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Book 7
「若き西村真生の悩み」①
しおりを挟む週明け、職場の区立図書館の分館で、真生ちゃんはこともなげに言った。
「……よかったじゃないですか。これで、ようやく安心できますね」
「真生ちゃんまで、なに言ってるのっ」
わたしは思わず我を忘れて声を張り上げてしまいそうになるのを、必死で抑えた。
「……初めて会ったも同然の日に『同居』なのよ?」
「やだなー、三十過ぎてなにカマトトぶってるんですかー。処女でもあるまいし。……えっ、まさか、櫻子さん、そうなんですか?妖精さんになっちゃったんですか?」
三十歳を過ぎても「そういうこと」を知らない女は「妖精」なるとか言うらしいけれども……
——あいにく、とっくの昔になりそこなってますっ!
「いいじゃないですかぁ。世の中には一夜の過ちとか言いつつも、セックスから始まる恋だってあるし」
——ちょっとっ!真っ昼間の職場で、なんてこと言うのっ!しかも、ここは図書館なのよっ!……せめて「エッチ」にしておきなさいっ‼︎
「……まぁ、うちの姉のことですけど。今の彼氏は、会社の呑み会で派手に酔っ払っちゃったときにヤっちゃった相手ですって」
——「ヤっちゃった」も、やめなさいっ!
「で、葛城さんはあっちの方はどうでした?」
——どっちの方?
「やだなー。だから、カマトトぶらないでくださいってぇー!」
真生ちゃんはぷうぅっと膨れる。
「でもなぁー、ああいうイケメンって、一見女慣れしたテクニシャンかと思いきや、相手から仕掛けられることが多いから、案外ご奉仕知らずの『マグロ男』だったりするんですよねぇ。そいで、『こんなはずじゃなかった』ってフラれちゃうんだなー。……で、葛城さんはどっちでした?」
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