Day's eye -匿名探偵Lの数奇な日常①-

七森陽

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幕間

好感の持てる人

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   *
「あの…」
 見かけた後ろ姿に声をかける。
「そちらは住居スペースしかございませんので、立ち入りはご遠慮いただけますか…?」
 その言葉に振り返ったのは、亜麻色の髪を後ろで一つに結んだ若い女性だった。たくさん出入りしている業者のうちの一人だろう。
「えっ!あれっ!そうだったんですね、すみません、迷ってしまって…」
 その女性は困ったように笑って引き返してくる。
「このお屋敷お広いですもんね。どちらに御用です?」
「お手洗いに行きたくて広間を出たんですけど、お屋敷の装飾がとても素晴らしくて、つい見入ってしまったら…」
 気付けばこんな所に、と眉を下げてはにかむ。とても可愛らしい女性だ、オルガはその女性に好意を持った。
「メイドさんですか?」
 今は休憩中でエプロンは外しているが、立ち居振る舞いでそうだと思ったのだろう、その女性はオルガに訊ねる。
「はい、住み込みメイドのオルガと申します。お手洗いご案内しますわ」
 オルガは名乗ると、手洗いに向かって歩き出した。女性もその後ろをついてくる。
「お手数おかけしてすみません」
 申し訳なさそうな声が後ろから聞こえて、オルガはくすりと笑った。
「大切なお客様ですし、そんなにお気になさらないで」
 彼女は何の業者だろう。華奢な身体つきだし、楽器運搬や会場設営ではなさそうだ。装飾に興味があるようだし、その類だろうか。
 そんな風にオルガが思考を巡らせていると、突如「きゃっ」という小さな叫び声に合わせて背中に何かがぶつかった。
 思わず立ち止まったが、ぶつかってきたのは後ろの女性だとすぐに解った。
「大丈夫ですか!?」
 背中にしがみつかれているせいで、顔だけでしか振り返れない。
「す、すみません、絨毯に躓いてしまいました…!」
 少しの時間で態勢を整え、女性はすぐに背中から離れた。
「お怪我はありませんか?」
 オルガが身体ごと振り返って訊ねたが、
「大丈夫です、すみませんぶつかってしまって」
本当にただ躓いただけのようだった。
「いえいえ、お気をつけくださいね」
 どうやらおっちょこちょいな女性らしい。ますます好感が持てる。
 そのまま手洗いに案内すると、大広間への戻り方を教えてその女性とは別れた。今日以降もう会うこともないだろうが、なんとも可憐な女性だったなあ。何の業者かだけでも聞いておけばよかったな、なんて思いながら、オルガは住居スペースに向かって道を引き返していった。


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