砂漠の国でイケメン俺様CEOと秘密結婚⁉︎ 〜Romance in Abū Dhabī〜 【Alphapolis Edition】

佐倉 蘭

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الفصل الأخير「さようなら、恋心」

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   英語では些細なニュアンスで行き違いが生じるといけないため、大橋さんは日本語で話していた。

   ラジュリーのすぐ脇で控えるムフィードさんが、即座にアラビア語で通訳する。たぶんその方が彼にとっては素早く訳せるのであろう。
   すると、聞き終えたラジュリーが口を開くのだが、彼はあたしと大橋さんが直接判わかる英語だ。

「We got married in the desert without having to notify the authorities. Therefore, we’re officially husband and wife.」
〈役所に届けを出さずとも、砂漠で結婚式を挙げた。よって、我々は正式な夫婦だ〉

「部族に結婚を認められること、我々には一番大事です」
   ムフィードさんが「補足」する。

「——パールちゃん、結婚式、挙げたの?」
   長澤さんが目を見開く。

「な、長澤さん……黙って軽はずみなことをして……すいません」
   あたしは深々と頭を下げた。

「そもそも、君たちには恋愛感情なんてまったくなく、お互いの利害関係のみで『結婚』したっていう話じゃなかったの?」  
   図星だ。耳が痛くて、顔を上げられない。

「それなのに……」
   長澤さんは怪訝な表情で、リビングテーブルを挟んで目の前にいるあたしとラジュリーを見た。

「なんで、今、二人が並んで座ってるわけ?」

「私の妻は、マミコだけだ」

——えっ、う、うそっ!は、初めて名前、呼ばれたんだけど……っ⁉︎

「I don't need any "first wife" chosen by my relatives, nor any "second wife" chosen by hostile forces.」
〈親族から選ばれたどんな「第一夫人」も、敵対する勢力から選ばれたどんな「第二夫人」も、私にはまったく必要ない〉

   そして、もう一度、あの日本語を繰り返した。

「私の妻は、マミコだけだ」

「……アミール殿下」
   長澤さんが目をすがめる。
「課せられた責任を果たせないときには、責められるのはあなたではなく——三浦です」

「No matter what happens, I’ll protect her. No one will have to worry.」
〈たとえなにがあろうと、彼女は私が守る。だれも心配なんかしなくていい〉
   ラジュリーは即座に応酬した。

「アミール殿下はそうおっしゃってはいるが……パールちゃん、君はどうなの?」
   長澤さんの厳しい眼差しが、今度はあたしに向けられる。

「この国には来たばかりで、知り合いもいないでしょう?ましてや、アラビア語も話せない。日本語を話せる人なんてほぼいないし、英語が話せる人だって限られているんだよ?」
   それを言われてしまうと——ますます顔が曇ってしまう。

「それに、殿下が君以外を妻に娶らないということは……君が『皇太子妃』になるんだよ?」

——あ、あたしが……こ、こ、皇太子妃……⁉︎

「ホームシックになっても、もうおいそれとは日本に帰国できなくなるよ。両国間の『外交問題』に発展しかねないし、君を排除したいと思う勢力からは格好の追い出す『口実』になるからね」
   長澤さんは畳みかけるように続ける。

「それから……今まで日本で築いてきた人間関係も、そのまま継続させるのは難しくなるよね?友人や知人はともかく……日本にいらっしゃるお父さんやお母さんのことはどうするの?」

——うわっ、遠い外国にいるからって、なにも言ってないのに……

   都合が悪くて面倒なことには思考停止して、思いっきり現実逃避していたってことに、ようやく気づいた。

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