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変身ヒーローと未知の国
魔王との再会
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森のあちこちから火の手が上がっている。
それもそれで気になるが、俺たちは全員お互いの様子を窺って硬直していた。
俺がマーシャのところに着いたとき、そこには三人の魔族と三人のエルフがいた。
マーシャは前回一緒だったエルフとチームを組んで行動していたようだ。
対するは三人の魔族なのだが、その内の一人が二人を相手に戦っている。
マーシャは防御魔法で攻撃を防いでいただけで、後衛の二人に攻撃の指示が出せずにいた。
そこへ俺が到着し、魔族たちは目線で俺やマーシャたちを牽制していた。
「アキラさん! やっぱり魔族同士が争っています! もうすぐそこまで魔王も迫っていますし、私たちはどうしたら……」
マーシャが叫んだ。
それを合図にするかのように戦闘が再開される。
「ダークフレア!」
魔族の一人が、マーシャたちに向かって魔法を放つ。
「ダークサンダー!」
もう一人も魔族がほぼ同時に俺にも魔法を放った。
二人の魔族と戦っていた魔族がマーシャたちに手を向けた。
「ダークホール」
マーシャの防御魔法の目の前に漆黒の穴が現れ、闇に包まれた炎が吸い込まれる。
俺には闇を纏った雷が向かってきていた。
それは俺の逃げ場を遮るように当たりの木々に広がっていく。
木は雷を通さないはずなのに、そこは魔法だからなのか?
ファイトギアなので、雷は目で追える。
だが、このように範囲攻撃的に使われると、見切れているからといって避けられるものではない。
すぐにソードギアへと再変身した。
防御力の面ではキャノンギアだろうが、辺りに障害物の多い森の中では攻撃の面で使いづらい。
バスターキヤノンの砲身が大きいから枝や木に引っかかると面倒だ。
そのための選択だが、間違ってはいなかった。
魔法は直撃したが、あまりダメージはなかった。
静電気よりは、痛いかなという程度。
しかし、これでどちらの味方をすれば良いかははっきりした。
マーシャたちはまだ魔族と協力することに迷っているようだが、俺はそんなことは考えない。
少なくともこれで二対二だ。
マーシャたちを攻撃しようとした魔族は、もう一人の魔族に任せる。
俺は俺に向かってきた魔族にマテリアルソードを向けた。
「魔法が効かないなら、直接俺の手で――」
魔族が爪を立てて攻撃してくる。
それを剣で切り落とそうとしたが弾かれた。
技をセットしていないとはいえ、魔物だって傷くらいは与えられるのに。
見た目が人間と変わらないから、どうしても肉体の強度に驚かされる。
『あ、彰! ま、魔王がすぐそこに――』
突然のAIからの警告。
「え?」
と反応することしか出来なかった。
俺に攻撃を続ける魔族の後ろの木がめきめきと音を立てて折れる。
その向こうから闇を纏った何者かの影が飛びだしてきた。
これが、魔王――!?
「アキラ!!」
瞳が絡み合う。
その刹那だけ目尻を下げたが、すぐに俺と対峙していた魔族の方へ向いて表情を怒りに染めた。
恐ろしいほどに魔力が膨れ上がる。
「私のアキラに手を出したのはお前か!!」
「ま、魔王様! 俺はただ魔王様の邪魔になるものは退かしてやろうと――」
「黙りなさい!」
闇を纏った拳が魔族の胴体を貫く。
たった一撃でその魔族はクリスタルだけになってしまった。
「……私の威光を借りてただ暴れたいだけでしょう、あなたたちは……」
恐ろしいほど冷たい瞳でクリスタルを睨みつけると、魔王はそれを踏み砕いた。
もう一人の魔族はそれを見ると、どこかへ逃げてしまった。
残されたのは、俺と魔王。魔族と戦っていた魔族。そして、マーシャたち。
魔王からはそれまでの殺気が嘘のように消えて、魔法による身体強化もなくなっていた。
俺も変身を解除して魔王と向かい合う。
「あ……あの……ずっと、探していました」
魔王とはとても思えないか細い声で、目に涙も浮かべている。
俺は、なんていったらいいのかわからなかった。
「シャイニングブレイズ!」
マーシャの仲間のエルフが魔王に向けて魔法を放った。
光の炎が風を巻いて魔王を包み込む。
恐らくは複合魔法だろう。
「アキラさん! 今の内に逃げてください!」
「いや、その必要は……」
「アキラさんですって?」
魔王は埃を払うように光の炎を手で払った。
ほとんど無傷。
魔王が相手じゃ、普通の魔法はそれほど効果はない。
それこそ、複合戦略魔法くらいの破壊力がなければ。
「なぜ、アキラのことを親しげに呼ぶのですか?」
そう言いながら魔王がゆっくりとマーシャたちに近づく。
「レインボーホーリーアロー!!」
マーシャの仲間がさらに魔法を撃った。
七色の光の矢が拡散し、木々の間を縫いながら魔王に向かって行く。
もちろん、これも避けようともしない。
全て直撃したが、魔王の歩みを止めることすらできなかった。
「無駄です。その程度の魔法では私には傷一つ付けられません」
「こ、これが魔王の力……!?」
マーシャは驚くだけだったが、後ろの二人は震えていてもう戦えそうになかった。
「これならどうです。光の神と聖なる神の名において、我が命ずる! 闇を貫く一条の光。ホーリーランス!」
マーシャの手に光の槍が現れた。
両手で構えて、魔王に向かって行く。
「はっ!」
連続で突きを繰り出す。その動きが速くて、生身だと幾重にも重なって見えた。
魔王もさすがに身体強化の魔法無しでその攻撃を避けきるのは難しいのか、OLの着ているようなミニスカートのスーツが所々破れていった。
「止めてください! 私はただ、あなたとアキラの関係が知りたいだけで、戦うつもりはありません!」
そう言いながら、魔王が光の槍を手で掴んだ。
「な……」
「あなたはアキラの何なのですか!?」
「何をわけのわからないことを……」
『いつまで見ているつもりですか?』
AIが呆れたように言った。
「わかってるんだよ。この戦いを止められるのは、俺だけだって。でも、何を言ったらいいのかわからないんだ」
『もう気持ちははっきりしているのですから、正直に言えばいいんですよ』
「俺の気持ちはそうかも知れないけど、その前に俺の正体のことを明かさないとフェアじゃないし……」
などとぐじぐじ悩んでいたら、二人の怒鳴り合いが聞こえてきた。
「離してください!」
「いいえ、離しません! それよりも、アキラとの関係を教えてください!」
「なぜ、魔王であるあなたにそのようなことを教えなければならないのです!」
魔王とマーシャの間に血が滴り落ちる。
そりゃ、光の槍の切っ先を思いきり手で掴んでいるからさすがに傷ついているんだろう。
確かにこのままじゃ誤解を重ねることにしかならない。
俺は二人に近づいて、二人の手を握った。
「マーシャ、その魔法を解除してくれないか」
「な、なぜです!?」
「それは――彼女が俺の一番大切な女性だからだ」
「あ、アキラ――」
魔王が光の槍から手を離すと、マーシャの手からも光の槍が消えた。
俺はまず、魔王になってしまったヨミと向かい合った。
「……久しぶり、と言ったら良いのかな」
ヨミは血に濡れた手で顔を覆った。
それじゃ汚れてしまうと思ったが、止めどなく涙が零れてしまうから、せっかくの綺麗な顔が台無しになってしまうくらいぐしゃぐしゃだった。
女が泣いているだけでも俺にはどうしたらいいのかわからないのに、それが好きな相手じゃ謝るくらいしか思いつかなかった。
「えーと、ごめん」
ヨミが泣きながら頷く。
「その……なんていうか……ヨミのことは忘れていたわけじゃなかったんだ。会って話すべきこともたくさんあると思ってた」
ヨミの肩がピクッと震えた。
「それでも探しに行けなかったのは、俺が大地彰じゃなかったから……って、今もやっぱりどう説明したらいいのかわからないんだ」
ヨミはまだ肩を震わせたまま手を少しだけ下げて目を向けてきた。
「アキラが、アキラじゃない? 私に理解できないことをいって誤魔化そうとしてるんですか?」
説明する前に、俺はこの場にいる者たちに呼びかけた。
「誰でもいいけど、タオルとか持ってないか?」
「あ、それなら私が」
マーシャが腰に下げたポーチからハンドタオルを出した。
それを受け取り、ヨミに差し出す。
「あ、ありがとうございます」
「ヨミ。話せば長くなるし、俺のことも信用できなくなるかも知れない。俺はそれが少し怖い」
「私が、アキラのことを? ありえません。私はたとえアキラが全人類の敵になるようなことをしたとしても、アキラのことを信じます」
「だけどな、その前提が間違っていたんだ」
再会してしまったときに、覚悟を決めるしかないと思った。
俺はあの瀕死の状況からネムスギアが隠された機能――サバイバルギアを展開させてから起こったことを全て詳細にわたって説明した。
妹とテレパシーを通じて再会したことから、彼女に俺が大地彰の体を使っているだけの別人であることを教えられたこと。
妹のテレポートでエルフの国に入り、ここにいるマーシャというエルフの世話になったこと。
そして、女王を守るために戦うマーシャたちを見て、再び戦う決意を新たにしたこと。
……マーシャが俺の監視役であるということはさすがに省いた。
彼女が俺に好意があるように装っていることを説明すると、ややこしい話になると思ったから。
俺は大きく息を吐いてヨミを見つめた。
全てを一気に説明したからさすがに疲れた。
ヨミは俺が説明している間じっと見つめるだけで言葉を挟むことはなかった。
「……私が、必死に探している間、その方と同棲生活をしていた、と」
冷や汗が背中と顔に一気に出るくらいの殺気を放ってきた。
「ちょっと待て。同棲じゃなくて、共同生活だ」
「あら、私は同棲のつもりでしたよ。だって、私はアキラさんのことが好きだと――」
「へぇ~……」
……火に油を注ぐようなマネを……。
そもそもマーシャの好意は全て演技だろうが。
そう言ってやりたかったが、それを知ったらヨミがどんな行動に出るのか予想付かない。
っていうか、一番大事なところをすっ飛ばして気になるところがそこなのかと思った。
「ヨミ、マーシャのことはひとまず置いてくれ。俺は、大地彰じゃなかったんだぞ。本当の俺がどんな人間なのか俺にもまだわからない」
「そんなことは些細な問題じゃありませんか」
「へ? いや、そうじゃないだろ。俺は、ヨミが好きだと言ってるのは大地彰であって俺じゃないと思っていたから、会いに行くのも躊躇っていたのに……」
「私を見くびらないでいただけませんか? 要するにアキラの体には別の誰かの心とか魂とかが宿っているってことですよね」
「まあ、たぶん……」
妹も肉体は大地彰のものだと言っていたから、きっとそういう意味なんだと思ってる。
「名前はわかりませんが、そのどなたかがアキラの体を動かしている」
あの説明で、ヨミは全て把握していた。
「じゃあ、問題ありません」
「どこが!?」
思わずそう言ってしまうほど、ヨミはあっけらかんとしていた。
これじゃ、悩んでる俺がバカみたいじゃないか。
「私が惹かれたのはアキラの外見ではありません。あなたの心に惹かれたのですから」
それを言われたら、もう何も言えることはなかった。
心の重りがなくなっていくような感覚だった。
好きな相手に受け入れられると言うことが、これほど心を落ち着かせるものなのかと感動してしまいそうになる。
「ヨミ。改めて俺から伝えておきたいことがある」
「……はい、何でしょう」
「俺は、ヨミのことが好きだ」
「はい、私もあなたのことを愛しています」
「……ヨミやこの世界と向き合うことから逃げていた俺を許してくれるなら、また共に歩んで行ってくれないか?」
「私は常に、あなたと共にあります」
手を伸ばすと、ヨミが俺の体に飛び込んできた。
全身で彼女の温もりを感じる。
胸の鼓動が伝わってくる。
それが自分のものなのかヨミのものなのかはわからないくらい、お互いにドキドキしている気がした。
顔を見ようとしたら、ヨミも同じようにこちらに顔を向けてきた。
そのまま瞳を閉じて、顔を近づけてくる――。
まさかこのまま……。
「あの、そういうのは二人きりの時にしていただけますか」
怒気をはらんだ声でマーシャが言った。
そこでようやく俺とヨミは我に返って体を離した。
「……あなたが、ヨミだったのですね?」
「あ、はい」
「アキラさんと同じ上級冒険者だから、人間だと思っていたのですが……まさか魔王だったとは」
「あ、いえ。元々は魔物なんですよ。ただ、帝国というところで魔王と戦った後に、魔王として覚醒してしまっただけで……」
それは初耳だった。
そう言えば、ヨミがあれからどうなったのかまったく知らなかった。
エリザベス女王の話だと、すでに人間の世界は魔族との戦争になっているらしいが、ヨミは何でこんなところに来たのかもよくわからない。
何よりも気になるのは――。
「ヨミ、アスルはどうした? 一緒じゃないのか?」
その質問に、ヨミは俯いてしまった。
「まさか、死――」
「ち、違います。そうじゃないんです」
大きく手を振ってそれだけは否定した。
「アキラが行方不明になってすぐに、私とアスラフェルくんでアキラの捜索に向かいました。ですが、その途中で魔界の結界が消滅して人間と魔族の衝突が激しくなる中、行方知れずになってしまったのです……」
「ネムスギアのセンサーで捜せないかな」
『この世界にはGPSはありませんからね……。キャノンギアなら、ある程度近くにいれば気づけるかも知れませんが、その距離まで近づけたならわざわざセンサーまで使って探る必要はないでしょうね』
ってことは、地道に捜すしかないってことか。
今度はギルドにアスルの行方を依頼しなければならないのか?
しかし、その状況でよくヨミは俺の居場所がわかったな。
迷いなくこっちを目指していたってことは、エルフの国ではなく俺を捜していたってことだろ。
「ヨミはどうやって俺の居場所を知ったんだ?」
「夢の中で誰かが教えてくれたんですよ。それも、ほとんど毎日。最初は疑っていたんですが、こちらに向かわなければ毎日夢の中で語りかけてくるのでノイローゼになるかと思いました」
……夢の中で?
それってもしかして……。
「話はそこまでです。あなたが魔王であることに変わりはありません。アキラさんの心を拐かすことには成功したようですが、私が救って見せます」
マーシャたちは三人で再び戦う構えを見せた。
それもそれで気になるが、俺たちは全員お互いの様子を窺って硬直していた。
俺がマーシャのところに着いたとき、そこには三人の魔族と三人のエルフがいた。
マーシャは前回一緒だったエルフとチームを組んで行動していたようだ。
対するは三人の魔族なのだが、その内の一人が二人を相手に戦っている。
マーシャは防御魔法で攻撃を防いでいただけで、後衛の二人に攻撃の指示が出せずにいた。
そこへ俺が到着し、魔族たちは目線で俺やマーシャたちを牽制していた。
「アキラさん! やっぱり魔族同士が争っています! もうすぐそこまで魔王も迫っていますし、私たちはどうしたら……」
マーシャが叫んだ。
それを合図にするかのように戦闘が再開される。
「ダークフレア!」
魔族の一人が、マーシャたちに向かって魔法を放つ。
「ダークサンダー!」
もう一人も魔族がほぼ同時に俺にも魔法を放った。
二人の魔族と戦っていた魔族がマーシャたちに手を向けた。
「ダークホール」
マーシャの防御魔法の目の前に漆黒の穴が現れ、闇に包まれた炎が吸い込まれる。
俺には闇を纏った雷が向かってきていた。
それは俺の逃げ場を遮るように当たりの木々に広がっていく。
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ファイトギアなので、雷は目で追える。
だが、このように範囲攻撃的に使われると、見切れているからといって避けられるものではない。
すぐにソードギアへと再変身した。
防御力の面ではキャノンギアだろうが、辺りに障害物の多い森の中では攻撃の面で使いづらい。
バスターキヤノンの砲身が大きいから枝や木に引っかかると面倒だ。
そのための選択だが、間違ってはいなかった。
魔法は直撃したが、あまりダメージはなかった。
静電気よりは、痛いかなという程度。
しかし、これでどちらの味方をすれば良いかははっきりした。
マーシャたちはまだ魔族と協力することに迷っているようだが、俺はそんなことは考えない。
少なくともこれで二対二だ。
マーシャたちを攻撃しようとした魔族は、もう一人の魔族に任せる。
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「魔法が効かないなら、直接俺の手で――」
魔族が爪を立てて攻撃してくる。
それを剣で切り落とそうとしたが弾かれた。
技をセットしていないとはいえ、魔物だって傷くらいは与えられるのに。
見た目が人間と変わらないから、どうしても肉体の強度に驚かされる。
『あ、彰! ま、魔王がすぐそこに――』
突然のAIからの警告。
「え?」
と反応することしか出来なかった。
俺に攻撃を続ける魔族の後ろの木がめきめきと音を立てて折れる。
その向こうから闇を纏った何者かの影が飛びだしてきた。
これが、魔王――!?
「アキラ!!」
瞳が絡み合う。
その刹那だけ目尻を下げたが、すぐに俺と対峙していた魔族の方へ向いて表情を怒りに染めた。
恐ろしいほどに魔力が膨れ上がる。
「私のアキラに手を出したのはお前か!!」
「ま、魔王様! 俺はただ魔王様の邪魔になるものは退かしてやろうと――」
「黙りなさい!」
闇を纏った拳が魔族の胴体を貫く。
たった一撃でその魔族はクリスタルだけになってしまった。
「……私の威光を借りてただ暴れたいだけでしょう、あなたたちは……」
恐ろしいほど冷たい瞳でクリスタルを睨みつけると、魔王はそれを踏み砕いた。
もう一人の魔族はそれを見ると、どこかへ逃げてしまった。
残されたのは、俺と魔王。魔族と戦っていた魔族。そして、マーシャたち。
魔王からはそれまでの殺気が嘘のように消えて、魔法による身体強化もなくなっていた。
俺も変身を解除して魔王と向かい合う。
「あ……あの……ずっと、探していました」
魔王とはとても思えないか細い声で、目に涙も浮かべている。
俺は、なんていったらいいのかわからなかった。
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恐らくは複合魔法だろう。
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「いや、その必要は……」
「アキラさんですって?」
魔王は埃を払うように光の炎を手で払った。
ほとんど無傷。
魔王が相手じゃ、普通の魔法はそれほど効果はない。
それこそ、複合戦略魔法くらいの破壊力がなければ。
「なぜ、アキラのことを親しげに呼ぶのですか?」
そう言いながら魔王がゆっくりとマーシャたちに近づく。
「レインボーホーリーアロー!!」
マーシャの仲間がさらに魔法を撃った。
七色の光の矢が拡散し、木々の間を縫いながら魔王に向かって行く。
もちろん、これも避けようともしない。
全て直撃したが、魔王の歩みを止めることすらできなかった。
「無駄です。その程度の魔法では私には傷一つ付けられません」
「こ、これが魔王の力……!?」
マーシャは驚くだけだったが、後ろの二人は震えていてもう戦えそうになかった。
「これならどうです。光の神と聖なる神の名において、我が命ずる! 闇を貫く一条の光。ホーリーランス!」
マーシャの手に光の槍が現れた。
両手で構えて、魔王に向かって行く。
「はっ!」
連続で突きを繰り出す。その動きが速くて、生身だと幾重にも重なって見えた。
魔王もさすがに身体強化の魔法無しでその攻撃を避けきるのは難しいのか、OLの着ているようなミニスカートのスーツが所々破れていった。
「止めてください! 私はただ、あなたとアキラの関係が知りたいだけで、戦うつもりはありません!」
そう言いながら、魔王が光の槍を手で掴んだ。
「な……」
「あなたはアキラの何なのですか!?」
「何をわけのわからないことを……」
『いつまで見ているつもりですか?』
AIが呆れたように言った。
「わかってるんだよ。この戦いを止められるのは、俺だけだって。でも、何を言ったらいいのかわからないんだ」
『もう気持ちははっきりしているのですから、正直に言えばいいんですよ』
「俺の気持ちはそうかも知れないけど、その前に俺の正体のことを明かさないとフェアじゃないし……」
などとぐじぐじ悩んでいたら、二人の怒鳴り合いが聞こえてきた。
「離してください!」
「いいえ、離しません! それよりも、アキラとの関係を教えてください!」
「なぜ、魔王であるあなたにそのようなことを教えなければならないのです!」
魔王とマーシャの間に血が滴り落ちる。
そりゃ、光の槍の切っ先を思いきり手で掴んでいるからさすがに傷ついているんだろう。
確かにこのままじゃ誤解を重ねることにしかならない。
俺は二人に近づいて、二人の手を握った。
「マーシャ、その魔法を解除してくれないか」
「な、なぜです!?」
「それは――彼女が俺の一番大切な女性だからだ」
「あ、アキラ――」
魔王が光の槍から手を離すと、マーシャの手からも光の槍が消えた。
俺はまず、魔王になってしまったヨミと向かい合った。
「……久しぶり、と言ったら良いのかな」
ヨミは血に濡れた手で顔を覆った。
それじゃ汚れてしまうと思ったが、止めどなく涙が零れてしまうから、せっかくの綺麗な顔が台無しになってしまうくらいぐしゃぐしゃだった。
女が泣いているだけでも俺にはどうしたらいいのかわからないのに、それが好きな相手じゃ謝るくらいしか思いつかなかった。
「えーと、ごめん」
ヨミが泣きながら頷く。
「その……なんていうか……ヨミのことは忘れていたわけじゃなかったんだ。会って話すべきこともたくさんあると思ってた」
ヨミの肩がピクッと震えた。
「それでも探しに行けなかったのは、俺が大地彰じゃなかったから……って、今もやっぱりどう説明したらいいのかわからないんだ」
ヨミはまだ肩を震わせたまま手を少しだけ下げて目を向けてきた。
「アキラが、アキラじゃない? 私に理解できないことをいって誤魔化そうとしてるんですか?」
説明する前に、俺はこの場にいる者たちに呼びかけた。
「誰でもいいけど、タオルとか持ってないか?」
「あ、それなら私が」
マーシャが腰に下げたポーチからハンドタオルを出した。
それを受け取り、ヨミに差し出す。
「あ、ありがとうございます」
「ヨミ。話せば長くなるし、俺のことも信用できなくなるかも知れない。俺はそれが少し怖い」
「私が、アキラのことを? ありえません。私はたとえアキラが全人類の敵になるようなことをしたとしても、アキラのことを信じます」
「だけどな、その前提が間違っていたんだ」
再会してしまったときに、覚悟を決めるしかないと思った。
俺はあの瀕死の状況からネムスギアが隠された機能――サバイバルギアを展開させてから起こったことを全て詳細にわたって説明した。
妹とテレパシーを通じて再会したことから、彼女に俺が大地彰の体を使っているだけの別人であることを教えられたこと。
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そして、女王を守るために戦うマーシャたちを見て、再び戦う決意を新たにしたこと。
……マーシャが俺の監視役であるということはさすがに省いた。
彼女が俺に好意があるように装っていることを説明すると、ややこしい話になると思ったから。
俺は大きく息を吐いてヨミを見つめた。
全てを一気に説明したからさすがに疲れた。
ヨミは俺が説明している間じっと見つめるだけで言葉を挟むことはなかった。
「……私が、必死に探している間、その方と同棲生活をしていた、と」
冷や汗が背中と顔に一気に出るくらいの殺気を放ってきた。
「ちょっと待て。同棲じゃなくて、共同生活だ」
「あら、私は同棲のつもりでしたよ。だって、私はアキラさんのことが好きだと――」
「へぇ~……」
……火に油を注ぐようなマネを……。
そもそもマーシャの好意は全て演技だろうが。
そう言ってやりたかったが、それを知ったらヨミがどんな行動に出るのか予想付かない。
っていうか、一番大事なところをすっ飛ばして気になるところがそこなのかと思った。
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「そんなことは些細な問題じゃありませんか」
「へ? いや、そうじゃないだろ。俺は、ヨミが好きだと言ってるのは大地彰であって俺じゃないと思っていたから、会いに行くのも躊躇っていたのに……」
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「まあ、たぶん……」
妹も肉体は大地彰のものだと言っていたから、きっとそういう意味なんだと思ってる。
「名前はわかりませんが、そのどなたかがアキラの体を動かしている」
あの説明で、ヨミは全て把握していた。
「じゃあ、問題ありません」
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思わずそう言ってしまうほど、ヨミはあっけらかんとしていた。
これじゃ、悩んでる俺がバカみたいじゃないか。
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それを言われたら、もう何も言えることはなかった。
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好きな相手に受け入れられると言うことが、これほど心を落ち着かせるものなのかと感動してしまいそうになる。
「ヨミ。改めて俺から伝えておきたいことがある」
「……はい、何でしょう」
「俺は、ヨミのことが好きだ」
「はい、私もあなたのことを愛しています」
「……ヨミやこの世界と向き合うことから逃げていた俺を許してくれるなら、また共に歩んで行ってくれないか?」
「私は常に、あなたと共にあります」
手を伸ばすと、ヨミが俺の体に飛び込んできた。
全身で彼女の温もりを感じる。
胸の鼓動が伝わってくる。
それが自分のものなのかヨミのものなのかはわからないくらい、お互いにドキドキしている気がした。
顔を見ようとしたら、ヨミも同じようにこちらに顔を向けてきた。
そのまま瞳を閉じて、顔を近づけてくる――。
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「あの、そういうのは二人きりの時にしていただけますか」
怒気をはらんだ声でマーシャが言った。
そこでようやく俺とヨミは我に返って体を離した。
「……あなたが、ヨミだったのですね?」
「あ、はい」
「アキラさんと同じ上級冒険者だから、人間だと思っていたのですが……まさか魔王だったとは」
「あ、いえ。元々は魔物なんですよ。ただ、帝国というところで魔王と戦った後に、魔王として覚醒してしまっただけで……」
それは初耳だった。
そう言えば、ヨミがあれからどうなったのかまったく知らなかった。
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何よりも気になるのは――。
「ヨミ、アスルはどうした? 一緒じゃないのか?」
その質問に、ヨミは俯いてしまった。
「まさか、死――」
「ち、違います。そうじゃないんです」
大きく手を振ってそれだけは否定した。
「アキラが行方不明になってすぐに、私とアスラフェルくんでアキラの捜索に向かいました。ですが、その途中で魔界の結界が消滅して人間と魔族の衝突が激しくなる中、行方知れずになってしまったのです……」
「ネムスギアのセンサーで捜せないかな」
『この世界にはGPSはありませんからね……。キャノンギアなら、ある程度近くにいれば気づけるかも知れませんが、その距離まで近づけたならわざわざセンサーまで使って探る必要はないでしょうね』
ってことは、地道に捜すしかないってことか。
今度はギルドにアスルの行方を依頼しなければならないのか?
しかし、その状況でよくヨミは俺の居場所がわかったな。
迷いなくこっちを目指していたってことは、エルフの国ではなく俺を捜していたってことだろ。
「ヨミはどうやって俺の居場所を知ったんだ?」
「夢の中で誰かが教えてくれたんですよ。それも、ほとんど毎日。最初は疑っていたんですが、こちらに向かわなければ毎日夢の中で語りかけてくるのでノイローゼになるかと思いました」
……夢の中で?
それってもしかして……。
「話はそこまでです。あなたが魔王であることに変わりはありません。アキラさんの心を拐かすことには成功したようですが、私が救って見せます」
マーシャたちは三人で再び戦う構えを見せた。
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突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。
だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。
魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。
だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。
追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。
訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。
そして助けた少女は、実は王国の姫!?
「もう面倒ごとはごめんだ」
そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。
追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る
夏見ナイ
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貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
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王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~
くーねるでぶる(戒め)
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アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。
大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。
そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。
しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。
戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。
「面白いじゃん?」
アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。
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