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Chapter 8
②
しおりを挟む「……毎日、ヒマだろ?昼間、なにしてるんだ?」
夕飯のとき、妻に訊いてみた。
東京生まれの東京育ちの彼女に、大阪の友人はいない。たぶん、おれとしか話をしない日々が続いてるだろう。
——寂しくはないのだろうか?
「うーん、大抵おうちのことやってるかな?あ、このマンション周辺を散策してるんだった。この辺、おしゃれでレトロなカフェがいっぱいあって、全然飽きないの」
——そうだろう。ここ中崎町は、最近そういう街づくりで注目を集めるエリアだからな。
「……でもねぇ」
そう言って、彼女が少し顔を曇らせたので「どうした?」と顔を覗き込む。
「美味しそうなカフェは結構見つけたけど、歩いて行ける範囲に小さなスーパーしかないの」
——さすが、もうすぐ主婦歴二十五年だ。
「天神橋の方まで行けば、大きめのスーパーも日本一長い商店街もあるらしいんだけど。散策に出かけるのならともかく、大きな荷物を持って歩いて帰ってくるのが大変そうなのよね。……かと言って、わざわざタクシーで行くのもねぇ」
彼女はため息をついて、肩を竦める。おれの愛車のボ◯ボ S80は通勤に使っていた。そもそも「あんな大きな車、運転しにくい」と言っている。
「バカだな、早く言えよ。休みの日に、車を出してやるからさ。……それで、その見つけたおしゃれで美味しいカフェとやらに行ってみようぜ」
すると、ぱっと表情が明るくなり、
「えっ、いいのっ⁉︎ ほんとにっ⁉︎」
子どもみたいな笑顔になる。
「おい、東京のうちでは買い物に行くときに、大地が車を出さないのか?」
「自分で運転して行ってるわよ。大地なんて、当てにならないわ。イヤね、年頃の男の子って」
今度は「母親」の顔になって、げんなりした表情になる。
妻の愛車はフォ◯クスワーゲン ポロだ。本当は「フィ◯ット パンダやロー◯ー ミニのような車がいい!」と言い張っていたのだが、デザインだけで実用性に欠けまくるため、おれと息子とで全力で阻止した。
「夕食を用意して待ってたって、結局LINEで『遅くなる』って連絡したっきり、朝帰りだったりするんですもの。あたしにスマホを持たせたのも、連絡しやすくなるように、っていう自分の都合よ」
——なんだとっ⁉︎
母親といえ、おれのカミさんから、こんな美味い料理を毎日あたりまえのようにつくってもらっておいて、食わずに朝帰りだとっ⁉︎
——覚えてろよ、大地。
今年の新人研修担当に、さらに発破をかけて、もっと徹底的にシゴかせてやる。確か今週末は、研修の総仕上げの「合宿」があったはず……
「……やっぱり、女の子もほしかったなぁ」
妻がぽつり、とつぶやいた。
「友達がね、今ちょっとご主人といろいろあって家を出てるんだけど、娘さんのところにいるの。息子さんもいるんだけど、やっぱりそういうときに親身になって話を聞いてくれて頼れるのは、娘の方なんだって」
寂しげに、虚ろに笑う。
「……紗香」
おれは彼女の頭にふわりと手を乗せ、ぽんぽんとする。今日は対面ではなく、ちゃんと隣に座っているから、ちゃんと寄り添うことができる。
「おれたちは別に揉めることがないんだから、大地に頼ることなんてないだろ?」
彼女がおれを見上げて、ふっくらと微笑んだ。
「……うん……そうよね……」
——と、言っていたはずなのに。
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