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Chapter 4

幽境 ④

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「……えっ、『たっくん』⁉︎」

   しのぶの息が、一瞬止まった。

——あっ、つい、いつものクセで呼んでしもうたわっ!

   栞の頬が羞恥のために、かああぁっと火照ほてった。

「ああぁっ、純粋無垢な栞ちゃんが『遊び人』の『魔の手』にすっかり堕ちちゃってるーっ!やっばり、こんな『魔窟』に一人置いて行っちゃったのがそもそもの間違いだったのよぉーっ!もう、なんて千尋に説明すればいいのぉーっ⁉︎」

   そしてまた、ソファに突っ伏した。
   しかし、そんなしのぶにいっさい構うことなく、神宮寺が尋ねる。

「ところでさ、進捗状況を確かめるためとか言って、池原がまたやって来そうな気がするんだけどさ。一発で『栞と入籍しました』ってわからせる方法ってないか?」

   すると、しのぶはソファからむくっと起き上がった。

「そんなの、これしかないじゃない?」

   そして、まるで婚約会見をする芸能人のように左手の甲を向けてかざした。
   その薬指にはフレ◯ドのフォース10が収まっている。

「わたし、映画の『プリテ◯ウーマン』が大好きなんだけど、千尋にはリチ◯ード・ギアエドワードジ◯リア・ロバーツヴィヴィアンのために用意したのと同じジュエリーブランドのマリッジリングを買ってもらったの♡」

  一瞬にして、しのぶのヤサグレていた気持ちが浮上したようだ。結婚指輪ウェディングバンドを張り込むと、このような効果もあるらしい。

   フレ◯ドのフォース10は、アームの部分が某ベテラン俳優のスカーフみたいに「ねじねじ」になったデザインで、メレダイヤが散りばめられていた。

「うわぁー、そのリング、キラキラしていて綺麗ですねぇ。佐久間先生、相当がんばりましたねっ!」

   自然と身を乗り出して見ていた栞が褒め称えると、しのぶは「そーお?」と満面の笑みで応じた。

「神崎のダンナもそんなキラキラの指輪してるのか?」
   神宮寺の眉間にぐーっとシワが寄る。

   栞は「佐久間先生の結婚指輪ってどうやったかなぁ?」と思い出そうとするが、まったく興味がなかったので、カケラも甦ってこなかった。

「まさか!何の変哲もないシンプルなプラチナリングですよ」
   夫の方は同じフレ◯ドでも、フォーラブだった。

「結婚指輪って、おソロじゃなくてもいいんですか?」
   栞が目を丸くして訊く。

「最近は、お互い気に入ったデザインを選ぶのが普通になってきているそうよ」

   ふと、しのぶは夫の実家の佐久間家が、老舗デパート・松波屋の創業家の一翼を担っていたことを思い出した。

「先生、千尋に言って松波屋で用意してもらうよう手配しましょうか?」

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