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الفصل ٩「砂漠のWedding」
③
しおりを挟む「な、な、なにしてるんですかっ⁉︎」
思わず、声を張り上げる。
しかし、「夫」は訝しげな表情を浮かべただけであった。
——あ、彼はまだ日本語の聞き取りはできないんだな……
「What are you doing here now?」
〈今ここで、なにをしてるんですか?〉
あたしは英語で訊き直した。
「Isn't this a place where men are not allowed?」
〈ここは、男の人が入っちゃいけない場所なんじゃないんですか?〉
——だって、今は花婿のいない「女だけの結婚式」の真っ最中なのだから……
すると、ファティマさんがおずおずと歩み寄って、あたしに告げる。
「Only the bridegroom can come here specially.」
〈花婿だけは特別に入ることができます〉
——ええぇっ、そうなのっ⁉︎
道理で彼が入ってきても、みんな驚かないはずだ。
って言うか……いつの間にか、歌っていた人も踊っていた人も自然と止まり、彼の姿に釘付けになっていた。
いつもはまっすぐに垂らすという真っ白な頭巾は、今は黒の輪っかで止めずに頭の周りでターバンのようにぐるぐる巻きにされていて、余った部分だけが横に流すように垂らされている。
そして、いつもは真っ白な貫頭衣だけだが、今はその上にベシュトというガウンのような長い上着を羽織っている。彼の瞳みたいな、漆黒のベシュトだ。
そんな精悍な「砂漠の男」として正装した彼の「花婿姿」に、みんな見惚れてボーッとなっている、ってのもあるんだけれども……今はただ、音楽だけが空々しく鳴り響いていた。
——リアルで「目が♡状態」になっているのって、初めて見たよ……
「However… by convention, he's supposed to be here on the last day...」
〈しかし…慣例では最終日のはずなのですが…〉
ファティマさんが肩をすくめて苦笑する。今日はまだ二日目で、最終日は明日だ。
「فاطمة ، هل تسمي سيدتنا "لازولي"؟」
突然、声をかけられた。つい今しがたまで、ご自慢のボディをくねらせて、妖艶に踊っていたうちの一人だった。
「What‘s she saying right now?」
〈今、なんて言ったの?〉
「She asked you,”Does ma’am call our sayyid ‘Lazuli’?”.」
〈奥様は御主人様のことを『ラジュリー』と呼んでいるのか?と尋ねています〉
「He told me to call him "Lazuli" , so I do.」
〈「ラジュリーと呼べ」と言われたから、そう呼んでるんだけど〉
ファティマさんが、みんなに向かって通訳すると……ウワアアアァーーッと、流れていた音楽をかき消す大歓声が上がった。
——えっ、なになになに……っ?
「…Too loud.」
〈…うるさい〉
彼が呻くようにつぶやいた。
——まずい、また苦虫を百万匹くらい噛み潰した顔になってる……
だが、すぐにあたしの方に向き直る。色めき立つ色とりどりの女性たちには、完膚なきまでのガン無視だ。
「私の真珠、迎えに来た」
そう告げて、あたしの背中に手が掛けられたかと思うと……次の瞬間、彼に横抱きでひょいっと持ち上げられていた。
——えっ、う、うそっ!も、もしかして……お姫さま抱っこ⁉︎
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