砂漠の国でイケメン俺様CEOと秘密結婚⁉︎ 〜Romance in Abū Dhabī〜 【Alphapolis Edition】

佐倉 蘭

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الفصل ٨「砂漠へGO!」

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   灼熱の太陽に炙られ、きらきらと黄金こがね色に輝く広大な砂漠を、TOMITAのラントクルーサーは砂塵を撒き上げて疾走していた。

   観光で「砂漠体験」をする程度なら、アブダビの市街地から一時間も走ればアクティビティを楽しめる「手軽な砂漠」に到着するという。

   だが、あいにくあたしが向かっているのは、マーリク氏の一族である部族が遊牧民ベドウィンとして日々の営みを行うリワ砂漠だ。

   リワ砂漠はUAEと隣国のサウジアラビアにまたがる広大な砂漠で、マーリク氏の部族は国境沿い付近を拠点にしているらしい。
   昔はラクダに乗って何日もかけて行ったそうだが、今は海岸部から約百キロメートル続くハイウェイが開通し、4WDの乗用車ラントクルーサーなら二時間ほどで到着する。

   ちなみに、故障の少ない日本車のシェア率がダントツらしい。その中でも特にTOMITA車の人気が高く、マーリク氏もケンブリッジの大学院でTOMITA自動車の御曹司と「ご学友」だったこともあって、ラントクルーサーを何台も所有しているそうだ。

——お金持ちのお友達は、やっぱりお金持ちだ……

   巨大な油田を横目にハイウェイを走っていたときは快適以外の何物でもなかったのだが、目的地のテント地へたどり着くためには、アスファルトの整備された道から砂地の大海原が波立つ砂丘の道へとシフトチェンジしなければならない。

   多量の砂の反発によるパンク防止のため、タイヤの空気圧は一気に低下させられた。
   ぶわぶわにたるんだタイヤは、どんなにハンパなく車体が上下左右に揺れようとも、パンパンに張ったタイヤほど衝撃を吸収してくれないし、コントロールが利きにくくなるためハンドル操作が格段に難しくなる。
   しっかりとバーを握って足を踏ん張っていないと、身体が弾んだ拍子に舌を噛んでしまいそうだ。

   砂漠というのはアップダウンが多いうえに、タイヤが空回りするスタックも結構あり、砂漠に降り立ったとたん、ずーっと「パリ・ダカールラリーパリ・ダカに参戦」状態である。


   乗り物には決して弱くないあたしでも、さすがに耐えきれなくなって、何度か停車してもらって車外に出ざるを得なかった。

   あわててドアを開けると同時に、車内にぶわゎーっと舞い上がった砂塵が入り込んできて、あっという間に砂まみれとなってしまった。

   アブダビに来てからのあたしは、髪にはスカーフもなにも巻かず、上はブラウスかチュニック、下は必ずくるぶしまであるワイドパンツで過ごしていた。
   しかし、砂漠で過ごす間は「ニカーブ」と「アバヤ」という伝統的なイスラムムスリム女性の服装スタイルになる。

   ニカーブはわずかに目の部分だけが開いている頭巾で、アバヤは全身がすっぽりと覆われているチュニックを長ーくしたような貫頭衣だ。
   マーリク氏がアブダビ市内で滞在するホテルで、あたしの身の回りの世話をしてくれていたサマラさんが着ていたスタイルである。

   全身黒尽くめの出立いでたちはやっぱり異様で、日本人のあたしにとっては違和感バリバリであったが、この灼熱地獄の砂漠の下では意外と快適だ。

——っていうか、実に「合理的」だ。

   ニカーブは目だけしかまともに外気と触れていないため、砂塵の侵入は本当に最低限である。さらに、サングラスをかけているので「完全防備」だ。
   また、暑っ苦しくて脱ぎ出したくなると思われた「まっくろくろすけ」なアバヤは、差すように痛い直射日光をうまい具合に遮ってくれるので、思ったよりもずっと暑さを凌げるのだ。

   というわけで、海岸部のもわーっとした高温の湿気が(日本の真夏の気温で梅雨の時期の湿気だと想像してほしい)ここまで内陸にやってくると格段に乾燥しているため、日差しさえ遮られればかなり過ごしやすく感じられた。

   さらに、このニカーブとアバヤのおかげで、全身砂まみれになっても、車内の座席が砂でジャリジャリしても、こちらも思ったほど気にならないでいられた。

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