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Chapter 5
対峙 ⑧
しおりを挟む「あ、あ、あんたねぇっ!わたしらのことなぁんにも知らへんくせに、勝手なこと言わんといてよっ⁉︎」
登茂子が立ち上がらんばかりに激昂する。
「だからこそ……客観的な立場で俯瞰的に見つめられると思うんですけど」
しかし、栞は平然と返した。
「情報があらへんので、あくまでもあたしの憶測ですが……もしかして、あなたの結婚は、最初からボタンを掛け違えてませんか?あたしは本当の父のことをほとんど知りませんが、あなたとはミスマッチなような気がしてならないんですよね。……まぁ、世の中にはそのような夫婦もいっぱいいるとは思いますが」
「その根拠は?理屈っぽいあなたが、何の根拠もなく憶測だけでそんなこと言うはずがないって、残念ながらこの短時間で思い知ったわ」
登茂子は込み上げてくる怒りを「華丸の女帝」という異名どおりの強靭な精神力で抑えつつ、最大級のイヤミを込めて言ってやった。
「えっ、しゃべってええんですか⁉︎ あんまし、あたしばっかししゃべんのもどうかなぁ?……って思ってたとこなんですよー」
ところが、栞はうれしそうにニコニコしている。
さすがの登茂子も、この短時間ではまだ栞の「ど天然記念物」には気がついていなかった。
たまらず、神宮寺が、ぶはっ、と噴き出した。
すると、登茂子が「上お得意様」に対してはあるまじき、絶対零度のガチガチに凍ったブリザードな視線を放った。
それでもまだ、神宮寺は肩を震わせて笑っている。
「『父』は研究職の激務であるという背景が多分にあるんでしょうけれど、少なくともあれからずっと母と一緒に暮らしているらしいということから、自分の生活をサポートしてくれるタイプの女がいいんでしょうね。……失礼ですけれども、家庭を顧みないバリキャリのあなたとは『真逆』ですよね?」
何の配慮もない豪速球の直球がやってきた。登茂子は声も出なかった。
「あなたたちがどういう経緯で結婚したか、って結構重要な要素やと思うんですよ。うーん、ミスマッチなんてどうでもよくなるほど、若さゆえの熱烈な恋愛の果ての結婚、っていうのもありえますが、それよりも一番可能性としてありそうなのが……同じ若さゆえでも……たとえば、『デキちゃった』とか?」
登茂子の顔から、さーっと血の気が引いた。
——うわっ、ヤバい。図星やった。
栞はやっと「攻めすぎ」に気がついた。
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