もう一度、愛してくれないか

佐倉 蘭

文字の大きさ
51 / 51
Epilogue

〈完〉

しおりを挟む
 
 山中湖にあるあさひ証券の保養所に、今年の東京エリアに配属予定の新入社員が集められていた。新人研修の総仕上げである「合宿」のためだ。

「……研修って座学じゃねえのか?」
 上條 大地は怪訝な顔をしていた。
 学生時代サッカー部だった彼は、アンブ◯のTシャツとジャージを着ていた。

「だったら、こんなスポーティなウェアの着用を指定しないよね?」
 水島 慶人は嫌な予感がしていた。
 学生時代テニス部だった彼は、プ◯ンスのTシャツとジャージを着ていた。


「ちょっとあんた、それって、あ◯が着てたヤツじゃん?イキがってんじゃないわよっ」
 ツヤッツヤの長い黒髪が自慢の吉川よしかわが、身体からだにフィットしたプ◯マのジャージを着ていた女子社員を牽制した。
 LAスタイルを採り入れたことで、街着にできるほどオシャレになったプ◯マのジャージは、アーティストやタレントなど有名人たちの御用達である。

「あんたこそ『アデ◯ダスだけど、あたしのはちょっと違うのよ』ってイキがってんじゃね?」
 くるんくるんの栗色の巻き髪が自慢の中西なかにしが、アデ◯ダス by ステラ・マッカ◯トニーのジャージを着ていた女子社員に反撃した。
 元ビートルズのポール・マッカ◯トニーの娘を起用してデザインされた、NYスタイルのヨガにインスパイアされたアディダスのラインだ。

 そのとき、身長一六五センチくらいの女子社員が、二人の側を通り過ぎた。

 篠原 珠紀は、体型が整っていないと、とんでもなくダサく見えるというシンプルなチャ◯ットのジャージを、姿勢良くすらりとした肢体で見事に着こなしていた。幼少の頃はバレエを習い、学生時代は新体操部だった。

 吉川も中西も、なぜか急に黙った。


 大地は篠原と目が合った。口の端を緩め、笑顔になる。
 切れ長の目にスッと鼻筋の通った端正な顔立ちも、微笑むとそのクールな感じが和らいで少年のようになるのも、父親譲りだ。

 ——ストライクってわけじゃないが、好みのタイプではあるな。

 この秋からアメリカ留学が決まっているが、その前に彼女に声をかけてモノにするか、それとも二年後日本に帰ってから声をかけてモノにするか、思案していた。

 ——遠距離恋愛はめんどくせぇけど、帰国したときに結婚でもされてたら口惜しいしな。

 水島がそんな大地の顔をちらりと見た。

 このとき、彼らはこのあとに山中湖一周十三.五キロを延々と走らされることを、まだ知らない。研修担当の本社の社員から「連帯責任」と言われ、女子社員の分まで大地と水島が担わされることも……

 さらに、昨年まではまったくなくて、どういうわけかここ一週間で、急遽決まったプログラムだということも……

 ——彼らはまだ知らない。





→「常務の愛娘むすめの田中さんを探せ!」に続く


「もう一度、愛してくれないか」〈 完 〉
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

繰り返す夜と嘘 〜【実録】既婚の僕と後輩の彼女、あの夜のキスから始まった13年の秘密〜

まさき
恋愛
結婚して半年の僕と、同じ職場の彼女。 出会った頃は、ただの先輩と新入社員だった。   互いに意識しながらも、 数年間、距離を保ち続けた。   ただ見つめるだけの関係。   けれど――   ある夏の夜。 納涼会の帰り道。   僕が彼女の手を握った瞬間、 すべてが変わった。   これは恋でも、友情でもない。   けれど理性では止められない、 名前のない関係。   13年続いた秘密。 誓約書。 そして、5年の沈黙。   これは――   実際にあった「夜」の記録。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...