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第4章 神聖の試練編

54話 重大過ぎる問題です

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 翌朝、僕はフェルに抱きかかえられた状態で朝を迎えました。
 どうやら、また眠ってしまった様ですね……

 4日も眠り続けたと言うのに再び直ぐに寝てしまうとは、不甲斐ない。
 けれどまぁ、身体的には4日間眠っていたとは言え、僕の精神的にはずっと起きていました。

 それも神々との対談と言うビッグイベント。
 コレール達の話では、常人では負担が大き過ぎて直接神に会う事は出来ないみたいですし。

 更には、あの日は朝から迷宮に行ったりリュグズールと戦ったり。
 眷属が2人増えたりと色々あって、疲労がたまっていたのでしょう。

 非常に遺憾ですが。
 その数々の出来事は、僕の身体・精神には十分な負担となっていたと言う訳ですね。

 それにしても、フォルクレス達と会っている間に4日間。
 そして目が覚めてからまた直ぐに眠ってしまったので、計5日間も何もしていない事になります。

 ……何て素晴らしい事でしょうか!
 5日間も怠惰に何もする事なく過ごしていても誰にも何も言われない。
 地球にいた時では考えられない事です。

 確かに、僕は学校にも行っていませんでしたし。
 家族と直接言葉を交わす事も殆どなく、一日中自分の部屋に引きこもっていました。

 しかし!  それでもネットを使って実家の総資産の約3割に及ぶ自身の資産の管理。
 株式市場を確認したりと、父に与えられた仕事はこなしていましたからね。

「しかし、まぁまだまだですね」

 確かにゴロゴロと過ごせる事は素晴らしい。
 しかし!  僕の理想には程遠いと言えるでしょう。

 だってまだナイトメアも小さな組織ですし、商会もまだ作れていません。
 怠惰に過ごすのは良いとして、好きな事が出来ずに理想とは言えませんからね!!

「さてと、休んだ分は働くとしましょうか!」

 フェルの翼の下から抜け出し、適当に魔法で服を着替えて1人意気込んでいると、フェルが目を覚ましてしました。

「すみません、起こしてしまいましたか?」

「ん、エルが気にする、事は無い。
 吾は、エルより先に、起きていた」

 そう言いつつも、人の姿になって欠伸を漏らしながら寝ぼけた目を擦っています。
 まぁこれ以上は言わぬが花と言うものですね。

「ん」

 フェルが突然、手を差し出しました。
 これは、どう言う事でしょうか?  まぁ取り敢えず差し出されたのなら取るしかありませんが……

 差し出されたフェルの手を取ると、フェルは僕の手を引いて先導する様に歩き始めました。
 なる程、どうやらフェルは僕の事を案内してくれる様ですね。

 今にして思い返してみれば、確かに僕はこの場所の事を何も知りません。
 なんたって、いきなり眠ってしまった訳ですし。

 無いとは思いますが。
 もしかするとここは、僕が眠る前までいたお城の中じゃ無いなんて事もあり得ます。

 まぁ、ユニークスキルである〝神眼〟を使えば一瞬でわかるのですが。
 ここはフェルに任せるとしましょう。

 フェルに手を引かれながら、部屋を出て廊下を歩きまわっていると……扉が開きっぱなしになっていた寝室に戻って来ました。

「あの」

「ん、エルは心配しなくて良い、全て吾に任せる」

 しかし、僕がその事をフェルに伝える前に、マイペースなフェルはそう言いながら寝室の前をスルー。

 それから暫く廊下を歩き回り、やっとの事でコレールに発見されました。
 此処はやはりお城の中だそうです。

 フェルは毎朝適当に歩き回っては誰かに見つかって保護される、と言う事を繰り返している様ですね。

 そんな状態で何をどう思って任せろと言ったのかは分かりませんが。
 まぁフェルですしね……

 まぁそんな訳で、本日も無事にコレールによって保護されたフェルと僕はコレールの案内の元、移動を開始。

 そして、辿り着いた先は……なんと言う事でしょう。
 その部屋は僕達がいた寝室の右隣の部屋でした……

 つまり、僕達は目的地がすぐ隣にあったにも関わらず、この広大なお城の中を彷徨っていた訳です。
 我ながら情け無いばかりですね。

 そんな意気消沈な気持ちもコレール、アヴァリス謹製の朝食を口にした瞬間に吹き飛びました。

 別に特段変わった所のない普通の朝食のはずなのに、どうしてこんなにも美味しいのでしょうか?

 ふと、そんな事を思ってコレール達に聞いてみると。
 何とコレールとアヴァリスの料理スキルのレベルがマックスと言う驚愕の事実。

 大国の王宮で料理長を任されているシェフでさえLV8。
 その人すら天才と呼ばれているのに、2人はそれを軽く凌駕するLV10。

 どうりで美味しいはずです。
 これはもう、うちの料理係はコレールとアヴァリスに決定ですね!

 まぁ。今までも全てコレールが料理をしてくれていましたけど……取り敢えず、厨房にフェルを近づけさせない様にしなければ。

 フェルが、もし料理をすると厨房がどの様な惨状になるか……容易に散らかりまくった光景が想像できてしまいます。

 フェルを厨房に入れる事は禁止にしようと心に誓いつつ、5日ぶりの朝食を食べ終わり一息つく。
 そして、僕は皆んなに向き直りました。

「では、予想外に時間をくってしまいましたが。
 本日より本格的に商会及び組織を作っていこうと思います。
 まず始めに、組織の地盤となり収入源ともなる商会ですが、それは僕のユニークスキル〝等価交換〟を応用しようと思っています」

 この世界には誰でも魔法を使える様にする方法がいくつか存在する。
 そのうちの一つが、深淵の試練にある組織本部及び僕のホームにある球体です。

 あれは魔水晶と呼ばれ、予め魔法を保存しておくと一定の魔力を消費し誰でもその魔法を使用する事が出来るのです。

 とは言え、魔水晶は殆ど普及していません。
 理由としては魔水晶とはダンジョンからごく稀に出土する物だから。
 市場に出回る事は殆どなく、あってもとても高価だと言う事。

 そして何よりその脆さにあります。
 幾ら数が少なく高価と言えど、大国の王族ですら使わないのは、全くと言って良いほど使い物になら無いから。

 魔水晶に魔法を込めると、その魔力に耐えきれずに水晶自体が崩壊する。
 本当に弱いマッチの火程度の明かりを灯す程度の事くらいしか出来ず。
 結果、実用不可とされ誰も使っていないのですが……

 実はそれって水晶の密度が小さい。
 つまりは不純物が多く混ざっているせいなんですよね。

 魔力密度の低い場所で生成された魔水晶の密度は低く脆い。
 ですが、魔力密度が高い場所で生成されたそれはその限りではありません。

 例えば、僕のホームである深淵の試練の下層。
 魔力密度が超濃密なので、純度の高い魔水晶の群生地があると言う訳です。

 それに、魔法も言ってしまえばスキルの一つです。
 恐らく僕の〝等価交換〟も込める事が可能でしょう。

 その事を簡単に説明した所。
 フェルとリュグズールは理解していなさそうでしたが、他の3人が言うには可能との事。
 これで、こっちは一先ず安心ですね。

 しかし、それ以上に僕達は看過出来ない重大過ぎる問題を抱えているのです。

「では、課題が一つ片付いた所で、現在の最も重大な問題なのですが……人はどうしましょう?」

 僕の言い放った大き過ぎる問題。
 それに対して、話を理解出来ていないフェルとリュグズールを除く全員が頭を抱えました……
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