5 / 13
Rond de jambe à terre
しおりを挟む「……お客様」
どこからともなく、すーっと黒服が二人現れた。
「申し訳ありませんが、こちらの階段から上はシルバーより上のバックルをお持ちのお客様のみのご案内となっております」
男の両脇に、黒服の二人がぴったりと付く。
「恐れ入りますが、どうぞこちらの方へ」
「えっ、な、なんだよっ。おれはただハプバーの店の女を指名しただけじゃないかっ」
——どうやら「青」のお客様はご存じなかったようね。
シルバーの下である「赤」まではお店の会員なのだが「青」は非会員の一見だから仕方ないのかもしれないが。
——下階にいる赤か青の女性の一般客に声をかければ、速攻で応じてくれるかもしれないのに。それとも、断られるのが怖くて「黒」なら大丈夫だとでも思ったのかな?
このお店のルールでは「そのすいかをそっと降ろせ」という符牒で踊り子を指名できるのは、上階の部屋の利用権限を持つ「シルバー」から上のステイタスのあるお客様のみとなっている。
とはいえ、あくまでもお店側は部屋とドリンクなどのサービスだけを提供するのであって、踊り子がお客様との間で「突如」芽生えた「自由恋愛」による「行為」までは関知しない、という体にしなければならない。
でないと、風営法や売春禁止法に抵触するからだ。
つまり、必ず踊り子側の「承諾」が必要だということである。
だからこそ、ルシファはわたしの「意思」をしつこいくらいに「確認」したのだ。
お客様は初めて会った人となにが起こるかわからない「スリル」を求めて、この「ハプニングバー」を訪れる。だけど「リスク」は要らない。
だからこそ、だれもが「安全」に楽しめるようルールを守るのが鉄則となるのだ。
——わたしはこの店しかハプバーに来たことないから、他のお店はどうだか知らないけどね。
青の男を「ご紹介」したと思われる赤のメンバーが血相を変えて「私の連れがどうかしましたか?」と足早にやってきた。
こんな「ルール違反」を引き起こしてしまったら、たぶん「ご紹介」したメンバーともども「出禁」になるだろう。残念ながら、あとの祭りだ。
わたしは振り返りもせずに、今度こそ上階へと上がっていった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
58
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる