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July
七夕祭り Side 翠葉 05話
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笹の近くにいた真白さんと合流すると、残っていた線香花火を渡された。どうやら、ほかの花火はすべて楓先生と果歩さんがやりつくしてしまったらしい。
「翠葉ちゃんってもしかして花火苦手?」
「あの、実は煙が苦手で……」
「そんなの最初に言ってくれたら良かったのに! 風上でやればなんてことないよ! 今度また花火やろうね」
果歩さんに言われてにこりと頷く。
「さ、お義母さん、翠葉ちゃん、誰が一番長くもつか選手権やるよ!」
私たちは楓先生が差し出してくれた火に花火をかざし、三つ同時に火をつけた。
四回勝負のうち、私は三勝一敗。真白さんは二勝二敗、果歩さんは一勝三敗。
それらの勝ち負けは最後の片付けに響いた。
一番勝ちが多かった私はツカサと花火の片付け。次位の真白さんは涼先生と一緒に笹の片付け。一番負けが多かった果歩さんは楓先生と一緒にバーベキューの片付け。
あまりにも片付けに格差があって狼狽していると、
「これ、毎年恒例にしましょう?」
真白さんににこりと微笑まれても、これだけは譲るわけにはいかない。
「あの、果歩さんは妊婦さんなので私がっ――」
「だいじょーぶだいじょーぶ! 座ったり立ったりは大変だけど、食器を運んだりできることはあるからさ」
「そうそう。果歩が動けない分、俺が動くから翠葉ちゃんは花火の片付けお願いね」
ふたりは私が何を言う前に動き始めてしまった。
仕方なく花火の片づけを始めるも、花火の後始末など数分で終わってしまう。手持ち無沙汰に楓先生を手伝おうとしたら、
「せっかくの浴衣が汚れちゃうからだめ」
と一蹴されてしまった。
次なる場所へ歩みを向けるも、
「お気持ちはありがたいのですが、『願いごと』という個人情報を扱いますのでご遠慮ください」
こちらも涼先生ににこりと笑って却下されてしまう。
「翠葉ちゃん、ハープは車で運ぶから、マンションまで司に送ってもらったらどう?」
ツカサを振り返ると、「送っていく」と玄関へ向かって歩きだした。
私はその場にいた三人と、家の中にいる果歩さんに声をかけてからツカサのあとを追った。
浴衣を着ている分、少し暑さを感じていた。それでも、夜になれば熱が和らぎ生ぬるい風が頬を撫でていく。
「今日、とっても楽しかった。来年もあるなんて楽しみ! ツカサの家では毎年七夕祭りをしているの?」
「いや、今回が初めて」
その答えは意外だった。
「そうなの? でも、涼先生は毎年お休みするって……」
「毎年、結婚記念日と七夕は休んでふたりでどこかに出かけてる」
「そうなのね。……なんだか、すてき」
ただ思ったことをそのまま口にしただけだったけれど、ツカサは妙に悩ましい表情で口を噤んでしまった。
「ツカサ?」
「……それ、どこにポイントがあるの? 覚えていること? それとも特別な日扱いしているところ?」
「え?」
まさかそんなことを訊かれるとは思ってもみなくて一瞬びっくりしたけれど、明確な答えはきちんとある。
「ポイントは……ひとつは出逢った日が七夕であること。ふたつめは、出逢った日を覚えていてくれるところ。三つめは、覚えていてくれるだけじゃなくて、毎年特別な日にしてくれるところ。どれもすてきだな、と思う」
「……今さら出逢った日は変えられないし、出逢った日を覚えていたところで、学生であるうちはその日に出かけるのは無理だと思う」
そんな言葉が返ってくるとは思わず、さらに驚いた。直後、ツカサは照れ隠しのように目を逸らす。
こんなツカサは何度か見たことがあるけれど、そのたびに思う。少しかわいい、と。
「出逢った日が好きな人の誕生日って、それだけで特別感満載なんだけどな……。ね、来年の誕生日もふたりでケーキを食べよう?」
ツカサは何も言わないけれど、「そんなことでいいの」と目が訊いている。だから、
「うん。そんなことでいいの」
私はにこりと笑って見せた。
「来年も七夕祭りがあるのなら、来年はどんな願いごとを書く? 私は何をお願いしようかな」
今日は思いついたことをそのまま書いた感じ。それを後悔しているわけじゃないけれど、来年もあるのなら、もう少し考えたものにしたい。
返事を求めてツカサを見ると、
「今日の願いごとを変えるつもりはない」
その返答に少し疑問を抱いた。
ほんの数秒で思いついたふうだったけれど、そんなにも大切なお願いごとだったのだろうか。
ちょっとした好奇心で、
「……今日の願いごと、なんて書いたの?」
「それ、俺が教えたら翠の願いごとも教えてもらえるの?」
訊かれて悩む。
話すのに困るような内容ではない。でも、人に話してしまったら効力が薄らいでしまいそうな気がする。
「……秘密。だから、ツカサも言わなくていいよ」
隠したら知りたがるかな。
そんなことを考えながら、私はツカサを追い越すように一歩を大きめに踏み出した。すると、すぐに右腕を引かれる。
「ん? 教えてって言われても教えないよ?」
「訊かない。でも――」
「……でも?」
言葉の先が気になって、ツカサの顔をのぞき見る。と、
「インターハイで優勝したら、願いごとを聞いてほしい」
「え……?」
願いごと……? それは――
「今日の願いごとの内容を教えてくれる、ということ?」
「違う。今日の願いごとは関係ない。叶えてほしいのは別のこと」
叶えてほしい、願いごと……?
なんだか変な気分だ。
ツカサが「願いごと」? ……とってもらしくない言葉のように思える。
まじまじとツカサの顔を見ていると、
「聞いてもらえるの? もらえないの?」
「……ツカサが願いごと?」
「何か問題でも?」
「あ、ううん、少しびっくりしただけ。でも、私にきける願いごと?」
「翠にしか叶えられない願いごと」
「普段、お願いなんてされないからちょっと緊張する。どんな願いごとかな……。でも、毎日弓道の練習がんばっているものね。優勝したら何かご褒美があってもいいよね」
泣く子も黙るインターハイなのだ。その日に向けて毎日のように苛酷な練習をしているのだから、何かご褒美があってもいいと思う。
それが、私にしか叶えられないものと言われたら、了承しないわけにはいかない。
「お願いってなんだろう。それはそれで楽しみだから、優勝するまでは秘密にしていてね」
話が一段落すると、
「インターハイに応援に来るって言ってたけど、泊まり?」
「うん。今年の宿舎はウィステリアホテルなのでしょう? 先日静さんから連絡をいただいて、ツカサが泊まる部屋の隣を押さえてくれたって教えてくれたの」
「へぇ……」
「何もなければ唯兄が一緒に行ってくれる予定」
ツカサはあからさまに嫌な顔をした。
「本当に唯兄のことが好きじゃないのね?」
「会うたびにつっかかってくる人間にいい印象を持てる人間がいるなら会ってみたい」
私は思わず笑ってしまう。
「でも、唯兄のあれは、ツカサがお気に入りだからだと思うよ?」
「その曲解しまくった解釈もどうかと思うけど……」
そんな話をしながらマンションまでの道のりを歩いた。
「翠葉ちゃんってもしかして花火苦手?」
「あの、実は煙が苦手で……」
「そんなの最初に言ってくれたら良かったのに! 風上でやればなんてことないよ! 今度また花火やろうね」
果歩さんに言われてにこりと頷く。
「さ、お義母さん、翠葉ちゃん、誰が一番長くもつか選手権やるよ!」
私たちは楓先生が差し出してくれた火に花火をかざし、三つ同時に火をつけた。
四回勝負のうち、私は三勝一敗。真白さんは二勝二敗、果歩さんは一勝三敗。
それらの勝ち負けは最後の片付けに響いた。
一番勝ちが多かった私はツカサと花火の片付け。次位の真白さんは涼先生と一緒に笹の片付け。一番負けが多かった果歩さんは楓先生と一緒にバーベキューの片付け。
あまりにも片付けに格差があって狼狽していると、
「これ、毎年恒例にしましょう?」
真白さんににこりと微笑まれても、これだけは譲るわけにはいかない。
「あの、果歩さんは妊婦さんなので私がっ――」
「だいじょーぶだいじょーぶ! 座ったり立ったりは大変だけど、食器を運んだりできることはあるからさ」
「そうそう。果歩が動けない分、俺が動くから翠葉ちゃんは花火の片付けお願いね」
ふたりは私が何を言う前に動き始めてしまった。
仕方なく花火の片づけを始めるも、花火の後始末など数分で終わってしまう。手持ち無沙汰に楓先生を手伝おうとしたら、
「せっかくの浴衣が汚れちゃうからだめ」
と一蹴されてしまった。
次なる場所へ歩みを向けるも、
「お気持ちはありがたいのですが、『願いごと』という個人情報を扱いますのでご遠慮ください」
こちらも涼先生ににこりと笑って却下されてしまう。
「翠葉ちゃん、ハープは車で運ぶから、マンションまで司に送ってもらったらどう?」
ツカサを振り返ると、「送っていく」と玄関へ向かって歩きだした。
私はその場にいた三人と、家の中にいる果歩さんに声をかけてからツカサのあとを追った。
浴衣を着ている分、少し暑さを感じていた。それでも、夜になれば熱が和らぎ生ぬるい風が頬を撫でていく。
「今日、とっても楽しかった。来年もあるなんて楽しみ! ツカサの家では毎年七夕祭りをしているの?」
「いや、今回が初めて」
その答えは意外だった。
「そうなの? でも、涼先生は毎年お休みするって……」
「毎年、結婚記念日と七夕は休んでふたりでどこかに出かけてる」
「そうなのね。……なんだか、すてき」
ただ思ったことをそのまま口にしただけだったけれど、ツカサは妙に悩ましい表情で口を噤んでしまった。
「ツカサ?」
「……それ、どこにポイントがあるの? 覚えていること? それとも特別な日扱いしているところ?」
「え?」
まさかそんなことを訊かれるとは思ってもみなくて一瞬びっくりしたけれど、明確な答えはきちんとある。
「ポイントは……ひとつは出逢った日が七夕であること。ふたつめは、出逢った日を覚えていてくれるところ。三つめは、覚えていてくれるだけじゃなくて、毎年特別な日にしてくれるところ。どれもすてきだな、と思う」
「……今さら出逢った日は変えられないし、出逢った日を覚えていたところで、学生であるうちはその日に出かけるのは無理だと思う」
そんな言葉が返ってくるとは思わず、さらに驚いた。直後、ツカサは照れ隠しのように目を逸らす。
こんなツカサは何度か見たことがあるけれど、そのたびに思う。少しかわいい、と。
「出逢った日が好きな人の誕生日って、それだけで特別感満載なんだけどな……。ね、来年の誕生日もふたりでケーキを食べよう?」
ツカサは何も言わないけれど、「そんなことでいいの」と目が訊いている。だから、
「うん。そんなことでいいの」
私はにこりと笑って見せた。
「来年も七夕祭りがあるのなら、来年はどんな願いごとを書く? 私は何をお願いしようかな」
今日は思いついたことをそのまま書いた感じ。それを後悔しているわけじゃないけれど、来年もあるのなら、もう少し考えたものにしたい。
返事を求めてツカサを見ると、
「今日の願いごとを変えるつもりはない」
その返答に少し疑問を抱いた。
ほんの数秒で思いついたふうだったけれど、そんなにも大切なお願いごとだったのだろうか。
ちょっとした好奇心で、
「……今日の願いごと、なんて書いたの?」
「それ、俺が教えたら翠の願いごとも教えてもらえるの?」
訊かれて悩む。
話すのに困るような内容ではない。でも、人に話してしまったら効力が薄らいでしまいそうな気がする。
「……秘密。だから、ツカサも言わなくていいよ」
隠したら知りたがるかな。
そんなことを考えながら、私はツカサを追い越すように一歩を大きめに踏み出した。すると、すぐに右腕を引かれる。
「ん? 教えてって言われても教えないよ?」
「訊かない。でも――」
「……でも?」
言葉の先が気になって、ツカサの顔をのぞき見る。と、
「インターハイで優勝したら、願いごとを聞いてほしい」
「え……?」
願いごと……? それは――
「今日の願いごとの内容を教えてくれる、ということ?」
「違う。今日の願いごとは関係ない。叶えてほしいのは別のこと」
叶えてほしい、願いごと……?
なんだか変な気分だ。
ツカサが「願いごと」? ……とってもらしくない言葉のように思える。
まじまじとツカサの顔を見ていると、
「聞いてもらえるの? もらえないの?」
「……ツカサが願いごと?」
「何か問題でも?」
「あ、ううん、少しびっくりしただけ。でも、私にきける願いごと?」
「翠にしか叶えられない願いごと」
「普段、お願いなんてされないからちょっと緊張する。どんな願いごとかな……。でも、毎日弓道の練習がんばっているものね。優勝したら何かご褒美があってもいいよね」
泣く子も黙るインターハイなのだ。その日に向けて毎日のように苛酷な練習をしているのだから、何かご褒美があってもいいと思う。
それが、私にしか叶えられないものと言われたら、了承しないわけにはいかない。
「お願いってなんだろう。それはそれで楽しみだから、優勝するまでは秘密にしていてね」
話が一段落すると、
「インターハイに応援に来るって言ってたけど、泊まり?」
「うん。今年の宿舎はウィステリアホテルなのでしょう? 先日静さんから連絡をいただいて、ツカサが泊まる部屋の隣を押さえてくれたって教えてくれたの」
「へぇ……」
「何もなければ唯兄が一緒に行ってくれる予定」
ツカサはあからさまに嫌な顔をした。
「本当に唯兄のことが好きじゃないのね?」
「会うたびにつっかかってくる人間にいい印象を持てる人間がいるなら会ってみたい」
私は思わず笑ってしまう。
「でも、唯兄のあれは、ツカサがお気に入りだからだと思うよ?」
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