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Epilogue
それからの「田中さん」②〈完〉
しおりを挟む大地の住む月島のタワーマンションの近くのスーパーで買い物をしたあと、マンションに帰った亜湖は手際よく常備菜を何種類かつくった。
そして今、それらを先刻スーパーで買ったタッパーに詰めている。
「亜湖、もうそろそろ……いいだろ?」
大地が背後から亜湖をふわりと抱きしめた。
「あ、そうだ」
亜湖は思い出したことを言った。
「ネットサービスを周知徹底させるために広告媒体を見直しするって言ってたじゃない?」
——なんで今、仕事の話するか!?
大地は亜湖の耳を甘噛みして、気を逸らせようと試みる。
「わたしね、広告代理店の人知ってるの。以前、合コンで会ったことあるから」
「……合コン!?……おまえ、合コンに行ってたのかっ!?」
しかし、気を逸らされたのは大地だった。しかも、二人がつき合う前の話だというのに、大地の機嫌が突然、MAXに悪くなる。
「あっ、奥さんいる人だから、大丈夫だよ」
「そいつ、結婚してるのに合コンに来たのかっ!?」
「その人イケメンだったから、囮に使われたんだよ。奥さんらしい人にバレたみたいで、途中で言い訳の電話してたけど。こっちも蓉子が囮に使われたんで、心配だからわたしもついていったの。……確かお名刺もらったはず……あっ、新田さんだ」
亜湖はスマホの名刺管理アプリで確認した。
「営業成績はトップだそうだよ。それに、気さくで親切そうな人だったし。……思い切って、今までの広報のやり方をガラッと変えてみるのもアリだよね?」
——亜湖をコールセンターのオペレーターたちの責任者に、とは言ったが……
大地は亜湖を自分の秘書にしたくなってきた。だけど、すぐ傍にいたら、仕事にならないかもしれない。
「あ、思い出した!……大地も合コン行ってたんだってね。しかも、水島課長たちとの社内合コン。蓉子が言ってたよ?」
大地の眉間にシワが寄る。
——蓉子のヤツ、余計なことをっ。慶人の今までのオンナ遍歴を洗いざらいしゃべってやるっ!あいつ、ひっくり返るぞ。
「それは、おまえを探してて、見つけるために……」
「なんで、わたしを見つけるのに合コンしないといけないの?」
亜湖が訝しんで、きゅっと睨んでくる。
大地は愛しい亜湖のくちびるに、ちゅっ、とキスをした。
「怒るなよ、亜湖……今日はおれの……」
なあに?と亜湖は大地を見上げる。
「……誕生日なんだから」
「ええっ!? 」
今度は亜湖が素っ頓狂な声を上げる。
「なんでもっと早くに言ってくれなかったのっ!プレゼント用意してないし、ケーキだってっ!?」
亜湖は泣きそうな顔で、大地に抗議する。
「ケーキは先刻、食っただろう?甘ったるいのは一日一個でいいよ。それから、誕生日プレゼントは……」
大地は亜湖の潤んだ瞳をじっと見つめた。
「……もう、もらったから」
そして、もう一度、亜湖のくちびるに自分のくちびるを重ねた。
ついばむような軽やかなキスから……
互いのくちびるを舌でなぞるようになり……
やがて、口のなかで互いの舌を溶けるみたいに絡め合わせて……濃厚なくちづけに変わっていく。
くちびるを離した亜湖が首を傾げて尋ねる。
「……それって、わたしってこと?」
大地が片方の口の端を上げて、いじわるっぽく笑う。
「……それも、ある」
そして、亜湖に——常務の愛娘の「田中さん」に向かって言った。
「今日、おれの誕生日のこの日に……これからのおまえの人生を、全部もらった」
「常務の愛娘の『田中さん』を探せ!」〈 完 〉
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完結おめでとうございます。
田中さんが誰かという謎解き要素と恋愛が上手くマッチした楽しいお話でした。
またお時間があればその後の番外編も見てみたいです。
お疲れ様でした。
田沢みんさま
最後までお読みくださり、ありがとうございましたm(_ _)m
先日より、こちらの話に関連する「もう一度、愛してくれないか」をスタートしましたので、よかったら引き続きお読みいただければうれしいです。
田沢みんさま
かなりヤバい領域まで上がってます(笑)
田沢みんさま
一気読み、ありがとうございます(笑)
ラストまでよろしくお願いします!