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変身ヒーローと未知の国
運命を変えるもの
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世界の理をわかっていても、やはり俺の正体に繋がる情報は得られなかった。
アスルのことのように、フェラルドは何か俺に隠し事をしているようには見えなかった。
俺のことを疑っているのは、俺のことをよくわかっていないからだ。
もっとも、俺自身がわかっていないことを他の者がわかってる方がおかしいか。
「……フェラルドもエルフの女王と同じようにこの世界のループを実際に体験しているんだよな」
「ああ、私の場合は最後まで辿り着くことはないが」
救世主によって全ての魔王は倒され、平和になったと思った直後に世界は終焉を迎えて再び始まる。
つまり、彼はどこかのタイミングで必ず殺されていることになる。
「救世主に殺された後の意識はどうなっている? 俺の世界の概念ではあの世に行くことになっているが、この異世界でも同じような解釈なのか?」
「あの世、というものの存在は良くわからないな。魔族の消滅は意志と思考の消滅を意味する。本来であれば、意識はなくなるはずなんだ。私も初めて救世主と対峙した時はそう覚悟した」
「意識は失わず、この世界に残った?」
俺の推測に、フェラルドは首を横に振った。
「気付いた時には一年前の自分に戻っていた。私は全ての事柄が夢か幻のように思っていたが……」
そこまで言うと彼は目を閉じて天井を仰いだ。
「同じような経験を何度も繰り返す内に、全てが真実であったと結論づけた」
俺は振り返ってシャトラスやエトワスを見た。
「他の魔族はフェラルドのように殺された経験を覚えているか?」
二人とも揃って首を横に振る。
記憶しているのはフェラルドだけ。
エルフの女王の例も加えると、王と呼ばれる特別な存在に与えられた力なのか?
「他の魔王はフェラルドのように覚えているのだろうか……」
「え? 私は生まれる前のことなんて覚えていませんよ」
俺のつぶやきは質問ではなかったが、ヨミが耳ざとく聞きつけて答えた。
それを受けてフェラルドはヨミを見る。
「私の記憶にある限り、魔物が魔王になった例はない。だから、今回の世界の流れは私にも読み切れない部分が多々ある。そして、その中心にいるのがアキラ殿だ」
「俺?」
「そもそも、ケルベロスはあそこまで力を身につけることはなかった。ケルベロスが魔王になるために力を蓄えていたことは知っていたが、人間の冒険者でも十分戦いになる相手だった」
「ちょっと待て、フェラルドはそんな細かいことまで把握しているのか?」
エルフの女王も世界の出来事が今までと違っていることは把握していたが、大まかな話しか聞けなかった。
「当然だ。小さな変化こそが、その後の行方を左右することもある。エリザベス女王は運命という大きな流れの中ではその過程で起こった小さなことの影響力は小さいと言っていた。そこだけは考え方が合わなかった」
「それじゃ、アイレーリスと金華国の戦争やクーデターについてはどこまで知っている」
「協力者はその時々によって変わるが、人間の女王が中心となり、冒険者と共にクーデターを止め、その上で戦争に勝利する」
俺が経験してきたことと逆の流れだ。
俺たちは金華国との戦争に勝ってから、クーデターを止めた。
そして、ここで気になることはもう一つ。
「アスルは、今までも天使に捕らわれて人間の道具にされたのか?」
「人間の女王にクーデターを引き起こした犯人諸共消滅させられる。私は何度か息子を救い出そうと考えたが、天使が相手では何も出来なかった」
キャリーの複合戦略魔法だな。
人間相手でも容赦なく使ったってことか。
だとしたら、そこも違う点ではある。
今のキャリーなら、たとえ魔族や魔物が相手でも話が通じるか確かめるだろう。
「その後はどうなる? 人間と魔族の戦争が始まるのか?」
「人間たちは団結を目指して国々の王たちが動き出す。そして、その時期から魔界の結界の揺らぎが多発するようになる。それに気付いた一部の魔族が人間界に行き、力を得るために人間を殺す」
……同じだ。
俺は世界各地で魔族と戦ってきた。
「そして、これもまた条件がわからないが、人間の世界がアイレーリスの女王か帝国の大統領が統一させると同時に魔界の結界が完全に消失する」
キャリーが統一することもあれば、帝国が統一することもあると言うことか。
どちらにしても人間の国が一致団結して魔族との戦争をすることに変更はない。
「もし、人間の世界が統一しなかった場合、どうなったのかな?」
「主流派の魔族によって大量の死者が出ただろう。ただ、一度たりとも人間の世界がバラバラなまま魔族との戦争が始まることはなかった」
「フェラルドはそれを阻止しようとはしなかったのか?」
戦争が始まらなかったのなら、救世主の登場も必要ない。
ある意味、俺が求めていることと同じだった。
「魔界の結界が消失するのは人間の統一後だ。私には手の打ちようがない」
「確かに、エルフの女王の言うように大まかな世界の流れは変わらないんだな」
「世界の運命を左右させるような出来事に大幅な違いは存在しない。人間の世界も誰が統一させても、協力して魔族との戦争に臨む構図に変わりはない」
「今の状況はあんたの記憶にある限りだと魔王が殺される運命に向かって行っていると思っているのか?」
「……これからの私とアキラ殿の行動次第だな」
含みを持たせるような言い方をした。
「また俺なのか?」
「仕方なかろう。君の存在は私の経験にはなかった。君がアスラフェルを救ってくれて、君がヨミ殿を魔王へ覚醒させた。君が関わるところだけ、なぜか私の知らない出来事が起こる」
だから、フェラルドは俺を信用できないのか。
「今のあんたが人間と戦わないという道を選んだのは、やっぱり救世主の出現を阻止するためなのか?」
「……魔族と人間の争いがなくなれば、救世主は登場する場を失うと考えたのだが、上手くいったためしがない」
「いや、でも戦争を止めようとしているものが魔界にもいるってわかって安心した」
その動機が人間を守るためではなく、魔王自身や仲間の魔族のためであることは想像できた。
それでも、明確にはっきりと人間と戦わないことを望む魔王の存在は大きい。
「さっきあんたはここから先は俺とあんた次第だと言ったが、俺は何をすれば良い」
「……協力すると言うことか?」
「俺はアスルと一緒に旅をしてきた。フェラルドのこともアスルから多少は聞いていた。なぜあんたが人間と戦うことを望まないのか疑問に思っていたが、実際に話してみて信じてみても良いと思った」
フェラルドは目を細めて口の端をわずかにあげた。
「……私はアキラ殿のことをあまり信用していないと言ったが、それでも私のことを信じるというのか?」
「ああ、そう言うところで嘘をついたりしないからな」
俺を騙すつもりなら、信じているように振る舞うはずだ。
「人間というものは、よくわからないものだな」
しみじみとそう言った。
アスルのことは教えてくれなかったが、一番確かめたかったことははっきりした。
フェラルドは人間と戦ったりしない。
それだけは信用できた。
「魔族と似たようなものだろ。魔族や魔物にだって人間と共生したいと考えるものもいる。俺は、全て倒すべき存在だと思っていたからな」
姿がデモンに似ていたから、人間の命を脅かすだけの存在だと思っていた。
しかし、ヨミと出会ったから魔物や魔族にも話してわかり合える者がいると気付かされた。
そこまで言ったところで、思い出したことがあった。
話してわかり合えそうな魔王はフェラルドだけでない。
「そういえば、平和主義派にはもう一人魔王がいると聞いたが、そいつはどうして人間を襲っているんだ?」
エリーネたちを石化させた魔王グロリア。
その魔王も本来は平和主義派のメンバーだったと言っていた。
「それについては俺から答えましょう」
壁際で正しい姿勢のまま立っていたシャトラスが進み出て、フェラルドの前に跪いた。
「フェラルド様。今回の定時報告は彼らにも聞かせたいのですが、よろしいですか?」
「構わない。彼らもお前の帰還に協力してくれたからな」
協力した覚えはなかった。どちらかというと無理矢理手伝わされただけだが、その事を追求しても意味はない。
「それでは報告します。主流派はヴィルギールの説く“人類の脅威論”を末端の魔族や魔物にも浸透させているようです。しかも、極秘裏に天使とも繋がりを持っているようです」
「やはりな……では、グロリアの件もヤツの仕業だったと言うことか」
「はい。手口は魔族を引き込んだ方法と同じです。天使に家族を襲わせ、配下の魔族が大切なものを奪う。グロリア様の場合、姉が天使に殺され、妹が要塞に幽閉されているようです」
何やらよくわからない名前が出てきたが、グロリアという魔王の置かれている状況だけは理解できた。
「ちょっと説明してもらっていいか?」
「はい、どうぞ」
そう言ってシャトラスは立ち上がってから俺に向かい合った。
「まず、ヴィルギールって誰だ?」
「魔王の一人です。主流派には魔界最強との呼び声の高いクロードという魔王がいるのですが、ヴィルギールは魔王でありながらクロードの配下として仕事をしています」
「魔王なのに、魔王の手下なのか……」
「魔王にも力の強い者とそうでないものがいます。ほとんどが戦い向きの成長を遂げるのですが、希にヴィルギールのように頭の優れた魔王も覚醒することがあります。力は強くありませんが、仲間を増やしたり、強い魔王の機嫌を取るのが非常に上手いので厄介な相手であることに変わりはありません」
「で、そのヴィルギールって魔王が天使と繋がりを持っているって?」
「はい」
そんなさらっと言われても困る。
「天使は魔族の敵じゃないのか?」
「ヴィルギールの側近から聞きだした話ですが、天使は世界の混乱を望んでいるらしいんです。つまりは、天使を造り出した神がそれを望んでいます。だから、主流派を攻撃する天使はいません」
「厄介な連中だな、天使も神も」
「奴らがいるせいで、私はこの部屋を造り上げた」
フェラルドが部屋を仰ぎ見るようにした。
「そう言えば、ここの扉を開けるまでフェラルドの魔力を感じることはなかった。魔力を封じることの出来る部屋なのか?」
「ここから出られないのは窮屈だが、魔力を外界から遮断しておかなければ、いつ天使に襲われるかわからないからな……」
「それも、フェラルドの経験から学んだことか?」
「そうだ。この城の仕掛けはほとんどこの部屋の存在を隠すためのダミーに過ぎない」
引きこもっていたことの理由は納得できたが、いつまでもここにいるわけにもいかないんじゃないか。
ここから先どうなるかは俺とフェラルド次第なら。
「話を戻すが、グロリアは望んで主流派にいるわけじゃないんだな?」
「グロリア様だけじゃありません。平和主義派の魔族はヴィルギールに不安を煽られ、ヴィルギールに協力する天使が実際に襲い、その隙に配下の魔族が例えば家族を誘拐して従わせるのです」
「なんて、卑怯な……」
シャトラスの説明に、ヨミが拳を振るわせた。
「グロリアの妹が要塞に幽閉されていると言っていたな」
「はい。主流派の都市から北東に向かったところに軍事要塞があります。グロリア様の妹様はそこに幽閉されています」
「助けに行きましょう!」
間髪を入れず、ヨミが部屋から出て行こうとした。
「「ちょっと待て」」
俺とフェラルドの声が重なって、ヨミが振り返った。
「どうして止めるんですか? アキラは今の話を聞いて見過ごすつもりですか?」
「そうじゃない。ヨミはどうやってグロリアの妹を助けるつもりだ?」
「それはもちろん、返していただけるように説得します。従えないなら、戦って奪い返すまでです」
俺は頭を抱えそうになった。
強くなりすぎた弊害か? いや、元々ヨミは深く考えて行動するタイプではなかったか。
それが良い時もあるが、さすがに今回は正面から強行突破はありえない。
「よく考えてみろ。人質を捕らえられている状況でヨミが敵の要塞に乗り込んでいったら、脅迫されるだけだろ。人質の命と引き換えにヨミも主流派に協力するようにいわれたら意味がない」
俺の説明でようやくヨミは止められた理由を理解してくれた。
とはいえ、グロリアの妹を助け出すって点は同意見だ。
「シャトラスはそこまで情報を掴んでいるってことは、要塞の場所や内部構造もある程度わかっているか?」
「当然ですね。その情報を入手せずに、フェラルド様に報告するなどありえません」
「そこまで自信があるなら両方を地図にして用意してくれないか?」
シャトラスは無言で頷き、ヨミが俺の肩を掴んだ。
「……アキラは助けに行くつもりですか?」
「ああ、だが状況からして正面突破は難しいだろう。単独行動なら俺一人の方が動きやすい」
ネムスギアのセンサーとファイトギアの高速移動を使えばいくらでも監視の目は誤魔化せる。
「私も一緒に行きます」
「それはダメだ」
「なぜです!?」
一瞬たじろぐほどのプレッシャーを感じた。
「わかりませんか? ヨミさんの魔力は高すぎます。近づいただけで要塞に配備されている魔族や魔物が存在に気がつく。それでは、結局正面突破と状況が変わりません」
ずっと黙っていたマーシャが静かにそう告げると、ちょっとだけ勝ち誇ったように微笑んだ。
「――ですから、アキラさんのバックアップは私がします」
「な……」
わなわなと震えるヨミに、マーシャは涼しい顔をさせていた。
「……少し気になっていたのだが、君は本当にヨミ殿の召使いなのか?」
フェラルドにそう聞かれ、マーシャは一歩前に出てお辞儀をした。
「お初にお目にかかります。魔王フェラルド様」
そこで頭を上げると彼女は本来の姿へ戻った。
「私はエルフの近衛隊副隊長――マーシャと申します。エリザベス女王様からフェラルド様のことは窺っておりました。実際にお目にかかれて光栄です」
「お前、エルフだったのか……」
驚いていたのはシャトラスだけだった。
エトワスにも明確に彼女が何者であるか伝えていなかったが、エルフの町から出た後に一緒にいたからわかっていたのかも知れない。
「そうか、君が彼女の側近の一人か……女王は元気にしているか?」
「はい。アキラさんと出会ったことで、運命に抗う覚悟を決めたようです」
フェラルドは俺たちに背を向けて、ぽつりと言った。
「ならば私も、決断しなければならないのかも知れないな……」
そして再び振り返ると、フェラルドは引き締まったような表情をさせた。
「マーシャと言ったか。この魔界では人間の姿をしていた方が良い。魔力も極力人間レベルに制御するように。魔界でエルフが活動していたら、それこそ天使に襲われかねないからな」
「はい、承知しました」
そう言うとすぐに人間の姿に戻る。
「マーシャのことは受け入れてくれると考えて良いんだな?」
「私の派閥の支配地域ではな。しかし主流派にとっては、エルフも人間と変わらない。だから、十二分に気をつけて欲しい」
マーシャが静かに頷くと、フェラルドは真剣な眼差しをこちらに向けてきた。
「アキラ殿。改めて私からお願いしたい。主流派に操られているグロリアを解放するために、彼女の妹の救出に力を貸してくれないか?」
元々そうするつもりだったが、魔王のお願いなら気が引き締まる思いだ。
「ああ、任せてくれ」
俺の行動が魔界にどんな変化をもたらすのかはわからない。
でも、俺の行動基準は変わらない。
困っている人を助ける。
それがたとえ、魔王であっても、魔族であっても、見知らぬ人であっても。
これまでも、これからも――。
アスルのことのように、フェラルドは何か俺に隠し事をしているようには見えなかった。
俺のことを疑っているのは、俺のことをよくわかっていないからだ。
もっとも、俺自身がわかっていないことを他の者がわかってる方がおかしいか。
「……フェラルドもエルフの女王と同じようにこの世界のループを実際に体験しているんだよな」
「ああ、私の場合は最後まで辿り着くことはないが」
救世主によって全ての魔王は倒され、平和になったと思った直後に世界は終焉を迎えて再び始まる。
つまり、彼はどこかのタイミングで必ず殺されていることになる。
「救世主に殺された後の意識はどうなっている? 俺の世界の概念ではあの世に行くことになっているが、この異世界でも同じような解釈なのか?」
「あの世、というものの存在は良くわからないな。魔族の消滅は意志と思考の消滅を意味する。本来であれば、意識はなくなるはずなんだ。私も初めて救世主と対峙した時はそう覚悟した」
「意識は失わず、この世界に残った?」
俺の推測に、フェラルドは首を横に振った。
「気付いた時には一年前の自分に戻っていた。私は全ての事柄が夢か幻のように思っていたが……」
そこまで言うと彼は目を閉じて天井を仰いだ。
「同じような経験を何度も繰り返す内に、全てが真実であったと結論づけた」
俺は振り返ってシャトラスやエトワスを見た。
「他の魔族はフェラルドのように殺された経験を覚えているか?」
二人とも揃って首を横に振る。
記憶しているのはフェラルドだけ。
エルフの女王の例も加えると、王と呼ばれる特別な存在に与えられた力なのか?
「他の魔王はフェラルドのように覚えているのだろうか……」
「え? 私は生まれる前のことなんて覚えていませんよ」
俺のつぶやきは質問ではなかったが、ヨミが耳ざとく聞きつけて答えた。
それを受けてフェラルドはヨミを見る。
「私の記憶にある限り、魔物が魔王になった例はない。だから、今回の世界の流れは私にも読み切れない部分が多々ある。そして、その中心にいるのがアキラ殿だ」
「俺?」
「そもそも、ケルベロスはあそこまで力を身につけることはなかった。ケルベロスが魔王になるために力を蓄えていたことは知っていたが、人間の冒険者でも十分戦いになる相手だった」
「ちょっと待て、フェラルドはそんな細かいことまで把握しているのか?」
エルフの女王も世界の出来事が今までと違っていることは把握していたが、大まかな話しか聞けなかった。
「当然だ。小さな変化こそが、その後の行方を左右することもある。エリザベス女王は運命という大きな流れの中ではその過程で起こった小さなことの影響力は小さいと言っていた。そこだけは考え方が合わなかった」
「それじゃ、アイレーリスと金華国の戦争やクーデターについてはどこまで知っている」
「協力者はその時々によって変わるが、人間の女王が中心となり、冒険者と共にクーデターを止め、その上で戦争に勝利する」
俺が経験してきたことと逆の流れだ。
俺たちは金華国との戦争に勝ってから、クーデターを止めた。
そして、ここで気になることはもう一つ。
「アスルは、今までも天使に捕らわれて人間の道具にされたのか?」
「人間の女王にクーデターを引き起こした犯人諸共消滅させられる。私は何度か息子を救い出そうと考えたが、天使が相手では何も出来なかった」
キャリーの複合戦略魔法だな。
人間相手でも容赦なく使ったってことか。
だとしたら、そこも違う点ではある。
今のキャリーなら、たとえ魔族や魔物が相手でも話が通じるか確かめるだろう。
「その後はどうなる? 人間と魔族の戦争が始まるのか?」
「人間たちは団結を目指して国々の王たちが動き出す。そして、その時期から魔界の結界の揺らぎが多発するようになる。それに気付いた一部の魔族が人間界に行き、力を得るために人間を殺す」
……同じだ。
俺は世界各地で魔族と戦ってきた。
「そして、これもまた条件がわからないが、人間の世界がアイレーリスの女王か帝国の大統領が統一させると同時に魔界の結界が完全に消失する」
キャリーが統一することもあれば、帝国が統一することもあると言うことか。
どちらにしても人間の国が一致団結して魔族との戦争をすることに変更はない。
「もし、人間の世界が統一しなかった場合、どうなったのかな?」
「主流派の魔族によって大量の死者が出ただろう。ただ、一度たりとも人間の世界がバラバラなまま魔族との戦争が始まることはなかった」
「フェラルドはそれを阻止しようとはしなかったのか?」
戦争が始まらなかったのなら、救世主の登場も必要ない。
ある意味、俺が求めていることと同じだった。
「魔界の結界が消失するのは人間の統一後だ。私には手の打ちようがない」
「確かに、エルフの女王の言うように大まかな世界の流れは変わらないんだな」
「世界の運命を左右させるような出来事に大幅な違いは存在しない。人間の世界も誰が統一させても、協力して魔族との戦争に臨む構図に変わりはない」
「今の状況はあんたの記憶にある限りだと魔王が殺される運命に向かって行っていると思っているのか?」
「……これからの私とアキラ殿の行動次第だな」
含みを持たせるような言い方をした。
「また俺なのか?」
「仕方なかろう。君の存在は私の経験にはなかった。君がアスラフェルを救ってくれて、君がヨミ殿を魔王へ覚醒させた。君が関わるところだけ、なぜか私の知らない出来事が起こる」
だから、フェラルドは俺を信用できないのか。
「今のあんたが人間と戦わないという道を選んだのは、やっぱり救世主の出現を阻止するためなのか?」
「……魔族と人間の争いがなくなれば、救世主は登場する場を失うと考えたのだが、上手くいったためしがない」
「いや、でも戦争を止めようとしているものが魔界にもいるってわかって安心した」
その動機が人間を守るためではなく、魔王自身や仲間の魔族のためであることは想像できた。
それでも、明確にはっきりと人間と戦わないことを望む魔王の存在は大きい。
「さっきあんたはここから先は俺とあんた次第だと言ったが、俺は何をすれば良い」
「……協力すると言うことか?」
「俺はアスルと一緒に旅をしてきた。フェラルドのこともアスルから多少は聞いていた。なぜあんたが人間と戦うことを望まないのか疑問に思っていたが、実際に話してみて信じてみても良いと思った」
フェラルドは目を細めて口の端をわずかにあげた。
「……私はアキラ殿のことをあまり信用していないと言ったが、それでも私のことを信じるというのか?」
「ああ、そう言うところで嘘をついたりしないからな」
俺を騙すつもりなら、信じているように振る舞うはずだ。
「人間というものは、よくわからないものだな」
しみじみとそう言った。
アスルのことは教えてくれなかったが、一番確かめたかったことははっきりした。
フェラルドは人間と戦ったりしない。
それだけは信用できた。
「魔族と似たようなものだろ。魔族や魔物にだって人間と共生したいと考えるものもいる。俺は、全て倒すべき存在だと思っていたからな」
姿がデモンに似ていたから、人間の命を脅かすだけの存在だと思っていた。
しかし、ヨミと出会ったから魔物や魔族にも話してわかり合える者がいると気付かされた。
そこまで言ったところで、思い出したことがあった。
話してわかり合えそうな魔王はフェラルドだけでない。
「そういえば、平和主義派にはもう一人魔王がいると聞いたが、そいつはどうして人間を襲っているんだ?」
エリーネたちを石化させた魔王グロリア。
その魔王も本来は平和主義派のメンバーだったと言っていた。
「それについては俺から答えましょう」
壁際で正しい姿勢のまま立っていたシャトラスが進み出て、フェラルドの前に跪いた。
「フェラルド様。今回の定時報告は彼らにも聞かせたいのですが、よろしいですか?」
「構わない。彼らもお前の帰還に協力してくれたからな」
協力した覚えはなかった。どちらかというと無理矢理手伝わされただけだが、その事を追求しても意味はない。
「それでは報告します。主流派はヴィルギールの説く“人類の脅威論”を末端の魔族や魔物にも浸透させているようです。しかも、極秘裏に天使とも繋がりを持っているようです」
「やはりな……では、グロリアの件もヤツの仕業だったと言うことか」
「はい。手口は魔族を引き込んだ方法と同じです。天使に家族を襲わせ、配下の魔族が大切なものを奪う。グロリア様の場合、姉が天使に殺され、妹が要塞に幽閉されているようです」
何やらよくわからない名前が出てきたが、グロリアという魔王の置かれている状況だけは理解できた。
「ちょっと説明してもらっていいか?」
「はい、どうぞ」
そう言ってシャトラスは立ち上がってから俺に向かい合った。
「まず、ヴィルギールって誰だ?」
「魔王の一人です。主流派には魔界最強との呼び声の高いクロードという魔王がいるのですが、ヴィルギールは魔王でありながらクロードの配下として仕事をしています」
「魔王なのに、魔王の手下なのか……」
「魔王にも力の強い者とそうでないものがいます。ほとんどが戦い向きの成長を遂げるのですが、希にヴィルギールのように頭の優れた魔王も覚醒することがあります。力は強くありませんが、仲間を増やしたり、強い魔王の機嫌を取るのが非常に上手いので厄介な相手であることに変わりはありません」
「で、そのヴィルギールって魔王が天使と繋がりを持っているって?」
「はい」
そんなさらっと言われても困る。
「天使は魔族の敵じゃないのか?」
「ヴィルギールの側近から聞きだした話ですが、天使は世界の混乱を望んでいるらしいんです。つまりは、天使を造り出した神がそれを望んでいます。だから、主流派を攻撃する天使はいません」
「厄介な連中だな、天使も神も」
「奴らがいるせいで、私はこの部屋を造り上げた」
フェラルドが部屋を仰ぎ見るようにした。
「そう言えば、ここの扉を開けるまでフェラルドの魔力を感じることはなかった。魔力を封じることの出来る部屋なのか?」
「ここから出られないのは窮屈だが、魔力を外界から遮断しておかなければ、いつ天使に襲われるかわからないからな……」
「それも、フェラルドの経験から学んだことか?」
「そうだ。この城の仕掛けはほとんどこの部屋の存在を隠すためのダミーに過ぎない」
引きこもっていたことの理由は納得できたが、いつまでもここにいるわけにもいかないんじゃないか。
ここから先どうなるかは俺とフェラルド次第なら。
「話を戻すが、グロリアは望んで主流派にいるわけじゃないんだな?」
「グロリア様だけじゃありません。平和主義派の魔族はヴィルギールに不安を煽られ、ヴィルギールに協力する天使が実際に襲い、その隙に配下の魔族が例えば家族を誘拐して従わせるのです」
「なんて、卑怯な……」
シャトラスの説明に、ヨミが拳を振るわせた。
「グロリアの妹が要塞に幽閉されていると言っていたな」
「はい。主流派の都市から北東に向かったところに軍事要塞があります。グロリア様の妹様はそこに幽閉されています」
「助けに行きましょう!」
間髪を入れず、ヨミが部屋から出て行こうとした。
「「ちょっと待て」」
俺とフェラルドの声が重なって、ヨミが振り返った。
「どうして止めるんですか? アキラは今の話を聞いて見過ごすつもりですか?」
「そうじゃない。ヨミはどうやってグロリアの妹を助けるつもりだ?」
「それはもちろん、返していただけるように説得します。従えないなら、戦って奪い返すまでです」
俺は頭を抱えそうになった。
強くなりすぎた弊害か? いや、元々ヨミは深く考えて行動するタイプではなかったか。
それが良い時もあるが、さすがに今回は正面から強行突破はありえない。
「よく考えてみろ。人質を捕らえられている状況でヨミが敵の要塞に乗り込んでいったら、脅迫されるだけだろ。人質の命と引き換えにヨミも主流派に協力するようにいわれたら意味がない」
俺の説明でようやくヨミは止められた理由を理解してくれた。
とはいえ、グロリアの妹を助け出すって点は同意見だ。
「シャトラスはそこまで情報を掴んでいるってことは、要塞の場所や内部構造もある程度わかっているか?」
「当然ですね。その情報を入手せずに、フェラルド様に報告するなどありえません」
「そこまで自信があるなら両方を地図にして用意してくれないか?」
シャトラスは無言で頷き、ヨミが俺の肩を掴んだ。
「……アキラは助けに行くつもりですか?」
「ああ、だが状況からして正面突破は難しいだろう。単独行動なら俺一人の方が動きやすい」
ネムスギアのセンサーとファイトギアの高速移動を使えばいくらでも監視の目は誤魔化せる。
「私も一緒に行きます」
「それはダメだ」
「なぜです!?」
一瞬たじろぐほどのプレッシャーを感じた。
「わかりませんか? ヨミさんの魔力は高すぎます。近づいただけで要塞に配備されている魔族や魔物が存在に気がつく。それでは、結局正面突破と状況が変わりません」
ずっと黙っていたマーシャが静かにそう告げると、ちょっとだけ勝ち誇ったように微笑んだ。
「――ですから、アキラさんのバックアップは私がします」
「な……」
わなわなと震えるヨミに、マーシャは涼しい顔をさせていた。
「……少し気になっていたのだが、君は本当にヨミ殿の召使いなのか?」
フェラルドにそう聞かれ、マーシャは一歩前に出てお辞儀をした。
「お初にお目にかかります。魔王フェラルド様」
そこで頭を上げると彼女は本来の姿へ戻った。
「私はエルフの近衛隊副隊長――マーシャと申します。エリザベス女王様からフェラルド様のことは窺っておりました。実際にお目にかかれて光栄です」
「お前、エルフだったのか……」
驚いていたのはシャトラスだけだった。
エトワスにも明確に彼女が何者であるか伝えていなかったが、エルフの町から出た後に一緒にいたからわかっていたのかも知れない。
「そうか、君が彼女の側近の一人か……女王は元気にしているか?」
「はい。アキラさんと出会ったことで、運命に抗う覚悟を決めたようです」
フェラルドは俺たちに背を向けて、ぽつりと言った。
「ならば私も、決断しなければならないのかも知れないな……」
そして再び振り返ると、フェラルドは引き締まったような表情をさせた。
「マーシャと言ったか。この魔界では人間の姿をしていた方が良い。魔力も極力人間レベルに制御するように。魔界でエルフが活動していたら、それこそ天使に襲われかねないからな」
「はい、承知しました」
そう言うとすぐに人間の姿に戻る。
「マーシャのことは受け入れてくれると考えて良いんだな?」
「私の派閥の支配地域ではな。しかし主流派にとっては、エルフも人間と変わらない。だから、十二分に気をつけて欲しい」
マーシャが静かに頷くと、フェラルドは真剣な眼差しをこちらに向けてきた。
「アキラ殿。改めて私からお願いしたい。主流派に操られているグロリアを解放するために、彼女の妹の救出に力を貸してくれないか?」
元々そうするつもりだったが、魔王のお願いなら気が引き締まる思いだ。
「ああ、任せてくれ」
俺の行動が魔界にどんな変化をもたらすのかはわからない。
でも、俺の行動基準は変わらない。
困っている人を助ける。
それがたとえ、魔王であっても、魔族であっても、見知らぬ人であっても。
これまでも、これからも――。
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