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Kapitel 3
⑤
しおりを挟む『探したよ……こんな庭の外れにいたのか』
ふと声がして、四阿の出入り口に目を向けると、グランホルム兄弟が立っていた。
『ビョルンが見当をつけて探していたから見つけられたものの、いくら陽が高い時季といえ、もう夜の九時を過ぎているんだ。こんな人目につかない場所で、女性二人きりでいられる時間ではないよ』
兄のグランホルム氏が、婚約者に右手を差し伸べながら窘める。
『あら、心配をかけてしまったわね。ごめんあそばせ、アンドレ』
ウルラ=ブリッド令嬢は、悪戯が露見したおさない子どものように肩を竦めた。
『リリコンヴァーリェ嬢、それぞれにお迎えも来たことだし……そろそろ戻りましょうか』
婚約者の手を取った彼女は、ふふふ…とリリに向かって微笑んだあと、ちらりとグランホルムの弟の方を見た。
すると、彼も自分の婚約者に右手を差し出した。リリはカーツィをして、恭しく彼の手を取った。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
彼らは四阿をあとにした。
グランホルム氏とウルラ=ブリッド令嬢が腕を組んで歩き、谷間の姫百合の咲き誇る一角から、広間へと戻る小径に出る。
グランホルム大尉とリリも、彼らの後方で同じく腕を組んで歩く。
前を行く二人は仲良さげに顔を見合わせながら、話題に事欠くことなく会話が続いていた。
だが、後ろの二人は互いにむっつり押し黙ったままだった。
『あ…あの……グランホルム大尉……』
とうとう沈黙を破って、リリは話しかけてみた。
大尉がリリを見る。
彼女は女性の中では背の高い部類ではあるし、今は踵が相当高い履物なのだが、それでも頭半分くらいの身長差があるため、彼が見下ろす形になる。
『先ほど、ヘッグルンド令嬢から伺って……大尉は、乗馬がお好きだとか……』
そして、リリは思い切って顔を上げ、大尉に訊いてみた。
『あの……それで……これを機会に、私も乗馬をやってみようかと……』
『…………ない』
即座につぶやかれた大尉の声はくぐもり、至近距離のはずのリリにさえ聞き取れなかった。
『はい?……申し訳ありません。うまく聞き取れなくて……』
すると、今度は、はっきりと告げられた。
『あなたが乗馬など、する必要はない』
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