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変身ヒーローと無双チート救世主
ウォルカ王国の町並
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エリザベスは三日かかったというが、俺たちは十分もかからずにその島を見つけた。
「あれが、ウォルカ王国……」
背中越しにマーシャが声をつぶやく。
「魔力は大丈夫か? そろそろ結界が近いんじゃないか?」
「……そうですね。これは、魔界を覆っていた天使の結界に似ていると思います」
特に驚くことはなかった。
あいつらの関係性は今ひとつはっきりしていないが、無関係であるはずはなかった。
「このまま泳いでいっても大丈夫かな……」
「アキラさんが全力で泳ぐなら、誰かに見つかると言うことはないと思いますが」
「相手が普通の人間ならな。だが、ハルと取り巻きの女たちは普通じゃないだろ」
「彼らは今、大陸にいますから」
「それはわかってるんだけどな」
ここまできて引くと言うこともない。
俺たちは前に進むしかないんだと言い聞かせるように島に近づく。
ファイトギアだとセンサーの感度が落ちるのが欠点だった。
その分、動体視力はよくなっているから自分の目で辺りを確かめなければならない。
ギルドマスターのクランスの話だと、近づくや否や島を警備する人が現れて警告をしてきたという話だったが、それらしい人影はまったく見当たらなかった。
やはり魔力を持たない者が近づくことは想定していないのだろうか。
「アキラさんにはわからないかも知れませんが、もう一メートルも進めば結界があります」
「通れるんだよな?」
「魔力さえなければ」
ゆっくりと慎重に平泳ぎで進む。
何も起こらず呆気なく結界の中へ入った。
本当にここが結界の中なのか、疑いたくなるほど。
「魔界と人間界の間にも結界があったって言うけど、これじゃ誰でも通れたんじゃないか?」
「そうでもありませんよ。この世界の者は誰であれ魔力を持っています。私たちはコントロールすることが出来ますが、魔王や魔族や魔物には、ゼロにしてしまう能力はありません」
「つまり、どうあっても天使の結界は通れないってことか」
「それに、ここの結界は警戒することを目的としているみたいですが、魔界に施された結界は出る者も入る者も体を引き裂かれるほど殺傷能力の高い結界でした。試して通れるような結界ではありませんでした」
「それでも、何人か人間界に来ている魔族はいたけどな」
俺が初めて戦ったミュウや、グレースやバルトラム。
「それは、その結界に揺らぎが発生していたからですよね」
「バルトラムという魔族は確かにそう言っていた」
「エリザベス女王様のお話では、それも世界の理のためだとおっしゃっていました」
「魔界から魔族が人間界に出てくることがか?」
「人を殺そうとする魔族が一人でも人間界に入れば、それだけでも混乱しますから」
「でも、確かアイレーリスの事件は冒険者とキャリーが解決するんだよな。その時点ではハルはこっちの世界に現れないし」
「人の心を不安にさせるのが、最初の段階だと教えられました」
戦争やクーデターは確かにアイレーリスの人々の心に傷を負わせただろう。
中でも最も大きなダメージを負ったのは、キャリーだ。
信頼していた貴族に裏切られて一時期は王座まで失いかけた。
もし、俺と出会っていなかったら?
キャリーは魔族や魔物を信じるような女王には決してなっていなかったはずだ。
「アキラさん、そろそろ行きましょう」
「ああ、そうだな」
海につかったまま長話をしている場合じゃなかった。
まるでジェットエンジンのように水しぶきを上げて泳ぐ。
あっという間に浜辺に着いた。
辺りに動くものは見えない。
「マーシャ、今から変身を解除するが、出来れば回復魔法の準備をしておいて欲しい」
「え?」
「この姿を長時間使うと、反動で筋肉痛に襲われるんだ。たぶん、動けなくなると思う」
「やっとわかりました。そのために私を連れてきたんですね」
「……説明すると、なんか便利な道具としてしか見ていないような感じになると思ったからさ」
「別に構いませんよ。アキラさんの役に立てるのであれば、そう言う理由でも。少なくともそれはヨミさんには不可能でしょうから」
「張り合うのはやっぱりヨミなんだな」
「当たり前じゃないですか」
マーシャほどの容姿なら、いい男はいくらでも見つけられそうな気がするのに。
何を言っても皮肉にしかならない気がして、その話は続けられなかった。
「それでは――聖なる神の名において、我が命ずる。命を癒やす息吹を与えよ」
優しく温かな光がマーシャの両手を包み込む。
「それって、確か――」
瀕死の重傷でも完全に回復させてしまう魔法。
大げさな気もしたが、俺は安心して変身を解除した。
「リザレクション」
緑色の輝きが全身を包み込み、バッチリ睡眠を取った朝のように清々しい気分と背中に羽が生えたんじゃないかと錯覚するほど軽やかな体調を取り戻した。
『やはり、魔法というものの効果は計り知れない。ネムスギアのエネルギーすら回復しているようです』
AIが驚きの声を上げた。
人間だけでなく、機械すら影響を与えられる回復魔法。
「どうでしょうか」
「思っていた以上に、マーシャの魔法が優れているってわかったよ」
「それは光栄です」
一応辺りを見回すが、誰もいない。
結界の中なら魔法を使っても大丈夫だった。
魔力が触れることで侵入者を感知することが結界の特性なら、大丈夫だとは思っていたが、少しは戦闘になるんじゃないかと警戒もしていた。
今なら魔王が複数相手でも戦える気がする。
リザレクションの効果は絶大だった。
「さて、いつまでもこんなところにいると怪しまれるし、町へ行こう」
「あ、じゃあ着替えますね」
「え?」
また目の前でストリップまがいのショーを見せるつもりかと思ったら、マーシャは岩陰に隠れた。
いや、別に見たかったわけではないが、あっさりとそうされるとそれはそれで寂しいような……。
きっと大地彰はそんなことを思ったりはしないんだろうな。
これは俺自身の悲しい性みたいなものだ。
いつもの魔道士っぽい格好に着替えて出てきたマーシャの姿は、エルフではなく人間だった。
「変身していくのか?」
「この国ではどんな人間に出会うかわかりませんから」
「エリザベス女王は教えてくれなかったのか?」
「はい。女王様は自分の目で確かめた方が良いとしか言いませんでした」
「ただの意地悪ではないってことか」
「女王様はそんなことはしませんよ」
微笑みを浮かべてそう言ったが、俺も一緒に笑うことは出来なかった。
マーシャにも先入観無しに見てもらいたいってことには、きっと何か意味があると思った。
「取り敢えず、どっちに行ったら良いんだろうな」
「申し訳ありませんが、この国の地図も教えていただいていません」
浜辺の向こうには林がある。
その先は木々に遮られていて、よく見えなかった。
ただ、その手前の道路に着いた時に、俺は驚きを隠せなかった。
「これって、舗装されてる」
「え? ああ、私たちの国の道路に似ていますね」
「いや、逆だろ。エルフの国はこの国を模倣して作ったといっていたじゃないか」
「そうでしたね」
今まで見てきたこの世界の国々の文明と明らかに違う。
俺には見慣れた道路だからこそ、あまりに異質だった。
話には聞いていたが、エルフの町とは印象が違う。
あそこは女王の結界によって外の世界と隔絶されたいた。
人間の大陸にありながら、ある意味異世界のような感覚だった。
しかし、この島国も結界に覆われているものの視覚的には何も遮るものはない。
俺の世界と地続きになっていると言っても信じてしまいそう。
「どちらに行きましょうか?」
道は左右に伸びていて、目の前には林がある。
「ネムスギアのセンサーで人を感知できないか?」
『近くにそれらしい気配はまったく感じられませんね』
ついさっきまではこの国の人間に襲われることを警戒していたのに、逆に人の姿を探すことになるとはなんとも皮肉だった。
「取り敢えず、歩いてみようか」
「はい」
右も左も似たような景色が続いていたので、右へ向かうことにした。
右手側には海。左手側には林。
いくら歩いてもその景色が変わらない。
魔法による幻影を疑いかけた頃、道が少し左にカーブしていって地下へ向かうトンネルが見えてきた。
もちろん、その中にはLEDの明かりが点っている。
「洞窟のように見えますが、妙に明るくて手触りの良い石ですね」
マーシャはトンネルのコンクリートを触りながらそう言った。
内部は明るいが、トンネルの先がどこに向かっているのかはわからなかった。
一旦下ってから上りになっている。
「それにしても、誰にも出会わないな」
「そうですね」
「車も見かけないし」
道は二車線で、車が二台行き交うことが出来るほどの幅だった。
歩道はなかったから、俺とマーシャはトンネルの壁に沿って歩いている。
異世界に来てまで交通事故に遭いたくないと思ったが、無駄な心配に思えてきた。
「エリザベス女王はこの国で車とか建物も見たんだよな」
「そうでなければ、魔法で再現することも出来ません」
エルフの魔法によって再現された物を調べて模倣した。
「今さらだけど、エルフの町並ってすごい短い間に作ったんだよな」
自殺して人生をループしているギルドマスターのクランスは、それこそ生まれたところからやり直しているわけだが、エリザベス女王とフェラルドは俺がこの世界にやってきた辺りから繰り返しているって認識だった。
つまり、それ以前に戻ることは出来ないし、エリザベスがこの国の街並みを再現しようと思ったのはきっとループしていることを認識してからだ。
「そうですね……。今もまだ開発途中ですけど、半年くらいかかったと思います」
「半年であれだけの町が作れるものなんだな」
「それは、私たちの魔力は人間とは違いますから。魔法技術に関しても人のずっと先まで進んでいますよ」
少し自慢げに話した。
このところ多くの魔王と対峙してきたせいで感覚が鈍っていたが、エルフの魔力は平均的な人間のそれとはレベルが違う。
寿命もないから人間よりも魔法の知識が豊富なのは当たり前だった。
「でも、エルフって人間の歴史だと滅びたことになっていたよな。ってことは、結界で隠れるようになったのは女王がループを認識する前ってことで良いんだよな」
「その辺りの詳しい情報は私はよく知らないんです」
「そうなのか?」
「私はいわゆる戦後に生まれた世代なので」
「人間の歴史書に書かれていた、エルフと人間の争いのこと?」
「正確にはそれに端を発した世界大戦ですね。人間とエルフと魔族と魔物が争い、世界は混沌を極めたとか」
「それ、女王は少し否定していたよな」
「はい。この世界の歴史は全て作られたものだとか。今では本当はどういう歴史があって今の世界が構築されたのか、正確に理解している者はいないんだそうです」
「歴史書が全て嘘だったと言うことか?」
「そういう意味ではありません。この世界の歴史に嘘も本当もないというのが、女王様のお考えのようです。私は世界の理について、女王様のように経験しているわけではないのでそれ以上はわかりませんが……」
「俺ももうちょっと詳しく聞いておくべきだったのかもな」
話すことはなくなってしまったが、まだトンネルは続いていた。
後ろを振り返ってみても、入り口はもう見えない。
緩やかな上り坂になっていた。
出口が少し明るく見える。
もう少しで、この道がどんな町に繋がっているのかがわかる。
エリザベス女王が見た町並。それを再現したエルフの町並。
ハルの世界に繋がる何かがそこにはあるはずだ。
トンネルを抜けると、大きなビルが建ち並ぶ町に出た。
道は交差点にぶつかり、片側三車線の大きな通りが左右に広がっている。
そしてその大きな通りに面していくつものビルが並んでいた。
「な……なんですかこの町は……?」
エルフの町にも商業施設はあったが、ここまで大きなビルが建ち並んだ区画はなかった。
「なぜ、ビルの壁に少女の絵が描かれているのですか? 何か魔法的な意味合いが……」
マーシャが戸惑っていたのは、町並ではなくこの独特な文化にだった。
俺にはなじみがある。
ここは紛れもなく、東京は秋葉原の町並と同じだった。
いわゆる電気街口から出て大通りに出た辺り。
人も車もまったく見かけないので、まるで世界にマーシャと二人だけになってしまったような気分になってくる。
「えーと、あれは新作のゲームを紹介する広告って言うか」
「げーむ? それは新しい魔法ですか?」
「そこからか。異世界の人に俺の世界の文化を説明するって難しいんだな」
「……では、ここはアキラさんの世界なんですか? ハルという人間の世界だと思っていましたが……」
その言葉にハッとさせられた。
ハルはこの国から大陸へやってきた。
つまり、ハルは俺の世界を知っている。
違うか。
ハルと俺の世界が同じ、なのか……?
「とにかく人を探してみよう。ここがどういった国なのか調べる必要がある」
「……そう、ですね……」
見通しが良いから俺たちは車道を歩いた。
さすがにこれだけ広くて長い道路に車が入ってくればわかる。
道を進むと大きな交差点にぶつかった。
角にビッ○カメラがある交差点だ。
店は開いていて、商品も並べられている。
ただ、店員も客もいない。
それなのにエスカレーターは動いている。
「アキラさん、ここには電気道具がたくさんあります」
エルフの国にもエレベーターがあったから、さすがにそれに驚くことはなかったが、マーシャは物珍しそうに店内を覗き込んでいた。
「入ってみるか?」
「はい」
俺の目的はパソコンだった。
エスカレーターで四階まで行き、最初に目についたパソコンに手を伸ばす。
「それはなんでしょうか? 魔法水晶に似ているように見えますが」
「パーソナルコンピューター。AIを理解できたなら何となくわかると思う」
「はぁ……」
詳しく説明するのももどかしい。
確かめたかったことはここにネット環境があるかどうかってこと。
電気が通ってるってことは、ネット環境も整っていると思った。
果たしてパソコンは検索画面を読み込んでくれた。
「今度は何をしているんでしょうか?」
「調べたいことがあったんだ。たぶん、ネムスギアでもわからない」
俺は検索画面に[武装セイバーネムス]の文字を打ち込んだ。
すると、それに関する情報が数百万件と表示された。
トップにはネット上の百科事典と言われるページが上がっている。
そこをクリックすると、詳細な情報がわかると思ったのだが……。
「なんだ?」
見かけだけは例の百科事典を模倣しているが、中身はスカスカだった。
放送時間さえ書かれていない。
登場人物もこれを書いた人の感想文みたい。それも、どちらかというと子供の感想文だった。
要約してしまえば、ネムスに変身するってことと強くて格好いいくらいしか書かれていない。
他の項目も似たようなものだった。
ここから情報を得るのは諦めて、公式のホームページに飛ぶ。
そこには全話のあらすじとか、映像も残っているはずだった。
しかし、検索ページには公式のホームページも上がっているのに[NotFound]の文字が現れるだけだった。
他のページも同じ。
項目だけはあるのに、表示されない。
これは、本当にネットに繋がっているわけではないと思った。
そう見せかけているだけのものだ。
「マーシャ、出よう。ここにはもう用はない」
「……よくわかりませんでしたが、アキラさんがそう言うなら」
ビッ○カメラを出てさらに道を進むと、そこには当然とら○あなとアニ○イトが並んでいる。
「ここにも少女の絵が。アキラさん。ここはなんのお店なんですか?」
物珍しそうに見るマーシャの横で、俺は懐かしいと言うより恥ずかしいような気分になっていた。
何が悲しくて異世界のエルフに美少女ゲームの説明をしなければならないのか。
俺が黙っていると、マーシャが勝手に店に入っていってしまった。
「あれが、ウォルカ王国……」
背中越しにマーシャが声をつぶやく。
「魔力は大丈夫か? そろそろ結界が近いんじゃないか?」
「……そうですね。これは、魔界を覆っていた天使の結界に似ていると思います」
特に驚くことはなかった。
あいつらの関係性は今ひとつはっきりしていないが、無関係であるはずはなかった。
「このまま泳いでいっても大丈夫かな……」
「アキラさんが全力で泳ぐなら、誰かに見つかると言うことはないと思いますが」
「相手が普通の人間ならな。だが、ハルと取り巻きの女たちは普通じゃないだろ」
「彼らは今、大陸にいますから」
「それはわかってるんだけどな」
ここまできて引くと言うこともない。
俺たちは前に進むしかないんだと言い聞かせるように島に近づく。
ファイトギアだとセンサーの感度が落ちるのが欠点だった。
その分、動体視力はよくなっているから自分の目で辺りを確かめなければならない。
ギルドマスターのクランスの話だと、近づくや否や島を警備する人が現れて警告をしてきたという話だったが、それらしい人影はまったく見当たらなかった。
やはり魔力を持たない者が近づくことは想定していないのだろうか。
「アキラさんにはわからないかも知れませんが、もう一メートルも進めば結界があります」
「通れるんだよな?」
「魔力さえなければ」
ゆっくりと慎重に平泳ぎで進む。
何も起こらず呆気なく結界の中へ入った。
本当にここが結界の中なのか、疑いたくなるほど。
「魔界と人間界の間にも結界があったって言うけど、これじゃ誰でも通れたんじゃないか?」
「そうでもありませんよ。この世界の者は誰であれ魔力を持っています。私たちはコントロールすることが出来ますが、魔王や魔族や魔物には、ゼロにしてしまう能力はありません」
「つまり、どうあっても天使の結界は通れないってことか」
「それに、ここの結界は警戒することを目的としているみたいですが、魔界に施された結界は出る者も入る者も体を引き裂かれるほど殺傷能力の高い結界でした。試して通れるような結界ではありませんでした」
「それでも、何人か人間界に来ている魔族はいたけどな」
俺が初めて戦ったミュウや、グレースやバルトラム。
「それは、その結界に揺らぎが発生していたからですよね」
「バルトラムという魔族は確かにそう言っていた」
「エリザベス女王様のお話では、それも世界の理のためだとおっしゃっていました」
「魔界から魔族が人間界に出てくることがか?」
「人を殺そうとする魔族が一人でも人間界に入れば、それだけでも混乱しますから」
「でも、確かアイレーリスの事件は冒険者とキャリーが解決するんだよな。その時点ではハルはこっちの世界に現れないし」
「人の心を不安にさせるのが、最初の段階だと教えられました」
戦争やクーデターは確かにアイレーリスの人々の心に傷を負わせただろう。
中でも最も大きなダメージを負ったのは、キャリーだ。
信頼していた貴族に裏切られて一時期は王座まで失いかけた。
もし、俺と出会っていなかったら?
キャリーは魔族や魔物を信じるような女王には決してなっていなかったはずだ。
「アキラさん、そろそろ行きましょう」
「ああ、そうだな」
海につかったまま長話をしている場合じゃなかった。
まるでジェットエンジンのように水しぶきを上げて泳ぐ。
あっという間に浜辺に着いた。
辺りに動くものは見えない。
「マーシャ、今から変身を解除するが、出来れば回復魔法の準備をしておいて欲しい」
「え?」
「この姿を長時間使うと、反動で筋肉痛に襲われるんだ。たぶん、動けなくなると思う」
「やっとわかりました。そのために私を連れてきたんですね」
「……説明すると、なんか便利な道具としてしか見ていないような感じになると思ったからさ」
「別に構いませんよ。アキラさんの役に立てるのであれば、そう言う理由でも。少なくともそれはヨミさんには不可能でしょうから」
「張り合うのはやっぱりヨミなんだな」
「当たり前じゃないですか」
マーシャほどの容姿なら、いい男はいくらでも見つけられそうな気がするのに。
何を言っても皮肉にしかならない気がして、その話は続けられなかった。
「それでは――聖なる神の名において、我が命ずる。命を癒やす息吹を与えよ」
優しく温かな光がマーシャの両手を包み込む。
「それって、確か――」
瀕死の重傷でも完全に回復させてしまう魔法。
大げさな気もしたが、俺は安心して変身を解除した。
「リザレクション」
緑色の輝きが全身を包み込み、バッチリ睡眠を取った朝のように清々しい気分と背中に羽が生えたんじゃないかと錯覚するほど軽やかな体調を取り戻した。
『やはり、魔法というものの効果は計り知れない。ネムスギアのエネルギーすら回復しているようです』
AIが驚きの声を上げた。
人間だけでなく、機械すら影響を与えられる回復魔法。
「どうでしょうか」
「思っていた以上に、マーシャの魔法が優れているってわかったよ」
「それは光栄です」
一応辺りを見回すが、誰もいない。
結界の中なら魔法を使っても大丈夫だった。
魔力が触れることで侵入者を感知することが結界の特性なら、大丈夫だとは思っていたが、少しは戦闘になるんじゃないかと警戒もしていた。
今なら魔王が複数相手でも戦える気がする。
リザレクションの効果は絶大だった。
「さて、いつまでもこんなところにいると怪しまれるし、町へ行こう」
「あ、じゃあ着替えますね」
「え?」
また目の前でストリップまがいのショーを見せるつもりかと思ったら、マーシャは岩陰に隠れた。
いや、別に見たかったわけではないが、あっさりとそうされるとそれはそれで寂しいような……。
きっと大地彰はそんなことを思ったりはしないんだろうな。
これは俺自身の悲しい性みたいなものだ。
いつもの魔道士っぽい格好に着替えて出てきたマーシャの姿は、エルフではなく人間だった。
「変身していくのか?」
「この国ではどんな人間に出会うかわかりませんから」
「エリザベス女王は教えてくれなかったのか?」
「はい。女王様は自分の目で確かめた方が良いとしか言いませんでした」
「ただの意地悪ではないってことか」
「女王様はそんなことはしませんよ」
微笑みを浮かべてそう言ったが、俺も一緒に笑うことは出来なかった。
マーシャにも先入観無しに見てもらいたいってことには、きっと何か意味があると思った。
「取り敢えず、どっちに行ったら良いんだろうな」
「申し訳ありませんが、この国の地図も教えていただいていません」
浜辺の向こうには林がある。
その先は木々に遮られていて、よく見えなかった。
ただ、その手前の道路に着いた時に、俺は驚きを隠せなかった。
「これって、舗装されてる」
「え? ああ、私たちの国の道路に似ていますね」
「いや、逆だろ。エルフの国はこの国を模倣して作ったといっていたじゃないか」
「そうでしたね」
今まで見てきたこの世界の国々の文明と明らかに違う。
俺には見慣れた道路だからこそ、あまりに異質だった。
話には聞いていたが、エルフの町とは印象が違う。
あそこは女王の結界によって外の世界と隔絶されたいた。
人間の大陸にありながら、ある意味異世界のような感覚だった。
しかし、この島国も結界に覆われているものの視覚的には何も遮るものはない。
俺の世界と地続きになっていると言っても信じてしまいそう。
「どちらに行きましょうか?」
道は左右に伸びていて、目の前には林がある。
「ネムスギアのセンサーで人を感知できないか?」
『近くにそれらしい気配はまったく感じられませんね』
ついさっきまではこの国の人間に襲われることを警戒していたのに、逆に人の姿を探すことになるとはなんとも皮肉だった。
「取り敢えず、歩いてみようか」
「はい」
右も左も似たような景色が続いていたので、右へ向かうことにした。
右手側には海。左手側には林。
いくら歩いてもその景色が変わらない。
魔法による幻影を疑いかけた頃、道が少し左にカーブしていって地下へ向かうトンネルが見えてきた。
もちろん、その中にはLEDの明かりが点っている。
「洞窟のように見えますが、妙に明るくて手触りの良い石ですね」
マーシャはトンネルのコンクリートを触りながらそう言った。
内部は明るいが、トンネルの先がどこに向かっているのかはわからなかった。
一旦下ってから上りになっている。
「それにしても、誰にも出会わないな」
「そうですね」
「車も見かけないし」
道は二車線で、車が二台行き交うことが出来るほどの幅だった。
歩道はなかったから、俺とマーシャはトンネルの壁に沿って歩いている。
異世界に来てまで交通事故に遭いたくないと思ったが、無駄な心配に思えてきた。
「エリザベス女王はこの国で車とか建物も見たんだよな」
「そうでなければ、魔法で再現することも出来ません」
エルフの魔法によって再現された物を調べて模倣した。
「今さらだけど、エルフの町並ってすごい短い間に作ったんだよな」
自殺して人生をループしているギルドマスターのクランスは、それこそ生まれたところからやり直しているわけだが、エリザベス女王とフェラルドは俺がこの世界にやってきた辺りから繰り返しているって認識だった。
つまり、それ以前に戻ることは出来ないし、エリザベスがこの国の街並みを再現しようと思ったのはきっとループしていることを認識してからだ。
「そうですね……。今もまだ開発途中ですけど、半年くらいかかったと思います」
「半年であれだけの町が作れるものなんだな」
「それは、私たちの魔力は人間とは違いますから。魔法技術に関しても人のずっと先まで進んでいますよ」
少し自慢げに話した。
このところ多くの魔王と対峙してきたせいで感覚が鈍っていたが、エルフの魔力は平均的な人間のそれとはレベルが違う。
寿命もないから人間よりも魔法の知識が豊富なのは当たり前だった。
「でも、エルフって人間の歴史だと滅びたことになっていたよな。ってことは、結界で隠れるようになったのは女王がループを認識する前ってことで良いんだよな」
「その辺りの詳しい情報は私はよく知らないんです」
「そうなのか?」
「私はいわゆる戦後に生まれた世代なので」
「人間の歴史書に書かれていた、エルフと人間の争いのこと?」
「正確にはそれに端を発した世界大戦ですね。人間とエルフと魔族と魔物が争い、世界は混沌を極めたとか」
「それ、女王は少し否定していたよな」
「はい。この世界の歴史は全て作られたものだとか。今では本当はどういう歴史があって今の世界が構築されたのか、正確に理解している者はいないんだそうです」
「歴史書が全て嘘だったと言うことか?」
「そういう意味ではありません。この世界の歴史に嘘も本当もないというのが、女王様のお考えのようです。私は世界の理について、女王様のように経験しているわけではないのでそれ以上はわかりませんが……」
「俺ももうちょっと詳しく聞いておくべきだったのかもな」
話すことはなくなってしまったが、まだトンネルは続いていた。
後ろを振り返ってみても、入り口はもう見えない。
緩やかな上り坂になっていた。
出口が少し明るく見える。
もう少しで、この道がどんな町に繋がっているのかがわかる。
エリザベス女王が見た町並。それを再現したエルフの町並。
ハルの世界に繋がる何かがそこにはあるはずだ。
トンネルを抜けると、大きなビルが建ち並ぶ町に出た。
道は交差点にぶつかり、片側三車線の大きな通りが左右に広がっている。
そしてその大きな通りに面していくつものビルが並んでいた。
「な……なんですかこの町は……?」
エルフの町にも商業施設はあったが、ここまで大きなビルが建ち並んだ区画はなかった。
「なぜ、ビルの壁に少女の絵が描かれているのですか? 何か魔法的な意味合いが……」
マーシャが戸惑っていたのは、町並ではなくこの独特な文化にだった。
俺にはなじみがある。
ここは紛れもなく、東京は秋葉原の町並と同じだった。
いわゆる電気街口から出て大通りに出た辺り。
人も車もまったく見かけないので、まるで世界にマーシャと二人だけになってしまったような気分になってくる。
「えーと、あれは新作のゲームを紹介する広告って言うか」
「げーむ? それは新しい魔法ですか?」
「そこからか。異世界の人に俺の世界の文化を説明するって難しいんだな」
「……では、ここはアキラさんの世界なんですか? ハルという人間の世界だと思っていましたが……」
その言葉にハッとさせられた。
ハルはこの国から大陸へやってきた。
つまり、ハルは俺の世界を知っている。
違うか。
ハルと俺の世界が同じ、なのか……?
「とにかく人を探してみよう。ここがどういった国なのか調べる必要がある」
「……そう、ですね……」
見通しが良いから俺たちは車道を歩いた。
さすがにこれだけ広くて長い道路に車が入ってくればわかる。
道を進むと大きな交差点にぶつかった。
角にビッ○カメラがある交差点だ。
店は開いていて、商品も並べられている。
ただ、店員も客もいない。
それなのにエスカレーターは動いている。
「アキラさん、ここには電気道具がたくさんあります」
エルフの国にもエレベーターがあったから、さすがにそれに驚くことはなかったが、マーシャは物珍しそうに店内を覗き込んでいた。
「入ってみるか?」
「はい」
俺の目的はパソコンだった。
エスカレーターで四階まで行き、最初に目についたパソコンに手を伸ばす。
「それはなんでしょうか? 魔法水晶に似ているように見えますが」
「パーソナルコンピューター。AIを理解できたなら何となくわかると思う」
「はぁ……」
詳しく説明するのももどかしい。
確かめたかったことはここにネット環境があるかどうかってこと。
電気が通ってるってことは、ネット環境も整っていると思った。
果たしてパソコンは検索画面を読み込んでくれた。
「今度は何をしているんでしょうか?」
「調べたいことがあったんだ。たぶん、ネムスギアでもわからない」
俺は検索画面に[武装セイバーネムス]の文字を打ち込んだ。
すると、それに関する情報が数百万件と表示された。
トップにはネット上の百科事典と言われるページが上がっている。
そこをクリックすると、詳細な情報がわかると思ったのだが……。
「なんだ?」
見かけだけは例の百科事典を模倣しているが、中身はスカスカだった。
放送時間さえ書かれていない。
登場人物もこれを書いた人の感想文みたい。それも、どちらかというと子供の感想文だった。
要約してしまえば、ネムスに変身するってことと強くて格好いいくらいしか書かれていない。
他の項目も似たようなものだった。
ここから情報を得るのは諦めて、公式のホームページに飛ぶ。
そこには全話のあらすじとか、映像も残っているはずだった。
しかし、検索ページには公式のホームページも上がっているのに[NotFound]の文字が現れるだけだった。
他のページも同じ。
項目だけはあるのに、表示されない。
これは、本当にネットに繋がっているわけではないと思った。
そう見せかけているだけのものだ。
「マーシャ、出よう。ここにはもう用はない」
「……よくわかりませんでしたが、アキラさんがそう言うなら」
ビッ○カメラを出てさらに道を進むと、そこには当然とら○あなとアニ○イトが並んでいる。
「ここにも少女の絵が。アキラさん。ここはなんのお店なんですか?」
物珍しそうに見るマーシャの横で、俺は懐かしいと言うより恥ずかしいような気分になっていた。
何が悲しくて異世界のエルフに美少女ゲームの説明をしなければならないのか。
俺が黙っていると、マーシャが勝手に店に入っていってしまった。
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