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Chapter 5
そのときの「田中さん」⑥
しおりを挟むところが——
その刹那、亜湖に知られたらブッ飛ばされそうなことも同時に大地の心に浮かんでいた。
——やっぱ、亜湖の胸は本物だ。亜湖が巨乳なのは確定だ。
亜湖はシフォンのトップスをふわっとまとっていて、胸のふくらみは外からではわからない。
だが、今の大地はその胸に顔を埋めるように彼女に包まれている。彼の頬に当たる、やわらかいけれども弾力もある、その触感がリアルなのだ。一刻も早く、服を通してではなく直で味わいたいと、強くつよく思った。
「……そのウィスキー、アイリッシュですよね?」
突然、亜湖が尋ねた。
彼女は彼女で、いつの間にか大地が呑んでいる酒に気が取られていたようだ。顔だけ、彼のグラスに向いている。大地は自分が抱いてしまった邪念を棚に上げて、ムッとした。
「呑んでみるか?」
亜湖の胸から顔を上げ、上目遣いで訊いた。彼女はうれしそうに、こくん、と肯いた。
「呑んだことないから、呑んでみたい」
すると、大地はおもむろにグラスからグレ◯ダロウを口に含み、
「……んっ」
と言って、顎で、くいっ、と亜湖に促した。
亜湖は今度は自分からキスをする羽目になってしまった。
亜湖が恐る恐る、くちびるを大地に重なる。すぐさま、彼の口からグレ◯ダロウを注ぎ込まれた。ロックとはいえ、地球のような真ん丸の氷は溶けにくい。ほぼストレートな原液に亜湖が一瞬、咽せ返す。
シェリー酒の樽で熟成されたグレ◯ダロウのシングルモルトが、豊穣な香りと味とを亜湖にもたらせ、彼女の舌を翻弄する。大地は構わず、注ぎ続けた。
亜湖の口の端からグレ◯ダロウが漏れる。ぺろり、と大地の舌がそれを舐めた。そのまま、亜湖のくちびるの隙間を狙って、中へ滑らせていく。
二人の、微かにシェリー酒の面影の残る舌が、大地が侵入した亜湖の口の中で重なった。
最初は互いの様子を見ながら、探り探りだった。そのうち、じっとりと舌をからませ、もつれ合わすにつれて、大地は大胆に亜湖の舌を求め、亜湖もたどたどしいながらも必死でそれに応える。
荒い息の大地が、怖いほど切羽詰まった目でつぶやいた。
「……亜湖、もう抑えられない……おまえの全部がほしい」
大地は亜湖の手を引いて、立ち上がろうとした。ところが——
「……あれ?……立てない?」
立ち上がろうとしたら、ふらついて、またソファに腰を下ろしてしまう。
それが何回か、繰り返されたあと——
「まさか……!?」
大地は次の瞬間、がくん、と力が抜けて、ばたっ、と一枚板のカウンターに突っ伏した。
「どうしたんですか?……大丈夫?」
亜湖が当惑して心配そうに覗き込む。
「これ、飲んで」
グレ◯ダロウの隣にあったチェイサーが差し出される。
酒を呑んでこんなふうになったのは、いつ以来だろう。視点が定まらない。景色がぐるぐるぐる…と回っている。目を瞑っても身体が揺れているようだ。
——これでは、顔を起こそうと思っても、起こせない。そもそも、かつてこんなにまでなったことがあっただろうか……?
先週の蓉子と水島に引き続いて……
今夜、亜湖のペースに呑まれて——というか、亜湖との濃厚なディープキスで酔わされて……
——大地が潰れてしまった。
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