光のもとで2

葉野りるは

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April(翠葉:高校2年生)

ふたりの関係 Side 司 03話

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 入学式が終われば通常授業が始まる。そんなある日、
「なんで司がいるの?」
 昼休みが始まってすぐ嵐に訊かれた。
「翠葉ちゃんのとこに行かないの?」
 続けて優太にも訊かれ、「しばらくは」とだけ答えた。
「ふーん……司も少しは翠葉ちゃんのことを考えてるってことかな」
 三年で同じクラスになった朝陽に意味深な笑みを向けられたが、とくに返事はしなかった。
 新学期が始まって三日目。翠はまだ、クラスの人間全員とは話せていないだろう。
 簾条と海斗、佐野と漣、ほかにも顔見知りがいる時点で昼休みはそのあたりの人間と食べているであろうことは想像に易い。ただ、その人間たちばかりとつるんでいればほかのクラスメイトと話す機会は必然と減るはず。
 クラスで孤立することはなくとも、クラスメイト全員と言葉を交わすまでにはそれなりの時間がかかる環境下にいるなら、その期間は別々に昼休みを過ごせばいいと思っていた。

 夜になりゲストルームを尋ねると翠に迎えられた。
 すぐに部屋へ通され、
「ツカサ、栞持ってる?」
 どうしたことか上目がちな目で尋ねられる。
「は?」
「本に挟む栞、持ってる?」
「……持ってるけど」
「素材はなんでしょう……」
「皮とステンレスといくつか持ってるけど……」
 突拍子もない質問に淡々と答えると、
「やっぱり、ちゃんと聞いてからにすればよかったな……」
 翠は途端に残念そうな表情になり、視線も肩もわかりやすく落した。
「……なんの話?」
「誕生日プレゼント……」
 テーブルの脇に置かれていた手提げ袋を差し出される。
「開けていいの?」
「もちろん……。でも、ツカサは同じものを持っている気がするの」
 身内以外からのプレゼントに手を伸ばし、中に入ってるものを確認する。
 ひとつは透明の袋に入れられたフロランタン。もうひとつは片手におさまるくらいの黒い箱。
 包みを開けると、馴染みある栞が鎮座していた。
「確かに持ってる」
 台座から取り外すと、表に名前、裏には日付とメッセージが刻印されていた。
「……ごめん。来年は喜んでもらえるものを考えるね」
 別段がっかりしているわけではないし、喜んでいないわけでもない。
「別に嬉しくないとは言ってない」
 言ってすぐ、素直になれない自分に後悔した。ただ一言、嬉しいと言えばいいだけのことを……。
「この栞は使い勝手が良くていくつか持ってるけど、人にプレゼントされたのは初めて。名前やメッセージが入ってるのはこれだけ」
 特別であることを伝えるために言葉を繰り出したところでこれがせいぜい。
「……本当?」
「本当……。もし翠が俺と同じ立場だったらどう思う?」
「……嬉しい」
「……だから、ありがと」
 結果的には自分の感情を翠に言わせている始末。この性格はどうにかならないものか。
 翠にじっと見られていることに耐えかねて顔を逸らす。と、
「お茶、淹れてくるっ」
 翠はバタバタと部屋から出ていった。
「……顔、熱い。勘弁してくれ……」
 たったの二言だ。嬉しい、ありがとう――なんてことのない言葉。なのに、どうしてこんなにも遠まわしな言い方しかできないのか。
 そうは思うのに、そんな自分を翠が受け入れてくれていると思えばいつまで経っても直らない。
 
 数分して翠が戻ってくると、すぐに勉強を始めた。
 いつものペースで進め、時計が十時を指したところで、
「終わり。今日はここまで」
 翠は手を止めると、時計を見てから不思議そうな顔をした。
「いつもなら十一時くらいまでやるでしょう?」
「今回は余裕持って勉強してるから、そこまで目一杯やる必要はないだろ」
「……そっか」
 言ったことに嘘はなかった。でも、それだけでもなかった。
 今日は海斗がいない。翠の両親に了解を得ているとはいえ、あまり遅くまでいるのは体裁が悪い。
 先日、父さんにも釘を刺された。
「節度ある付き合いをしろ」と。
 それには異を唱えるつもりもなかった。
 いくら了承を得ているからといって、夜分遅くまでいるのは常識から外れる。父さんはそういうことを言いたかったのだろう。

 採点をしている間に翠はお茶を淹れに行き、採点が終わるころに戻ってきた。
 それまでのように正面に座るかと思えば、翠は俺の隣に腰を下ろす。
「間違えたところは明日までにさらっておいて」
「はい」
 翠は答案用紙を見て間違えた箇所にチェックを入れると、
「……手、つないでもいい?」
 小さな声で控え目に尋ねられ、まさかそんなことを言われると思っていなかった俺は、まじまじと見返すくらいには驚いていた。
「あのっ、だめだったらいいのっ」
「……いや、だめじゃないけど……」
「本当?」
 肯定の言葉を口にするより先に翠の手を取る。
 いつもと変わらずひんやりと冷たい指先……。
「相変わらず冷たい手」
「あ、ごめんっ」
 手を引かれそうになって、少し力をこめる。
「別に責めてるわけじゃない。一感想」
 翠はつながれた手を見ると、嬉しそうに口元を緩めた。
「ツカサの手はいつもあたたかいね」
 BGMも何も流れないしんとした部屋で、ただ時間だけが過ぎていく。双方何も話さず、時折お茶を口に運ぶ動作のみ。
 そんな時間を居心地悪いと思うことはなかった。
 考えてみれば、冬の寒いあの日以来、手をつなぐこともキスをすることもなかった。
 俺はいつまでこの状態で満足していられるだろう。いつまで、理性を保つことができるのか――
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