常務の愛娘の「田中さん」を探せ!

佐倉 蘭

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Last Chapter

営業二課の上條課長 ⑥

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 田中常務に、かつてないほどの衝撃が走る。

「上條、気は確かか!? そこからリストラが始まるんだぞ! 兜町はあさひ証券の『原点』だ!……それに、現在、おまえが配属されている店舗なんだぞ!!」

「だからこそ、アンテナショップにするんです」
 上條課長の目がギラッと光を放った。

旗艦店フラグシップだからこそ、叩き台アンテナショップになるんです」

 規模的にも、他店舗への波及効果にしても、あさひ証券発祥の地の本店「兜町」は、先陣を切ってこの改革案を実行するのに最適な店舗なのである。

「ただ、丸の内本社に戻ってこの改革案を実行するには、かなり強い権限が必要です。いくら本社でも、並みの本部長職では無理でしょう」

 上條課長の目は、獲物を見つけた肉食獣のように見えた。それが今、まっすぐ田中常務に向けられている。

「私は父である専務に、経営企画本部長のポストを要望しています」

 田中常務は息を呑んだ。経営企画本部長は、並みいる本部長の中でも筆頭で、常務である自分のすぐ下のポストなのだ。

 常務の頭に今の経営企画本部長の顔が浮かぶ。定年までにはもうしばらくあった。確か、大学生と高校生の子どもがいたはずで、今一番子どもに金がかかる時期だ。

「もし、この改革案にご賛同いただけるのでしたら、どうか常務の方からもお力添えいただけませんか」
 上條課長は頭を下げた。

 常務は眉間にシワを寄せ、腕を組んだ。
 経営企画本部長だけではない。この改革案を聞いて苦虫を噛み潰したような御面相になるであろう取締役たちの顔が、今から目に浮かぶ。
 彼らはたとえ会社が危機的な状況にあったとしても、自分の定年までは変革を認めないだろう。

「経営企画本部長になってアンテナショップでの成果が出ましたら、いよいよこの改革案を全国規模で実施したいのです」
 上條課長は常務の顔から目を離さない。ものすごい目力で彼を見ている。

「そうなると、経営企画本部長の権限では難しいと思います。なので、今度は取締役の中でも上位の副社長の権限が必要になってきます」

 副社長のポストは現在空位になっているが、あさひ証券では会長・社長に次ぐ、会社を代表する役職だ。二ヶ月前の役員会議で、ゆくゆくは「御曹司」の二人——上條 大地か水島 慶人のどちらかに、就かせることが決まったポストだった。

 ——次代のあさひ証券を背負って立つ候補はもう決められている。そしてそれは、今の取締役たちではない。水島か上條だ。

 ——水島が周りの反対を押し切って、上條のような大胆で即効性のある改革をやれるとは思えんしな。

 ——上條を先発にして改革を断行させておいて、落ち着いた頃に水島に継投させるっていうのが、会社にとっては妥当な選択か。


「おとうさん、お願い。会社のために、大地の力になって。早く手を打たないと、現在の流れにどんどん置いていかれるっていうのは、おとうさんも感じているでしょう?」
 亜湖も頭を下げる。

「……上條、君はまさか、私を取り込もうとして亜湖に近づいたんじゃないだろうな?」

 田中常務が「父親の顔」になって、大地を冷ややかに見る。大地のためにまるで貞淑な妻のようになっている亜湖を見て、イラッとしたのだ。

 大地は、うっ、と詰まった。今となってはラララ星の彼方へ消えてしまった野望だが、副社長になるために「常務の娘」を探し始めたのは事実だったからだ。

「おとうさん!なにを言ってるの?たとえそうでもいい、ってわたしが思ってるんだから、いいじゃない!!」

 ——いやいやいや、それは違うから、亜湖。ここは、キッパリと否定するところだから。

「か、上條っ、そんな卑劣な理由で亜湖に近づきやがって……っ!」

 ——あれっ?いい感じで話が進んでいたはずなのに、いつの間に?


「……それから?」

諒志がじろり、と大地を見て、話の続きを促した。

「副社長になって改革をやり遂げたら……そのあとは?」

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