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変身ヒーローと無双チート救世主
ウォルカ王国の謎
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一階は商業系の新刊が平積みされている。
俺が知っている漫画もあれば知らない漫画もあった。
「ここは図書館ですか?」
エルフの町はここを模倣したものだったが、さすがに文化までは理解できなかったようだ。
思い返せば、エルフの町に本屋はなかった。
たぶん、ゲームショップとかもエリザベスには理解できなかっただろうから再現は不可能だったのだろう。
「不思議です。なぜ同じ表紙の本が何冊も積まれているのでしょうか。おまけに全ての表紙に絵が描かれています」
「それはマーシャたちがよく知ってる本じゃなくて、漫画って言うんだ」
「まんが? ですか?」
「コマ割りと絵とセリフで物語を見せる……本と言えばわかるかな」
「どうしてそれが全てこの薄い膜のようなもので覆われているのでしょう」
「それはビニールって言うもので――」
説明する前にマーシャはそれを破り捨てていた。
「あ! 勝手に破いたらまずいって」
「なぜですか? 破かなければ中が見られません」
「それは店に並んでる商品で、買わなければ中を見てはいけないんだよ」
「アキラさんの世界では、見ることができない物を買うのですか?」
……もはやマーシャのすることを注意する気は失せた。
それよりも、異世界との文化の違いに関心すら抱いていた。
「店員がいたら間違いなく怒られるだろうがな……」
町には人影一つない。
「アキラさん、この本――中は真っ白ですよ」
「え?」
マーシャは俺に漫画を向けてページをパラパラとめくって見せた。
確かに何も描かれていない。
あのパソコンの検索画面と似ている。
外側だけは同じような町の作りをしているが、中身はない。
「マーシャ、出よう」
「あ、はい」
なんだろう。この町全体がすごく不気味に思えてきた。
さらに進むとパチンコ屋がありパソコンショップがありホビーショップがある。
この先には――。
「え?」
俺の頭の中はさらに混乱してきた。
大通りの先にあったのは、東京駅だった。
レトロな雰囲気を残す特徴的な外観はあまり利用したことのない俺にもわかる。
「どうかしましたか?」
「いや、ありえないんだよ。ここにこの建物があるなんて」
走って駅舎内に入る。
人が全くいない駅舎内はひどく無機質に感じられた。
「この建物はなんでしょうか? 天井が高くて広いだけのように見えます」
「ここは駅って言って……」
説明しようとして、重要なことに気がついた。
電気が通っていて、駅がある。
つまり、電車が走ってるのか?
エルフの町では見かけなかったが……。
「あの、アキラさん?」
説明も半ばに俺は改札口へ向かった。
途中の電光掲示板にも時刻が記されている。
書かれている行き先や駅名も知っている地名が多かった。
まさか、この島には日本そのものが再現されているのだろうか。
東京駅がここにある時点でそれは矛盾しているはずだが、そこまで考えが至らなかったのは懐かしさゆえだったのかも知れない。
『駅の内部構造は私のデータとは違います』
唐突にAIが告げた。
俺にはそこまで正確な違いはわからなかった。
乗り換えで使ったことはあるが、あまり降りたことはない。
東京駅周辺に用事なんてなかった。
一つ問題があるとしたら、AIのデータにあるのは“武装セイバーネムス”の番組に登場する東京駅であって、俺の知っているものとは違うかも知れないってこと。
まあ、特撮番組に出てくる駅は本物をそのままロケ地として使うだろうから大差はないとは思うが、番組の設定上違うと言う可能性も否定しきれない。
改札口の一つが見つかり、側にある券売機へ向かう。
そこには路線図もあった。
……ここもだ。
改めてそう思った。
形は似ているし主要な駅は書かれているものの、細かいところは空白で歯抜けのような路線図だった。
ネットには繋がっているのに、読み込めないデータ。
表紙は描かれているのに、中身のない漫画。
そして、形だけ体裁を繕った路線図。
全てが繋がっているような気がした。
ちなみに、券売機には日本の金が必要だった。
もちろん、そんなものは持っていない。
俺は改札を跳び越える。
警告音が鳴り響いたが、駅員どころか人がいないのだから無視してどんどん入っていく。
マーシャも黙って俺についてきた。
「建物の中にお店がありますね」
「駅ナカって言う商業施設だな。俺はあまり利用したことがないけど」
「ショッピングセンターに似ていますね」
それはエルフの町でも再現されていたからマーシャにも理解できたようだ。
天井から吊されている案内を頼りに、俺は記憶にある路線を探す。
山手線のホームはすぐに見つかったが、電車は来ていない。
この路線ならすぐに次の電車が来るはずだが、電光掲示板の数字だけが動くばかりで電車が来る様子は全くなかった。
というか、ここのホームからは他の路線のホームも見渡せるわけで、そのどこにも電車が止まっていないどころか、静かすぎる時点で電車は走っていないんだろうなとは思った。
ホームから見下ろすと、一応線路はある。
それがどこへ繋がっているのかは確かめる気にはならなかった。
……たぶん、何もない。
そもそも東京駅の立地が異常なのだ。
路線なんてまともに作られているはずがなかった。
これでエルフの国に車があって電車がなかった理由がわかった。
エリザベス女王からしたら、駅は意味不明のものだっただろうな。
「結局、ここは何なのでしょう」
「電車が走ってたら、教えてやれるんだけどな。これじゃ、説明したところで意味不明だと思う」
「でんしゃ、ですか?」
「俺の世界にある乗り物だ」
「車とは違うんですよね」
「あれが個人の乗り物だとしたら、多くの人を一度に乗せることが出来る乗り物だ」
「この世界の乗り物で言うと、乗合馬車のようなものでしょうか」
「乗合馬車?」
言葉の意味はわかるが、俺は乗ったことがなかった。
『マーシャさんの言うそれは、正確にはバスの起源になったものなので、電車とは意味が違いますね』
AIの知識をそのままマーシャに伝える。
「私にはバスというものの方がよくわかりません」
「それは、えーと……大型の車が決まったルートを走っていて、それに金を払って乗るんだ」
「目的地まで入ってくれないんですか? 不便ですね」
「いやいや、いろんな路線があって格安で乗れる。必ず決まった時刻に走っているから探す必要もないし」
「必ず決まった時刻に同じルートを走るのですか? それでは、乗る人がいなかったら無駄になるのでは?」
「人の少ない地方じゃ、バスの路線が廃止になっているらしいからな。採算の取れないところは自然になくなっていってる」
「はぁ……」
こんなところで日本の地方事情について話しても、さすがに理解してもらうのは難しい。
いっそのことマーシャを俺の世界に連れて行けたら全ての疑問に答えてあげられるんだけどな。
俺たちは来た道を戻って駅を出た。
そして、改めて通りを見渡して……呆れた。
左の方に東京タワーが見える。
一体どういう構造の町なのか。
しかも、東京タワーは見えるのにスカイツリーはまったく見当たらない。
たぶん、実際に見たことがなかったんだろう。
この国は……いや、この町は張りぼてのような町だった。
それでも、いつものように道を戻ってしまうのは俺の習慣だったのかも知れない。
横断歩道を渡って逆の方向へ進む。
こっちの歩道にはパソコンショップや中古のゲームショップが並ぶ。
歩道に面したガラス越しにテレビが並べてあって、ゲームのデモ画面が流れていた。
これも実際には遊ぶことが出来ないんだろうなと思った。
「あの、また同じ交差点に戻って来ちゃいましたけど、何か意味があるんですか?」
「ああ、いや。俺の習慣だから気にしないで」
「アキラさんの?」
ビッ○カメラのある交差点を渡り、ホビーショップの横にあるゲームセンターの脇に入る。
とら○あなでは確かめなかったから、メロ○ブックスで確かめようと思った。
「ここもさっきのお店と同じように本がたくさん並べられていますね」
用があるのは、商業系のコーナーではない。
いつも行っている同人誌のコーナーに向かった。
階段を降りて左側。
「何だか、この辺りの本は大きいのに薄いものばかりですね」
何を探しているのか、自分でもよくわからない。
でも、なぜか同人誌を調べなければならない気がした。
特撮のジャンルで同人誌を描いている人は多くない。
それはすぐに見つかった。
タイトルも作者もわからない。
だが、表紙に見覚えがあった。
これまで何度も見てきた絵だ。
俺が夢の中で見たネムスの絵。
……ここは、夢の世界なのか……?
そうだとしたらこのつぎはぎだらけで張りぼての町の理由もわかる気がする。
目覚めたら全てが終わる。
未来が言っていた真実って言うのは、そう言うことなのか……?
「どうしたんですか? その本が何か……」
マーシャの言葉は俺には雑音のようにしか聞こえなかった。
明晰夢。
夢を夢だと認識できたなら、俺は俺の世界へ戻ることが出来るのか?
……また、だ。
押し寄せる悪意に頭が割れそうなほど痛くなる。
吐き気を催して、その場に膝から崩れ落ちた。
「アキラさん!?」
心配するような声が聞こえてくる。
しかし、今はそれすら鬱陶しい。
おれは、大地彰じゃない……。
掴まれた腕を振り払い、這うようにして階段を上る。
大通りに戻ると、少し気分が楽になった。
「あなたは誰?」
声に驚いて顔を上げると、大通りの真ん中に少女が立っていた。
どこか見覚えのある少女。
「君こそ誰だ?」
俺の質問に少女は答えなかった。
ま、俺も答えなかったからどっちもどっちなんだが。
「お前、光晴じゃない」
「え?」
少女が光に包まれる。
まるで、魔法少女の変身シーンのように煌めいたかと思ったら、そこには白い羽を背にもつ天使がいた。
どこかで見たことがあるわけだ。
「ここは光晴の家よ。秘密を知った者は排除します」
天使は問答無用で向かってきた。
「セイントシールド!」
光の盾が俺の目の前に現れて天使の攻撃を阻む。
「アキラさん! 逃げるのか、戦うのかはっきりしてください!」
マーシャの怒鳴り声で、俺の意識が覚醒する。
どうやら、夢の一言でかたづけられる世界でもないらしい。
「変身!」
『起動コードを認証しました。ネムスギア、キャノンギアフォーム、展開します』
変身と同時にバスターキャノンを構える。
「マーシャ! 防御魔法を解除してくれ!」
「はい」
『スペシャルチャージショット、マキシマムエナジーバスター!』
装填数は五発。
光の盾が消滅し、トリガーを引く。
砲口から放射状にエネルギーが発射され、抑えきれない反動で俺の体が押し下げられる。
天使は避ける間もなく、エネルギーに飲み込まれた。
天使の後ろにあったビル諸共破壊する。
舗装されていた道路はえぐり取られ、地面がむき出しになっていた。
天使はその地面に横たわっている。
……五発分の必殺技でも消失しない……?
この天使、今までの天使と違う。
『気をつけてください。魔力がまったく減っていません』
AIの言葉通り、天使は何事もなかったかのように立ち上がった。
服が多少ボロくなってはいるが、ダメージは見受けられない。
「お前は、天使じゃないのか?」
「光晴の秘密を知った者は排除します」
壊れたロボットのように同じセリフだけ繰り返して向かってきた。
『チャージショットスリー、ショットガンバレット!』
近づかれる前に、弾を撃つ。
射程は短いが、その代わりに広範囲をカバーする攻撃だったので、当然天使は避けられずに直撃して吹っ飛ばした。
しかし、またすぐに立ち上がる。
「これじゃ、天使ってより、ゾンビじゃねーか!」
「逃げましょう!」
マーシャが叫んだ。
確かに、その方がよさそうだ。
「変身」
『起動コードを認証しました。ネムスギア、ファイトギアフォーム、展開します』
マーシャの手を取り走る。
取り敢えずこの気持ちの悪い町の外へ向かおう。
トンネルと大通りの交差点まで戻り、俺は右の道へ曲がった。
こっちの方には俺の知ってる世界だと少し坂になっていて神社とかがあったはず――。
「え?」
いきなり面食らった。
そこはごくありふれた住宅街になっていた。
一軒家が建ち並んでいる。
もちろん、秋葉原の大通りの隣りにこんな町並はない。
知っているようで知らない町並が広がっていた。。
「ここはどこだ?」
「光晴の秘密を知った者は排除します」
天使の姿をしたゾンビのような少女がすぐ後ろまで迫っていた。
俺が知っている漫画もあれば知らない漫画もあった。
「ここは図書館ですか?」
エルフの町はここを模倣したものだったが、さすがに文化までは理解できなかったようだ。
思い返せば、エルフの町に本屋はなかった。
たぶん、ゲームショップとかもエリザベスには理解できなかっただろうから再現は不可能だったのだろう。
「不思議です。なぜ同じ表紙の本が何冊も積まれているのでしょうか。おまけに全ての表紙に絵が描かれています」
「それはマーシャたちがよく知ってる本じゃなくて、漫画って言うんだ」
「まんが? ですか?」
「コマ割りと絵とセリフで物語を見せる……本と言えばわかるかな」
「どうしてそれが全てこの薄い膜のようなもので覆われているのでしょう」
「それはビニールって言うもので――」
説明する前にマーシャはそれを破り捨てていた。
「あ! 勝手に破いたらまずいって」
「なぜですか? 破かなければ中が見られません」
「それは店に並んでる商品で、買わなければ中を見てはいけないんだよ」
「アキラさんの世界では、見ることができない物を買うのですか?」
……もはやマーシャのすることを注意する気は失せた。
それよりも、異世界との文化の違いに関心すら抱いていた。
「店員がいたら間違いなく怒られるだろうがな……」
町には人影一つない。
「アキラさん、この本――中は真っ白ですよ」
「え?」
マーシャは俺に漫画を向けてページをパラパラとめくって見せた。
確かに何も描かれていない。
あのパソコンの検索画面と似ている。
外側だけは同じような町の作りをしているが、中身はない。
「マーシャ、出よう」
「あ、はい」
なんだろう。この町全体がすごく不気味に思えてきた。
さらに進むとパチンコ屋がありパソコンショップがありホビーショップがある。
この先には――。
「え?」
俺の頭の中はさらに混乱してきた。
大通りの先にあったのは、東京駅だった。
レトロな雰囲気を残す特徴的な外観はあまり利用したことのない俺にもわかる。
「どうかしましたか?」
「いや、ありえないんだよ。ここにこの建物があるなんて」
走って駅舎内に入る。
人が全くいない駅舎内はひどく無機質に感じられた。
「この建物はなんでしょうか? 天井が高くて広いだけのように見えます」
「ここは駅って言って……」
説明しようとして、重要なことに気がついた。
電気が通っていて、駅がある。
つまり、電車が走ってるのか?
エルフの町では見かけなかったが……。
「あの、アキラさん?」
説明も半ばに俺は改札口へ向かった。
途中の電光掲示板にも時刻が記されている。
書かれている行き先や駅名も知っている地名が多かった。
まさか、この島には日本そのものが再現されているのだろうか。
東京駅がここにある時点でそれは矛盾しているはずだが、そこまで考えが至らなかったのは懐かしさゆえだったのかも知れない。
『駅の内部構造は私のデータとは違います』
唐突にAIが告げた。
俺にはそこまで正確な違いはわからなかった。
乗り換えで使ったことはあるが、あまり降りたことはない。
東京駅周辺に用事なんてなかった。
一つ問題があるとしたら、AIのデータにあるのは“武装セイバーネムス”の番組に登場する東京駅であって、俺の知っているものとは違うかも知れないってこと。
まあ、特撮番組に出てくる駅は本物をそのままロケ地として使うだろうから大差はないとは思うが、番組の設定上違うと言う可能性も否定しきれない。
改札口の一つが見つかり、側にある券売機へ向かう。
そこには路線図もあった。
……ここもだ。
改めてそう思った。
形は似ているし主要な駅は書かれているものの、細かいところは空白で歯抜けのような路線図だった。
ネットには繋がっているのに、読み込めないデータ。
表紙は描かれているのに、中身のない漫画。
そして、形だけ体裁を繕った路線図。
全てが繋がっているような気がした。
ちなみに、券売機には日本の金が必要だった。
もちろん、そんなものは持っていない。
俺は改札を跳び越える。
警告音が鳴り響いたが、駅員どころか人がいないのだから無視してどんどん入っていく。
マーシャも黙って俺についてきた。
「建物の中にお店がありますね」
「駅ナカって言う商業施設だな。俺はあまり利用したことがないけど」
「ショッピングセンターに似ていますね」
それはエルフの町でも再現されていたからマーシャにも理解できたようだ。
天井から吊されている案内を頼りに、俺は記憶にある路線を探す。
山手線のホームはすぐに見つかったが、電車は来ていない。
この路線ならすぐに次の電車が来るはずだが、電光掲示板の数字だけが動くばかりで電車が来る様子は全くなかった。
というか、ここのホームからは他の路線のホームも見渡せるわけで、そのどこにも電車が止まっていないどころか、静かすぎる時点で電車は走っていないんだろうなとは思った。
ホームから見下ろすと、一応線路はある。
それがどこへ繋がっているのかは確かめる気にはならなかった。
……たぶん、何もない。
そもそも東京駅の立地が異常なのだ。
路線なんてまともに作られているはずがなかった。
これでエルフの国に車があって電車がなかった理由がわかった。
エリザベス女王からしたら、駅は意味不明のものだっただろうな。
「結局、ここは何なのでしょう」
「電車が走ってたら、教えてやれるんだけどな。これじゃ、説明したところで意味不明だと思う」
「でんしゃ、ですか?」
「俺の世界にある乗り物だ」
「車とは違うんですよね」
「あれが個人の乗り物だとしたら、多くの人を一度に乗せることが出来る乗り物だ」
「この世界の乗り物で言うと、乗合馬車のようなものでしょうか」
「乗合馬車?」
言葉の意味はわかるが、俺は乗ったことがなかった。
『マーシャさんの言うそれは、正確にはバスの起源になったものなので、電車とは意味が違いますね』
AIの知識をそのままマーシャに伝える。
「私にはバスというものの方がよくわかりません」
「それは、えーと……大型の車が決まったルートを走っていて、それに金を払って乗るんだ」
「目的地まで入ってくれないんですか? 不便ですね」
「いやいや、いろんな路線があって格安で乗れる。必ず決まった時刻に走っているから探す必要もないし」
「必ず決まった時刻に同じルートを走るのですか? それでは、乗る人がいなかったら無駄になるのでは?」
「人の少ない地方じゃ、バスの路線が廃止になっているらしいからな。採算の取れないところは自然になくなっていってる」
「はぁ……」
こんなところで日本の地方事情について話しても、さすがに理解してもらうのは難しい。
いっそのことマーシャを俺の世界に連れて行けたら全ての疑問に答えてあげられるんだけどな。
俺たちは来た道を戻って駅を出た。
そして、改めて通りを見渡して……呆れた。
左の方に東京タワーが見える。
一体どういう構造の町なのか。
しかも、東京タワーは見えるのにスカイツリーはまったく見当たらない。
たぶん、実際に見たことがなかったんだろう。
この国は……いや、この町は張りぼてのような町だった。
それでも、いつものように道を戻ってしまうのは俺の習慣だったのかも知れない。
横断歩道を渡って逆の方向へ進む。
こっちの歩道にはパソコンショップや中古のゲームショップが並ぶ。
歩道に面したガラス越しにテレビが並べてあって、ゲームのデモ画面が流れていた。
これも実際には遊ぶことが出来ないんだろうなと思った。
「あの、また同じ交差点に戻って来ちゃいましたけど、何か意味があるんですか?」
「ああ、いや。俺の習慣だから気にしないで」
「アキラさんの?」
ビッ○カメラのある交差点を渡り、ホビーショップの横にあるゲームセンターの脇に入る。
とら○あなでは確かめなかったから、メロ○ブックスで確かめようと思った。
「ここもさっきのお店と同じように本がたくさん並べられていますね」
用があるのは、商業系のコーナーではない。
いつも行っている同人誌のコーナーに向かった。
階段を降りて左側。
「何だか、この辺りの本は大きいのに薄いものばかりですね」
何を探しているのか、自分でもよくわからない。
でも、なぜか同人誌を調べなければならない気がした。
特撮のジャンルで同人誌を描いている人は多くない。
それはすぐに見つかった。
タイトルも作者もわからない。
だが、表紙に見覚えがあった。
これまで何度も見てきた絵だ。
俺が夢の中で見たネムスの絵。
……ここは、夢の世界なのか……?
そうだとしたらこのつぎはぎだらけで張りぼての町の理由もわかる気がする。
目覚めたら全てが終わる。
未来が言っていた真実って言うのは、そう言うことなのか……?
「どうしたんですか? その本が何か……」
マーシャの言葉は俺には雑音のようにしか聞こえなかった。
明晰夢。
夢を夢だと認識できたなら、俺は俺の世界へ戻ることが出来るのか?
……また、だ。
押し寄せる悪意に頭が割れそうなほど痛くなる。
吐き気を催して、その場に膝から崩れ落ちた。
「アキラさん!?」
心配するような声が聞こえてくる。
しかし、今はそれすら鬱陶しい。
おれは、大地彰じゃない……。
掴まれた腕を振り払い、這うようにして階段を上る。
大通りに戻ると、少し気分が楽になった。
「あなたは誰?」
声に驚いて顔を上げると、大通りの真ん中に少女が立っていた。
どこか見覚えのある少女。
「君こそ誰だ?」
俺の質問に少女は答えなかった。
ま、俺も答えなかったからどっちもどっちなんだが。
「お前、光晴じゃない」
「え?」
少女が光に包まれる。
まるで、魔法少女の変身シーンのように煌めいたかと思ったら、そこには白い羽を背にもつ天使がいた。
どこかで見たことがあるわけだ。
「ここは光晴の家よ。秘密を知った者は排除します」
天使は問答無用で向かってきた。
「セイントシールド!」
光の盾が俺の目の前に現れて天使の攻撃を阻む。
「アキラさん! 逃げるのか、戦うのかはっきりしてください!」
マーシャの怒鳴り声で、俺の意識が覚醒する。
どうやら、夢の一言でかたづけられる世界でもないらしい。
「変身!」
『起動コードを認証しました。ネムスギア、キャノンギアフォーム、展開します』
変身と同時にバスターキャノンを構える。
「マーシャ! 防御魔法を解除してくれ!」
「はい」
『スペシャルチャージショット、マキシマムエナジーバスター!』
装填数は五発。
光の盾が消滅し、トリガーを引く。
砲口から放射状にエネルギーが発射され、抑えきれない反動で俺の体が押し下げられる。
天使は避ける間もなく、エネルギーに飲み込まれた。
天使の後ろにあったビル諸共破壊する。
舗装されていた道路はえぐり取られ、地面がむき出しになっていた。
天使はその地面に横たわっている。
……五発分の必殺技でも消失しない……?
この天使、今までの天使と違う。
『気をつけてください。魔力がまったく減っていません』
AIの言葉通り、天使は何事もなかったかのように立ち上がった。
服が多少ボロくなってはいるが、ダメージは見受けられない。
「お前は、天使じゃないのか?」
「光晴の秘密を知った者は排除します」
壊れたロボットのように同じセリフだけ繰り返して向かってきた。
『チャージショットスリー、ショットガンバレット!』
近づかれる前に、弾を撃つ。
射程は短いが、その代わりに広範囲をカバーする攻撃だったので、当然天使は避けられずに直撃して吹っ飛ばした。
しかし、またすぐに立ち上がる。
「これじゃ、天使ってより、ゾンビじゃねーか!」
「逃げましょう!」
マーシャが叫んだ。
確かに、その方がよさそうだ。
「変身」
『起動コードを認証しました。ネムスギア、ファイトギアフォーム、展開します』
マーシャの手を取り走る。
取り敢えずこの気持ちの悪い町の外へ向かおう。
トンネルと大通りの交差点まで戻り、俺は右の道へ曲がった。
こっちの方には俺の知ってる世界だと少し坂になっていて神社とかがあったはず――。
「え?」
いきなり面食らった。
そこはごくありふれた住宅街になっていた。
一軒家が建ち並んでいる。
もちろん、秋葉原の大通りの隣りにこんな町並はない。
知っているようで知らない町並が広がっていた。。
「ここはどこだ?」
「光晴の秘密を知った者は排除します」
天使の姿をしたゾンビのような少女がすぐ後ろまで迫っていた。
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