世界を救った変身ヒーローだったのに、人類に危険視されて異世界へ追放されたのだが

天地海

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変身ヒーローと魔界の覇権

駆け巡る戦場

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 粉々になった弓をジュリアスは必死に片手でかき集めていた。
「な、なんてことをしてくれたんだ……これがないと、僕はただの人じゃないか……」
 肘を殴り飛ばしたときですら見せなかった涙までぽろぽろ流していた。
「アキラ殿……」
 未だ剣を俺に向けたままだが、ファルナは仲間を呼んだ。
「誰か、ジュリアス殿も治療してあげろ」
 アイレーリスの王国騎士団の服を着た魔道士が駆け寄って魔法をかけていた。
 小さな傷も骨折もすぐに治ったはずだが、ジュリアスが立ち上がることはなかった。
「こちらは終わったようですね」
 ヨミが駆け寄ってきた。
 ダーククロースアーマーを使っているとはいえ、相手は魔王だから多少なりとも怪我をするかと思ったが、傷一つ付いていなかった。
「バルガスは? まさか倒しちゃったんじゃ……」
 近くにヨミ以外のプレッシャーを感じない。
 魔王の気配は遠くにしかなかった。
「申し訳ありません。追い詰めたんですが、あと一歩というところで逃げられてしまいました」
 ヨミは頭を下げたが、半分は俺のせいだと思った。
 やっぱり、魔王を生きたまま捕らえるってのは、無理があるよな。
 ヨミの魔力もさらに増大しつつあるが、それでも魔王を圧倒できるレベルではない。
 取り敢えずは、魔王に勇者が倒されなかっただけでも良しとしておこう。
「魔王が魔王を蹴散らし、アイレーリスの英雄は勇者を戦闘不能に……何が何やらさっぱりわからない!」
 ファルナの叫び声に反応したのはヨミだけだった。
「あ! お久しぶりです」
 ……さっきも俺の側にはいたんだが、魔王と勇者にしか注意を払っていなかったんだろう。
 ファルナたちには悪いが、今のヨミにとって王国軍は眼中にない。
「久しぶりだと!? 魔王となったものに交わす言葉はない!」
 口ではそう言っているが、やっぱり切っ先は俺とヨミの間で揺れている。
 俺は吐息をつき、ファルナの剣の刃をつまんだ。
「な、何をする!」
「俺たちは勇者と魔王以外とは戦うつもりはない。これはしまってくれないか」
「こ、断る! 私は魔王を野放しには出来ない」
「そうですか。では、さようなら。アキラ、行きましょう。もうここには用はありません」
 ヨミは少しも表情を変えずに俺の手を取って走り出そうとした。
「ま、待て!」
 本気でこの場から離れるつもりなら、今の俺とヨミにはファルナの声なんかすぐに届かない場所まで移動できる。
 ヨミがそうしなかったのは、きっとファルナに呼び止めさせる隙を与えるためだ。
 案の定すぐに足を止めた。
 俺たちが振り返ると、ファルナは剣を鞘に収めた。
「ファルナ隊長!?」
 その姿を見てもちろん彼女の部下たちは驚きの声を上げた。
「……みんなもこの二人には手を出すなよ」
 部下たちを見回しながら、ファルナがそう言う。
「アキラ殿もヨミ殿も、戦争やクーデターの時のように何者かに嵌められているのか?」
「いや、俺たちは自分たちの意志で戦っている」
 ファルナは困惑顔の上に疑問符をいくつも増やしていた。
「アキラ殿、私にも理解できるように教えてくれないか。二人は本当に何が目的なんだ?」
「対処療法に過ぎないってことは重々承知しているんだが、取り敢えず戦争の中心になっている魔王と勇者の戦力を取り除く。その上で生き残った者たちで改めて和平を模索したい」
「なぜそこまで和平にこだわる。人間が魔族を滅ぼして平和を手に入れるのではダメなのか?」
「説明してあげたいが、あまり時間もない。もし今でも俺たちのことを少しでも信じてくれているなら、撤退してくれ」
「そ、それは……私の意志では……」
「認めないぞ! 僕は、僕の伝説の弓を壊したお前は許さない!」
 両手でジュリアスが俺に掴みかかってきた。
「それだけ元気なら、大丈夫そうだな」
 俺の体から引き剥がして、ジュリアスをファルナに放り投げた。
 彼女はそれを難なく受け止めた。
 それでも諦めずに俺たちに立ち向かおうとする勇者を抑える。
「ジュリアス殿、武器もないのに魔王を相手にするのは危険です。下がってください」
「ちくしょう! 僕は絶対、お前を許さないからな!」
「アキラ殿、事情はわからんが行ってくれ。キャリーに何か伝言があれば伝えておく!」
「それじゃあ、救世主には気をつけろ。とだけ伝えておいてくれ」
「……救世主……?」
 ファルナはさらに顔をしかめてしまったが、俺たちはすぐにその場を後にした。
 戦場を駆け巡る。
 辺りではどこかの国軍と魔物が戦っていた。
 冒険者らしき一団も見える。
 魔法の応酬によって、別の魔物や魔族と戦っている人間たちに流れ弾のように当たったり、あるいは魔族や魔物の魔法が別の魔物や魔族に当たったりしている。
 彼ら全てを止めるのは物理的に不可能だ。
 せめてどちらも死ななければいいと祈るしかない。
「アキラ、あっちにアルラウネの魔力を感じます」
 ヨミが指した方へ足を向ける。
 これだけの乱戦が繰り広げられていて、その真ん中を駆け抜けてきたのに誰も俺たちの存在に気付くことはなかった。
 アルラウネと戦っているのは、斧の勇者と服装からして冒険者だと思った。
 魔王と戦おうとしているわけだから、上級冒険者でもかなりの精鋭が集められているはずだった。
 だが、その場は独特の雰囲気に溢れている。
「お前たち! 敵は目の前だぞ! 立ち上がれ!」
 冒険者たちはほとんどが体育座りをしていた。
 目の焦点が合っていない。
 うつろな表情で何かをブツブツつぶやいている。
「妙な魔法を使いやがって!」
 斧の勇者が一人でアルラウネに向かって行く。
 どうやら精神に働きかける魔法を使って戦意を喪失させているようだ。
 ただ、斧の勇者と何人かの冒険者だけは意識を奪われることなく立ち向かっていった。
 ジュリアスは遠距離戦主体だから近接攻撃の得意な剣士が多めで魔道士は補助的にいる程度だった。
 ここには逆に冒険者でも魔道士ばかりしかいない。
 斧の勇者がアルラウネに斬りかかる。
 アルラウネの動きは決して速いわけではない。
 それでも斧をくねくねと躱し、捉えどころがない。
 ……いや、それ以上に斧の勇者の攻撃に鋭さもない。
 あれなら子供でも避けられそうだ。
 少なからずアルラウネの魔法とやらは斧の勇者にも影響を与えている。
 斧の勇者が攻撃を空振りして、斧が地面に刺さる。
「隙だらけよ」
 そういってアルラウネが斧の勇者の腕に絡みつこうとしたところで、魔法が飛んできた。
 斧の勇者の隙を消すために冒険者の魔道士たちが放った魔法だ。
 援護をするために使った魔法のはずだが、精度が低そうだった。
 アルラウネは避ける必要もなく、その場に立っているだけで魔法は明後日の方向へ飛んで行ってしまった。
「あらあら、どこを狙っているのかしら」
「お前が、何か魔法を使っているんだろ!」
 緩慢な動きで斧を振るった勇者をアルラウネは思いきり蹴飛ばした。
 斧の勇者はゴロゴロと転がり、体育座りをしていた冒険者たちに激突して止まった。
 冒険者たちは斧の冒険者の巨漢に倒されて伸びている。
 その様子を見てケラケラ笑うアルラウネには殺気は感じない。。
 からかって楽しんでいるようにしか見えなかった。
「ヨミ、説得できそうならそうしてやってくれ」
「ハァ……取り敢えず、この魔法は止めてもらいます」
 ヨミが眉間に深いしわを刻みながら言った。
「あ、やっぱり精神系の魔法を使ってるのか」
「さっきから頭が痛いんですけど、アキラは何も感じないんですか?」
「まったく」
「本当に精神系の魔法はアキラに効果がないんですね」
 少しだけ重い足取りでヨミがアルラウネに向かって行った。
 代わってやりたい気持ちもしたが、勇者の相手をヨミにさせるわけにもいかない。
 アルラウネはヨミを見てから俺にも視線を送った。
「あら、ヨミ様じゃない。ってことは、アキラ様もやっぱり一緒なのね」
「そんなことよりも、まずこの魔法を解除してください」
「どうして? あなたは私を止めに来たんでしょ? 魔王同士が話し合いで決着だなんてお寒い話は止めて頂戴」
「今の私と本気で戦うつもりですか?」
 ヨミのプレッシャーが一気に膨れ上がる。
「……あなた、いつの間にそんな魔力を……」
 アルラウネが珍しく真面目な表情でヨミを見据えた。
「まさか、クロード様を……」
「話し合いに応じないというなら、私はそれでも構いませんよ」
 ヨミが拳を握ると、アルラウネから余裕が消えた。
 冷や汗を垂らしていた。
「待って、話し合いね。まずはそうね。魔法を解除するわ」
 狼狽えながら両手をヨミの前に出して落ち着かせるようなジェスチャーをした。
 すると、体育座りをしていた冒険者の魔道士たちの瞳に光が戻った。
「う……」
「ハァ……ハァ……」
「頭が……」
 頭を左右に振りながらよろよろと立ち上がる者。
 四つん這いになって今にも吐きそうな者。
 こめかみを押さえながら前を向く者。
 反応はそれぞれだったが、皆自分を取り戻したことだけは確かなようだった。
「やっと頭がすっきりしたぜ。おい! 誰でもいい、俺に回復魔法を」
 斧の勇者が立ち上がってそう言うと、一番近くにいた魔道士が回復魔法を使った。
 自分の体の状態を確かめるかのように、斧の勇者は腕をグルグル回しながらこちらに近づいてきた。
 ここから先へは通すわけにはいかない。
「何だ? お前は? 妙な格好をしやがって」
 そう言えば、斧の勇者とは魔法水晶でやりとりをしただけで俺が変身した姿を見せたのは初めてだったか。
 だが、こいつも自己紹介はしなかったし、俺もするつもりはなかった。
 今はその場しのぎでも、とにかく勇者の戦闘能力を奪う。
 その目的だけが大事だった。
「魔王との戦いを諦めて引け。出来ないなら、そいつは破壊させてもらう」
「……その声、どこかで……まあいいか。つまり、お前も俺の敵ってことだな?」
 新しく斧に選ばれた勇者は実にシンプルでわかりやすい性格だった。
 従う者は味方で、逆らう者は敵。
 本当に、よくもまあ性格の歪んだ人間を伝説の武器は見つけ出す。
 ……人のことが言えるほど、俺も正しいのかどうかはわからない。
 今はその事で迷っている時間すらなかった。
「冒険者ども! 俺に援護魔法をかけろ!」
 魔道士たちはそれぞれ、風による速度強化の魔法。土の鎧による防御力強化の魔法。伝説の斧に炎を纏わせて攻撃力強化の魔法を同時に使った。
 重そうな巨体に、さらに動きの鈍そうな土の鎧を着ているのに、斧の勇者は軽快に走って向かってきた。
 片手で斧を振り回す。
 近づいてわかったのだが、土の鎧の関節部分には水を帯びていた。
 水の魔法による緩衝材だ。
 これによって土の鎧でもスムーズに手足が動かせている。
 炎を伴った斬撃は斬りつけたところをさらに溶かすほど熱されていた。
 斧の勇者の攻撃は鋭さも増してはいたものの、ファイトギアの俺に見きれないほどではなかった。
 俺が避けたことで大地に斧がめり込むが、その部分の土がすぐに熱で溶かされるので難なく振り上げてくる。
「ちょこまかと! 風と水の魔法をもっとだ!」
 太っていてだらしないように見えて、戦い慣れしている。
 斧の勇者にとってどういう風に魔法を使えば有効的なのかよく考えている。
 さらに斧の勇者は速度を増して手数を増やしてきた。
 まるで暴風のように斧を振り回す。
 それを目で確認しながら、躱しつつも一歩ずつ近づいていく。
「こいつ、なぜ当たらない!」
「悪いな、俺とお前じゃ見えているスピードが違いすぎる」
『チャージアタックワン、メテオライトブロー!』
 いくら勇者といえど、人間だから息切れもする。
 おまけにあれだけ動いていれば、呼吸が乱れるのを見極めるのは簡単だった。
 斧の勇者が息を吸い込んだその一瞬の隙に拳を叩き込む。
 ドオンと大きな音を上げて斧の勇者の体が一直線に吹き飛ぶ。
 だが、思っていたような感触はなかった。
 体を殴ったのに、固い壁を殴ったような感触だった。
 斧の勇者はすぐに立ち上がる。
 俺の技がそれほど効いていなかった理由はすぐにわかった。
 斧の勇者の体を覆う土の鎧だけが吹き飛ばされていた。
「もう一度土の鎧だ!」
 斧の勇者が叫ぶと、それはすぐに再生した。
 あの冒険者、やはりただの上級冒険者じゃない。
 魔法の速度だけでなく、判断力も高い。
 ジュリアスはファルナたちを連れていたということは国軍でも精鋭部隊を集めていた。
 魔王を相手にするのに、それぞれの勇者たちも対策を立ててきたということか。
 ジュリアスには油断もあったから簡単に伝説の弓を破壊できたが、こいつはそうはいかなそうだ。
 時間をかけている余裕はないのだが……。
 殺してしまうかも知れないが必殺技を叩き込むしかないのか。
「あんなの相手に手こずってるの? しょうがないわね」
 背後からアルラウネが話しかけてきた。
 その隣ではヨミが憮然とした表情を浮かべている。
「どうなったんだ?」
「説得に応じたというか……取り引きをさせられたというか……」
 ヨミが恨みがましい目つきで俺とアルラウネを交互に見た。
「アキラ様とデート一回でそっちにつくことにしたわ」
「はあ!? なんだそりゃ」
「言っておきますけど、健全なデートしか認めませんからね」
 ヨミがアルラウネを睨みつけるが、彼女はまるで意に介していない。
「待て待て、どうしてそう言うことになったのかまるで話が見えてこないんだが」
「私は強い者が好きなのよ。クロードからヴィルギールに乗り換えたのも、彼が強かったからだし。でも、今はヨミ様とヨミ様すら従えるアキラ様の方が強いからそっちにつくことにしただけよ」
「無茶苦茶軽い女だな」
「そうかしら? 魔族は強い者こそ正義なんだから、より強い者につくのは当たり前と思わない?」
 ……バルガスとは違った意味でアルラウネも魔王らしい魔王と言えるのか。
「それで、どうして訳のわからない条件が付くことになったんだ?」
「そんな小さなことを気にしている余裕があったら、あれを何とかするのが先じゃない」
 アルラウネが斧の勇者を指で差した。
「あいつは俺が相手をする。魔王と勇者を戦わせたくない。アルラウネも下がっていてくれ」
「……フェラルドが話した世界の理、だっけ? クロードもヴィルギールもまったく信用していないのに、人間が信用してるって不思議な話よね。でも、大丈夫よ。私が戦うのは勇者を支援している人間だけだから」
「させるか!」
 斧の勇者が向かってくる。
 その瞳は俺ではなくアルラウネに向けられていた。
「心の神の名において、我が命ずる。幻と夢の狭間にて眠りなさい。スピリチュアルトワイライト」
 俺には何が起こったのかよくわからなかったが、冒険者たちはまた一斉にその場にへたり込んで体育座りをした。
 斧の勇者は顔を少ししかめただけだったが、魔法が使われなくなってしまったのでほとんど丸腰になってしまったようなものだった。
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