世界を救った変身ヒーローだったのに、人類に危険視されて異世界へ追放されたのだが

天地海

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変身ヒーローと未知の国

魔王の城、攻略(エンカウント無し)

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 城の中は薄暗かった。
 俺たち全員が中に入ると、扉がひとりでに閉まり、真っ暗になる。
 この状況でも落ち着いていられるのは、俺にはナノマシンのセンサーがあるし、危機が迫っていればAIが警告する。
 何も言ってこないということは特に問題はないということだ。
 徐々に暗闇に目が慣れてきたと思ったら、目の前で灯が点った。
 三つ叉に分かれた人の背丈ほどある燭台に炎が揺らめく。
 燭台は二つあり、目の前の赤い階段を浮かび上がらせていた。
 雰囲気としては申し分ない。
 これぞ魔王の城といった演出だ。
「俺の抱いていた魔界のイメージについて散々笑ってくれたが、この城はまさにそのイメージ通りの城だな」
 あえてそう言ったが、シャトラスは気にするそぶりも見せずに階段に手を向ける。
「さ、行きましょう」
 促されるまま俺が階段に足をかけたら、階段の上に燭台にも灯が点る。
 しかも、その横にはガーゴイルを模した銅像が今にも襲ってきそうな表情で建っていた。
 ヨミが俺の肩を掴む。
「……まさか、怖いのか?」
「え? い、いえ。ちょっと驚いただけです」
 魔王となってほとんど敵無しの実力を身につけたのに、こんな子供だましの仕掛けにいちいち驚くとは思わなかった。
 ヨミが俺にピッタリくっついて来るから歩きにくくて仕方ないが、肘に当たる胸の感触が振り解こうとする気を削ぐ。
 まるで二人三脚のように階段を上ると、廊下は二手に分かれていた。
「こちらです」
 シャトラスは左側に進み、突き当たりにある階段を上っていく。
 階段の先は、廊下に赤い絨毯が敷かれていた。
 絨毯の途中も階段になっていて、さらに真っ直ぐ進む。
 その突き当たりに椅子がこちら側を向いて置かれていた。
「まさかこんなところが玉座ではないよな」
「ええ。ヨミ様、お手数ですがここへ座っていただいてもよろしいですか?」
 ヨミが椅子と俺の顔を見て躊躇いを見せた。
「な、何か妙な仕掛けがあったりしないですよね?」
「心配なら俺が先に座ってやるよ」
 と言いながら椅子に腰を降ろした。
 特に何も起こらない。
「申し訳ありませんが、それは魔力を供給するための椅子です。魔力のない婿殿では座っても意味があるものではありません」
「……だそうだ」
 俺が立ち上がると入れ替わるようにヨミが座った。
 すると、椅子が闇に染まる。
 戦ってもいないのに、ヨミの魔力が一時的に戦闘態勢に入った時のようなプレッシャーを出した。
「ありがとうございます。これと同じ仕掛けがもう一つの階段の先にあります」
「何?」
 俺たちは再び最初の部屋に戻った。
 二手に分かれたもう一方の階段と廊下もまったく同じ作りになっていて、その先でヨミが椅子に座る。
 遠くで石が擦れるような音が聞こえてきた。
「さ、また最初の部屋に戻ります」
 これはまるで……。
「……あのな、魔王の城ってのはゲームのダンジョンのように作ってあるのか?」
「は? ゲーム? ダンジョンとは?」
 シャトラスが真面目な表情をしていたので、惚けているわけではなさそうだ。
 これ以上はこっちが疲れそうだからその事に触れるのは止めた。
 ガーゴイルの銅像は最初に見た時と位置が変わっていて、階段の上で丁度向かい合うように立っていた。
 そこにさっきまではなかった扉が出現していた。
 両サイドの部屋の奥にあった椅子は、この真ん中の隠し扉を出現させるための仕掛けだったようだ。
 扉を開けると、今までよりも大きな廊下が続く。
 真ん中には赤い絨毯があり、廊下には等間隔にオークデーモンやブラッドファングなどの魔物の銅像が並べてあった。
「ちなみに、ここを勇者が通った場合は魔物たちが足止めをする手はずになっています」
 そんな余計なことを解説されると、益々はっきりさせたくなる。
 廊下の奥にはまた階段があった。
 次に入ったのは大きな部屋だった。
 一見すると何もない。
「……ここはどんな仕掛けがあるんだ?」
「あ、わかりますか?」
 これだけの広さの部屋に何もないと言うことはありえないと思った。
「ちょっと待ってくださいね」
 シャトラスが足下で何やら探しているように四つん這いになっていた。
「あ、ありました」
 そう言うと、部屋の床が部分的に消える。
 曲がりくねった一本道だけが部屋の向こう側に続いていた。
「気をつけてくださいね。ここは城の中層階に当たりますから、足を踏み外したら数十メートル下に仕掛けてある石の円柱に突き刺さることになりますよ」
 知らずに部屋を調べようとしただけで、死ぬと言うことか。
 取り敢えず慎重に歩いて部屋の端へ辿り着いた。
 そこの階段を抜けて扉を開けると、城の外壁に出た。
 古びた階段と縄のハシゴがかけられている。
「一応聞いておきたいんだけど、魔王はこの城から出る時にここを通るのか?」
「いえ、フェラルド様はもう何年もこの城から出ておりません。ここは最後の防衛拠点のようなものですから」
「防衛拠点?」
「勇者や主流派の魔王に狙われる身ですから」
 勇者や魔王が相手では、嫌がらせ程度にしかならないと思うが……。
 俺たちは黙々と階段とハシゴを登った。
 見た目ほどボロくはなく、結構丈夫だ。
 階段の最後に木の扉があり、また城の中へ入った。
 微妙に坂になっている廊下を上ると、開けた部屋に出た。
 そこには明らかに玉座と呼べる椅子がこちらを向いていたが、誰も座っていない。
「いよいよとなったら、ここには俺が控えるつもりです」
「勇者や他の魔王が攻め込んで来た時は、シャトラスがここで戦うのか?」
「はい。ヨミ様、この椅子でも同じように魔力を示してください」
 さすがに三度目ともなると慣れたもので、ヨミはすぐに座って言われるままにした。
 すると、背後の壁が下に落ちて下に向かう階段が見える。
 俺たちがその階段に足を踏み入れると、細い階段の両サイドに灯が点り、まるで進むべき方向を示すかのように下に向かって明かりが広がっていく。
 階段は途中螺旋になり、延々と続く。
 何も仕掛けはないが、体力が削られる。
 一体何階分階段を降りたのかわからなくなるほどだった。
 ようやく階段が終わった時には、俺だけじゃなく全員肩で息をしていた。
「こ、ここがフェラルド様の謁見の間です」
 荒い息を無理矢理整えて、シャトラスが扉を手で示す。
 正直、言葉を返すのも面倒だったので手を上げて応えた。
 シャトラスが扉を開けると、謁見の間は真っ暗だった。
『強い魔力の反応を感じます』
 そこで初めてAIが警告した。
 確かに、扉の前ではプレッシャーは感じなかったが、開けられた瞬間から魔王独特の魔力を感じた。
「ヨミもわかるか?」
「はい、ここには私と同じくらいの魔力を持つ魔王がいます」
 この部屋には魔王の魔力を隠す仕掛けでもしてあるのかも知れない。
「どうぞ、お入りください」
 シャトラスは先に入るつもりはないようだ。
 俺はヨミを伴って謁見の間に入った。
 すると、それがスイッチだったかのように青い炎が壁の燭台に点る。
 その明かりで、謁見の間が広い円形の部屋だとわかった。
 その真ん中に玉座があり、息を呑むほど美しい男が座っていた。
 その面影は、やはりアスルに似ている。
 銀色の長い髪が暗い部屋の中で一際輝いていた。
 その男はマントを翻して立ち上がった。
 俺たちと真っ直ぐ向かい合う。
 アスルと違って気難しそうな印象を受けた。
「あんたがアスルの父親か?」
「……君たちのことは息子からよく聞かされている。だが、まずはお互いに自己紹介をしないか?」
 当たり前なことを真面目な顔で言われて、ちょっと立つ瀬がなかった。
「俺はアキラ=ダイチ。この世界では上級冒険者として知られているが、親しい者たちには異世界の人間だと言っている」
 きっとアスルはそのことも話しているだろうから、無駄に隠すつもりはなかった。
 続けてヨミが俺の横に立つ。
「私はヨミ=アラクネ。元は魔物でしたが、アキラとの冒険を通じて魔王として覚醒しました。私の夢は人間と結婚して小さな家庭を築いて慎ましやかでも幸せな生活を送ることです。もちろん、今はアキラ以外の人間は考えられませんが」
 アスルの父親の表情は変わらない。
「私はフェラルド。世界の理を知った魔王だ。私はこの世界に生きる全ての命をこの不毛な世界から救い出したい。魔族や魔物だけでなく、人間も」
 その言葉に強い決意と覚悟のようなものを感じた。
 そして、お互いの自己紹介が終わるや否や、フェラルドはいきなり頭を下げた。
 部屋の片隅にいるシャトラスやエトワスの狼狽が伝わってくるほど動揺していた。
「アスラフェルを天使どもから救ってくれてありがとう。婿殿とヨミ殿には感謝の言葉も尽きない」
「成り行きでそうなっただけだから、そこまで感謝されるようなことはしていない。頭を上げてくれ」
「いや、それだけではない。息子を保護し、さらに成長まで促してくれた。私ではアスラフェルの力を鍛えることは出来なかった。君たちのしてくれたことは、私の目的のためにもとても重要な意味を持っていたのだ」
「フェラルドの目的? それはアスルに出した命令と関係があることだよな」
 俺がその話を持ち出すと、ようやくフェラルドは顔を上げた。
「アスラフェルはこの世界を救えるかも知れない。きっと、神の思惑すらも超えた存在になる」
「どういう意味だ?」
「……今はまだ明かせない」
 無表情のまま明確な拒絶を示した。
「俺やヨミにもその事は話せないのか?」
「正直に言おう。ヨミ殿にはアスラフェルのことを明かすべきだと思っている。だが、やはりアキラ殿のことが私には理解できない」
「アスルから俺のことは散々聞かされたんだろ? それでも俺だけは信用できないってことか?」
 それはちょっとショックだった。
 怒りよりも落胆が大きく心を占めている。
「エルフの女王はアキラ殿に希望を見出したようだが、私はどうしてもアキラ殿があの忌むべき存在と重なる気がする」
「忌むべき存在?」
「本当の意味で魔王を殺し、世界を救う者のことだ」
 つまり、救世主のことだった。
 俺が、救世主と似ている。
 それはエルフの女王にも疑われたことだったが、ここでも同じ疑惑をぶつけられるとは思わなかった。
「それはもう結論が出ているんじゃないのか? 俺には魔王は倒せたが、数を減らすことは出来なかった。救世主の条件に当てはまらないはずだ」
「アキラ殿は救世主という存在についてどう思う?」
「どうって……特別な力を持った存在? かな……」
「それはどちらかといえば勇者がそれに当たる。救世主は魔力が強かったり武術に優れているわけではない。だが、魔王の力では傷つけることは出来ず、逆に殺されてしまう」
「フェラルドは救世主のことを覚えているのか?」
「名前も姿も覚えてはいない。いや、覚えられるような特徴がないと言った方がいい。この世界のごくありふれた人間だったはずだ。あまりに印象が薄いから記憶に残ることもない」
「それじゃ、やっぱり俺とは全然違うじゃないか。異世界の人間だから、俺にはそもそも魔力がないし」
「そういう意味ではアキラ殿と救世主は違うと言えるが、私が言いたいのはもっと大きな意味での話だ」
 フェラルドが何のことを言っているのか、よくわからなかった。
 ……あるいは、わかりたくないのか?
「救世主は確かに姿こそこの世界の人間のようだが、その中身が全くの別の存在のような力を発揮する。アキラ殿も人間の姿をしているが、私たちの理解の及ばない力を発揮する。アキラ殿は異世界からやってきたというが、何をするためにこの世界へ来たのだ。そして、救世主はどこから何をするためにやってきたのか」
 魔王を倒して世界が平和になれば、この世界は終焉を迎えて再び始まる。
 救世主自身もその事をよくわかっていないのだとしたら、彼の目的は特別な力で魔王を倒すことにある?
 エルフの女王から世界の理を聞いた時も同じ印象を持った。
 救世主って言うのは、まるで異世界転生して無双するチート主人公のよう――。
 ……ああ、まただ。
 このことを考えようとすると、なぜか吐き気を催す。
「アキラ殿は変身とかいう力で魔族や魔王と戦ってきた。勇者でなければ出来ないはずのことをやってきたその力が、私にはどうしても救世主の姿と重なる」
「あの! アキラは違います!」
 ヨミが俺を支えながら叫んだ。
「違う?」
 フェラルドはヨミの言葉を繰り返して聞き返した。
「……アキラ、フェラルドさんにアキラのことを話してもいいですか?」
 それは、俺が本当は大地彰ではないと言うことだ。
 フェラルドも世界の理を知る者なら、俺の正体を知る手がかりを得られるかも知れない。
 元々フェラルドが俺を信頼してないなら、失うものもないか。
 俺はヨミを手で制してフェラルドと向かい合った。
「……この体は大地彰という人間のものだが、俺の心は大地彰ではない」
 フェラルドはほんの少しだけ眉を動かした。
「……何か、我々を混乱させるつもりでそのようなわけのわからないことを言っているなら……」
 俺は彼の言葉を遮るように話を続けた。
「俺もその事を知ったのは、彰の妹に指摘されてからだ。この世界に来た時からずっと自分は大地彰だと信じていた。だから、彼がそうするであろう行動を取ってきた。本当の俺が何者で、どうして大地彰の体でこの世界に来たのかはわからない。だから、何か思惑があって行動してきたわけでもないんだ」
 さすがにフェラルドが訝しげな表情をさせた。
「そうだとしたら、アキラ殿は“ダイチアキラ”という者のことを知っていたと言うことになるが……」
「そこも不可解なんだ。俺は大地彰だけじゃなくて、ネムスギアのことも、彼の妹のことも、記憶にある」
「それじゃ、君は何者なんだ?」
「俺が教えて欲しいくらいさ」
 妹はそれを俺が知ることが、重要だと言っていた。
 世界の理を知った今だからこそ、俺もそんな気がしている。
 俺の知識と彰の知識。
 似ているようで違う世界。
 思い出すことに恐怖とたとえようのない不安に襲われる。
 それでも、知ることができるなら魔王にもすがりたい気持ちだったが――。
 フェラルドは口をつぐんで俺を見つめるだけだった。
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