世界を救った変身ヒーローだったのに、人類に危険視されて異世界へ追放されたのだが

天地海

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変身ヒーローと魔界の覇権

勇者と魔王と天使と……

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 翌日、ヨミはすぐに頭を下げに来た。
 俺はそんなヨミの肩を抱いて真っ直ぐに向き合う。
「謝らなくて良い。ヨミは悪くない」
「ですが、あの時言ってしまったことは、まるで……魔王のようで……」
 自分で自分の言葉にショックを受けていた。
「ヨミをそこまで追い込んだのは、俺が迷っていたからだ。だから、そう思い詰めるな」
「……はい……ですが、本当にこれからどうしたら良いんでしょう」
「その事だけど、天使を捕獲できないかな?」
「は? て、天使をですか?」
「今度の戦争では天使も暗躍しているみたいだし、そろそろあいつらがどこから来ているのか特定したいとは思わないか?」
「出来るのでしょうか……私では、天使にダメージを与えられないようですし」
「ヨミは戦ってる魔王と勇者の邪魔をしてくれれば良い。そうすれば天使が現れるだろ。後は俺が天使を殺さない程度に攻撃する」
「……そう上手くいくでしょうか……」
 不安げな表情をさせた。
「何でも否定するなって言った割に、ヨミも俺と同じことを言うじゃないか」
「え?」
 ヨミが苦笑いを浮かべた。
「そう、ですね……何もしないよりは、いいかも知れませんね」
 俺の作戦はすぐに実行が決まった。
 と言うのも、偵察に行っていたクァッツとレオルとシャトラスがお昼頃には帰ってきて重要な情報をもたらした。
 ダグルドルドにバルガスが攻め込むらしい。
 人間側もその情報を掴んでいて、ダグルドルドには勇者が二人防衛に向かっている。
 戦地に車で近づくのは目立って危ないと説得されて、俺とヨミはクァッツの変身したドラゴンの背に乗ることになった。
 こっちの方がより目立つと思うが、バルガスの配下にはドラゴンに変身するタイプの魔族がいるから紛れやすいらしい。
「行きますよ! しっかり掴まってくださいね」
 そう言ってクァッツは飛び立った。
 空の旅は久しぶりだったがそれほど悪くなかった。
 クァッツは風の魔法を使ってくれたので、風圧を感じることはなかった。
 それに何より、スピードが速かった。
 車よりも速かったのはきっと、ヨミを乗せているからだろうな。
 ダグルドルドの上空に着いたとき、すでに魔王と勇者の戦闘は始まっていた。
 車だったら間に合っていなかったかも知れない。
「ヨミ様、どこへ降りましょう!」
 首だけこちらに向けてクァッツが聞く。
 町から爆発音が響き、火の手が上がるのが見えた。
 ドラゴンじゃ、町の中に降りるのは大変だろう。
「あの辺りを旋回してくれ」
「え? ですが……」
「ヨミ、わかってるよな」
「はい、任せてください」
 高度からの落下は飛翔船の時もやった。
 蜘蛛の魔物であるヨミは糸を駆使して降りることが出来る。
 ヨミは俺を抱えてクァッツの背中から飛び降りた。
「変身!」
『起動コードを認証しました。ネムスギア、ソードギアフォーム、展開します』
 ヨミが地面に降り立つと同時に、俺は駆け出した。
 戦っているのは、バルガスと弓の勇者と槍の勇者。
 辺りに人の気配はない。
 すでに避難させたのか。
「はっ!」
 一度引いただけの弓から無数の矢が出現する。
「チッ!」
 バルガスはそれを飛び退りながら避ける。
 だが、立て続けに放たれた矢がバルガスの逃げ場を塞いでいく。
「火の神の名において、我が命ずる! 爆ぜて吹き飛べ! バーストエクスプロード!」
 拳を包む炎の塊を殴るように矢に向けて放つ。
 矢にぶつかるとそれらは矢を巻き込んで連鎖的に爆発する。
 ニヤリと笑みを浮かべるバルガスには、背後から迫る槍に気付いていなかった。
 無言のまま槍の勇者が建物の上から飛び降りる。
 ザシュ! っと鈍い音が聞こえてきた。
 バルガスは前のめりに倒れそうになり、腰を捻って振り返った。
 拳にはまだ魔法が発動したままだ。
 槍の勇者の顔を狙うように拳を振るうと、炎の塊が飛んでいく。
 槍の勇者は地面に突き刺さった槍を引き抜きざまにその炎の塊を薙ぎ払った。
 ……槍の勇者はあまり頭がよくないらしい。
 あるいは、伝説の槍の力を過信しているのか。
 槍に触れた瞬間、炎の塊は爆発して槍の勇者を吹き飛ばした。
 背後にある建物の中に叩きつけられる。
「伝説の弓よ、その力を示せ! 必中! ブレイブハートアロー!」
 人の腕よりも太そうな矢が、その大きさに似つかわしくない速度でバルガスに向かって行く。
 槍の勇者との攻防で体のバランスを崩していたバルガスは、片足だけで地面を蹴って倒れ込むように躱そうとした。
 ――が、左肩の辺りを貫いて矢は消えた。
「お前ら魔王に殺されたみんなの恨み! 覚悟しろ!」
 バルガスが右手一本で立ち上がろうとしているところに、弓の勇者はトドメを刺すために弓を引く。
「逃がさない!」
 光の矢の雨がバルガスを襲う。
 防御することも躱すことも出来ず、地面に叩きつけられるように光の矢を浴びていた。
 無数の矢の攻撃力はそれほど高くはないらしい。
 矢に刺された傷はたくさん見えるが、一番大きな怪我はあの必殺技の一撃によるものだった。
 倒れたままピクリとも動かない。
「お前の弓じゃそれが限界だろ! トドメは俺が差す!」
 建物の中から出てきた槍の勇者がそう言って両手で構える。
「あなたは後ろから攻撃しただけでしょう! 僕が魔王を追い詰めてるんです! 引いてください!」
 弓の勇者は見覚えがあった。
 帝国で戦ったあいつだ。名前は確か……ジュリアスとか言ったか。
 杖の勇者は魔王との戦いで心が折れてしまったようだが、弓の勇者はジュリアスのままだった。
 レグルス大統領が生き残っていた理由が少しだけわかった気がした。
 ジュリアスがバルガスに近づこうとした槍の勇者に矢を放つ。
 もちろん、バルガスの時とは違って矢は五本だった。
「お前、俺の邪魔をするつもりか!?」
「あなたこそ、僕の邪魔をしないでください!」
 何やら不穏な空気が流れる。
「……アキラ、どうしましょう」
 困惑しているのは俺だけじゃなかった。
 ヨミもダーククロースアーマーを使って臨戦態勢のまま棒立ちになっていた。
「バルガスは生きているようだが、あの怪我じゃ体を再生させるまでもう少し時間がかかるだろう。ここは勇者たちに引いてもらおうか」
「そうですね」
「あ! ヨミはバルガスの様子を見てろよ。魔王が勇者と戦ったら結局世界の理を再現することになる」
「はぁ……」
 危ないところだった。
 ヨミが戦っていいのは、魔王だけだ。
 そう言って勇者たちに近づこうとしたときだった。
 空から白い羽が舞い降りる。
 俺とヨミはすぐに身構えて空を見上げた。
 いがみ合っていた勇者たちも揃えたように空を見上げる。
「……天使……」
「今さら天使様が何の用だ? 魔王は俺が倒すところ――」
 槍の勇者の言葉を遮るように魔法で作り出した光の槍を突き出す。
 とっさの出来事だったので、何が起こったのか俺にもよくわからなかった。
 ヨミも固まっているしジュリアスも同じ。
 ただ一人、無防備のまま鎧を貫かれて吹き飛ばされた槍の勇者だけが腹を押さえながらのたうち回っていた。
「なぜです! 僕たちは魔王を倒そうと戦っています! 天使がなぜ僕たちを攻撃するのですか!」
 ジュリアスは弓を引いたまま問い詰めた。
 天使はそれに応えることなく、ジュリアスとの間合いを詰める。
 ジュリアスはさらに後ろに下がりながら矢を放った。
 無数の矢を天使は光の槍で薙ぎ払う。
 足止めにしかなっていない。
 そうこうしている間に、バルガスは立ち上がっていた。
 このまま天使と魔王が協力したらジュリアスたちが負ける。
 俺はヨミと一緒にバルガスに歩いて近づいた。
 その足音でようやく俺たちの存在に気付いたのか、バルガスがこっちを向いた。
「強い魔力の反応には気がついていたんだがな、戦ってるとつい周りが疎かになっちまう」
「それで槍の勇者の不意打ちをまともに喰らったのか? お前は一人で戦わない方がよさそうだな」
「高みの見物とはずいぶん余裕じゃないか。ここに現れたってことは、どっちと戦うつもりなんだ? 俺と戦うか? それとも勇者と戦うか? もしかしたら、天使まで敵に回すことになりそうだぞ」
 この状況を心から楽しんでいるようだった。
「勇者との戦いでお前の魔力はだいぶ減ってるだろ。俺とヨミを相手に、勝てると思ってるのか?」
「さあな? だが、いいのか? 俺と戦ってると、あの勇者は天使に殺されちまうぞ」
 バルガスが親指を背中に向ける。
 天使と弓の勇者の戦いは、天使の方が優勢だった。
 天使は魔法を光の槍しか使っていない。
 近距離攻撃しかしていないのに、遠距離攻撃主体の弓の勇者が押されている。
 本来であれば、相性のいい相手のはずだった。
 アスルもだいぶ苦戦させられた相手だ。その事を忘れたわけじゃない。
「伝説の弓よ、その力を示せ! 必中! ブレイブハートアロー!」
 無数の矢を薙ぎ払いながらも一歩ずつジュリアスとの距離を縮める天使に、ジュリアスはあの必殺技を放った。
 大きな矢は空へと向けて放たれる。
 一見、明後日の方向に向けて撃ったように見えたが、空で方向を変えた。
 天使の背中を光の矢が貫く。
 それは、バルガスが喰らったときよりもまともに当たった。
 天使はその場に崩れ落ちる。
 ジュリアスは息を切らせながらもホッとしたような表情を浮かべていた。
 ――まずいな。倒したと勘違いしている。
「ヨミ! バルガスは見張っておいてくれ!」
「はい!」
 俺は走りながらファイトギアへ変身した。
 天使がゆっくりと立ち上がる。
 ジュリアスはその様子に驚きの表情を浮かべた。
 弓を構えようとするが、天使の槍が一瞬早くジュリアスの左肩に触れようとしていた。
『チャージアタックワン、メテオライトブロー!』
 天使の横からがら空きの脇腹めがけて拳を振り抜いた。
 一直線に建物へ天使の体が激突する。
 ジュリアスは大きく目を開いていた。
「あ、あなたは……」
「覚えてくれているようで光栄だな」
「ここへ何をしに来たのです」
「お前ら勇者と魔王の戦いを邪魔しに来た」
「な……よくもそのようなことをヌケヌケと……」
 天使が突っ込んでいった建物が大きな音を立てて崩れ落ちる。
 瓦礫を吹き飛ばしながら天使が姿を現した。
 無表情だから感情はよくわからない。
 あれもやっぱり、以前に戦った天使のどれとも違う気がする。
 適当に痛めつけて捕獲できるかどうか……。
「魔王の下僕、あいつは何なんですか?」
「その呼び方……まあいい、あれが何者かはお前らだってよく知ってるだろ」
「て、天使がなぜ勇者である僕たちを攻撃するのですか?」
「さあ? 俺もその理由が知りたいと思ってる」
 俺が拳を構えるとジュリアスも弓を構えた。
「……仕方ない。協力してあげます」
「無理するな。あいつはこの世界のものには倒せないらしいから」
「え?」
 天使の戦闘能力はそれほど高くない。
 魔力も平均的な魔族くらい。
 だから、魔王や勇者にとってはそれほどの脅威であるはずはないんだ。
 だが、なぜかこの世界のものの攻撃は物理的に影響は与えられてもダメージには至らない。
 ジュリアスの攻撃だって、矢の傷や必殺技で貫かれた体を見る限り、効いているようには見える。
 それなのに、魔力を消費せずに再生させる。
 俺の攻撃はと言うと――。
 ファイトギアの速度と動体視力では天使の攻撃は全てスローに見える。
 こちらの攻撃は次々決まって天使の体が傷ついていく。
 ここまではジュリアスと変わらない。
 俺が負わせた傷や怪我だけは再生するのに魔力を大幅に消費している。
 あるいは、再生することも出来ずにいる。
『原因はわかりかねます。むしろ、なぜこの世界の者たちの攻撃が通らないのかが不思議でなりません』
 AIの感想は概ね俺の天使に対する感想と同じだった。
 それに、あの攻撃力。
 俺には普通の攻撃にしか思えないのに、魔王ですら一撃で倒してしまった。
 どこかアンバランスで奇妙な存在なんだ。
『……しかし、引く気配がありませんね。このままでは、倒してしまうと思うのですが……』
「俺の……邪魔をしやがって!」
 叫び声と共に槍の勇者が向かってきた。
 その動きはもちろん俺にはスローにしか見えないが、天使は光の槍を構えて迎え撃つ。
 槍の勇者は銀色の鎧を身につけていた。
 丁度腹の部分にひびが入ってそこから血が流れている。
 致命傷のように見えるが、動きはそれほど鈍くはない。
 伝説の槍と光の槍が火花を散らす。
 高速で動いているから俺の姿は捉えることができていないのか、あるいはそもそも攻撃してきた天使しか見えていないのか。
 俺の与えたダメージのお陰で、槍の勇者は天使といい勝負を繰り広げていた。
「はっ!」
 そこへジュリアスがまた無数の矢を放つ。
 槍の勇者を避けるように矢は広がってから再び向きを変えて天使に向かって行く。
 矢に刺され、動きが遅くなったその瞬間、
「伝説の槍よ、力を示せ! ゲイルエンド!」
 伝説の槍が光り輝き、真っ直ぐ突進する。
 まるで槍の勇者までもが槍の一部になっ方のように光に包まれて――。
 天使の体を貫いた。
 体に大きく穴を開けられた天使はその場に突っ伏した。
 槍の勇者は血の流れる鎧を手で押さえて、バルガスの方を向いた。
「ハァ……ハァ……つ、次は……お前……? いつの間にか、獲物が二匹に増えてやがる」
 バルガスの側にいるヨミを見て槍の勇者は吐き捨てるように言った。
「ティーモさんは下がってください。その怪我で魔王を相手にするのは危険です」
「うるせえ、お坊ちゃまは黙ってろ!」
 勇者は二人とも天使の死を疑っていない。
 それだけ自信のある攻撃だったんだろう。
 仕方ない。
 天使がどこからやってくるのか確かめたかったが、二人に警告をしたのでは間に合わない。
 すでに天使のことを忘れ、魔王と対峙する二人の勇者。
 その背後で、天使は立ち上がった。
 物音か気配か影か。
 とにかくやっと勇者たちは天使の復活に気付いて後ろを振り返る。
 しかし、天使の右手に握られた光の槍を躱す術はなかっただろう。
『チャージアタックスリー、イラプションアッパー!』
 光の槍が薙ぎ払われるよりも前に、俺の拳が天使の体を空高く舞い上げた。
 こいつは逃げない。
 倒さなければ、止められない。
 逃げ切った魔王というのはよほど戦いに長けていたか、運がよかったんだと思う。
『スペシャルチャージアタック、スターライトストライク!』
 空中で踊るようにくるくると回っていた天使の体を、エネルギーによって光を放つ拳で大地に叩きつける。
 爆発と振動、それによって大地は沈み込み俺の周りには土煙が舞った。
 拳にはもう何も感触がない。
 天使はクリスタルを残さないから、風によって土煙と共に消滅した。
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