政略結婚はせつない恋の予感⁉︎

佐倉 蘭

文字の大きさ
21 / 128
Chapter 4

聖なる夜に初デートします ②

しおりを挟む

『だから、明日は地味な色のスーツはダメだぞ』

 といっても、わたしのスーツはブル◯クスブラザーズやニュー◯ーカーのような縫製は良いが質実剛健なトラッドなもので、色も黒・紺・茶・グレー系統ばかりだ。

『髪もひっつめるんじゃなくて、下ろせよ』

 ——えーっ、わたしの髪はちゃんとブローしないと、広がってライオンのたてがみのようになるのに。

「……無理よ。とても秘書には見えない姿になるって」
 それどころか、普通の会社員にもね。

『じゃあ……おれの部屋で着替えて支度すればいい』

 ——おれの部屋?

「あ、プライベートルームか。……それなら、着替えを持って行く」


 ゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜


 翌朝、まだ早い時間に副社長室に行って、プライベートルームをノックする。

 ドアを開けると、また将吾さんがベッドで寝ていた。昨夜、十一時頃に「終わった」と通話してきたのだから、たぶん「泊まり」かな?とは思っていた。

 この前と違って、起きずにぐっすり眠っている。相当疲れているんだろう。

 わたしは引いてきたマイクロモノグラムのキャリーバッグをなるべく音を立てないように壁際に置く。機内に持ち込める小型のタイプで、マイクロモノグラムの柄にセミオーダーしたものだ。

 無造作にソファに掛けられた衣類をクリーニングに出せるようにして、ローテーブルにあるコンビニ弁当やペットボトルを片付けた。彼の方が悲惨なクリスマスイブだったらしい。
 そして、今日身につけてもらうスーツとワイシャツとネクタイを用意して、ソファの上に置いた。

 ふと、視線を感じた気がしてベッドの方を見ると、いつの間にか将吾さんが目を覚まして、こちらを見ていた。

「……ごめんなさい。起こしちゃったね」
 わたしは微笑んだ。

 将吾さんはまだ完全に目覚めていないのだろう。カフェ・オ・レ色の瞳がぼんやりとわたしを見ている。
 窓から差し込む朝の光が、ダークブラウンの髪色をカフェ・オ・レ色に染め上げる。彼の本来の髪の色だ。

 あどけない表情をした将吾さんが、まるで幼い子どものように見える。

 ——この人と夜を過ごして朝を迎えたひとたちが、この表情かおを見てきたに違いない。


 また、将吾さんは眠りについた。

 島村さんが出社してくる時間まで、まだある。せめて、少しでも長く寝かせておいてあげたかった。

 弱冠三十歳で、だれもが知る世界的規模の会社の副社長。海外の支社も統括している責任者だ。関連会社を含めると、数え切れないほどの人たちの生活が、人生が、彼の肩にのしかかっている。
 彼のたった一つの判断ミスで、その人たちを路頭に迷わせるかもしれない。その肩にかかる重圧はどのくらいのものだろう。

 将吾さんはたった一人で、それに立ち向かっている。

 ——彼の秘書になったからこそ、わかったことだ。

 わたしは将吾さんを起こさないように、そぉ…っと部屋の外に出た。

 彼がちゃんと目覚めたとき、きっとほしくなる、ちょっと濃いめのコーヒーを淹れるために……

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

夫婦戦争勃発5秒前! ~借金返済の代わりに女嫌いなオネエと政略結婚させられました!~

麻竹
恋愛
※タイトル変更しました。 夫「おブスは消えなさい。」 妻「ああそうですか、ならば戦争ですわね!!」 借金返済の肩代わりをする代わりに政略結婚の条件を出してきた侯爵家。いざ嫁いでみると夫になる人から「おブスは消えなさい!」と言われたので、夫婦戦争勃発させてみました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください

無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...