砂漠の国でイケメン俺様CEOと秘密結婚⁉︎ 〜Romance in Abū Dhabī〜 【Alphapolis Edition】

佐倉 蘭

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الفصل ٤「CEOからまさかの…?」

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   オフィスのすぐそばにある世界的なホテルグループの名を冠するホテルに着くと、あたしはムフィードさんと入っていった。

   オフィスエリアにもかかわらず、サンドベージュの土壁風の外壁の建物が連なる中、昔ながらの雰囲気を醸し出した周囲の建物の景観を損なうことなく、決して高層ではない。
   だが、ドアマンに促されてエントランスから一歩中へ足を踏み入れると、幾何学模様がモチーフとなった壁や床が目に飛び込んでくる。しかも、それらはどう見ても大理石だろう。

   ムフィードさんが重厚なドアの前で止まった。コンコンコン…とノックする。

——あ、この部屋なんだ。
   思わず呼吸が浅くなって、あわてて深ーく息を吸って気を落ち着ける。

「المعذرة ، هل تمانع إذا دخلت؟」
   ムフィードさんが声をかける。
「إن شاء الله」
   中から声がしたため、ムフィードさんがドアを開けた。

   アーチ状に施された乳白色の天井は、ここはホールかと思わず見上げてしまうほど高い。
   正面の壁面には、目にも鮮やかなウルトラマリンブルーを基調に、職人が技の限りを尽くしたと思われる黄金の糸で幾何学模様が刺繍された見事なタペストリーが二枚、左右対称に掛けられている。

   正真正銘の大理石マーブルが余す所なく敷き詰められた広大な床の中央に、しっとりとした艶のある黒皮張りのソファが置かれている。
   そこに、いかにも気怠げに長い脚を組んだマーリク氏が座っていた。

   ムフィードさんに促されて、対面の一人掛けのソファに腰を下ろしつつ、目の前のマーリク氏の顔色を伺う。
——わっ、ミスター・マーリクは、まだ御機嫌斜めの状態じゃんよ……

   とは言え、どんな用件で呼び出されたのか皆目わからないが、とにかく謝罪するしかない。

「Mr. Malik,it’s very nice to see you.I deeply regret  that I was really rude to you a few days ago.」
〈ミスター・マーリク、またお目にかかれて光栄です。先日はたいへん失礼をし、深くお詫び申し上げます〉

「لؤلؤ」
   マーリク氏が胡乱な目つきであたしを見て言う。 『ルールゥ』と聞こえた。アラビア語で「真珠」の意味だ。

「Well…what can I do for you?」
〈な…なんでしょうか?〉
   緊張で、思わずごくりと喉が鳴る。

「Will you marry me?」

——は?

「صاحب السمو أمير」
   ムフィードさんがマーリク氏に向かって叫んだ。
「ماذا تقول في العالم؟」

   相変わらず、アラビア語はさーっぱりわからないけれども、どうやらあたしの代わりになにか言ってくれたらしい。

——出会って間もない人にいきなり『結婚してくれませんか?』って一体どういうこと……⁉︎

「I’ve had to get married someone ASAP.  I’ve got no choice.」
〈できるだけ早く、だれかと結婚しなければならなくなったんだ。ほかに選択肢はないんだ〉

   苦虫を百万匹くらい噛み潰したような顔で、マーリク氏は呻いた。

「Lulu…It’s up to you.」
〈ルールゥ…君さえ良ければだが〉

——一応、あたしにも理解できる英語では話してくれているのだが……

   その表情からはどう見てもこんなスーパーモデル級の超絶イケメン・マーリク氏があたしなんかを「見初めた」わけではないのが、ありありと感じられた。
   たぶん——結婚相手はだれでもいいってことだろう。

   ……っていうか、マーリク氏にどんな「事情」があるか知らないけど……かなり追い込まれてない?
   それでもって、なんだか手近なところで結婚相手を「調達」しようとしてなくない?

「I really appreciate it, but getting married is one of the most important things in my life.」
〈本当にありがたいのですが、結婚することは私の人生で一番大切なものの一つなので〉
   あたしは丁重に「お断り」した。

——だって、アラサーで初めての海外赴任になって、いくら婚期を逃しそうだとはいえ、会ってまだ数日の人と、いきなり結婚なんてできるわけがないじゃんっ。

   すると、マーリク氏が噛み潰したと思われる百万匹ほどの苦虫が一億匹くらいにまで激増した。

「However, if you refuse to accept it…」
〈だが、もし君がこの件を拒否するのであれば…〉
   マーリク氏がとんでもない圧の「眼力」で、あたしをロックオンする。

「It is very regrettable that we cannot avoid canceling the transaction with your company.」
〈誠に残念ではあるが、我々は君たちの会社との取引を断念せざるを得ないな〉

——ええぇっ⁉︎ う、ウソでしょう⁉︎

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