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Chapter 3

契約 ⑥

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「あっ、『生娘』のあたしを、ちゃんと守ってくれたはる!」

   『乙』である栞はうれしそうに、ぱちぱちぱち…と手を叩いた。

「二十七にもなって、なにが『生娘』だっ!こっちは健全な二十二歳の男子なんだよっ。こんな山奥に閉じ込められて、何の愉しみがあるってんだっ⁉︎」

   『甲』である神宮寺は怒り狂っていた。どうやらすでに「禁断症状」が出ているらしい。
   道理でしのぶから「遊び人」と言われるはずだ。

「せやったら……息抜きも兼ねてちょっと山を下りて『解消』してきはったらどうですか?」

   栞は『善処する』と言った手前、ちょっともやもやっとしながらも「提案」してみた。

「救いようのないバカか?もし、そこでパパラッチみたいなヤツから写真でも撮られたらどうすんだよっ⁉︎同時に栞との結婚がバレでもしたら、世間が大好物の『不倫報道』になるんだぜ?」

   栞の「提案」は直ちに却下された。なんとなく、なぜかホッとした気分にはなったが、それでも。

——あっ、また「バカ」って言いはった。

「もしかして……まさか『ハジメテ』は、本気で好きになったヤツに出逢えるまではだれにもあげない、とか思って後生大事にとってるわけ?」

   ムッとする栞を、神宮寺はそういうふうに受け取ったらしい。

「ちっ、違いますっ。あたしの魅力がなさ過ぎてそういう『ご縁』がなかっただけですっ!」

「この前もそんなこと言ってたけどさ。おれはその『ど天然記念物』のせいで男が近寄り難かっただけだと思うぞ?……でも、まぁ、これもある意味『ご縁』じゃないか?」

   そう言って、神宮寺はニヤリと笑った。

「契約とはいえ、おれたちは『夫婦』になるんだ。だから、いっそのこと『通常夫婦間で行われる性交およびこれに準じる行為等』とやらも『解禁』にしようぜ?」

「けっ、けっ…契約違反になりますっ!」
   栞は神宮寺から契約書を奪って掲げた。

   甲乙問わず契約違反が発生した場合は、即刻この「婚姻契約」そのものが解除ならびに無効となるのだ。

「この婚姻契約は締結されていないから、発効すらしていないぞ」

   神宮寺は平然と言い放った。

「まだお互い署名サインしてないだろ?それに、婚姻届も役所に受理されてないしさ。だったら……『既成事実』を作って契約内容を変更させるのなら、今のうちっていうことだな」

   しのぶからは、申請している戸籍謄本が届くまでに契約内容をしっかりと確認し、もし合意できるようであれば署名するように言われていた。

「まぁ、別にそんなことしなくても、この契約内容だと、『甲』から『乙』へはダメでも『乙』から『甲』への『要求』なら問題ないみたいだけどな」

   つまり、神宮寺からの『通常夫婦間で行われる性交およびこれに準じる行為等』は契約違反だが、逆に栞からについてはなにも記載されていないということだ。

——そんなん、ありえへんし……

「ふうん。そんなの、ありえねぇって顔してるな」

   神宮寺が腕を組んで不敵に笑う。


「栞、今日からおれのベッドで、一緒に寝るぞ」

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