もう一度、愛してくれないか

佐倉 蘭

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Chapter 1

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 あのお嬢さんたちが仕事をしてないと、伊東や豊川は思っているが、決してそうではない。

 あさひ証券の大阪エリア限定の総合職は、関西で「三女」と呼ばれる女子大出身者が多い。
 入社五年目、奇しくも同期入社の興戸・七条・鳴尾は「スリートップ」と呼ばれ、それぞれの女子大出身者から入社年度関係なく、絶大なる人気を誇っている。

 女子社員たちの間のトラブルは厄介だ。寿退社は仕方ないが、研修や配属先での実地経験でせっかく戦力になった社員を、そんなことで退社に追い込んでしまったら、今まで育ててきた労力もコストも水泡に帰す。

 だが、スリートップはどこからともなくトラブルの情報を聞きつけ、早速「トップ会談」を行い、あっという間に「手打ち」するらしい。そうなると、スリートップと同じ学閥なら従うのはもちろん、学閥から外れたマイノリティでも聞かざるを得ない。
 実際、大阪エリアは他地域に比べ、圧倒的に女子社員の退職者が少ないのだ。

 これは、管理職として誇るべきことである。


「……専務、『スリートップ』は、なんで秘書室なんっすか?」
 伊東が怪訝そうな顔で訊く。

「興戸君は、京都に本社を持つ下着メーカーの重役の娘だ」
「えっ、やっぱお嬢さまなんやー」
 テーブルに突っ伏していた豊川がむくっ、と起き上がる。

「七条君は、京都と花札を発祥としたゲーム会社の重役の娘だ」
 なるほどなー、と伊東が肯く。

「鳴尾君は……神戸の……金融会社の……社長の娘だ」
 急におれが言い淀んだので、二人とも、きょとんとした顔になる。

「その母体は……阪神・淡路の震災のときに炊き出しをしたり、ハロウィンのときには地域の子どもたちのためにお菓子を配ったりと、ごくたまに『社会貢献』もしている」
「へぇ~、石◯軍団みたいですね~!」
 豊川が、無邪気な笑顔で感心する。

「……当たらずとも遠からず、かな」
 おれがそう言って、にやり、と笑うと、伊東がイケメンな笑顔を痙攣ひきつらせていた。

 これらのことは同じ学閥の者には周知の事実だ。だからこそ、入社年度を問わず慕われて君臨しているのだ。

 確かに、いずれの「家」もあさひ証券にとって「御得意様」であることには変わりがないが、それより三人一緒にしておいた方が、いざトラブルが持ち込まれたときに「手打ち」しやすいだろうと思って、去年から目の届く「秘書室」に置いているのだ。

「……とにかく、そんなわけだから、豊川君の負担にならないように、伊東、面倒くさい仕事だからといって秘書室に丸投げするなよ」
 おれがそう言うと、伊東は頭を掻きながら「すいません。……豊川さん、ごめんな」と詫びた。

 豊川は少数派マイノリティだから——受験はしたらしいが全滅だったらしい——スリートップとは均等に距離をとれるし、なにより人間関係において絶妙なバランス感覚の持ち主なのだ。
 潰すわけにはいかない。

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