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変身ヒーローと未知の国
三つ巴の攻防
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先に仕掛けてきたのはガイハルトだった。
これまでに三人の勇者と戦った経験から、伝説の勇者と言ってもその戦闘能力は武器に依存する。
杖の勇者に手間取ったのは、伝説の杖によってあらゆる魔法が使えたから。
伝説の剣の必殺技はただの魔族程度なら一撃で倒せるだろう。
気をつけなければならないのはそれだけだった。
もちろん、剣の切れ味も伝説と呼ばれるほどではあるだろうが……。
「はっ! うおりゃあ!」
気合いを込めてガイハルトが剣を振るう。
そのどれもがファイトギアフォームの俺にはスローに見えた。
ケルベロスに敗戦してから、今日まで真面目に修行してきたことは確かだと思う。
斬撃の鋭さ、足の運び、そして目の動きは洗練されたものだった。
実戦経験も相当に積んできたと思われる。
形だけを修業するとどうしても型通りの直線的な動きになるが、ガイハルトは躱した俺の動きも予測しながら、合わせるように斬撃に変化を加えていた。
……もっとも、その微妙な動きさえ捉えられるほどにファイトギアによる動体視力と身体能力の向上は高いわけだが。
ほんの十秒の間に次々と繰り出される攻撃を全て躱す。
そして、ガイハルトは小さく息を吐いて吸い込もうとしたが――。
俺はその瞬間を待っていた。
『チャージアタックスリー、イラプションアッパー!』
人間は無呼吸で激しく動くことはできない。
もちろんそれはネムスギアを使っている俺も例外ではない。
ガイハルトが最小限の動きで呼吸を整えようとしたのは、賞賛に値する技術だった。
相手が普通の人間か、魔族だったなら。
呼吸に合わせるように剣を下から振り上げようとするが、その前に俺の拳がガイハルトの顎を捉えた。
本来は拳のエネルギーを爆発させて相手を空高くへ吹き飛ばす技だが、そこまでの力使わなかった。
それでもガイハルトは三メートルほど吹き飛ぶ。
最初の技でも立ち上がったくらいだからそれほどダメージはないはずだが、顎をキレイに打ち抜いたから気絶くらいはしていて欲しい。
しかし、それを確かめる前に今度は槍が突きを繰り出してきた。
慌てて体を反らす。
「…………」
天使は無言のまま、攻撃を続ける。
その動きはガイハルトに比べてどことなく無機質でロボットのようだった。
『以前の天使との戦闘データから、このままファイトギアで戦うことは危険です』
そう言えば、あの時は天使の周囲を吹き飛ばす魔法を使った。
ネムスギアがそれを警戒するのは当然だが、俺は戦い方が違うと感じていた。
天使の姿形は同じだけど、あの時とは中身が違う。
まるで、今の俺のようだ。
「光の神と風の神の名において、我が命ずる。光を越える神速の風。我と共に舞い踊れ。フラッシュアクセラレート」
天使の全身が光に包まれる。
それはあの時の爆発にも似ていたが、呪文が違う。
光が天使の姿を包み込み、その中から凄まじい速度で天使が槍を構えたまま向かってきた。
ファイトギアの動体視力と反応速度でも、躱しきれない。
俺の本能が強くそう思ったことに、ネムスギアが応えた。
『起動コードを認証しました。ネムスギア、キャノンギアフォーム、展開します』
光の槍の切っ先がキャノンギアのアーマーにぶつかり、その衝撃で俺は大きく地面を転がった。
街道に大の字になって空を仰ぐ。
胸の辺りと膝や肘に痛みを感じるが、ほとんどが転がった時に打ちつけたことによる打撲だろう。
手で胸の辺りを触るが、アーマーの手触りは変わらない。
手足を確かめるようにゆっくりと立ち上がる。
改めて見てみると、突きを喰らった辺りに傷が入っていた。
それだけでもあの光の槍と天使の突進攻撃が強かったのだと証明できた。
ファイトギアのままだったら、体を貫かれていた。
それにしても、天使にとっては絶好のチャンスだったはずなのに、どうして追撃してこなかったのか……。
その答えはセンサーが示してくれた。
ガイハルトと天使が戦っている。
「だから、俺の戦いに割り込むんじゃねえ!」
一見すると闇雲に斬りつけているように見えるが、ガイハルトの斬撃はそれほど悪くはない。
おまけに天使は勇者と戦うことに戸惑っていて、防御に徹していた。
「剣を持つ勇者ヨ。私の邪魔をするなら、勇者としての資格を奪うゾ」
「やってみやがれ!」
「……仕方がない。伝説の剣には別の勇者を選定してもらオウ」
天使はそこでようやく俺やヨミから視線を外してガイハルトを見た。
二歩分ほど後ろに飛び退り、光の槍の切っ先を斜め下に向けて両手で構える。
「風の神と雷の神の名において、我が命ずる。吹き荒れる竜巻と天を引き裂く雷光」
槍の刃に風が渦を巻く。そこに出来た小さな竜巻から雷が発生して辺りを焼き焦がす。
センサーがその魔法の魔力を計測する。
二つの複合魔法だけど、かなりの威力が想像できた。
天使は本気でガイハルトを殺す気なのか?
「ライトニングストーム」
淡々と魔法を放つ。
その言葉とは裏腹に、槍の先端から飛び出した竜巻は雷を伴って地面を抉り焼き焦がしながらガイハルトに向かって行く。
速さはそれほどでもない。
人間でも見てから躱せそうだが……。
その魔法は進むに比例してどんどん大きくなっていった。
ガイハルトに近づいた時には、家一軒くらいなら飲み込んでしまうほどの大きさだった。
それを見てから逃げ出していたが、判断が遅い。
あれを防ぐには近づいて避けるべきだったんだ。
俺はバスターキャノンを構えた。
『チャージショットワン、エレメントバスター!』
エネルギーの塊が極太のビーム砲となって発射される。
それが天使の放った魔法を横から破壊する。
しかし、膨れ上がった竜巻と雷の渦は破壊された反動で爆発した。
近くにいたガイハルトはその爆発に飲み込まれる。
声を出す間もなく、彼の姿は巻き上げられた土砂と煙の中に消えていった。
「…………余計なことをしたかな……?」
『直撃よりも威力は減ったはずですよ。それに……勇者というのは伊達ではないようです』
AIはそれ以上は言葉では伝えなかった。
センサーと映像でガイハルトの無事を証明して見せた。
呼吸は安定しているし、熱も平熱。
煙の中から揺らめくように立ち上がった人影が映る。
その人影は煙を薙ぎ払うようにして現れた。
「アキラ=ダイチ……助けられたとは思わないからな」
悪態をついてはいるが、俺が魔法を撃ったことの意味は理解しているようだった。
『……威力を落としたファイトギアの技では気絶させることが出来なかった理由がわかった気がします』
分析を終えたのか、AIがそう言った。
どういう意味なのかと考えると、すかさず答えてくれる。
『勇者に選ばれたものは、やはり身体能力もある程度強化されているようですね』
その割には、斧の勇者は魔王に一撃で殺されてしまった気がするが。
『それだけ魔王の力が強かったというわけです。何しろキャノンギアのアーマーさえ貫くほどの力だったわけですから』
話を聞いて思い出しただけで、左腕の辺りが疼くような気がした。
でも、確かにヨミの魔法もかなり強化されているし、本気で戦ったら勇者相手ならあれくらいのことは出来るというのもうなずけるか。
『これまでの勇者の戦闘データから、トップクラスのスポーツ選手以上の身体能力が検出されています』
アスリート以上ってことは、人間の身体能力の限界を超えていると言うことか。
ガイハルトを見てそう思えないのは、ネムスギアのせいなんだろうな。
『肉体の強度も平均的な魔族と同等』
そうだったのか。
つまり、ガイハルトを戦闘不能にするには、こちらもある程度本気で戦う必要があった。
俺はネムスギアの分析結果を確認するために、ガイハルトの姿を追った。
ガイハルトは天使との間合いを一気に詰めた。
剣と槍が弾かれ合う。
動きそのものはファイトギアで観察させてもらったが、確かにキャノンギアの高性能センサーで分析させると腕の筋肉の使い方は常人離れしていた。
次から次へと斬撃を繰り返す。
天使の槍とぶつかり合う音だけが音楽を奏でるかのごとく鳴り響く。
こうして視ていると、天使はよくガイハルトの攻撃をいなしている。
身長も体つきもガイハルトより二回り小さく細いのに、槍で剣を受け流していた。
それでもごくたまに二人の体に傷が入る。
ガイハルトは防御をしていない。
手数で天使を圧倒してはいるが、天使も隙を見つけては槍を小さく突き出している。
そして、ガイハルトの体に突き刺さった槍を引き抜く瞬間、天使もまた無防備になるからガイハルトの斬撃が天使の体を掠める。
光の槍は魔族の体を貫き、キャノンギアのアーマーに傷を付けた。
力の入った一撃ではなくても、それなりに攻撃力はあるはずだ。
それでも、ガイハルトの攻撃は止まらない。
徐々に天使が後ろに下がっていく。
そして、ガイハルトはそれをチャンスとみたのか、剣を両手で構えて大きく振りかぶった。
隙だらけだ。
天使もそう思ったのか、その場でガイハルトの体めがけて槍を延ばす。
しかし、彼は足首にひねりを入れて天使の攻撃を体の横に滑り込ませた。
そのまま右腕を畳むと、槍は脇腹と右腕にがっちり掴まれる。
ガイハルトは左腕一本で剣を振るい、掴んだ光の槍を真ん中から断ち切った。
武器を失い、バランスを崩した天使の体を右手で掴む。
「俺の邪魔をするなら、次は本当に殺すぞ!」
そう言って天使を投げ飛ばした。
もちろん、それでダメージが与えられるならガイハルトも俺も苦労はしていないわけで、天使はすぐに立ち上がってスカートに付いた泥を払った。
すると、その場で手を組み立ったまま動かなくなった。
ガイハルトの脅しが利いたのか、それとも何か理由があるのか。
天使を警戒しつつも、こちらに向かって歩き出したガイハルトをロックオンした。
「ガイハルト。どうしてもヨミを殺したいか?」
「ああ、魔王という存在を許すわけにはいかない」
「それはお前の意志なんだろうな?」
「当たり前だ。伝説の武器に選ばれた時に俺たちは守護神から教えられたんだ。魔族に支配された世界は人間は家畜や奴隷のような扱いを受ける。俺は、俺を支えてくれたルーシアをそんな目に遭わせたくない!」
守護神。
伝説の武器を守るゴーレムか。
あいつは資格を持つ可能性のあるものに、相応しいかどうかを質問するだけじゃなかったんだな。
力を与えてくれる武器と、それを守護するものから与えられる情報。
伝説の武器を……特別な力を求めるものの意志が強ければ強いほど、勇者は妄信的に勇者の使命を信じる。
しかも、魔族は現実として人間を殺す。エサとして。
中にはヨミやアスルのようなものもいるってだけだ。
勇者を相手に話し合いで説得できるわけはなかった。
話し合いに応じさせるには、戦意を喪失させて勇者としての資格を失わせるしかない。
あるいは魔王がやって見せたように、武器そのものを破壊するってのもある。
いずれにしても、もう手は抜けない。
「ヨミは俺の恋人だ。こっちだって殺させるわけにはいかない」
「……相手は魔物……魔王だぞ……」
「好きになった女が魔物だっただけさ」
「……本気なんだな」
「ああ、だから先に言っておく。ここで引いてくれ。それ以上進むなら、俺はお前を本気で倒す」
「それは聞けない。本気なのは俺も同じだ」
『チャージショットワン、エレメントバスター!』
砲弾がバスターキャノンに装填される。
ガイハルトが剣を構えてこちらに向かうのと、俺がトリガーを引くのは同時だった。
すでにロックオンしているから逃げたり避けたりしても無駄。
極太のビーム砲は正確にガイハルトの体を捉えていた。
「うおおおおおお!」
伝説の剣はビーム砲を受け止める。
「伝説の剣よ! その力を示せ! 光龍剣!」
剣から現れた光の龍がビーム砲に絡み合う。
それは互いのエネルギーをぶつけ合い――弾ける音だけ残して消えていった。
相殺したのか。
ガイハルトがその身体能力を生かして一気に間合いを詰めてきた。
剣なら遠距離攻撃の方が分があると思ったが、こうなるとファイトギアじゃなければ対応できないか。
キャノンギアだと斬撃全てを見切るのは不可能だ。
失敗したと思ったのは、最初の一撃を食らうまでだった。
伝説の剣は光の槍と刃を重ねていた時のような鈍い音を上げるだけだった。
そう言えば、光の槍だってあの突進力があってやっとアーマーに傷をちょっと付けただけ。
いくら鋭いとは言っても、この程度の攻撃はどうということもなかった。
『チャージショットスリー、ショットガンバレット!』
このままならほとんどゼロ距離で撃てる。
さすがにこれをまともに喰らえば勇者といえど――。
「ホーリーランス」
『後ろに下がってください!』
警告よりも先に光の槍が目の前に落ちてきた。
狙っていたのは俺ではなく、バスターキャノン。
砲身の真ん中に光の槍が突き刺さっていて使いものにならない。
確か、一度武装解除してから再度武器を形成する必要がある。
「やはり俺の邪魔をする気か!」
怒気をはらんだ声でガイハルトは上空に佇む天使に叫んでいた。
「私がその武器を破壊していなければ、勇者は死んでいました」
「……感謝しろとでも言うつもりか?」
「いいえ。このままでは合理的ではありません。私たちの目的は同じです。これは本来、勇者の役割ではないのですが、今回は目的の達成を最優先事項として妥協しましょう」
「何を言っている」
ガイハルトはまだ天使を疑いの眼差しで見ていた。
「勇者よ、私と協力して魔王とその仲間を排除しましょう」
「……それは、卑怯じゃないか……?」
「何を言っているのですか。魔王も人間の仲間を使っている。私たちも二人で戦うべきです」
「いや、俺にもルーシアという仲間が……」
そこまで言ったところでガイハルトがハッとした。
「アキラ、お前はルーシアと戦っていたはずだ。ルーシアをどうした?」
「彼女なら気絶してる。命に別状はない」
そう言って、俺がルーシアを寝かせた辺りを指で差すと、丁度ヨミが介抱していた。
「魔王――お前まさか」
「あ、大丈夫ですよ。アキラは優しい人ですから、ちゃんと傷もつかないように当て身をして寝かせたみたいです」
朗らかに笑うヨミとは対照的にガイハルトの表情は見る間に険しくなっていく。
「いや、あれは俺たちの戦いに巻き込まれないように介抱してるだけだって。ヨミは別に人間を取って食ったりはしないから」
誤解を解こうと思って言ったが、まるで聞いていない。
「……わかった。こいつらを倒すのに、手段は選んでいられないってことだな。天使と言ったか、俺に協力しろ」
「目的一致。これより、任務遂行します」
ガイハルトが剣を、天使が槍を構えて俺の前に並び立った。
これまでに三人の勇者と戦った経験から、伝説の勇者と言ってもその戦闘能力は武器に依存する。
杖の勇者に手間取ったのは、伝説の杖によってあらゆる魔法が使えたから。
伝説の剣の必殺技はただの魔族程度なら一撃で倒せるだろう。
気をつけなければならないのはそれだけだった。
もちろん、剣の切れ味も伝説と呼ばれるほどではあるだろうが……。
「はっ! うおりゃあ!」
気合いを込めてガイハルトが剣を振るう。
そのどれもがファイトギアフォームの俺にはスローに見えた。
ケルベロスに敗戦してから、今日まで真面目に修行してきたことは確かだと思う。
斬撃の鋭さ、足の運び、そして目の動きは洗練されたものだった。
実戦経験も相当に積んできたと思われる。
形だけを修業するとどうしても型通りの直線的な動きになるが、ガイハルトは躱した俺の動きも予測しながら、合わせるように斬撃に変化を加えていた。
……もっとも、その微妙な動きさえ捉えられるほどにファイトギアによる動体視力と身体能力の向上は高いわけだが。
ほんの十秒の間に次々と繰り出される攻撃を全て躱す。
そして、ガイハルトは小さく息を吐いて吸い込もうとしたが――。
俺はその瞬間を待っていた。
『チャージアタックスリー、イラプションアッパー!』
人間は無呼吸で激しく動くことはできない。
もちろんそれはネムスギアを使っている俺も例外ではない。
ガイハルトが最小限の動きで呼吸を整えようとしたのは、賞賛に値する技術だった。
相手が普通の人間か、魔族だったなら。
呼吸に合わせるように剣を下から振り上げようとするが、その前に俺の拳がガイハルトの顎を捉えた。
本来は拳のエネルギーを爆発させて相手を空高くへ吹き飛ばす技だが、そこまでの力使わなかった。
それでもガイハルトは三メートルほど吹き飛ぶ。
最初の技でも立ち上がったくらいだからそれほどダメージはないはずだが、顎をキレイに打ち抜いたから気絶くらいはしていて欲しい。
しかし、それを確かめる前に今度は槍が突きを繰り出してきた。
慌てて体を反らす。
「…………」
天使は無言のまま、攻撃を続ける。
その動きはガイハルトに比べてどことなく無機質でロボットのようだった。
『以前の天使との戦闘データから、このままファイトギアで戦うことは危険です』
そう言えば、あの時は天使の周囲を吹き飛ばす魔法を使った。
ネムスギアがそれを警戒するのは当然だが、俺は戦い方が違うと感じていた。
天使の姿形は同じだけど、あの時とは中身が違う。
まるで、今の俺のようだ。
「光の神と風の神の名において、我が命ずる。光を越える神速の風。我と共に舞い踊れ。フラッシュアクセラレート」
天使の全身が光に包まれる。
それはあの時の爆発にも似ていたが、呪文が違う。
光が天使の姿を包み込み、その中から凄まじい速度で天使が槍を構えたまま向かってきた。
ファイトギアの動体視力と反応速度でも、躱しきれない。
俺の本能が強くそう思ったことに、ネムスギアが応えた。
『起動コードを認証しました。ネムスギア、キャノンギアフォーム、展開します』
光の槍の切っ先がキャノンギアのアーマーにぶつかり、その衝撃で俺は大きく地面を転がった。
街道に大の字になって空を仰ぐ。
胸の辺りと膝や肘に痛みを感じるが、ほとんどが転がった時に打ちつけたことによる打撲だろう。
手で胸の辺りを触るが、アーマーの手触りは変わらない。
手足を確かめるようにゆっくりと立ち上がる。
改めて見てみると、突きを喰らった辺りに傷が入っていた。
それだけでもあの光の槍と天使の突進攻撃が強かったのだと証明できた。
ファイトギアのままだったら、体を貫かれていた。
それにしても、天使にとっては絶好のチャンスだったはずなのに、どうして追撃してこなかったのか……。
その答えはセンサーが示してくれた。
ガイハルトと天使が戦っている。
「だから、俺の戦いに割り込むんじゃねえ!」
一見すると闇雲に斬りつけているように見えるが、ガイハルトの斬撃はそれほど悪くはない。
おまけに天使は勇者と戦うことに戸惑っていて、防御に徹していた。
「剣を持つ勇者ヨ。私の邪魔をするなら、勇者としての資格を奪うゾ」
「やってみやがれ!」
「……仕方がない。伝説の剣には別の勇者を選定してもらオウ」
天使はそこでようやく俺やヨミから視線を外してガイハルトを見た。
二歩分ほど後ろに飛び退り、光の槍の切っ先を斜め下に向けて両手で構える。
「風の神と雷の神の名において、我が命ずる。吹き荒れる竜巻と天を引き裂く雷光」
槍の刃に風が渦を巻く。そこに出来た小さな竜巻から雷が発生して辺りを焼き焦がす。
センサーがその魔法の魔力を計測する。
二つの複合魔法だけど、かなりの威力が想像できた。
天使は本気でガイハルトを殺す気なのか?
「ライトニングストーム」
淡々と魔法を放つ。
その言葉とは裏腹に、槍の先端から飛び出した竜巻は雷を伴って地面を抉り焼き焦がしながらガイハルトに向かって行く。
速さはそれほどでもない。
人間でも見てから躱せそうだが……。
その魔法は進むに比例してどんどん大きくなっていった。
ガイハルトに近づいた時には、家一軒くらいなら飲み込んでしまうほどの大きさだった。
それを見てから逃げ出していたが、判断が遅い。
あれを防ぐには近づいて避けるべきだったんだ。
俺はバスターキャノンを構えた。
『チャージショットワン、エレメントバスター!』
エネルギーの塊が極太のビーム砲となって発射される。
それが天使の放った魔法を横から破壊する。
しかし、膨れ上がった竜巻と雷の渦は破壊された反動で爆発した。
近くにいたガイハルトはその爆発に飲み込まれる。
声を出す間もなく、彼の姿は巻き上げられた土砂と煙の中に消えていった。
「…………余計なことをしたかな……?」
『直撃よりも威力は減ったはずですよ。それに……勇者というのは伊達ではないようです』
AIはそれ以上は言葉では伝えなかった。
センサーと映像でガイハルトの無事を証明して見せた。
呼吸は安定しているし、熱も平熱。
煙の中から揺らめくように立ち上がった人影が映る。
その人影は煙を薙ぎ払うようにして現れた。
「アキラ=ダイチ……助けられたとは思わないからな」
悪態をついてはいるが、俺が魔法を撃ったことの意味は理解しているようだった。
『……威力を落としたファイトギアの技では気絶させることが出来なかった理由がわかった気がします』
分析を終えたのか、AIがそう言った。
どういう意味なのかと考えると、すかさず答えてくれる。
『勇者に選ばれたものは、やはり身体能力もある程度強化されているようですね』
その割には、斧の勇者は魔王に一撃で殺されてしまった気がするが。
『それだけ魔王の力が強かったというわけです。何しろキャノンギアのアーマーさえ貫くほどの力だったわけですから』
話を聞いて思い出しただけで、左腕の辺りが疼くような気がした。
でも、確かにヨミの魔法もかなり強化されているし、本気で戦ったら勇者相手ならあれくらいのことは出来るというのもうなずけるか。
『これまでの勇者の戦闘データから、トップクラスのスポーツ選手以上の身体能力が検出されています』
アスリート以上ってことは、人間の身体能力の限界を超えていると言うことか。
ガイハルトを見てそう思えないのは、ネムスギアのせいなんだろうな。
『肉体の強度も平均的な魔族と同等』
そうだったのか。
つまり、ガイハルトを戦闘不能にするには、こちらもある程度本気で戦う必要があった。
俺はネムスギアの分析結果を確認するために、ガイハルトの姿を追った。
ガイハルトは天使との間合いを一気に詰めた。
剣と槍が弾かれ合う。
動きそのものはファイトギアで観察させてもらったが、確かにキャノンギアの高性能センサーで分析させると腕の筋肉の使い方は常人離れしていた。
次から次へと斬撃を繰り返す。
天使の槍とぶつかり合う音だけが音楽を奏でるかのごとく鳴り響く。
こうして視ていると、天使はよくガイハルトの攻撃をいなしている。
身長も体つきもガイハルトより二回り小さく細いのに、槍で剣を受け流していた。
それでもごくたまに二人の体に傷が入る。
ガイハルトは防御をしていない。
手数で天使を圧倒してはいるが、天使も隙を見つけては槍を小さく突き出している。
そして、ガイハルトの体に突き刺さった槍を引き抜く瞬間、天使もまた無防備になるからガイハルトの斬撃が天使の体を掠める。
光の槍は魔族の体を貫き、キャノンギアのアーマーに傷を付けた。
力の入った一撃ではなくても、それなりに攻撃力はあるはずだ。
それでも、ガイハルトの攻撃は止まらない。
徐々に天使が後ろに下がっていく。
そして、ガイハルトはそれをチャンスとみたのか、剣を両手で構えて大きく振りかぶった。
隙だらけだ。
天使もそう思ったのか、その場でガイハルトの体めがけて槍を延ばす。
しかし、彼は足首にひねりを入れて天使の攻撃を体の横に滑り込ませた。
そのまま右腕を畳むと、槍は脇腹と右腕にがっちり掴まれる。
ガイハルトは左腕一本で剣を振るい、掴んだ光の槍を真ん中から断ち切った。
武器を失い、バランスを崩した天使の体を右手で掴む。
「俺の邪魔をするなら、次は本当に殺すぞ!」
そう言って天使を投げ飛ばした。
もちろん、それでダメージが与えられるならガイハルトも俺も苦労はしていないわけで、天使はすぐに立ち上がってスカートに付いた泥を払った。
すると、その場で手を組み立ったまま動かなくなった。
ガイハルトの脅しが利いたのか、それとも何か理由があるのか。
天使を警戒しつつも、こちらに向かって歩き出したガイハルトをロックオンした。
「ガイハルト。どうしてもヨミを殺したいか?」
「ああ、魔王という存在を許すわけにはいかない」
「それはお前の意志なんだろうな?」
「当たり前だ。伝説の武器に選ばれた時に俺たちは守護神から教えられたんだ。魔族に支配された世界は人間は家畜や奴隷のような扱いを受ける。俺は、俺を支えてくれたルーシアをそんな目に遭わせたくない!」
守護神。
伝説の武器を守るゴーレムか。
あいつは資格を持つ可能性のあるものに、相応しいかどうかを質問するだけじゃなかったんだな。
力を与えてくれる武器と、それを守護するものから与えられる情報。
伝説の武器を……特別な力を求めるものの意志が強ければ強いほど、勇者は妄信的に勇者の使命を信じる。
しかも、魔族は現実として人間を殺す。エサとして。
中にはヨミやアスルのようなものもいるってだけだ。
勇者を相手に話し合いで説得できるわけはなかった。
話し合いに応じさせるには、戦意を喪失させて勇者としての資格を失わせるしかない。
あるいは魔王がやって見せたように、武器そのものを破壊するってのもある。
いずれにしても、もう手は抜けない。
「ヨミは俺の恋人だ。こっちだって殺させるわけにはいかない」
「……相手は魔物……魔王だぞ……」
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「……本気なんだな」
「ああ、だから先に言っておく。ここで引いてくれ。それ以上進むなら、俺はお前を本気で倒す」
「それは聞けない。本気なのは俺も同じだ」
『チャージショットワン、エレメントバスター!』
砲弾がバスターキャノンに装填される。
ガイハルトが剣を構えてこちらに向かうのと、俺がトリガーを引くのは同時だった。
すでにロックオンしているから逃げたり避けたりしても無駄。
極太のビーム砲は正確にガイハルトの体を捉えていた。
「うおおおおおお!」
伝説の剣はビーム砲を受け止める。
「伝説の剣よ! その力を示せ! 光龍剣!」
剣から現れた光の龍がビーム砲に絡み合う。
それは互いのエネルギーをぶつけ合い――弾ける音だけ残して消えていった。
相殺したのか。
ガイハルトがその身体能力を生かして一気に間合いを詰めてきた。
剣なら遠距離攻撃の方が分があると思ったが、こうなるとファイトギアじゃなければ対応できないか。
キャノンギアだと斬撃全てを見切るのは不可能だ。
失敗したと思ったのは、最初の一撃を食らうまでだった。
伝説の剣は光の槍と刃を重ねていた時のような鈍い音を上げるだけだった。
そう言えば、光の槍だってあの突進力があってやっとアーマーに傷をちょっと付けただけ。
いくら鋭いとは言っても、この程度の攻撃はどうということもなかった。
『チャージショットスリー、ショットガンバレット!』
このままならほとんどゼロ距離で撃てる。
さすがにこれをまともに喰らえば勇者といえど――。
「ホーリーランス」
『後ろに下がってください!』
警告よりも先に光の槍が目の前に落ちてきた。
狙っていたのは俺ではなく、バスターキャノン。
砲身の真ん中に光の槍が突き刺さっていて使いものにならない。
確か、一度武装解除してから再度武器を形成する必要がある。
「やはり俺の邪魔をする気か!」
怒気をはらんだ声でガイハルトは上空に佇む天使に叫んでいた。
「私がその武器を破壊していなければ、勇者は死んでいました」
「……感謝しろとでも言うつもりか?」
「いいえ。このままでは合理的ではありません。私たちの目的は同じです。これは本来、勇者の役割ではないのですが、今回は目的の達成を最優先事項として妥協しましょう」
「何を言っている」
ガイハルトはまだ天使を疑いの眼差しで見ていた。
「勇者よ、私と協力して魔王とその仲間を排除しましょう」
「……それは、卑怯じゃないか……?」
「何を言っているのですか。魔王も人間の仲間を使っている。私たちも二人で戦うべきです」
「いや、俺にもルーシアという仲間が……」
そこまで言ったところでガイハルトがハッとした。
「アキラ、お前はルーシアと戦っていたはずだ。ルーシアをどうした?」
「彼女なら気絶してる。命に別状はない」
そう言って、俺がルーシアを寝かせた辺りを指で差すと、丁度ヨミが介抱していた。
「魔王――お前まさか」
「あ、大丈夫ですよ。アキラは優しい人ですから、ちゃんと傷もつかないように当て身をして寝かせたみたいです」
朗らかに笑うヨミとは対照的にガイハルトの表情は見る間に険しくなっていく。
「いや、あれは俺たちの戦いに巻き込まれないように介抱してるだけだって。ヨミは別に人間を取って食ったりはしないから」
誤解を解こうと思って言ったが、まるで聞いていない。
「……わかった。こいつらを倒すのに、手段は選んでいられないってことだな。天使と言ったか、俺に協力しろ」
「目的一致。これより、任務遂行します」
ガイハルトが剣を、天使が槍を構えて俺の前に並び立った。
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