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August
願いごと おまけ Side 翠葉 01話
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ツカサは突然むくりと起き上がり、
「シャワー浴びてくる」
「え……? シャワーはもう浴びたんじゃないの?」
部屋に入ってきたときの印象はそんな感じだったのに、違ったのだろうか。
ツカサは肩越しに振り返り、
「……少しは察しろ」
「……何を?」
「……男の生理現象」
一瞬なんのことだかわからなかった。けれど、
「翠の腹部に当たってたと思うけど?」
その一言に思い当たる節がある。
確かに、抱きしめられているとき、お腹のあたりに硬いものが当たっていた。
それはつまり――
「……ごめん。いってらっしゃい」
私はベッドに横になったまま顔を両手で覆い、ツカサを送りだした。
しかし……その生理現象とはどう処理するのだろう。
「シャワーを浴びたら治るものなの……?」
疑問は解消されることなく私の脳内に居座る。けれども、数日間緊張の連続だったこともあり、一気に緩んだ心は私を眠りへと誘った。
「……い、翠」
「ん……」
「そろそろ起きて。夕飯が届く」
……夕飯が届く?
ツカサはいったい何を言っているのだろう。
不思議に思いながら目を開ける。と、目の前にツカサの顔があった。
びっくりして息が止まる。
「……そのびっくりしたって顔、ずいぶんなんだけど」
どこか不機嫌そうなツカサをじっと見ていると、
「起きて正座」
「え?」
「起きて正座」
「あ、はいっ」
反射的に飛び起きそうになったけれど、それはツカサの手によって阻止された。
「これ以上説教の項目を増やすな」
「え、説教……?」
さっきからツカサは何を言っているのだろう。
言われたとおり、ツカサの正面に正座をすると、
「翠の無防備すぎるところ、どうにかならない?」
「え……?」
「男の部屋にのこのこやってくるとか、どう考えたって無防備だろっ!?」
「ご、ごめんなさいっ?」
「疑問符つけるなよ……。俺以外の男の寝室に入るなんてこと――」
「しないっ。しないよっ!? 唯兄や蒼兄のお部屋には入るけど……だって、男の人のおうちに行くようなことないものっ」
「……秋兄は?」
「あ――えと……アルバムを見せてもらうのに寝室へ入ったことが……あります」
あのときもベッドで眠ってしまって、迎えに来てくれた栞さんに怒られたんだった。
「でも……ツカサの部屋でもだめなの?」
恐る恐る尋ねると、
「……翠を傷つけるような真似をするつもりはないけど、俺が我慢していることは忘れてはほしくないんだけど」
「……ごめんなさい。じゃ、もうツカサのおうちではお勉強できないね? ゲストルームでする?」
その言葉にツカサは頭をガシガシと掻いた。
「うちで会うときはリビングを使おう」
「……うん」
「何、不服なの?」
「そういうわけじゃ……。ただ、ツカサの部屋は居心地が良くて好きだったから」
「じゃ、早くその部屋に入れるように努力して」
……それはつまり、覚悟をしろ、ということだろうか。
言葉に詰まっていると、ドアをノックする音が聞こえた。
ツカサが出ると、室内に食事が運ばれてくる。
どうやら、私が寝ている間に九時近くなってしまったのだとか。
レストランへ行って食べることは可能だけれど、未成年が出歩く時間ではないということを考慮して、ツカサが部屋へ運ぶようにオーダーしてくれたのだ。
給仕の人がいなくなると、
「藤倉へ帰ってからの予定は?」
「お盆にお母さんとお父さんの実家へ行って、その週末には桃華さんたちと海水浴へ行く予定。でも、それはまだ悩んでる。蒼兄たちも一緒なんだけどね。あとはピアノのレッスンやハープのレッスンがちょこちょこ入ってる」
「翠の家は八月がお盆なんだ?」
「うん。ツカサのおうちは違うの?」
「うちは旧盆だから七月。ただ、企業関連は八月休みのところが多いから、病院の休みは八月」
「そうなのね」
「海水浴を悩んでいる理由は?」
それはあまり話したくなかった。
視線を落として口を噤んでいると、
「……水着を着ると、手術の傷跡やIVHの痕が見えるから?」
ピタリと言い当てられて唖然とする。
「わからないほうがどうかしている。去年の夏も今年の夏も、夏服を着ているときはIVHの痕を気にして手で隠していただろ」
言われて気づく。夏服になってから傷が見えないか、と気になって手で押さえることが多くなっていたことを。
ワンピースタイプの水着なら、手術の傷跡は隠れる。でも、IVHの痕は隠せない。傷跡を気にする人などいないだろうし、気になるのは自分だけとわかっていても、どうしても気が進まないのだ。
「気乗りしないなら行かなくていいんじゃない? 時間があるなら母さんやじーさんに会いに来て。喜ぶから」
「……うん、海水浴はもうちょっとだけ考えてみる。ツカサの予定は?」
「十六日から三十日まで車の教習所で合宿。三十一日に試験」
「インターハイが終わってもなんだか忙しいね」
「でも、今年の紅葉は少し離れたところへ見に行ける」
「それは嬉しい……。あ、白野のパレスに行きたいな。去年はあまり紅葉を楽しめなかったの。だから……」
「わかった、予定に入れておく」
そんな会話をしながら美味しい夕飯に舌鼓を打った。
「シャワー浴びてくる」
「え……? シャワーはもう浴びたんじゃないの?」
部屋に入ってきたときの印象はそんな感じだったのに、違ったのだろうか。
ツカサは肩越しに振り返り、
「……少しは察しろ」
「……何を?」
「……男の生理現象」
一瞬なんのことだかわからなかった。けれど、
「翠の腹部に当たってたと思うけど?」
その一言に思い当たる節がある。
確かに、抱きしめられているとき、お腹のあたりに硬いものが当たっていた。
それはつまり――
「……ごめん。いってらっしゃい」
私はベッドに横になったまま顔を両手で覆い、ツカサを送りだした。
しかし……その生理現象とはどう処理するのだろう。
「シャワーを浴びたら治るものなの……?」
疑問は解消されることなく私の脳内に居座る。けれども、数日間緊張の連続だったこともあり、一気に緩んだ心は私を眠りへと誘った。
「……い、翠」
「ん……」
「そろそろ起きて。夕飯が届く」
……夕飯が届く?
ツカサはいったい何を言っているのだろう。
不思議に思いながら目を開ける。と、目の前にツカサの顔があった。
びっくりして息が止まる。
「……そのびっくりしたって顔、ずいぶんなんだけど」
どこか不機嫌そうなツカサをじっと見ていると、
「起きて正座」
「え?」
「起きて正座」
「あ、はいっ」
反射的に飛び起きそうになったけれど、それはツカサの手によって阻止された。
「これ以上説教の項目を増やすな」
「え、説教……?」
さっきからツカサは何を言っているのだろう。
言われたとおり、ツカサの正面に正座をすると、
「翠の無防備すぎるところ、どうにかならない?」
「え……?」
「男の部屋にのこのこやってくるとか、どう考えたって無防備だろっ!?」
「ご、ごめんなさいっ?」
「疑問符つけるなよ……。俺以外の男の寝室に入るなんてこと――」
「しないっ。しないよっ!? 唯兄や蒼兄のお部屋には入るけど……だって、男の人のおうちに行くようなことないものっ」
「……秋兄は?」
「あ――えと……アルバムを見せてもらうのに寝室へ入ったことが……あります」
あのときもベッドで眠ってしまって、迎えに来てくれた栞さんに怒られたんだった。
「でも……ツカサの部屋でもだめなの?」
恐る恐る尋ねると、
「……翠を傷つけるような真似をするつもりはないけど、俺が我慢していることは忘れてはほしくないんだけど」
「……ごめんなさい。じゃ、もうツカサのおうちではお勉強できないね? ゲストルームでする?」
その言葉にツカサは頭をガシガシと掻いた。
「うちで会うときはリビングを使おう」
「……うん」
「何、不服なの?」
「そういうわけじゃ……。ただ、ツカサの部屋は居心地が良くて好きだったから」
「じゃ、早くその部屋に入れるように努力して」
……それはつまり、覚悟をしろ、ということだろうか。
言葉に詰まっていると、ドアをノックする音が聞こえた。
ツカサが出ると、室内に食事が運ばれてくる。
どうやら、私が寝ている間に九時近くなってしまったのだとか。
レストランへ行って食べることは可能だけれど、未成年が出歩く時間ではないということを考慮して、ツカサが部屋へ運ぶようにオーダーしてくれたのだ。
給仕の人がいなくなると、
「藤倉へ帰ってからの予定は?」
「お盆にお母さんとお父さんの実家へ行って、その週末には桃華さんたちと海水浴へ行く予定。でも、それはまだ悩んでる。蒼兄たちも一緒なんだけどね。あとはピアノのレッスンやハープのレッスンがちょこちょこ入ってる」
「翠の家は八月がお盆なんだ?」
「うん。ツカサのおうちは違うの?」
「うちは旧盆だから七月。ただ、企業関連は八月休みのところが多いから、病院の休みは八月」
「そうなのね」
「海水浴を悩んでいる理由は?」
それはあまり話したくなかった。
視線を落として口を噤んでいると、
「……水着を着ると、手術の傷跡やIVHの痕が見えるから?」
ピタリと言い当てられて唖然とする。
「わからないほうがどうかしている。去年の夏も今年の夏も、夏服を着ているときはIVHの痕を気にして手で隠していただろ」
言われて気づく。夏服になってから傷が見えないか、と気になって手で押さえることが多くなっていたことを。
ワンピースタイプの水着なら、手術の傷跡は隠れる。でも、IVHの痕は隠せない。傷跡を気にする人などいないだろうし、気になるのは自分だけとわかっていても、どうしても気が進まないのだ。
「気乗りしないなら行かなくていいんじゃない? 時間があるなら母さんやじーさんに会いに来て。喜ぶから」
「……うん、海水浴はもうちょっとだけ考えてみる。ツカサの予定は?」
「十六日から三十日まで車の教習所で合宿。三十一日に試験」
「インターハイが終わってもなんだか忙しいね」
「でも、今年の紅葉は少し離れたところへ見に行ける」
「それは嬉しい……。あ、白野のパレスに行きたいな。去年はあまり紅葉を楽しめなかったの。だから……」
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そんな会話をしながら美味しい夕飯に舌鼓を打った。
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