている。
「何者であろうと関係ない。お前にも果たすべき使命があるはずだ。世界の理に従わぬのなら、ここで消えてもらう」
「それは僕のセリフだ! グレース、君の魔法を使わせてもらうよ。闇の神と風の神の名において、我が命ずる! 闇夜を斬り裂く鋭き剣、イビルスラッシュソード!」
バルトラムの手刀の先から闇の刃が現れる。
それは、グレースが見せたときよりも長く太いものだった。
「光の神と聖なる神の名において、我が命ずる。天をも貫く浄化の光。ホーリーランス」
天使が魔法を発動させると右手に光の槍が現れた。グレースを一撃で殺した槍だ。
バルトラムが姿勢を低くして突っ込んでいく。
手刀を振り回して闇の刃で斬りつけるが、天使は光の槍で受け流す。
続け様に天使が突きを繰り出すが、バルトラムは身を捻って躱し、その勢いで闇の刃で薙ぎ払う。
天使は槍の柄の底で地面を叩いて後ろへ飛んで躱した。
両者の実力は同等か……?
「はっ!」
バルトラムが再び攻撃を再開させる。
一見すると天使の方が勢いに押されているように見えるが、表情を見ると少しも変わらない天使の方が余裕がありそうだった。
「兄ちゃん、戦わないのか?」
「そうですよ、バルトラムさんに協力しましょう」
アスルとヨミが駆け寄ってきてそう言った。
だが、すぐには返事が出来なかった。
何しろ、相手は天使だぞ。
人間の味方なんじゃないのか?
そんな存在を、個人的な感情で倒してしまっていいのか?
「……行こう、姉ちゃん。兄ちゃんのこと、見損なったぜ」
アスルは少しだけ悲しげな目をしてヨミの手を引いた。
「…………はい、行きましょう」
ヨミはほんの少しだけ俺の表情を窺っていたが、すぐに切り替えてアスルについて行った。
俺はそれでも迷っていた。
天使の行動基準がわからない。
秩序を乱すものとして人を襲わないと約束した魔族を殺し、人間に魔王の器を渡して一つの国を混乱させた。
言っていることとやっていることがまるで矛盾している。
それなのに、天使の振る舞いには一切の迷いが感じられない。
明確な基準があって動いているように見えた。
それが一体何なのか、直接問い質すしかないのか。
戦いは、さらに激しさを増していた。
バルトラムは近接攻撃が苦手のようだった。
すでに斬撃は見切られていて、掠りもしない。
むしろカウンターで小さく突きを喰らって所々に傷を負っていた。
そこへアスルが飛び込む。
天使の攻撃を避けようともせず、受け止めることで天使の武器を使えないようにしていた。
そうして武器を抑えたところで闇の衣を纏ったヨミが、空中から飛び降りるように足を叩きつける。
思いきり顔を蹴飛ばされた天使が後ろへ転がるが、何事も起こらなかったように音も立てずに立ち上がりスカートについた土埃を叩いて落としていた。
やはり表情一つ変わらない。
バルトラムがアスルとヨミに頭を下げていた。
ここからだと声は聞こえないが、どんなやりとりが行われているのかは想像がついた。
そこから戦い方が変わった。
アスルが天使の攻撃を押さえ、ヨミが大技のカウンターを喰らわせる。
そして、そこへバルトラムが魔法を撃ち込んでいた。
連係攻撃は見事に嵌まってはいたが、ダメージを与えているようには見えなかった。
天使は何度でも立ち上がる。
同じようにヨミたちも攻撃を繰り出すが、体力や魔力を消耗していくから少しずつ威力が落ちていくのが見て取れる。
少しずつでもダメージを与えているのだとわかれば、じり貧であっても希望が持てる分耐えられるだろうが、それが実感できなければこのままじゃヨミたちの方が先に心が折れてしまうんじゃないか。
「ねえ、あなたは戦わないの?」
猫のような瞳でレオノーラが見上げる。
「……天使を相手に人間が戦っていいのか?」
「誰が相手だろうと、間違ったことをしたらそれを正すことは悪いことじゃないわ」
「天使が魔族を殺すことは、間違いだと言っていいのか?」
「……あなたって、本当にアイレーリスの英雄なの?」
「え? レオノーラもあの生中継を見ていたのか?」
「当たり前じゃない。だから私も旅に出たく……いえ、今はその話しはするべきじゃないわね。あなたは自分が信じるもののために戦ってきた。わけのわからない天使と人を殺さないと約束した魔族と、どちらを信じるのよ」
……レオノーラの言葉は、シンプルに俺の心に響いた。
ただのわがまま王女ではない。
俺にはわからないが、何か強い信念を持っていることだけは伝わってきた。
「なあ、どうしてウェンディとケンカして家出したのか知らないけどさ、レオノーラは王族であることを捨てない方が良いと思う。将来女王として国をまとめるだけの資質はあると思うんだ」
「今さら気がついたの? 馬鹿にしないで頂戴。例え王族を捨ててもエオフェリアは私が治めるに決まってるじゃない」
器が大きいのか、ただの馬鹿なのか。
まあ、大物であることは間違いなかった。
俺はヨミたちに加勢するべく駆け出す。
「変身」
『起動コードを認証しました。ネムスギア、キャノンギアフォーム、展開します』
『バスターキャノンを形成します』
『チャージショットワン、エレメントバスター!』
次々に俺の思考を読み取ってAIが攻撃の準備を進める。
ヨミの蹴りで空へ打ち上げられた天使にバルトラムが魔法を放つ。
避けることも出来ずにまともに喰らって大きく吹き飛んだ。
マスクの中の画面に天使の姿が拡大して映される。
ターゲットマーカーが天使を捉えていた。
引き金を引くと極太のビームが発射されて、天使を追いかけていく。
だが、空中で翼を広げて天使が体勢を立て直し、光の槍でビームの方向を曲げていた。
魔法は避けようともしなかったのに、俺の攻撃はちゃんと受け流していた。
どういうことだ……?
天使は空から一気にこっちへ向かってきた。
「アキラ!」
ヨミが叫びながら俺の所へ向かってくる。
その後ろからアスルとバルトラムもこっちに向かってきた。
『チャージショットスリー、ショットガンバレット!』
この距離なら、ヨミたちには届かないだろう。
「今度は避けるのも受け流すのも難しいぜ」
斜め上の空に砲身を向ける。太陽に天使の影が重なった。
引き金を引くと、放射状にエネルギーの弾が破裂して広がる。
天使の影が無数のエネルギーの弾で貫かれて姿を消したことを確認したとき、
『彰! 本体はすでに地上に降りています!』
AIのセンサーが天使の反応を正面に捉えていた。
槍の刃で斬りつけてくるのを、砲身で受け止める。
ガギギッと金属が擦れ合うような音を上げた。
『そんな!? バスターキャノンの砲身に損傷を受けました。使用するには一度武装解除して再度形成する必要があります!』
AIが初めて慌てたような声でそう言った。
天使は休むことなく槍を向けてくる。
バスターキャノンを盾代わりに使っているが、身体能力が生身の時よりマシな程度では防ぐにも限界がある。
キャノンギアのアーマーで受け止めることもあるが、傷はつくものの痛みは感じなかった。
「アキラから離れなさい!」
天使の背後からヨミが跳び蹴りをお見舞いする。
俺への攻撃に集中していて周りをまったく気にしていなかったようだ。
ヨミの蹴りが天使の後頭部を捉えて吹っ飛ばされていた。
まさか、バスターキャノンを使用不可にされるとは思わなかった。
武器が使えない状態で接近戦に持ち込まれると、キャノンギアでは対処の仕様がない。
「ヨミ、助かった」
「いえ、当然のことをしたまでです」
ヨミは俺を見ていなかった。
倒れている天使をじっと見つめている。
さすがに今の不意打ち攻撃はかなりのダメージを与えていると思うが……。
ヨミはすでに闇の衣を纏っていない。
さっきの跳び蹴りでほとんどの魔力を集中して放ったはずだった。
「やっぱり、兄ちゃんはおいしいところを持っていこうとするよな。でも、気をつけろよ。そいつなんかおかしいんだ。オレたちの攻撃があまり効かない」
天使が立ち上がる。
首が胸に埋まるほど曲がっていた。
それを無理矢理両手で元の位置に戻す。
……ホラー映画の化け物かよ。とても天使に見えない。
「なあ、魔族や魔物は体の一部が消失するほどの怪我を負っても再生できるよな。天使も同じだと考えていいのか?」
「天使を見たのは初めてなので、それはわかりかねます」
ヨミは否定した。
「……父さんが言うには、天使はオレたち魔族やエルフや人間とは違う存在だって。その意味はオレが成長したときに教えてくれるって言ってたけど……」
「先に教えてもらうべきだったな」
「ホーリーランス」
天使が再び光の槍を手に持つ。
「なら、今度はこれでどうだ。――変身」
『起動コードを認証しました。ネムスギア、ファイトギアフォーム、展開します』
『チャージアタックツー、マルチプルトリック!』
変身が完了すると同時に最大加速して天使を八方向から捉える。
構えるそぶりも俺の姿を追うそぶりも見せない。
隙だらけだ。
『チャージアタックワン、メテオライトブロー!』
赤く輝く拳が八方向からほぼ同時に繰り出される。
その刹那、天使が槍の柄の底で地面を叩いた。
そこを中心に地面が割れる。
俺の分身は高速移動による残像だ。
だから、足場が崩されると高速移動による残像は姿を消す。
一人だけ実体の残った俺がそのまま技を繰り出すが、天使はそれを胸で受け止めた。
そのまま空いていた左手で俺の腕を掴む。
「あなたは何者ですか? いえ、何者であろうともこの世界の秩序を乱すものに変わりはないようですね。ここで始末しておきます」
抑揚のない声。
俺はこれをどこかで聞いたような気がした。
『彰! 離脱してください! ファイトギアでは、その攻撃は――』
天使自身が光り輝いていた。
神々しいとはまさにこういうことを言うんじゃないかと思うほどだ。
「変身!」
『起動コードを認証しました。ネムスギア、ソードギアフォーム、展開します』
「光の神と火の神と地の神の名において、我が命ずる!」
『マテリアルソードを形成します』
「天まで届く閃光と地まで響く爆音!」
『スペシャルチャージアタック ファイナルスラッシュ』
「シャイニングフレア!」
必殺技のエネルギーを帯びた刃が、俺の手を掴んでいた天使の手を腕ごと斬り落とす。
地面を蹴って離れようとしたときに目の前で爆発が起こった。
体が宙を舞うような感覚に襲われる。
どちらが空でどちらが地上なのか。それすらわからなかった。
やがて、背中が何かに衝突したような衝撃を覚えて、浮遊感はなくなった。
「大丈夫ですか!」
ヨミの声が下から聞こえる。
そっちに目をやると、いくらか視界が開けてきた。
ヨミだけでなくバルトラムも無事のようだ。
アスルの姿だけ見えない。
どこへ行ったのかと思って視線を巡らせると、レオノーラのことを庇っていた。
全員無事だった。
そこでようやく俺が闘技場の壁に体がめり込んでいることに気が付いた。
天使のいたところに目を向けると、やはりすまし顔のまま佇んでいた。片腕を失っているとは、微塵も感じさせない。
天使の立っている部分だけ石の床は無事だったが、その周り半径二メートルくらいは地面が綺麗に抉られていた。
爆発による破壊力を窺わせる。
確かにAIの警告通り、あれをファイトギアのまま喰らっていたらヤバかった。
俺は壁から脱出してヨミたちのところへ戻った。
太陽を背に一人の少女がこちらを見下ろしていた。
白いワンピースのドレスの上にブレストプレートを身につけている。
絹糸のような金髪は首の後ろ当たりで三つ編みにされていた。
頭の上には光の輪。そして背中には白い翼があった。
ゆっくりと翼を動かしながら降りてくる。
やっとその顔を窺うことが出来た。
まるで作り物の人形のような美しさ。
瞳は寒気を覚えるほど冷たく感じた。
音を立てることもなく、まるで綿毛が地面に降りるかのように、ふわりとスカートをなびかせながら地に足を付けた。
圧倒的な存在感と神々しさ。
俺とは違う意味で別の世界の存在のような気がした。
何者なのか聞くまでもない。
こいつこそが天使だ。
「なぜです!? なぜグレースが……」
バルトラムに抱かれているグレースの体が消えていく。
魔族には人間で言うところの心臓はない。
だから、胸を貫かれたとしても、それが致命傷になるとは限らない。
魔力を使って肉体を再生できるから。
ただ、それを超えるほどのダメージを与えられたとき、再生することが出来ずにクリスタルだけが残されることになる。
「バ、バルトラム……ご、ごめんなさい……せっかく、一緒に生きていくって……覚悟を、した……の……に……」
「無理にしゃべらないでください! 魔力を肉体の再生に使えば……」
「……それは、難しいわ……。あいつの攻撃は、私の……ま、魔力も、削り取って……しまった」
センサーで調べるまでもないだろう。
それほどまでにグレースの体が弱々しく見えた。
「グレース! 僕の魔力を送り込みます! それを使えば……」
「無駄なことは……止めて。他者の、魔力は……補助的にしか……使えないことは、バルトラムだって……知ってる、はずだわ……。基礎と……なるはずの、私の魔力が……ここまで……失われて、しまったら……、あなたの魔力を……無駄に、してしまう……」
「それじゃあ、僕はどうしたらいいんですか!」
「私の分まで、生きて……天使なんかに……殺されないで……」
それがグレースの残した最期の言葉だった。
グレースの体は光の粒のようになって空へ吸い込まれていく。
バルトラムの腕には赤い十字架のようなクリスタルが残されていた。
「……これを、守ってください」
バルトラムは一番近くにいたレオノーラにクリスタルを託し、天使に向かって行く。
その瞳は怒りと悲しみに塗りつぶされているように見えた。
「……どうして、グレースを殺した……」
「この世界の秩序を乱すものは排除する。それが我々の使命だ」
感情のこもっていない声で、事務的に天使が答えた。
「彼女は人間を殺していない! そして、これからもこの世界の人間を襲わないと約束したのに、それでも魔族だから殺されるのか!!」
バルトラムは怒りを爆発させた。穏やかな表情と口調は姿を消し、負の感情に支配されている。
「何者であろうと関係ない。お前にも果たすべき使命があるはずだ。世界の理に従わぬのなら、ここで消えてもらう」
「それは僕のセリフだ! グレース、君の魔法を使わせてもらうよ。闇の神と風の神の名において、我が命ずる! 闇夜を斬り裂く鋭き剣、イビルスラッシュソード!」
バルトラムの手刀の先から闇の刃が現れる。
それは、グレースが見せたときよりも長く太いものだった。
「光の神と聖なる神の名において、我が命ずる。天をも貫く浄化の光。ホーリーランス」
天使が魔法を発動させると右手に光の槍が現れた。グレースを一撃で殺した槍だ。
バルトラムが姿勢を低くして突っ込んでいく。
手刀を振り回して闇の刃で斬りつけるが、天使は光の槍で受け流す。
続け様に天使が突きを繰り出すが、バルトラムは身を捻って躱し、その勢いで闇の刃で薙ぎ払う。
天使は槍の柄の底で地面を叩いて後ろへ飛んで躱した。
両者の実力は同等か……?
「はっ!」
バルトラムが再び攻撃を再開させる。
一見すると天使の方が勢いに押されているように見えるが、表情を見ると少しも変わらない天使の方が余裕がありそうだった。
「兄ちゃん、戦わないのか?」
「そうですよ、バルトラムさんに協力しましょう」
アスルとヨミが駆け寄ってきてそう言った。
だが、すぐには返事が出来なかった。
何しろ、相手は天使だぞ。
人間の味方なんじゃないのか?
そんな存在を、個人的な感情で倒してしまっていいのか?
「……行こう、姉ちゃん。兄ちゃんのこと、見損なったぜ」
アスルは少しだけ悲しげな目をしてヨミの手を引いた。
「…………はい、行きましょう」
ヨミはほんの少しだけ俺の表情を窺っていたが、すぐに切り替えてアスルについて行った。
俺はそれでも迷っていた。
天使の行動基準がわからない。
秩序を乱すものとして人を襲わないと約束した魔族を殺し、人間に魔王の器を渡して一つの国を混乱させた。
言っていることとやっていることがまるで矛盾している。
それなのに、天使の振る舞いには一切の迷いが感じられない。
明確な基準があって動いているように見えた。
それが一体何なのか、直接問い質すしかないのか。
戦いは、さらに激しさを増していた。
バルトラムは近接攻撃が苦手のようだった。
すでに斬撃は見切られていて、掠りもしない。
むしろカウンターで小さく突きを喰らって所々に傷を負っていた。
そこへアスルが飛び込む。
天使の攻撃を避けようともせず、受け止めることで天使の武器を使えないようにしていた。
そうして武器を抑えたところで闇の衣を纏ったヨミが、空中から飛び降りるように足を叩きつける。
思いきり顔を蹴飛ばされた天使が後ろへ転がるが、何事も起こらなかったように音も立てずに立ち上がりスカートについた土埃を叩いて落としていた。
やはり表情一つ変わらない。
バルトラムがアスルとヨミに頭を下げていた。
ここからだと声は聞こえないが、どんなやりとりが行われているのかは想像がついた。
そこから戦い方が変わった。
アスルが天使の攻撃を押さえ、ヨミが大技のカウンターを喰らわせる。
そして、そこへバルトラムが魔法を撃ち込んでいた。
連係攻撃は見事に嵌まってはいたが、ダメージを与えているようには見えなかった。
天使は何度でも立ち上がる。
同じようにヨミたちも攻撃を繰り出すが、体力や魔力を消耗していくから少しずつ威力が落ちていくのが見て取れる。
少しずつでもダメージを与えているのだとわかれば、じり貧であっても希望が持てる分耐えられるだろうが、それが実感できなければこのままじゃヨミたちの方が先に心が折れてしまうんじゃないか。
「ねえ、あなたは戦わないの?」
猫のような瞳でレオノーラが見上げる。
「……天使を相手に人間が戦っていいのか?」
「誰が相手だろうと、間違ったことをしたらそれを正すことは悪いことじゃないわ」
「天使が魔族を殺すことは、間違いだと言っていいのか?」
「……あなたって、本当にアイレーリスの英雄なの?」
「え? レオノーラもあの生中継を見ていたのか?」
「当たり前じゃない。だから私も旅に出たく……いえ、今はその話しはするべきじゃないわね。あなたは自分が信じるもののために戦ってきた。わけのわからない天使と人を殺さないと約束した魔族と、どちらを信じるのよ」
……レオノーラの言葉は、シンプルに俺の心に響いた。
ただのわがまま王女ではない。
俺にはわからないが、何か強い信念を持っていることだけは伝わってきた。
「なあ、どうしてウェンディとケンカして家出したのか知らないけどさ、レオノーラは王族であることを捨てない方が良いと思う。将来女王として国をまとめるだけの資質はあると思うんだ」
「今さら気がついたの? 馬鹿にしないで頂戴。例え王族を捨ててもエオフェリアは私が治めるに決まってるじゃない」
器が大きいのか、ただの馬鹿なのか。
まあ、大物であることは間違いなかった。
俺はヨミたちに加勢するべく駆け出す。
「変身」
『起動コードを認証しました。ネムスギア、キャノンギアフォーム、展開します』
『バスターキャノンを形成します』
『チャージショットワン、エレメントバスター!』
次々に俺の思考を読み取ってAIが攻撃の準備を進める。
ヨミの蹴りで空へ打ち上げられた天使にバルトラムが魔法を放つ。
避けることも出来ずにまともに喰らって大きく吹き飛んだ。
マスクの中の画面に天使の姿が拡大して映される。
ターゲットマーカーが天使を捉えていた。
引き金を引くと極太のビームが発射されて、天使を追いかけていく。
だが、空中で翼を広げて天使が体勢を立て直し、光の槍でビームの方向を曲げていた。
魔法は避けようともしなかったのに、俺の攻撃はちゃんと受け流していた。
どういうことだ……?
天使は空から一気にこっちへ向かってきた。
「アキラ!」
ヨミが叫びながら俺の所へ向かってくる。
その後ろからアスルとバルトラムもこっちに向かってきた。
『チャージショットスリー、ショットガンバレット!』
この距離なら、ヨミたちには届かないだろう。
「今度は避けるのも受け流すのも難しいぜ」
斜め上の空に砲身を向ける。太陽に天使の影が重なった。
引き金を引くと、放射状にエネルギーの弾が破裂して広がる。
天使の影が無数のエネルギーの弾で貫かれて姿を消したことを確認したとき、
『彰! 本体はすでに地上に降りています!』
AIのセンサーが天使の反応を正面に捉えていた。
槍の刃で斬りつけてくるのを、砲身で受け止める。
ガギギッと金属が擦れ合うような音を上げた。
『そんな!? バスターキャノンの砲身に損傷を受けました。使用するには一度武装解除して再度形成する必要があります!』
AIが初めて慌てたような声でそう言った。
天使は休むことなく槍を向けてくる。
バスターキャノンを盾代わりに使っているが、身体能力が生身の時よりマシな程度では防ぐにも限界がある。
キャノンギアのアーマーで受け止めることもあるが、傷はつくものの痛みは感じなかった。
「アキラから離れなさい!」
天使の背後からヨミが跳び蹴りをお見舞いする。
俺への攻撃に集中していて周りをまったく気にしていなかったようだ。
ヨミの蹴りが天使の後頭部を捉えて吹っ飛ばされていた。
まさか、バスターキャノンを使用不可にされるとは思わなかった。
武器が使えない状態で接近戦に持ち込まれると、キャノンギアでは対処の仕様がない。
「ヨミ、助かった」
「いえ、当然のことをしたまでです」
ヨミは俺を見ていなかった。
倒れている天使をじっと見つめている。
さすがに今の不意打ち攻撃はかなりのダメージを与えていると思うが……。
ヨミはすでに闇の衣を纏っていない。
さっきの跳び蹴りでほとんどの魔力を集中して放ったはずだった。
「やっぱり、兄ちゃんはおいしいところを持っていこうとするよな。でも、気をつけろよ。そいつなんかおかしいんだ。オレたちの攻撃があまり効かない」
天使が立ち上がる。
首が胸に埋まるほど曲がっていた。
それを無理矢理両手で元の位置に戻す。
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「なあ、魔族や魔物は体の一部が消失するほどの怪我を負っても再生できるよな。天使も同じだと考えていいのか?」
「天使を見たのは初めてなので、それはわかりかねます」
ヨミは否定した。
「……父さんが言うには、天使はオレたち魔族やエルフや人間とは違う存在だって。その意味はオレが成長したときに教えてくれるって言ってたけど……」
「先に教えてもらうべきだったな」
「ホーリーランス」
天使が再び光の槍を手に持つ。
「なら、今度はこれでどうだ。――変身」
『起動コードを認証しました。ネムスギア、ファイトギアフォーム、展開します』
『チャージアタックツー、マルチプルトリック!』
変身が完了すると同時に最大加速して天使を八方向から捉える。
構えるそぶりも俺の姿を追うそぶりも見せない。
隙だらけだ。
『チャージアタックワン、メテオライトブロー!』
赤く輝く拳が八方向からほぼ同時に繰り出される。
その刹那、天使が槍の柄の底で地面を叩いた。
そこを中心に地面が割れる。
俺の分身は高速移動による残像だ。
だから、足場が崩されると高速移動による残像は姿を消す。
一人だけ実体の残った俺がそのまま技を繰り出すが、天使はそれを胸で受け止めた。
そのまま空いていた左手で俺の腕を掴む。
「あなたは何者ですか? いえ、何者であろうともこの世界の秩序を乱すものに変わりはないようですね。ここで始末しておきます」
抑揚のない声。
俺はこれをどこかで聞いたような気がした。
『彰! 離脱してください! ファイトギアでは、その攻撃は――』
天使自身が光り輝いていた。
神々しいとはまさにこういうことを言うんじゃないかと思うほどだ。
「変身!」
『起動コードを認証しました。ネムスギア、ソードギアフォーム、展開します』
「光の神と火の神と地の神の名において、我が命ずる!」
『マテリアルソードを形成します』
「天まで届く閃光と地まで響く爆音!」
『スペシャルチャージアタック ファイナルスラッシュ』
「シャイニングフレア!」
必殺技のエネルギーを帯びた刃が、俺の手を掴んでいた天使の手を腕ごと斬り落とす。
地面を蹴って離れようとしたときに目の前で爆発が起こった。
体が宙を舞うような感覚に襲われる。
どちらが空でどちらが地上なのか。それすらわからなかった。
やがて、背中が何かに衝突したような衝撃を覚えて、浮遊感はなくなった。
「大丈夫ですか!」
ヨミの声が下から聞こえる。
そっちに目をやると、いくらか視界が開けてきた。
ヨミだけでなくバルトラムも無事のようだ。
アスルの姿だけ見えない。
どこへ行ったのかと思って視線を巡らせると、レオノーラのことを庇っていた。
全員無事だった。
そこでようやく俺が闘技場の壁に体がめり込んでいることに気が付いた。
天使のいたところに目を向けると、やはりすまし顔のまま佇んでいた。片腕を失っているとは、微塵も感じさせない。
天使の立っている部分だけ石の床は無事だったが、その周り半径二メートルくらいは地面が綺麗に抉られていた。
爆発による破壊力を窺わせる。
確かにAIの警告通り、あれをファイトギアのまま喰らっていたらヤバかった。
俺は壁から脱出してヨミたちのところへ戻った。
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昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る
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貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!
「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」
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突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。
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そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。
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掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
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