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Book 14
「葛城慎一はかく語りき」③
しおりを挟むシンちゃんは、がばっ、とわたしから身を離した。
「なんで、あおいのことを知ってるんだ?」
目をめいっぱい見開いて驚いていた。
「お願い、シンちゃん。あおいさんのことを考えて……大切にしてあげて」
わたしは心が切り刻まれる思いを押し殺して懇願した。
「なんで、おれが櫻子を差し置いて、あんなヤツを大切にしないといけないんだ?」
シンちゃんは吐き捨てるように言った。
——「あんなヤツ」だなんて、ひどい。いくら政略結婚かもしれないとはいえ、子どもまでもうけた奥さんなんだよ?
わたしはシンちゃんがそんな薄情な人だったのか、とショックのあまり青ざめた。
「……櫻子?」
急に押し黙ってしまったわたしを探るように覗き込んだシンちゃんは、ふと怪訝な顔をした。
そして、おもむろに口を開いた。
「もしかして、なにか盛大な誤解をしてないか?あおいは……男だぞ?」
「ええええぇっ⁉︎ じゃあ、やっぱりシンちゃんは、……男の人の方が好きだったのっ!?」
「そんなわけ、ないだろっ!それに『やっぱり』ってなんだよっ!? おれは女にしか興味ないよっ!! 昨夜も今朝も、あんなに激しくおれに抱かれてたくせに……櫻子は、そんなこともわからないのかっ!?」
いやいやいや。論点が時空が歪むほどズレまくってしまってるんですけれども……
——一回、落ち着こう。
それは「理科一類」へ志望するも願い虚しく「文科二類」へ進路変更したということから、我が国最高峰の最高学府の出身と推測できる、頭脳明晰なシンちゃんも思ったようだ。
「櫻子、きみの誤解を解くよ。……とりあえず、あおいに会ってくれる?」
——ええぇっ!? こんな急にっ!? こ、心の準備が……
だけど、シンちゃんはそんなわたしに構うことなく、帰るなりソファに置いていたブリーフケースの中からタブレットを取り出した。
そして、何回かタップを繰り返したのち、タブレットに向かって話しかけた。
「……帰ったところ、早々にすまないな。突然だが……櫻子に会ってくれ」
以前彼らが通話しているときに聞いた、ぞんざいな口ぶりだった。
——ど、どうしよう? 一体全体、どういうことなのか、さっぱりわからないけれども……
どんな顔して会えばいいというのだろう?
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