常務の愛娘の「田中さん」を探せ!

佐倉 蘭

文字の大きさ
73 / 73
Epilogue

それからの「田中さん」②〈完〉

しおりを挟む

 大地の住む月島のタワーマンションの近くのスーパーで買い物をしたあと、マンションに帰った亜湖は手際よく常備菜を何種類かつくった。
   そして今、それらを先刻さっきスーパーで買ったタッパーに詰めている。

「亜湖、もうそろそろ……いいだろ?」
 大地が背後から亜湖をふわりと抱きしめた。

「あ、そうだ」
 亜湖は思い出したことを言った。
「ネットサービスを周知徹底させるために広告媒体を見直しするって言ってたじゃない?」

 ——なんで今、仕事の話するか!?
 大地は亜湖の耳を甘噛みして、気を逸らせようと試みる。

「わたしね、広告代理店の人知ってるの。以前、合コンで会ったことあるから」
「……合コン!?……おまえ、合コンに行ってたのかっ!?」

 しかし、気を逸らされたのは大地だった。しかも、二人がつき合う前の話だというのに、大地の機嫌が突然、MAXに悪くなる。

「あっ、奥さんいる人だから、大丈夫だよ」
「そいつ、結婚してるのに合コンに来たのかっ!?」

「その人イケメンだったから、おとりに使われたんだよ。奥さんらしい人にバレたみたいで、途中で言い訳の電話してたけど。こっちも蓉子が囮に使われたんで、心配だからわたしもついていったの。……確かお名刺もらったはず……あっ、新田さんだ」
 亜湖はスマホの名刺管理アプリで確認した。

「営業成績はトップだそうだよ。それに、気さくで親切そうな人だったし。……思い切って、今までの広報のやり方をガラッと変えてみるのもアリだよね?」

 ——亜湖をコールセンターのオペレーターたちの責任者に、とは言ったが……

 大地は亜湖を自分の秘書にしたくなってきた。だけど、すぐそばにいたら、仕事にならないかもしれない。

「あ、思い出した!……大地も合コン行ってたんだってね。しかも、水島課長たちとの社内合コン。蓉子が言ってたよ?」

   大地の眉間にシワが寄る。
 ——蓉子のヤツ、余計なことをっ。慶人の今までのオンナ遍歴を洗いざらいしゃべってやるっ!あいつ、ひっくり返るぞ。

「それは、おまえを探してて、見つけるために……」
「なんで、わたしを見つけるのに合コンしないといけないの?」
 亜湖がいぶかしんで、きゅっと睨んでくる。

 大地は愛しい亜湖のくちびるに、ちゅっ、とキスをした。
「怒るなよ、亜湖……今日はおれの……」

 なあに?と亜湖は大地を見上げる。

「……誕生日なんだから」

「ええっ!? 」
 今度は亜湖が素っ頓狂な声を上げる。

「なんでもっと早くに言ってくれなかったのっ!プレゼント用意してないし、ケーキだってっ!?」
 亜湖は泣きそうな顔で、大地に抗議する。

「ケーキは先刻さっき、食っただろう?甘ったるいのは一日一個でいいよ。それから、誕生日プレゼントは……」
 大地は亜湖の潤んだ瞳をじっと見つめた。

「……もう、もらったから」

 そして、もう一度、亜湖のくちびるに自分のくちびるを重ねた。

 ついばむような軽やかなキスから……
 互いのくちびるを舌でなぞるようになり……
 やがて、口のなかで互いの舌を溶けるみたいに絡め合わせて……濃厚なくちづけに変わっていく。


 くちびるを離した亜湖が首をかしげて尋ねる。
「……それって、わたしってこと?」

 大地が片方の口の端を上げて、いじわるっぽく笑う。
「……それも、ある」

 そして、亜湖に——常務の愛娘の「田中さん」に向かって言った。

「今日、おれの誕生日のこの日に……これからのおまえの人生を、全部もらった」





「常務の愛娘の『田中さん』を探せ!」〈 完 〉

しおりを挟む
感想 6

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(6件)

田沢みん
2021.03.14 田沢みん

完結おめでとうございます。
田中さんが誰かという謎解き要素と恋愛が上手くマッチした楽しいお話でした。
またお時間があればその後の番外編も見てみたいです。
お疲れ様でした。

2021.03.14 佐倉 蘭

田沢みんさま
最後までお読みくださり、ありがとうございましたm(_ _)m
先日より、こちらの話に関連する「もう一度、愛してくれないか」をスタートしましたので、よかったら引き続きお読みいただければうれしいです。

解除
田沢みん
2021.02.28 田沢みん
ネタバレ含む
2021.03.01 佐倉 蘭

田沢みんさま
かなりヤバい領域まで上がってます(笑)

解除
田沢みん
2021.02.20 田沢みん
ネタバレ含む
2021.02.21 佐倉 蘭

田沢みんさま
一気読み、ありがとうございます(笑)
ラストまでよろしくお願いします!

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

イケメンエリート軍団??何ですかそれ??【イケメンエリートシリーズ第二弾】

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団の異色男子 ジャスティン・レスターの意外なお話 矢代木の実(23歳) 借金地獄の元カレから身をひそめるため 友達の家に居候のはずが友達に彼氏ができ 今はネットカフェを放浪中 「もしかして、君って、家出少女??」 ある日、ビルの駐車場をうろついてたら 金髪のイケメンの外人さんに 声をかけられました 「寝るとこないないなら、俺ん家に来る? あ、俺は、ここの27階で働いてる ジャスティンって言うんだ」 「………あ、でも」 「大丈夫、何も心配ないよ。だって俺は… 女の子には興味はないから」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。