世界を救った変身ヒーローだったのに、人類に危険視されて異世界へ追放されたのだが

天地海

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変身ヒーローと未知の国

剣の勇者と新たな魔王の戦い

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「風の神の名において、我が命ずる! 真空の刃よ、斬り刻め! ブラストカッター!」
 変身が完了すると同時にルーシアの魔法が飛んできた。
 俺がもう一呼吸置いてから変身していたら間に合わなかった。
 彼女は本気で俺の邪魔をするらしい。
 真空の刃は普通には見ることはできない。
 ネムスギアのセンサーが風の流れを可視化させてくれるお陰で、それを捉えることができる。
 マテリアルソードを薙ぎ払って真空の刃を断ち切る。
 後に残るのはそよ風だけだった。
「くっ!」
「止めろ。ガイハルトとヨミでさえ戦う必要はないのに、人間同士で戦うなんて間違ってるだろ」
「うるさい! あんたは魔王を守ろうとしている。戦う理由はそれだけで十分よ!」
 ルーシアは短剣を逆手に構え。
「風の神の名において、我が命ずる! 疾風のごとき翼よ、我が足に宿りなさい。ゲイルブーツ!」
 突風に乗るようにして飛び込んできた。
 風の魔法による速度強化。
 とはいえ、使い慣れていないのか、接近戦が苦手なのか、ソードギアでも十分対応できるレベルの攻撃だった。
 前後左右から短剣を振るうが、マテリアルソードを盾にして防ぐ。
 問題があるとしたら、鬱陶しいことこの上ないってことと、こちらが仕掛けるには微妙に動きが速いってところ。
 近接戦闘が下手なのも、こういう時は逆に作用する。
 俺としてはルーシアを傷つけずに戦闘不能にしたいが、時折バランスを崩したり、速さに動きが付いてきていないから予測できない。
 ……もしかして、それを狙っているのか?
 ルーシアの装備はどう見ても近接戦闘向きじゃない。
 服装はシンプルな魔道士のもの。布の服のワンピース。腰にはベルト。長めのブーツに黒いマント。
 俺が本気で攻撃したら技を使わなくても致命傷を与えかねない。
「どうしたの? ずっとそうして防御してるつもり?」
「そっちこそ、魔法で攻撃しないんだな」
 ルーシアの高速移動攻撃をいなしながら言葉を返す。
「あんたの戦い方はガイハルト様と一緒に研究してきたわ! 遠距離から攻撃なんかしたら、たちまちあの赤い鎧の高速攻撃で倒されてしまうもの」
 そう言うことか。
 この攻撃は対ソードギア用ではなくて、対ファイトギア用のものだったわけだ。
 確かに、普通の人間相手の戦いならファイトギアの方が向いている。
 ……力の制御を間違えると、気絶させるだけではすまない。
 しかし、このままじゃこちらからは何も出来ないしじり貧だ。
 ルーシアの攻撃の隙間からガイハルトとヨミの様子が見えた。

 ガイハルトの斬撃はどれも重く鋭そうに見えた。
 伝説の剣は普通のロングソードくらいの長さしかないのに、それ以上に力強さを感じる。
 ヨミは闇を纏ってその攻撃を防いでいた。
「止めてください! 私はあなたと戦うつもりはありません!」
「なら、大人しく殺されろ!」
 ガイハルトが剣を突き出す。
 それをヨミは構えた右腕を振り上げて弾く。
 体勢を崩されたかに見えたガイハルトはそのまま斜めに斬り下ろした。
 ヨミはそれを左手の掌底を繰り出すことで攻撃を逸らす。
 次から次へと繰り出される攻撃をヨミは確実に防いでいた。
 おまけに今はあの強大な魔力がある。
 多少攻撃を食らったとしても、すぐに魔力で再生できるだろう。
 戦闘能力だけを見たら、確かに俺が倒した魔王と同じ――あるいはそれ以上か。
 ただ、能力と戦況は一致しない。
 ヨミは防戦一方でガイハルトに押されていた。
 それは当然、ガイハルトが強いからではない。
 ヨミが反撃していないだけだ。……正確には、俺と同じで反撃できないだけだ。
 このまま放っておいても、ガイハルトの体力が尽きるだけのような気もしてくる。
「チッ! これでも喰らいやがれ! 伝説の剣よ! その力を示せ! 光龍剣!」
 伝説の剣の刃の部分が光り輝き、まるでそこに龍が出現したかのように長く太くなった。
 って、あれはソードギアの必殺技にそっくりじゃ……。
「はああっ……」
 ヨミが両手に闇を集中させた。
 振り下ろされた光の龍はヨミの腕を飲み込む。
「うあああああああああああ!!」
 魔王の力を持ってしても受け止めることが出来ずに、まるで本物の龍に食いちぎられたかのようにヨミの腕は肘から先が失われていた。
「これで、トドメだ!」
 ガイハルトは攻撃の手を緩めず、さらに剣を横に薙ぎ払う。
 俺はその様子を見ながら驚愕していた。
 ガイハルトの強さにではない。
 あれだけの攻撃を食らっても、ヨミの魔力がほとんど落ちていないことに。
 俺が倒した魔王も伝説の武器の攻撃は見た目ほどダメージを与えていなかった。
 これが、魔王という存在の力。
 とはいえ、防ぐことの出来なかった攻撃を二度も受けるヨミではない。
 大きく空へ飛び上がって二撃目は避けた。
「……俺一人じゃそう簡単には魔王は倒せないか……」
 伝説の剣は元の姿に戻っていた。
「……あの、やはりもう止めてください」
 懇願するようにヨミは言った。
 しかし、その瞳はどこか哀れなものを見るかのよう。
「命乞いか? そんなことを聞いてやるほど俺は甘くない」
「……違います。手を合わせてわかりました。あなたでは私には勝てない」
 ヨミの腕が見る間に再生していく。
 肉体だけでなく服も魔力で復元できる素材で作られているから、戦いの痕跡すら見られないほどヨミはいつもの姿へ戻った。
「なに……」
 ガイハルトのつぶやきは、ヨミの言葉に対するものなのか? それとも、まったくダメージを与えることが出来なかったことにたいしてなのか?
「この、化け物が!!」
「ダーククロースアーマー」
 魔力が闇となってヨミの体を覆う。
 いつもと同じ魔法だが、いつもと形状が違う。
 体の線がわかるくらい色濃い闇がヨミの体に張り付いている。
 まるで、全身スーツに変身してしまったかのよう。
 服の上から纏っていたのに、服の形がわからない。
 それが凄まじいエネルギーを帯びていることはセンサーからの情報でわかっていた。
 ヨミはもうガイハルトの攻撃を避けなかった。
 伝説の剣がヨミの体を斬りつけるが、鈍い金属音が響くだけで傷一つ付かない。
 ガイハルトの説得は諦めたのか、ヨミはただ攻撃を受け続けている。
 このままじゃ埒が明かないな。
 ヨミは人間を傷つけることは出来ない。
 だから負けることはなくても、勝つことも出来ない。
 そう思っていたら、何かが空を飛んできた。
 小さな影がほんの一瞬だけ太陽を隠す。
 それが通った後には、煌めくような白い羽が落ちていた。
 白いワンピースドレスにブレストプレートを身につけた翼を持つ少女。
 あれは、俺が倒した天使そのものだった。
 生きていた?
 いや、そんなはずはない。
 魔物のようにクリスタルにはならなかったが、命を形成するエネルギーのようなものが消滅したことは確認した。
「……魔王よ。なぜお前は戦わない」
「そんなの、決まってます。人間と戦う必要がないからです!」
 ガイハルトは天使の介入に戸惑っていた。
「戦う必要がない? ならばなぜ、人間の前に現れた? まさか、人間と話し合おうと考えているわけではないだろうな」
「はい、いけませんか? 人間と話をするのは?」
「お前はこの世界の秩序を乱すものだ。排除する」
「おい、ちょっと待てよ! そいつは俺が倒すんだ。手を出すな!」
 ガイハルトが声を上げて抗議する。
 しかし、天使の瞳はヨミにしか向けられていない。
「拒否する」
 冷たく一言だけそう告げられると、
「な……」
 ガイハルトは小さく言葉を零して狼狽えているように見えた。
 天使は構わずヨミに向かって降りてくる。
「光の神と聖なる神の名において、我が命ずる。天をも貫く浄化の光。ホーリーランス」
 天使の手に光の槍が現れる。
 空中から飛び込むようにして槍でヨミを突き刺す。
 それをヨミはバク転で躱した。
 さらに天使は追撃をしようと槍を突き出す。
 しかし、ヨミはその全てを難なく躱していた。
 その事にホッとする。
 あの光の槍は魔族を一撃で倒してしまうほどの威力があった。
 魔王といえど無傷では済まない。
 それにしても、エリザベス女王が言っていたことは本当だった。
 人間と戦おうとしない魔王が現れると、天使が介入する。
 アスルの父親も、同じように天使に狙われているのだろうか。
 ……もしかしたらそれを避けるために魔界にいるのかも知れないな。
「俺の邪魔をするな!」
 ガイハルトは後ろから天使に斬りかかった。
 天使はまるで後ろにも目があるのかと思わせるほどの反応速度で槍の刃だけを背に向けて伝説の剣を受け止める。
「……なぜ、勇者が私の邪魔をする」
「それは、お前だろうが! 伝説の勇者が魔王を倒すはずだろ!」
「……魔王の欠陥品と戦っても意味はない。お前には倒すべき魔王が他にいる」
「何だそりゃ、俺は魔王からこの世界を守るために伝説の剣に選ばれたんだ! 戦う相手をお前に決められる筋合いはない!」
「理解不能。伝説の剣に選ばれた勇者も欠陥……だったノカ?」
 戸惑う天使の横をすり抜けてガイハルトがヨミを斬りつける。
「――剣を持つ勇者の行動理由は理解不能ダガ、私は私の任務を遂行スル」
「くっ……」
 さすがに二対一じゃヨミでも苦戦しそうだ。何しろガイハルトには手が出せないし。
 表情から余裕が消えていた。
 この状況を打開するには、俺が戦うしかない。
 大地彰も人間は攻撃しなかったと思うが、俺は彼女を守ることに躊躇うつもりはない。

 ルーシアの攻撃は未熟であるが故にランダム性が高く、見切るのは簡単ではなかったが、隙は大きい。
 俺が彼女の何度目かの攻撃をギリギリで躱した。
 受け止めなかったことで彼女は大きくバランスを崩す。
「変身!」
 それを待っていた俺はすかさずファイトギアフォームへ変身する。
 顔から地面に倒れそうになった彼女のみぞおちに当て身を入れる。
 できる限り力を抑えて優しく触れるように。
 ルーシアはそのまま眠るように倒れた。
 最初からこうしていれば良かったのだが、ガイハルト相手にヨミが後れを取ることはないと確信していたから余裕を持ちすぎた。

 すぐにヨミの元へ駆けつける。
『チャージアタックワン、メテオライトブロー!』
 熱い炎のような力が拳に宿る。
 ヨミを直線的に攻撃するガイハルトと天使の横からパンチを繰り出して二人とも吹き飛ばした。
「アキラ! あの、ルーシアさんはまさか……」
「気絶させただけだ」
「そうですか!」
 ヨミは喜びながら俺の手を取ってその場で飛び跳ねた。
 なんて言うか、目のやり場に困る。
 闇が体にフィットするように張り付いているから、まるで裸のようにも見えるし。
「……それ“ダーククロースアーマー”なんだよな? いつもと形状が違うけど」
「あ、はい。魔力を多く使うと私の体ピッタリになって身体機能をさらに高めてくれるんですよ。何だか、ちょっとアキラのネムスギアに似ていますよね」
 一応俺のはその上に鎧のようなものも形成されているのだが……。
 戦闘用のスーツという意味では似ていると言えるか。
 あまり直視していると照れるから目を逸らした。
 その先に、立ち上がる二つの影が映る。
 不意打ちだったとはいえ、さすがにあれでは勇者も天使も倒せないか。
 ま、勇者に関しては倒すつもりもないのだが。
 上手く力を制御してルーシアのように気絶させられれば良いが、勇者だからな……。
 天使の方は、倒す以外に選択肢はない。
「ヨミ、少し下がっていろ。あいつらは俺が相手をする」
「アキラ一人でですか? 確かに私ではガイハルトさんには手が出せませんが、天使は私に任せていただいても……」
「乱戦になったら、ガイハルトを攻撃してしまうかも知れない。それがヨミに大きな隙を作らせることになる。天使はそこを見逃さない。だから、ヨミは防御に徹していて欲しいんだ」
「……もし、アキラがガイハルトさんに傷つけられるようなことがあったら、きっと……天使が望むような魔王になってしまいますからね」
 たとえそうなってもヨミは人間を殺そうとはしない。
 そう確信できるだけの心があるから、ヨミに惹かれたんだ。
 だから、その気もないくせに脅すようなことを言うヨミが愛おしいと思った。
「わかったよ。魔王との戦いを経て強くなったのはヨミだけじゃないってところを見せてやるよ」
 俺はそういって歩み出た。
「ガイハルトと天使に言っておく。ヨミを倒したかったら、まず俺を倒さなければ近づくことすら許さない」
 天使は頭を横に振ってつぶやいた。
「……人間が、魔王を守る? 理解不能。お前の存在は世界の秩序を破壊する。排除対象と認識する」
「……俺のことを覚えていないのか?」
 天使は俺の言葉にはまったく反応しなかった。
 同じに見えるが、別の天使のようだ。
 おまけに、情報も共有されていない。
 それなら好都合だ。
 ここでこいつを倒せば、当面天使の介入を防げるはずだ。
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