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変身ヒーローと無双チート救世主
思い出した一つの手がかり
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たぶん、ヒントは全て出ている。
だからこそ、未来はああいう言い方をしているんだ。
自分のことを思い出そうとすると、体が拒絶反応を示してしまうのは、彼女の言うように俺がそれを認めようとしないから。
夢だというのは、要するに俺がそう思いたいだけだ。
逃げてばかりいても何も進展しない。
この世界と本当の意味で向かい合わなければならないんだ。
「あの、ところでこれを持ってきてしまったんですけど……」
申し訳なさそうにマーシャが差し出したのは、表紙にネムスが描かれた同人誌。
メロ○ブックスを出たところで少女と出交わしてしまったから、戻すどころではなくなってしまったのだろう。
幸いにも破れてはいないから後で戻しておくことも可能だ。
ま、これも結局はあの町を記号的に表現するための小道具としての意味しかないようだから、一冊なくなったところで問題ではない。
どうせ中は真っ白だ。
「――って、だからなぜ袋を開ける」
マーシャにはビニールがゴミにしか見えていないのかも知れない。
「アキラさんも中が気になっていたようでしたから」
そんなに物欲しそうな目で見ていただろうか。
「どうせ白紙だろ」
「いいえ、絵と文章? が描かれていますよ」
「は?」
引ったくるようにマーシャから同人誌を奪う。
その同人誌だけは、コマ割りと絵とセリフがちゃんと描かれていた。
……表紙だけじゃない。
この同人誌、中も見覚えがある。
って言うか、俺が――あ、いや。
ややこしいな。
大地彰がこの世界に来た時の展開にそっくりだ。
あらすじをまとめると、
[平和になった世界で、普通の日常を送ろうとする彰と未来。しかし、彼の変身する能力は敵がいなくなった今、人類にとっての脅威になりつつあった。
世界中の人々に恐れられた彼は、その能力を欲する各国の首脳によって追われることになり、人類と戦う。
そして、彼はその能力ごと封印されることになった――]
封印方法は、異次元砲による異世界への追放……。
おいおい、今の状況とまったく同じじゃないか。
しかし、そこで物語は次回へ続くとなっていた。
その先がどうなるのかが重要だったのに。
「これがまんがというものなんですか?」
「ああ、この四角い囲いがコマ割りと言って場面を表していて、こっちの丸い囲いがその人物がしゃべっているセリフになってる。ちなみに、右から左に向かって読むことで物語が表現される」
どういうわけかこの世界では全員日本語を話しているから、漫画文化の理解も早かった。
マーシャは俺の言われたように漫画を読み始めた。
そしてすぐに、俺に視線を送ってくる。
「あの……ここに描かれている人ってアキラさんとその……」
「ああ、妹の未来だ」
「お二人をモデルにして誰かが勝手に描いたんですか?」
「その説明はさらに難しいな」
漫画文化が理解できたとしても、さすがに同人誌の説明は最初から諦めていた。
同人誌を知らない日本人にそれを説明しろと言われてもどう言っていいのかわからないものを、異世界のエルフに教えられる自信はなかった。
「アキラさんたちは、元の世界を追放されてこの世界へ来たんですよね」
「ああ」
マーシャも漫画を読んで気がついたみたいだった。
「それでは、この漫画はその歴史的事実を記述したものなんですか?」
「いや、それは同人誌だからな。ただの想像――」
マーシャが同人誌をもってこちらに向けているから、やっと気がついた。
表紙にタイトルがある。
さっき俺が見た時は、そんなものはなかったはずなのに。
タイトルは“ネムスの続きを勝手に描いてみた”だった。
この同人誌は“誰か”が描いたもの。
誰か?
表紙を描いたのは“誰か”じゃない。
今まで何度も夢に見た。
その表紙を描いたのは、他でもない“俺”だ。
それじゃ、中は?
その物語を描いたのは?
聞くまでもないじゃないか。
なぜ、俺の描いた同人誌がこの世界にある。
どうして俺は自分の描いた同人誌のようにこの異世界へ転移した?
わからない。でも、俺はこの世界で何かやらなければならないことがある。
そのために呼ばれたんだと思った。
「アキラさんの世界の人間は、こんなにもアキラさんに対して冷たかったのですか?」
「だからそれは俺の想像であって、本当にそうだったってわけじゃ……」
そもそも公式の番組はネムスがデモンとの戦いを終わらせた後の話なんて作らないし。
だから勝手に――。
……それじゃ、この続きは……。
俺はどういう物語にするつもりだったのか……。
いくら考えても、それだけは思い出せそうになかった。
「アキラさんは自分で自分のことを描いた?」
「そうじゃなくて、俺は大地彰の体に宿ってるただの――」
ただのネムスのファンだ。
その言葉を最後まで言うことはできなかった。
似ている。
ハルも俺の姿を見た時に、変身ヒーローに憧れる少年のような瞳をしていた。
もう間違いない。
俺とハル――光晴は同じ世界の人間だ。
俺は異世界転移して、光晴は異世界転生してこの世界へ来たと考えるのが妥当だろう。
ただ、なぜ俺と光晴が同時にそんなややこしいことになったのかはわからない。
そもそも、俺には高校生くらいの知り合いなんていない。
高校の時の友達にも、あんなやつはいなかった。
でも、見覚えがないわけではない。
はっきり言ってしまえば、光晴の容姿は印象に残るような特徴はない。
いわゆるモブ顔だ。
一度や二度話したくらいじゃ、町で見かけたとしても気付くことはない。
それでも何か心に引っかかるものがあるってことは、何か関わりがあるはずなんだ。
……もう少し、もう少しで何かが手に届く。
目の前がチカチカする。
魔法ではない。
遠くで誰かが俺を呼ぶ声が聞こえる。
俺は大丈夫だからと手を上げたかったが、体に力が入らない。
そのまま、景色がブラックアウトした。
「やっとわかりました。お兄様はもう立ち上がれるほどの力を取り戻しているんですね」
「ああ、あいつが俺のことを本当の意味で思い出したからな」
「では、もう彼の代わりに戦う力も……」
「そうだな。今の俺と未来ならサバイバルギアを超えるあの力が――」
「私も心の準備はいつでも出来ています」
「本当は俺の出番はない方が良いんだけどな。それに、あの光晴とかいう少年には手出しは出来ない」
「やはり、私たちにとっても彼こそが鍵になると言うことなんですね」
「そうだ。俺たちの力は光晴という少年の取り巻きの女たちと変わらない」
「お兄様、私のように超能力が使えるわけではないのに、彼女たちの正体まで見破ってしまったんですか?」
「こいつの記憶を見たからな。それにしても、最強の力を手に入れたのに、それが最後の戦いで使えなかったのが番組の都合だとは思わなかったな」
「お兄様、それは覚えておかなくて良いことだと思いますよ」
「そうだな。俺たちはだいたいわかっていればいい。後は、あいつがどう自分の心と決着を付けるかだけだ」
俺の意識の中で、彰と未来が話している。
その内容は、何となく理解できるような理解できないような。
サバイバルギアを超える力。
それはきっと――。
「あ、やっと目を覚ましましたね」
少し肌寒い。
日の光が朝を告げている。
俺は、一体どれくらい寝ていたんだろう。
俺を覗き込む顔は二つ。
マーシャと……メリッサ?
思わず、飛び起きた。
「どうしてここにメリッサがいるんだ!?」
「それはこっちのセリフだと思いますけど。帝国の海岸で別れてウォルカ王国へ向かったのが昨日。それでどうして私より先にアキラさんたちが魔界にいるんですか?」
昨日?
ってことは、そんなに長く寝ていたわけじゃないか。
もう少しで記憶に届きそうだったのに、意識を失った。
封印された自分の記憶は、誰よりも俺自身が気になってはいる。
でも、まだ何かが足りないみたいだ。
「未来のテレポートで危ないところを助けられた。それで、ここにいる」
未来のことだ、きっと俺とメリッサが合流できるようなポイントにテレポートしてくれたんだろう。
そう考えるとバルトラムと再会したことも偶然ではないように思えてくる。
「あ、そうだ。メリッサ、こっちの男はバルトラムっていって――」
「自己紹介ならすでにすませています。新たな魔王の出現に、私が気付かないはずありません」
「それもそうだな」
話がまとまったとみるや、マーシャが手を叩いた。
「アキラさん、朝食にしましょう」
そう言えば、ウォルカ王国にはいろんな種類の飯屋があったが、店員が一人もいなかったから食べることは出来なかった。
ほぼ丸一日食事を抜いていたので、さすがに腹が減ってきた。
体調はリザレクションのお陰で万全でも、空腹だけは魔法で満たせない。
こんな森の中でどうやって食料を調達したのかはわからなかったが、マーシャが用意したのは、パンと目玉焼きとローストチキン。
魔法で野外でも火は扱えるから、どれもできたてで美味しかった。
「それで、ウォルカ王国では何かわかったんですか?」
マーシャが食事の後片付けを始めると、開口一番メリッサが聞いてきた。
「あの町は、俺の知っている町とそっくりだった。だけど、見た目だけだ。中身はスカスカの張りぼてのような町だった」
「それだけですか?」
目線が厳しい。
「それと、たぶん光晴は俺と同じ国から異世界転生している」
「え? 異世界転生? それって、どういうことですか?」
「この世界の人間に生まれ変わったんだろ、そうでなければ……」
あの町は、再現できるはずがない。そう言いかけて口をつぐんだ。
いや、待て待て。よく考えろ。
光晴はどう見ても、高校生くらいだった。
仮に光晴の仲間たちが協力したところで、たった八人しかいない。
エルフと同じレベルで魔法を駆使したところで、たった十何年かだけであれだけの町が作れるか?
町のインパクトに目を奪われてばかりいたが、あれを光晴が作るのは不可能だ。
それじゃ、誰があの町を再現した?
嫌な汗が溢れる。
確かに、誰かがこの世界には存在するといっていた。
誰も見たことはない。それなのに、この世界の人間はそれが当たり前のように存在すると認めていた。
――神様。
この世界を創った者が神なら、もちろんあの町を再現したのだってそう考えるべきだった。
それじゃ、神様が俺の世界から転生してきた?
あるいは、光晴に神のギフトを与えた神が光晴のために町を再現させたのか。
細かいディティールまで再現できなかったのは、そのため?
さらにもう一つの可能性も捨てきれない。
エリザベス女王が言っていた、救世主こそが神であるという推理。
もしそうだとしたら、光晴の取り巻きの女たちは別として、光晴自身はどうやっても倒せないんじゃ……。
「アキラさん、顔が青いですよ。どうしたんですか?」
逃げるべきだ。
あいつの正体がはっきりするまでは手を出すべきではない。
だが、このままだとヨミとアスルが戦う。
光晴を倒すよりも、まずはあの二人を止めるのが先決か。
そう思った時、大きな声が風に乗って響き渡る。
まるで魔界全土にまで聞こえるような声で女が言った。
「「「人間の大陸は全て取り戻しました! もう魔王と魔族が存在するのは魔界しかありません! これより、最終決戦を始めます!!」」」
一方的な宣戦布告。
辺りが急に暗くなり、風が吹き抜ける。
空を見上げると飛翔船が浮かんでいた。
そこから例の飛行艇がいくつも飛び出してくる。
量産できたのか!?
目を見張っていると、突然俺の頭上に光の盾が現れる。
そこへ、人の大きさくらいある火炎球が降ってきた。
森のあちこちから爆発と火の手が上がる。
これは、まさしく航空機による爆撃と同じだ。
「アイスニードル!」
メリッサが魔法を放つが、高速で移動する飛行艇を正確に撃ち抜くのは難しい。
ごく希に、操作を誤った飛行艇に氷のつららが刺さりそうになるが、飛行艇に当たることなく砕かれる。
あの飛行艇は最大四人乗りだ。
操縦と攻撃、それと防御。
全て役割分担している。
この戦術は、間違いなく光晴だ。
飛行艇の効率的で有効的な使い方をよくわかっている。
飛翔船はまだ一隻しか見えない。
他の飛翔船も同じ戦法を取ってきたら、それだけで魔界は火の海になる。
この戦い方を止めるには複合戦略魔法が必要だが、それはこっちにはない。
飛翔船そのものを破壊する。
母艦を失えば、航空機は帰るところを失うからな。
出来れば、こんなところでエネルギーを消費したくはなかったが……。
「変身!」
『起動コードを認証しました。ネムスギア、キャノンギアフォーム、展開します』
バスターキャノンを構えると、マスクの中でロックオンカーソルが飛翔船の船体後方――魔法クリスタルが入っている辺りを捉えた。
飛翔船には二つの魔力しか存在しない。
一つは動力となってる魔法クリスタル。
もう一つは、杖の勇者。
『スペシャルチャージショット、マキシマムエナジーバスター!』
装填数は五発。
発射されたエネルギーが真っ直ぐロックオンされた場所に向かっていく。
いくつかの飛行艇が射線に引っかかって落ちてきたが関係ない。
エネルギーそのものが船体にぶつかり、大きく飛翔船が揺れる。
しかし、ぶち抜けない。
防御魔法だ。
伝説の勇者の魔法。
さらに強力な魔法が発動したことがセンサーを通じてわかる。
飛翔船は態勢を少しずつ取り戻し、こっちのエネルギーが飛翔船の周りに現れた光の膜に阻まれる。
「これって、途中からでも装填可能なのか!?」
『で、出来ますが』
「なら、残り全部だ!!」
バスターキヤノンの砲身に次々エネルギーの砲弾が装填される。
その度に勢いを増したエネルギーが飛翔船に向かって行き――。
『これで最後です!』
「いけええええええ!!」
飛翔船を多う光の膜にヒビが入り、ガラスのように砕け散った。
そして、放射されたエネルギーは飛翔船の船体後方をまるごと消滅させて空へ消えていく。
バスターキャノンはその役割を終えて消滅した。
だからこそ、未来はああいう言い方をしているんだ。
自分のことを思い出そうとすると、体が拒絶反応を示してしまうのは、彼女の言うように俺がそれを認めようとしないから。
夢だというのは、要するに俺がそう思いたいだけだ。
逃げてばかりいても何も進展しない。
この世界と本当の意味で向かい合わなければならないんだ。
「あの、ところでこれを持ってきてしまったんですけど……」
申し訳なさそうにマーシャが差し出したのは、表紙にネムスが描かれた同人誌。
メロ○ブックスを出たところで少女と出交わしてしまったから、戻すどころではなくなってしまったのだろう。
幸いにも破れてはいないから後で戻しておくことも可能だ。
ま、これも結局はあの町を記号的に表現するための小道具としての意味しかないようだから、一冊なくなったところで問題ではない。
どうせ中は真っ白だ。
「――って、だからなぜ袋を開ける」
マーシャにはビニールがゴミにしか見えていないのかも知れない。
「アキラさんも中が気になっていたようでしたから」
そんなに物欲しそうな目で見ていただろうか。
「どうせ白紙だろ」
「いいえ、絵と文章? が描かれていますよ」
「は?」
引ったくるようにマーシャから同人誌を奪う。
その同人誌だけは、コマ割りと絵とセリフがちゃんと描かれていた。
……表紙だけじゃない。
この同人誌、中も見覚えがある。
って言うか、俺が――あ、いや。
ややこしいな。
大地彰がこの世界に来た時の展開にそっくりだ。
あらすじをまとめると、
[平和になった世界で、普通の日常を送ろうとする彰と未来。しかし、彼の変身する能力は敵がいなくなった今、人類にとっての脅威になりつつあった。
世界中の人々に恐れられた彼は、その能力を欲する各国の首脳によって追われることになり、人類と戦う。
そして、彼はその能力ごと封印されることになった――]
封印方法は、異次元砲による異世界への追放……。
おいおい、今の状況とまったく同じじゃないか。
しかし、そこで物語は次回へ続くとなっていた。
その先がどうなるのかが重要だったのに。
「これがまんがというものなんですか?」
「ああ、この四角い囲いがコマ割りと言って場面を表していて、こっちの丸い囲いがその人物がしゃべっているセリフになってる。ちなみに、右から左に向かって読むことで物語が表現される」
どういうわけかこの世界では全員日本語を話しているから、漫画文化の理解も早かった。
マーシャは俺の言われたように漫画を読み始めた。
そしてすぐに、俺に視線を送ってくる。
「あの……ここに描かれている人ってアキラさんとその……」
「ああ、妹の未来だ」
「お二人をモデルにして誰かが勝手に描いたんですか?」
「その説明はさらに難しいな」
漫画文化が理解できたとしても、さすがに同人誌の説明は最初から諦めていた。
同人誌を知らない日本人にそれを説明しろと言われてもどう言っていいのかわからないものを、異世界のエルフに教えられる自信はなかった。
「アキラさんたちは、元の世界を追放されてこの世界へ来たんですよね」
「ああ」
マーシャも漫画を読んで気がついたみたいだった。
「それでは、この漫画はその歴史的事実を記述したものなんですか?」
「いや、それは同人誌だからな。ただの想像――」
マーシャが同人誌をもってこちらに向けているから、やっと気がついた。
表紙にタイトルがある。
さっき俺が見た時は、そんなものはなかったはずなのに。
タイトルは“ネムスの続きを勝手に描いてみた”だった。
この同人誌は“誰か”が描いたもの。
誰か?
表紙を描いたのは“誰か”じゃない。
今まで何度も夢に見た。
その表紙を描いたのは、他でもない“俺”だ。
それじゃ、中は?
その物語を描いたのは?
聞くまでもないじゃないか。
なぜ、俺の描いた同人誌がこの世界にある。
どうして俺は自分の描いた同人誌のようにこの異世界へ転移した?
わからない。でも、俺はこの世界で何かやらなければならないことがある。
そのために呼ばれたんだと思った。
「アキラさんの世界の人間は、こんなにもアキラさんに対して冷たかったのですか?」
「だからそれは俺の想像であって、本当にそうだったってわけじゃ……」
そもそも公式の番組はネムスがデモンとの戦いを終わらせた後の話なんて作らないし。
だから勝手に――。
……それじゃ、この続きは……。
俺はどういう物語にするつもりだったのか……。
いくら考えても、それだけは思い出せそうになかった。
「アキラさんは自分で自分のことを描いた?」
「そうじゃなくて、俺は大地彰の体に宿ってるただの――」
ただのネムスのファンだ。
その言葉を最後まで言うことはできなかった。
似ている。
ハルも俺の姿を見た時に、変身ヒーローに憧れる少年のような瞳をしていた。
もう間違いない。
俺とハル――光晴は同じ世界の人間だ。
俺は異世界転移して、光晴は異世界転生してこの世界へ来たと考えるのが妥当だろう。
ただ、なぜ俺と光晴が同時にそんなややこしいことになったのかはわからない。
そもそも、俺には高校生くらいの知り合いなんていない。
高校の時の友達にも、あんなやつはいなかった。
でも、見覚えがないわけではない。
はっきり言ってしまえば、光晴の容姿は印象に残るような特徴はない。
いわゆるモブ顔だ。
一度や二度話したくらいじゃ、町で見かけたとしても気付くことはない。
それでも何か心に引っかかるものがあるってことは、何か関わりがあるはずなんだ。
……もう少し、もう少しで何かが手に届く。
目の前がチカチカする。
魔法ではない。
遠くで誰かが俺を呼ぶ声が聞こえる。
俺は大丈夫だからと手を上げたかったが、体に力が入らない。
そのまま、景色がブラックアウトした。
「やっとわかりました。お兄様はもう立ち上がれるほどの力を取り戻しているんですね」
「ああ、あいつが俺のことを本当の意味で思い出したからな」
「では、もう彼の代わりに戦う力も……」
「そうだな。今の俺と未来ならサバイバルギアを超えるあの力が――」
「私も心の準備はいつでも出来ています」
「本当は俺の出番はない方が良いんだけどな。それに、あの光晴とかいう少年には手出しは出来ない」
「やはり、私たちにとっても彼こそが鍵になると言うことなんですね」
「そうだ。俺たちの力は光晴という少年の取り巻きの女たちと変わらない」
「お兄様、私のように超能力が使えるわけではないのに、彼女たちの正体まで見破ってしまったんですか?」
「こいつの記憶を見たからな。それにしても、最強の力を手に入れたのに、それが最後の戦いで使えなかったのが番組の都合だとは思わなかったな」
「お兄様、それは覚えておかなくて良いことだと思いますよ」
「そうだな。俺たちはだいたいわかっていればいい。後は、あいつがどう自分の心と決着を付けるかだけだ」
俺の意識の中で、彰と未来が話している。
その内容は、何となく理解できるような理解できないような。
サバイバルギアを超える力。
それはきっと――。
「あ、やっと目を覚ましましたね」
少し肌寒い。
日の光が朝を告げている。
俺は、一体どれくらい寝ていたんだろう。
俺を覗き込む顔は二つ。
マーシャと……メリッサ?
思わず、飛び起きた。
「どうしてここにメリッサがいるんだ!?」
「それはこっちのセリフだと思いますけど。帝国の海岸で別れてウォルカ王国へ向かったのが昨日。それでどうして私より先にアキラさんたちが魔界にいるんですか?」
昨日?
ってことは、そんなに長く寝ていたわけじゃないか。
もう少しで記憶に届きそうだったのに、意識を失った。
封印された自分の記憶は、誰よりも俺自身が気になってはいる。
でも、まだ何かが足りないみたいだ。
「未来のテレポートで危ないところを助けられた。それで、ここにいる」
未来のことだ、きっと俺とメリッサが合流できるようなポイントにテレポートしてくれたんだろう。
そう考えるとバルトラムと再会したことも偶然ではないように思えてくる。
「あ、そうだ。メリッサ、こっちの男はバルトラムっていって――」
「自己紹介ならすでにすませています。新たな魔王の出現に、私が気付かないはずありません」
「それもそうだな」
話がまとまったとみるや、マーシャが手を叩いた。
「アキラさん、朝食にしましょう」
そう言えば、ウォルカ王国にはいろんな種類の飯屋があったが、店員が一人もいなかったから食べることは出来なかった。
ほぼ丸一日食事を抜いていたので、さすがに腹が減ってきた。
体調はリザレクションのお陰で万全でも、空腹だけは魔法で満たせない。
こんな森の中でどうやって食料を調達したのかはわからなかったが、マーシャが用意したのは、パンと目玉焼きとローストチキン。
魔法で野外でも火は扱えるから、どれもできたてで美味しかった。
「それで、ウォルカ王国では何かわかったんですか?」
マーシャが食事の後片付けを始めると、開口一番メリッサが聞いてきた。
「あの町は、俺の知っている町とそっくりだった。だけど、見た目だけだ。中身はスカスカの張りぼてのような町だった」
「それだけですか?」
目線が厳しい。
「それと、たぶん光晴は俺と同じ国から異世界転生している」
「え? 異世界転生? それって、どういうことですか?」
「この世界の人間に生まれ変わったんだろ、そうでなければ……」
あの町は、再現できるはずがない。そう言いかけて口をつぐんだ。
いや、待て待て。よく考えろ。
光晴はどう見ても、高校生くらいだった。
仮に光晴の仲間たちが協力したところで、たった八人しかいない。
エルフと同じレベルで魔法を駆使したところで、たった十何年かだけであれだけの町が作れるか?
町のインパクトに目を奪われてばかりいたが、あれを光晴が作るのは不可能だ。
それじゃ、誰があの町を再現した?
嫌な汗が溢れる。
確かに、誰かがこの世界には存在するといっていた。
誰も見たことはない。それなのに、この世界の人間はそれが当たり前のように存在すると認めていた。
――神様。
この世界を創った者が神なら、もちろんあの町を再現したのだってそう考えるべきだった。
それじゃ、神様が俺の世界から転生してきた?
あるいは、光晴に神のギフトを与えた神が光晴のために町を再現させたのか。
細かいディティールまで再現できなかったのは、そのため?
さらにもう一つの可能性も捨てきれない。
エリザベス女王が言っていた、救世主こそが神であるという推理。
もしそうだとしたら、光晴の取り巻きの女たちは別として、光晴自身はどうやっても倒せないんじゃ……。
「アキラさん、顔が青いですよ。どうしたんですか?」
逃げるべきだ。
あいつの正体がはっきりするまでは手を出すべきではない。
だが、このままだとヨミとアスルが戦う。
光晴を倒すよりも、まずはあの二人を止めるのが先決か。
そう思った時、大きな声が風に乗って響き渡る。
まるで魔界全土にまで聞こえるような声で女が言った。
「「「人間の大陸は全て取り戻しました! もう魔王と魔族が存在するのは魔界しかありません! これより、最終決戦を始めます!!」」」
一方的な宣戦布告。
辺りが急に暗くなり、風が吹き抜ける。
空を見上げると飛翔船が浮かんでいた。
そこから例の飛行艇がいくつも飛び出してくる。
量産できたのか!?
目を見張っていると、突然俺の頭上に光の盾が現れる。
そこへ、人の大きさくらいある火炎球が降ってきた。
森のあちこちから爆発と火の手が上がる。
これは、まさしく航空機による爆撃と同じだ。
「アイスニードル!」
メリッサが魔法を放つが、高速で移動する飛行艇を正確に撃ち抜くのは難しい。
ごく希に、操作を誤った飛行艇に氷のつららが刺さりそうになるが、飛行艇に当たることなく砕かれる。
あの飛行艇は最大四人乗りだ。
操縦と攻撃、それと防御。
全て役割分担している。
この戦術は、間違いなく光晴だ。
飛行艇の効率的で有効的な使い方をよくわかっている。
飛翔船はまだ一隻しか見えない。
他の飛翔船も同じ戦法を取ってきたら、それだけで魔界は火の海になる。
この戦い方を止めるには複合戦略魔法が必要だが、それはこっちにはない。
飛翔船そのものを破壊する。
母艦を失えば、航空機は帰るところを失うからな。
出来れば、こんなところでエネルギーを消費したくはなかったが……。
「変身!」
『起動コードを認証しました。ネムスギア、キャノンギアフォーム、展開します』
バスターキャノンを構えると、マスクの中でロックオンカーソルが飛翔船の船体後方――魔法クリスタルが入っている辺りを捉えた。
飛翔船には二つの魔力しか存在しない。
一つは動力となってる魔法クリスタル。
もう一つは、杖の勇者。
『スペシャルチャージショット、マキシマムエナジーバスター!』
装填数は五発。
発射されたエネルギーが真っ直ぐロックオンされた場所に向かっていく。
いくつかの飛行艇が射線に引っかかって落ちてきたが関係ない。
エネルギーそのものが船体にぶつかり、大きく飛翔船が揺れる。
しかし、ぶち抜けない。
防御魔法だ。
伝説の勇者の魔法。
さらに強力な魔法が発動したことがセンサーを通じてわかる。
飛翔船は態勢を少しずつ取り戻し、こっちのエネルギーが飛翔船の周りに現れた光の膜に阻まれる。
「これって、途中からでも装填可能なのか!?」
『で、出来ますが』
「なら、残り全部だ!!」
バスターキヤノンの砲身に次々エネルギーの砲弾が装填される。
その度に勢いを増したエネルギーが飛翔船に向かって行き――。
『これで最後です!』
「いけええええええ!!」
飛翔船を多う光の膜にヒビが入り、ガラスのように砕け散った。
そして、放射されたエネルギーは飛翔船の船体後方をまるごと消滅させて空へ消えていく。
バスターキャノンはその役割を終えて消滅した。
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貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!
「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」
チャチャ
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突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。
だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。
魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。
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【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
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過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
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掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
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王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
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