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Prologue
②
しおりを挟む新聞をデスクに据え、赤いペンを右手に、エスプレッソを左手にしていた鳴尾が、ハスキーな声で二人を制す。平日でも開催されている園◯と西◯と尼◯に関連したアグレッシブなスポーツを、ローテーションして楽しんでいた。
鳴尾は神戸が関西であることはおろか、兵庫県であることすら認めようとしない、生粋の「神戸っ子」である。
しかし、実は神戸市ではなく、藤◯◯香と同じ兵庫県◯宮市で生まれ育った。だから、本当は彼女同様、全然「神戸っ子」ではない。
(ちなみに、神戸市と西◯市に挟まれた芦屋市の者は「神戸出身」とは決して言わない。「芦屋出身」だと「正しく」名乗る)
だが、それを鳴尾に指摘したら翌朝ポートアイランドと神戸空港の間の海に、我が身がぷかぷか浮かんでいるかもしれないため、黙っておいた方が賢明だ。
とはいえ、豊川は突如現れた「救世主」に大感激していた。
——あぁ、さすが、姉御肌(風)の鳴尾さんっ!
「そんなこと、しとうヒマあるんか?アンタらのも、もう始まりようで」
鳴尾は左手首にあるボーイズサイズでステンレススティールとゴールドのコンビの、ロ◯ックス オイスターパーペチュアルで時刻をちらりと確認した。
そのあと、興戸と七条をじろり、と睨んでから、今度はPCに目を移す。
——姐さん、ハンパない目力なんですけどっ。背後にうっすらと菱形のマークが見えるんですけど、気のせいですよねっ⁉︎
豊川は違う意味でどきどきする。
二人もハッ、としてそれぞれの時計を見る。
興戸は赤いクロコ革のフ◯ンク ミュラー ロングアイランドで、七条はピンクゴールドのカル◯ィエ ミスパシャだ。
次の瞬間、もう二人はPCに向かってマウスを握っていた。豊川も自分のソーラー電波のセ◯コー ルキアを見た。
時刻は午後三時。証券会社に勤務する身としては、後場(午後の株価取引)が引ける時間なのだが……
「今日はこのために、◯田のメインはもう購入済みや。……さぁ、祭りが始まるで」
鳴尾のハスキーな声とともに、三人が同時にマウスを右クリックした。
「うわぁ~どないしょ~!日本有数の大企業の御曹司と婚約してるのに、ギリシャの若き大富豪とアラブの王族の皇太子とヨーロッパの小国のプリンスからもプロポーズされてしもた~‼︎」
興戸がマロンブラウンのくるんくるんの巻き髪を揺らして、いや~ん、と悶えている。
「あぁ……うちのために、争わんといてぇ。源義経はんと織田信長はんと坂本龍馬はんから一人選べやなんて、うち、できひんわぁ。……うわぁっ、ナポレオンはんまで、うちを奪いに来はったえ~!」
七条が腰まである緑の黒髪をつやりと光らせ、よよっ、とデスクに崩れた。
「証拠はしっかり押さえとうで。あとは追い込みかけるだけや。なんで女房子どもがおるくせに、婚活パーティなんかに来ようねん?アンタの女房にもぜぇんぶバラして、息の根止めたるからな。……ウソつき詐欺野郎、覚悟しいや」
鳴尾が漆黒の前下がりボブをかきあげて、にやり、と氷の微笑を浮かべる。
社内のPCを使って三人がとてつもない集中力でやっているのは、仕事ではなく「乙ゲー」だった。無課金でお得にゲームでき、あわよくば特典ゲットできる、二十四時間限定の「フィーバー祭り」が始まったのだ。
ちなみに、彼女たちが会社の契約しているプロバイダのインターネットで乙ゲーをしているのは、内規によりオフィスでの私物のスマホは使用禁止だからである。
(だからといって、会社のインターネットを無断私用するのは、内規に書いてなくても、常識的にやってはならないことなのだが……)
——この人ら、こんなに美人やのに。リア充と違うねんなぁ。
北浜にある大阪支店の営業部に、彼氏がいる豊川はそう思った。
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