真実(まこと)の愛

佐倉 蘭

文字の大きさ
36 / 76
Chapter 5

しおりを挟む

   麻琴はますます仕事に精を出すようになった。

——それでなくても、昇進したばかりだもの。もっともっと、仕事に集中しなくちゃ。

   MD課のデスクにいる今も、クロッキーブックに思い浮かんだアイディアをスケッチしている。

「……麻琴さん、それ、額縁フレームですか?」
   紗英が後ろから覗き込んで訊いてきた。

「ええ、そうよ」
   麻琴は顔を上げずに答える。クロッキーブックには、いくつものフレームのデッサンが描かれていた。

「いかにも『北欧風』な、シンプルだけどオシャレなデザインですよねー。ステキ!」
   そんな紗英の賛辞にもかかわらず、麻琴は顔を顰める。

「ありがと。……だけど、こういうのはすでにイ◯アで売ってるからねぇ」

   先日、上林かんばやしから指摘されたのはもっともなことで、どうせ手に入れるなら「本場」のものがいいに決まっている。

「でも、『本場のもの』ってデカいんですよー。狭い部屋にそういうの一つ飾ると、存在感がハンパないんですよねぇ。そこだけ『浮いちゃう』っていうか……やっぱ、海外の広ーいお部屋仕様なんですねぇ」

   紗英がうんざりした顔で続ける。

「それに、向こうのものって、いざ壁に飾ろうって思っても、まどろっこしくて手っ取り早く設置できないじゃないですかぁー。工夫が足りなくて使い勝手が悪いっていうか……そもそも、壁に穴を開けるのが前提だし。どんなにオシャレでかわいくても、賃貸じゃアウトですよぉー」

「……ちょっと、紗英ちゃん、ストップ」

   突然、クロッキーブックから顔を上げた麻琴が、宙を見たまま遮る。

「はい?」
   紗英がきょとんとした顔になる。

——なるほどね。

   麻琴の口角が上がった。

「紗英ちゃん、招集かけて。守永さんが外回りから帰ってきたら、上林くんもミーティングルームに集合よ」

——突破口が、見えてきたわ。


゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚


   守永が外回りから帰ってきたのを見計らって、麻琴のチームのメンバーがミーティングルームに集結した。

「……とりあえず、まだラフ画なんだけど」

   麻琴はそう言いながら、フレームをスケッチしたクロッキーブックを見せた。

「家でいるときに寛げる空間づくりの手助けになるのはもちろんだけど、外から帰ったときにお気に入りの絵や写真を見てホッとできたらな、と思って」

「フレームのデザインは北欧風ですね。……でも、こういうのって、もうイ◯アでは定番商品じゃないっすか?」
   早速、上林が苦い顔をする。

「でも、イケアに限らず海外のものはデカくて使い勝手が悪いし、穴を開けないと設置できないって、麻琴さんと話してたんですよ」
   紗英が「援護射撃」してくれる。

「そうなのよ。だからね、日本の住宅事情に合わせた規格のフレームをつくってみたいの。マンションやアパートに多い間取りの一角を想定して、飾ったときにバランスの良いサイズになるようにしたいのよ。そして、強度を配慮しながらも、だれもが簡単に取り付けられるように極力簡素化したいわ。もちろん、退去時にトラブルになるような壁を傷つけることなくね」

   なかなか難しい使命ミッションだが、だからこそプロダクトデザインをする者にとっては腕が鳴る。

「ほかには?まだ、なにか考えてるんだろ?」
   腕を組んでクロッキーブックを覗き込む守永が尋ねる。

「はい、そうですね。昨今の自然環境問題にも考慮して、材質は木枠なら間伐材をつかった集積材にすることや、プラスチックプラ枠ならペットポトルなどをリサイクルしたプラ材にすることを考えてます。ロハスライフの『LOHAS』って『Lifestyles Of Health And Sustainability健康で持続可能な生活様式』のことですもんね。ブランドコンセプトは商品を通してしっかりと主張していきたいです」


「だったら……商品の売り上げの一部を自然環境を守る非営利組織N P Oなどに寄付するとかして、そういう方面に意識のある人がもっと手に取りやすいようにするっていうのはどうですか?」

   上林が麻琴のプランに「色付け」するようなアイディアを出してきた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞> 住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。 看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。 最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。 どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……? 神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――? 定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。 過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

フローライト

藤谷 郁
恋愛
彩子(さいこ)は恋愛経験のない24歳。 ある日、友人の婚約話をきっかけに自分の未来を考えるようになる。 結婚するのか、それとも独身で過ごすのか? 「……そもそも私に、恋愛なんてできるのかな」 そんな時、伯母が見合い話を持ってきた。 写真を見れば、スーツを着た青年が、穏やかに微笑んでいる。 「趣味はこうぶつ?」 釣書を見ながら迷う彩子だが、不思議と、その青年には会いたいと思うのだった… ※他サイトにも掲載

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

処理中です...