世界を救った変身ヒーローだったのに、人類に危険視されて異世界へ追放されたのだが

天地海

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変身ヒーローと未知の国

ハードウェアとシステムのバージョンアップ完了

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 目を覚ますと、そこはまだ謁見の間だった。
 部屋の真ん中、絨毯の上に俺は寝ていた。
 女王様が魔法で博士の研究所の設備を出現させたように見えたのは夢だったのだろうか。
『おはようございます。ハードウェアのアップグレードは無事終了しました』
「それってつまり、改造だよな」
『意味は同じです』
「でも、あの設備は?」
 辺りをキョロキョロ見渡すと、玉座でぐったりしている女王様と目があった。
「それは私が説明しましょう」
 物質を具現化させる魔法は一時的なものでしかない。
 エルフの国の技術は、魔法によって一時的に作り出されたものを分解して分析し、模倣したものだった。
 博士の設備は分解して分析できるような代物ではないし、ネムスギアの改造を最優先に考えて具現化させた設備をそのまま使った。
「設備が具現化していたのは六時間ほどでしたから、結構時間ギリギリの戦いでした」
「女王様がネムスギアの手伝いをしてくれたってことか」
 ぐったりしているのは魔法を使っただけでなく、彼女がネムスギアの改造を実質的に行ったということだろう。
 よく考えれば、AIではサバイバルギアを使わなければ俺の体はせいぜい片腕くらいしか自由に動かせない。
「必要なことはネムスギアが全て情報として書き起こしてくれました。私はそれをほんの少し手伝ったに過ぎません」
『ご謙遜を。エリザベス女王様の理解力と知識の高さは、すでに私を凌駕しているといっても過言ではありません』
 エルフのことを信じていなかったのに、AIはたった一晩で女王様への見解を変えた。
 俺はAIが思っていたことをそのまま女王様に伝える。
「いえいえ。それはネムスギアの教え方が上手だっただけですよ」
 何だか、俺一人だけが蚊帳の外に置いて行かれたような感じ。
 ま、こっちはこっちで一つ大きな出会いがあったけど。
 大地彰の魂は確かにこの体で眠っている。
 俺はこれから、憧れた正義のヒーローを演じるのではなく、俺自身の思い描く正義を貫きたいと思う。
 彼の妹の言うように、俺も答えを知らなければならない。
 この異世界へ来た理由。
 それも、なぜか自分自身ではなく大地彰として。
 きっと何か意味がある。
『あの、聞いてますか?』
「え? 悪い。考え事をしていた」
『ネムスギアの新たな力について説明しておきます』

 ~ネムスギア、ハイパーユニオンギア~
 この変身は人間体から直接展開するには体に負荷がかかりすぎるため、一度他のフォームを展開した後でなければ使えない。
 起動コードは「融合変身」
 そのコードの通り、全てのフォームを合体させて同時に展開するシステム。
 素早さも防御力も破壊力も全てが個別のフォームを超える。
 武器はハイパーマテリアルソード、ハイパーバスターキャノン。
 必殺技も、二つの必殺技を組み合わせたものが使える。
 サバイバルギアと同様に、周囲からエネルギーを取り込み常に生産するため、エネルギー切れを起こすこともなくなる。
 ――ただし、あまりに大量のエネルギーを一度に生産し使用するため、その負荷に肉体も制御装置も耐えられないため最大でも三分しかこのシステムを展開することは出来ない。
 限界時間を超えると強制的に変身解除され、以降六時間は変身できなくなる。
 自らの意思で解除したときは、使用時間に比例してシステムの再起動時間が変わる。
 一分なら二時間。二分なら四時間。変身できない。

「短期決戦特化型のサバイバルギア、か」
「着想はそうですが、私の意志で彰の体を使うわけではないので、サバイバルギアの時のような行動予測機能は使えません」
 ああ、あの未来が見えるみたいなヤツか。
 あれはあまりに強すぎた。
 ただ、俺には数秒先の行動予測を見せられたところで、すぐにそれに対処できるように動けるかどうかわからないから、むしろ見えない方が良いだろう。
 これなら魔王ともまともに戦えそうだが、最大でも三分か。
 使いどころを間違えると死ぬことになるな。
「アキラさん。さっそくで申し訳ないのですが、魔王が山を越えてこちらに向かっているとの情報を近衛隊が掴みました。彼女たちを助けていただけませんか?」
「そのために、ネムスギアと女王様が頑張ってくれたんだからな。戦わなければならないなら、全力を尽くすだけだ」
「ありがとうございます」
 やっぱり、ちょっと変だ。
 今まで女王は自分たちの国でさえも守ることに消極的だった。
 引きこもって逃げるだけで、見つかったらそれが運命だと受け入れる。
 それなのに、俺に手を貸して魔王を退けることを望んでいる。
 この心境の変化は何なんだろう。
 何か企んでいるとしたら、それはきっとAIが見抜いていただろうし、彼女を尊敬するようなことも言わないはずだ。
 納得のいく理由がなければ、この場から立ち去ることは出来なかった。
「女王様は、もうこの世界のことは諦めたんじゃないのか?」
「……そうですね。変わることのない毎日。変わることのない運命。きっと何をやっても無駄なのだろうと思っていました。アキラさんに出会うまでは……」
「俺?」
「この世界は今、私の知らない物語が紡がれています」
「女王様が経験してきたループ世界では、ケルベロスも戦争も俺じゃない誰かが解決したって話か」
「はい。そして、アキラさんの“変身”を見て確信しました。あなたなら、違う未来を見せてくれるのかも知れない、と」
「その辺りのことも、ちゃんと聞かせてもらいたいな」
 何かが俺に告げている。
 ただの勘だけど、俺の正体に関わることのような……。
「魔王とのことに決着が付いたら、その時は私の持つ全ての情報を授けましょう」
「ああ、約束だ」
 ――サムズアップ。右手の拳から親指だけを立てて、女王様に向けた。
「地下駐車場へ向かってください。車とフィリーを待たせています」
 ……また、あいつの運転でエルフの国の壁まで行くのか……
 それだけがちょっと憂鬱だった。

 例の扉から外に出る。
 時間は朝の十時を少し回ったところだった。
 前回来たときはあまり見て回る余裕はなかった。
 フィリーの話だとまだ魔王とは距離が離れているようで、マーシャが中心となって防御陣形を組んでいる最中だと言っていた。
 相手が魔王だけならエルフたちには帰ってもらうところだが……。
 魔物や魔族を先遣隊として送ってきた以上、今回も魔王と共に襲ってくるとみて間違いないんだろうな。
 上手く戦力を分断できれば良いが。
 その辺りの相談をしておきたいし、まずはマーシャを探すことにした。
「ここは確か、リンドヒルーツ王国の町なんだよな?」
『ええ、そもそもリンドヒルーツ王国自体が人間の国ではなく、エルフの国を隠すための擬装用に造られた国だそうですよ』
「それ、ずっと気になってるんだけど、エルフは悪事を嫌いでも平気で嘘をつくってなんか矛盾してないか?」
『そのロジックに答えは出ていますが、あまり気を悪くしないでくださいね』
 あれほどエルフを敵視していたのに、AIも変わるものだ。
 エルフに気を遣っている。
「構わないから教えてくれ」
『エルフにとって人間は対等な存在ではありません。ですから、そのような種族に対しての悪事はそもそも悪事として認識されていないと言うことです』
 ……それってなんか……魔族が人間に殺意を抱いていないってことと似ている気がする。
 でもまあ、外見や学習能力、魔力。
 どれをとっても、エルフや魔族は完成された人間のようだものな。
 客観的に考えれば、エルフや魔族から見たら人間は下位互換のような存在だろう。
『ですから、今後は少なくとも彰にだけは嘘をつかなくなるでしょう。ま、私には見抜けない嘘もありませんが』
 それは、女王が俺のことを認めるということでもある。

 その町の名前はわからない。
 石やレンガで作られた家は、所々に建てられていた。
 道路は舗装などされていないし、王都のような石畳の道もない。
 そもそも家が並んで立っているわけではなくて、バラバラに建てられているから道も何もあったものじゃなかった。
 町の規模は、初めて見たクリームヒルトくらいか。
 あの町は町の敷地を示す壁が木の板だったが、この町は一応石で壁が作られている。
 大きな違いと言ったらそれくらいなものだ。
 町の門は北と南に一つずつ。
 大きな木の扉は閉められていて、門の近くに人影が見えた。
 茶髪の女性。ごく普通の町に住む女性が着るような布の服に裾が広がるような形のスカートを合わせて穿いている。
 遠目には人間にしか見えない。
 近づいてみても特徴的な耳すらないので、外見から彼女がエルフであると見抜ける人間はいない。
 洞察力や観察力で見抜くのは不可能だ。
 そして、町一つすら魔法で隠してしまうことの出来るエルフの精神魔法から逃れられる人間もいない。
 だから、彼女を一目見てエルフだと認識できるのは、俺とネムスギアのAIくらいだと思う。
「あの、近衛隊の副隊長をやってる、マーシャを探しているんだけど……」
 門の扉の見張りをしていたと思われる茶髪のエルフは一瞬肩を震わせたが、俺の顔を見て胸を撫で下ろした。
「マーシャさんと同棲している人間ではありませんか。驚かせないでください」
「そう言う覚え方はちょっと……。俺のことはアキラと呼んでくれ」
「知ってます。この場に来たということは、防衛作戦に参加すると言うことでよろしいのでしょうか?」
「ああ、女王様からの依頼でもある」
「女王様が? あなたのような人間に頼ったというのですか?」
 ナチュラルに見下してくるが、そんなことを気にしている場合ではなかった。
 センサーによる情報に頼らなくても、強い魔力のプレッシャーを感じる。
 正確な位置はわからない。
 だけど、こちらに向かってくるという意志だけは強く感じられる。
 これはやはり、話し合いの通じるような相手ではなさそうだ。
 伝説の武器との戦いを望まない魔王なら、アスルの父のように人間と戦わない魔王なんじゃないかと思っていたが……。
「マーシャさんを魔族から救い出したくらいであまりいい気にならないでくださいね。あれは魔族の卑怯な動きに惑わされただけなのですから」
「わかってるから、マーシャの居場所を教えてくれ」
「……町を出て、北東の森に隠れています。魔王と共に行動している魔族を攻撃して気を逸らせば、そちらに誘導できないか試して見るそうです」
 さすがに魔王との直接対決をしようなどとは考えていないってことか。
 賢明な判断だが、マーシャは副隊長で責任者なのに最前線に出ているのか?
 それを聞いたら目の前の人間の姿をしたエルフは苦虫をかみつぶしたような表情をさせた。
「前回の戦いで、近衛隊にはかなりの負傷者が出ています。一応魔力の高いものの中から急遽戦力を補充しましたが……」
 いくら魔力が高くても、戦闘の素人を戦士としていきなり近衛隊に放り込むのは無謀だ。
 そもそも、国を守るための兵士が少ないような気もするが……。
 確か、エルフの人口は千人もいないんだっけ。
 前回の戦いに参加した近衛隊が全てではなかったとしても、兵士が百人もいるわけはないな。
 人口の一割を兵士には出来ない。
 今回の戦闘に参加している兵士がどれだけ少ないのかは察するにあまりある。
 それだけ手薄じゃ、副隊長自ら最前線に向かうのは必然だ。
 まずはマーシャに合流することが大事だな。
 俺は礼を言って門を開けてもらい、町の外に出た。
 町の入り口付近は森が切り開かれていて、ちょっとした広場になっている。
 そこから街道が森の中を貫くように延びていた。
 凄まじいまでのプレッシャーと悪寒に襲われる。
「魔王の位置とマーシャたちの位置を感知できるか?」
 キャノンギアに変身すれば詳細なデータが手に入るだろうが、対魔王戦に備えてなるべくエネルギーは使いたくなかった。
『……妙です。この魔力の反応は……すでに戦闘が始まっている?』
「え?」
 どういうことなのか聞き返そうとしたら、森の中から爆発音と煙が見えた。
 それを皮切りに、断続的に森に火の手が上がる。
「何がどうなってるんだ? マーシャたちが魔族と接触したのか?」
『もしそうなら、なぜこれほど広範囲にわたって戦闘が発生しているのか、説明が付かないと思いますが……』
 爆発は一つや二つじゃない。
 見える限りでは、十ほど煙が上がっているのが見える。
 これって、魔王とか魔族以前にヤバいことにならないか?
 森の中で火の魔法を使ったらどうなるか、よく考えてもらいたい。
 とにかく一番近いところの戦闘から止めないと。
 火事が森全体に広がれば魔王に関係なくあの町まで火に巻かれることになる。
 舌打ちをしながらも、AIの指示に従って一番近い戦闘地点を目指す。
 街道を少し進んでから森の中に入る。
 もちろん、この戦闘それ自体が魔族や魔王の作戦の可能性は捨てきれない。
 木々を隠れ蓑に、慎重に近づく。
「止めなさい! 我が魔王は人を傷つけることなど望んでいません!」
「馬鹿なことを言ってるんじゃねえよ! 人間の町に行くってことは、もちろんそいつらを殺すためってことだろ!」
「違います! それはあなた方が暴れたい理由を勝手に作ってるだけにすぎません」
「魔王の考えていることを忖度して動くのが従う者の務めだろ!」
「ですから、私はこうしてあなた方を止めるのです!」
 見たことのない魔族が戦っていた。
 その姿は美しい人間のよう。
 舞い踊るかのように、魔法の応酬をしている。
 しかし、何がどうなってるのかさっぱり状況がわからない。
 一方は魔王のために人を殺すことを求め。
 もう一方は魔王のために人を殺すことを止める。
 ま、どちらの味方をするのかと問われれば、答えは決まっている。
「変身!」
 ソードギアを展開すると共に、二人の魔族の間に割って入った。
「何だ!?」
「人間!?」
「丁度良い、お前が最初の獲物だ!」
 背が高く精悍な顔つきの魔族が向かってきた。
「しまった! 逃げてください!」
 髪が長く、まるでモデルのような甘いマスクとスラリとした体の魔族が警告する。
『チャージアタックスリー、レイストームスラッシュ!』
 正面から真っ直ぐに向かってきた魔族を袈裟懸けにする。
 一度に三つの斬撃が精悍な顔つきの魔族を襲い、その場に倒れ伏した。
「な、何だそれは……」
 体から血を流しながら上半身だけで起き上がり、俺を見た。
「殺す気で仕掛けたのはお前が先だからな? 悪いが、手を抜くつもりはない」
 そのままマテリアルソードを突き刺して、魔族にトドメを刺した。
 もう一方の魔族はそんな俺を見たまま固まっている。
 表情からは感情は窺えない。
 たとえ戦っていたとはいえ、やはり魔族が人間に殺されるのは許しがたいことなのか。
 もしそうならこの魔族とも戦わなければならないが、さっきの言葉のやりとりを聞いていると、話せば理解してもらえるような気もするんだけどな……。
「……すまない」
 モデルのような魔族が頭を下げた。
「え? 何で謝るんだ?」
「人間に接触する前に、僕が始末を付けるべきだったのに……やはり、同じ種族を相手にすることに躊躇いがある」
 ずいぶん律儀な魔族だ。
 でも、これなら少しは話が出来そうだ。
 俺は変身を解除して魔族と向き合った。
「あんたはアスル――いや、フェラルドとかいう魔王を知っているか?」
「ああ、知っている。我が魔王と同じく人間と争うことに否定的な魔王だ」
「あんたも今こっちに向かってる魔王も同じように人間と争うことに否定的ってことで良いんだよな」
「僕は我が魔王ほど覚悟をしていない。なぜならあのお方は――」
 近くで大きな爆発音が上がった。
 衝撃波が風や煙と共にこっちに向かってくる。
「話をしている暇はなさそうだ。強き人間よ、出来ればこの森から立ち去ってくれ。僕は人間を僕らの戦いに巻き込みたくない」
「おい、ちょっと――」
 待てという言葉を発するよりも先に、彼は森の中へと消えていった。
 ここに向かってる魔王は、人間との争いに否定的?
 じゃあどうして魔族はマーシャたちと戦ったんだ?
 人間とは戦わなくても、エルフとは戦うのか?
 そうだとしたら、魔族同士で戦ってる理由もわからない。
 ……前回の戦いで、マーシャたちが混乱した理由がちょっとだけわかった。
「――あ!」
 魔族にばかり気を取られていたが、マーシャたちは無事だろうか。
「マーシャたちの位置はわかるか?」
『補足できましたが、すでにあちらも戦闘に巻き込まれている模様です』
 結局、また乱戦か。
 しかも今度は何を考えてるのかわからない魔王も近くにいる。
「急ぐぞ! 変身!」
 走りながらファイトギアフォームを展開して、マーシャたちのところへ向かった。
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