真実(まこと)の愛

佐倉 蘭

文字の大きさ
75 / 76
Epilogue

しおりを挟む

   お互い、自分の欲望に飲み込まれて得手勝手に快楽だけを追求する時期としは過ぎていた。
   ちゃんと相手を見て、一緒に高めていける余裕も「やさしさ」も持ち合わせている。

   とはいえ、やはり最後は互いを貪り喰らうような熱情の果てに絶頂を迎えたのだが——

   要するに——「私たちの絆を深める儀式」は滞りなく済んだどころか大成功だった。

   おかげで朝食ブレックファストでもなく昼食ランチでもない、一緒くたの「ブランチ」になってしまった。


「……麻琴がまだまだ足りない」

   玉子丼を食べて「精」をつけたのか、恭介がそう言って麻琴のバスローブの紐を、しゅるっ、と解こうとする。彼らはまだベッドルームにでもいるようなローブ姿だった。
   もっとも、それは恭介の意向によるものだけれども……

——ま、まずいわ。このままだと、無限ループだわっ!

「あ、あのね、恭介さん」

   麻琴は恭介の膝の上で抱えられたまま、彼を見下ろした。

「大阪へ転勤する話、なんだけど……」

   恭介はその指でやさしく麻琴の頬に触れながら、彼女を見上げた。

「本当にどちらでもいいんだよ?どっちにしたって、僕がきみのそばにいることには変わりないんだから。それに、東京から離れた方がめんどくさい『松波』の親戚連中と距離も置けるしね。……あ、うちの両親や妹は大丈夫だよ。早くきみを連れてこいってうるさいくらいだ。先に麻琴のご実家に伺うつもりだけどね」

——そうだった。「結婚」は当人同士だけの問題じゃなかったんだった。

   だからといって、もう後戻りする気はさらさらないけれども……

「それでも、わたし……大阪へは行かないわ」

   麻琴はきっぱりと言い切った。

「やっぱり、ずっと製品プロダクトデザインも続けていきたいもの」

   確かに、守永さんの下について管理職のスキルを上げるのが、まだまだ女子社員で「上」を目指す人が少ないこの会社では最短ルートかもしれない。
   だが、そのために入社以来スキルを重ねてきたデザインの仕事を手放すのは——やはり、惜しかった。

「それに、せっかく東京本社でチームリーダーになれたのに、半年後に転勤してその役目を放り出すわけにはいかないわ」

   チームメンバーの上林かんばやしや紗英もいるし、立ち上げたばかりの商品企画だってあるのだ。
   元カレの芝田の手も借りた、新進気鋭のクリエイターたちのアート作品と麻琴がデザインするフレームのコラボレーションは、「MINA」という商品名でのシリーズ展開を目指して試行錯誤している真っ最中だ。まだまだ紆余曲折が予想される。

   「minaミンナ」とはスウェーデン語で「わたしのもの」という意味であるが、日本語の「みんな」にも掛けている。
   簡単に中身とフレームをその人それぞれに自由に組み合わせることができるからこそ……

   いろんな人たちみんなに手に取ってもらって、身近な生活空間でアートを感じてほしい、という願いを込めたのだ。


「そう……わかった。じゃあ、結婚式は少し先になるとして、籍だけは速攻で入れたいから、早くここに引っ越してきてくれよ?麻琴の美味おいしい料理、毎日でも食べたい」

——先刻さっきは『すっごい集中力で僕のことを放ったらかしにするから』『もう、つくらなくていい』っておっしゃってませんでしたか?

   しかし、今の恭介の食生活では「医者の不養生」真っしぐらだ。
   そして、なによりも、麻琴が恭介とずっと一緒にいたい。早く、一緒に暮らしたい。


「麻琴自身も……毎日、食べたい」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞> 住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。 看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。 最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。 どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……? 神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――? 定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。 過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。

フローライト

藤谷 郁
恋愛
彩子(さいこ)は恋愛経験のない24歳。 ある日、友人の婚約話をきっかけに自分の未来を考えるようになる。 結婚するのか、それとも独身で過ごすのか? 「……そもそも私に、恋愛なんてできるのかな」 そんな時、伯母が見合い話を持ってきた。 写真を見れば、スーツを着た青年が、穏やかに微笑んでいる。 「趣味はこうぶつ?」 釣書を見ながら迷う彩子だが、不思議と、その青年には会いたいと思うのだった… ※他サイトにも掲載

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

処理中です...