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October
紫苑祭準備編 Side 飛翔 02話
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副団長に任命された放課後、姫と王子の出し物を開示するための集まりがあった。
司先輩は相変わらず不機嫌そうに窓際に座っている。対して、御園生翠葉は海斗たちに背を押されてテーブルまでやってきた。
「今回の姫と王子のイベントなんだけど、権利取りリレーだから」
競技の説明を朝陽先輩がすると、司先輩は違えず的をついてくる。
「褒美って……?」
「勝った組の人間を抽選で三人選んで、当選者には姫または王子と一緒にお弁当を食べられる権利を発行。それから、全校生徒へ発行するものとして、姫のチア姿、王子の長ラン姿のスチル写真をデジタルアルバムに収録することが決まってる」
「やですっ」
「ごめん被る」
他人事ながらに思う。この女にとって今日は厄日だろう、と。
「おふたりさん、ごめんね? これ、もう決定事項だから」
嫌がるふたりにプリントを差し出したのは春日先輩だった。
すでに決定事項であることを突きつける。そんな感じ。
「基本、姫と王子の出し物って全校生徒に還元されることが前提だし、写真以外に何か案があるなら聞くけど? 正直、前回の紅葉祭よりはいいと思うし、前回の紅葉祭並みに全校生徒に還元できる出し物があるなら提案してくれてかまわないよ? 全校生徒に還元する、という意味で、写真撮影とライブステージを比べれば、写真撮影のほうが企画価値は低いよね。それゆえ、抽選で選ばれた人のみにお弁当タイムを付加したんだけど」
朝陽先輩の口述に反論したのは司先輩。
「第一、翠が男とふたりで弁当を食べられるとは思えない」
……これはフォローだろうか。それとも、逃れるための口実?
なんとなく、前者のような気がして面白くない。
司先輩がフォローするほどこの女に価値があるとは思えない。
そんなことを考えていると、飛竜が場にそぐわない声音で疑問を問う。
「え? なんでですかー? みんなで楽しくお弁当食べるだけですよ?」
「あの人、面倒なことに男性恐怖症の気がある」
俺の簡潔な答えに飛竜はひどく驚いて見せた。
「えっ!? そうだったんですかっ!? じゃ、何? 俺とか生徒会メンバーって男って見られてないんですか? あれ? でも、そうすると司先輩はっ!?」
その様が癇に障ったのか、司先輩は飛竜のことを無視して朝陽先輩に視線を定めた。
「司も心配性だなぁ……。その点は桃ちゃんがしっかりクリアしてくれてるよ。別にふたりきりで食べろって言ってるわけじゃない。当選した人間への風当たりが強くならないように、当選した人間は友達を五人まで誘っていいことになっているし、姫と王子も五人まで友達を誘っていいことになってる。それにさ、必ずしも姫だけが指名されるとも限らない。当選した人間は、姫と王子の両者を指名することもできる」
その言葉に納得したのか、これ以上何を言っても無駄だと思ったのか、司先輩は口を閉ざし窓の外へと視線を向けた。
そんな司先輩を見た御園生翠葉も、同様に肩を落とした。
その後、何事もなくミーティングは終わったが――
……あんた、自分が副団長に任命されたこと忘れてないか? 今言わずしてどうする。
そうは思ったが、面白いことになりそうだったからそのまま放置した。
競技という競技に出ない御園生翠葉の練習は、応援団とダンスの練習のみ。それらのスケジュールを見ると、月水金の練習日以外は帰って会計の仕事をしているようだった。
しかし、女には衣装とハチマキを作るという作業がある。それは御園生翠葉も例に漏れず。
噂を聞いたところによると、御園生翠葉は司先輩の長ランも作ることになったはず。
普通に考えて、長ランふたつを作るというのは大変な部類に入るだろう。果たしてすべてを平行作業できているのかどうか……。
疑問に思った俺は図書室へ赴きパソコンを起動させ、リトルバンクとエクセルをチェックした。
データを見る限り、毎日きちんと更新がなされている。しかし、会計の仕事ができていても、ほかへしわ寄せがいっているかもしれない。
それとなく千里に探りを入れたものの、授業始めにある小テストで御園生翠葉が失点している事実はなかった。
成績にも影響が出ていないとしたら、残るはひとつしかない。衣装作りだ。
どこで根を上げるだろうか、そんなことを考えていたある日――
「翠葉、刺繍進んでる?」
「んー……がんばってはいるのだけど、普段やり慣れないものって難しいね。今ハチマキにする刺繍が三分の一終わったくらい」
「私も同じくらいよ」
簾条先輩との会話を聞いてしまった。
……衣装作りも平行してできている?
いや、いくらなんでもそんな時間は――
鈍臭く見えて、実はそうじゃないのか……?
疑問に思いながら応援団の練習が始まった。
練習が始まって二十分が経過したころ、
「翠葉っっっ」
海斗の声に何事かと隣を見ると、御園生翠葉がぐらりと傾いだ。
バスケットボールをキャッチする要領で頭を抱えたものの、頭を抱えたところで倒れることを防げるわけではなく、俺は御園生翠葉の頭を抱えたままその場に尻餅をついた。
手に収まる頭はバスケットボールよりも小さい。そして、長い髪の合間から見える頬に赤味は差していなかった。
駆けつけた海斗と佐野が声をかけても御園生翠葉は反応を見せない。完全に気を失っていた。
何を思ったのか、海斗は横たわる御園生翠葉のポケットから携帯を取り出すと、すぐにディスプレイを表示させる。そこには、よくわからない数値が並んでいた。
「何それ」
「翠葉のバイタル」
「は?」
「ま、色々あんだよ。団長、俺、保健室に連れてきます」
「頼んだ」
「飛翔、咄嗟に頭かばってくれてありがと。助かったよ」
海斗は佐野とふたり揃って校庭をあとにした。
その背を見ながら団長は頭を掻く。
「今日初めての屋外練習だったからかなー? それとも、やっぱ色々負担だったかな?」
俺は知っていることをすべて話すことにした。
「実は今、会計の仕事を全部あの人がやってるんです」
「は……?」
「そのうえ、司先輩の長ランを作ることになったそうですよ」
「……マジ?」
俺は無言で頷いた。
「これはちょっと色々話を聞いたほうが良さそうだなぁ……。ま、御園生さんが戻ってきてから話そう」
御園生翠葉は四十分ほどで戻ってきた。
先に気づいた団長は休憩を言い渡し、走って観覧席へ向かった。
その背を追って校庭を離脱するも、どんな話になるのか、と考えただけで面倒臭さが全面に出てしまう。
「もう大丈夫?」
「はい。ご迷惑をおかけしてすみません……」
「急に倒れるからびっくりしたよ。ま、今日は暑かったし初めての屋外練習だったしね」
「本当にすみません……」
「いいよいいよ。あ、咄嗟に飛翔が頭かばってくれたから大丈夫だとは思うけど、頭痛かったりしない?」
「……大丈夫です」
「そう、なら良かった。ま、ちょっと座ろうか」
俺はふたりからは少し離れたところに立っており、御園生翠葉は団長に言われて観覧席に浅く腰掛けた。
「飛翔に聞いたんだけどさ、生徒会の会計の仕事、ほぼほぼ御園生さんに振られてるんだって? もしかして応援団と会計、衣装作りで結構負担になってたりする?」
御園生翠葉は目を泳がせ硬い表情で口を噤む。
その様は、呼吸をしているのかすら怪しい。
同じことを感じたらしき団長が深呼吸を促すと、びっくりした顔を団長に向けた。
「ほら、吸って……吐いて……吸って……吐いて……」
そこまでされて、ようやく呼吸再開。
やっぱり手間のかかる人間にしか見えない。
「もう一度訊くよ。今、結構しんどい?」
御園生翠葉は情けない顔で口を真一文字に引き結ぶ。
ここで白状しなかったら本当のバカだけど……?
「御園生さん、本当のところを教えて」
「……ちょっと、つらいです」
「うん。それ、ちょっとじゃないでしょ?」
目に涙を溜める姿を見て、ざまぁみろ、と思った自分がいた。
やっぱりとくに秀でたものなど何も持っていないのだ。
「よしよし、がんばってたね。でも、このまま進めるのには問題あると思うんだ。だから、どうしたらいいか考えよう? 飛翔っ」
呼ばれて仕方なくふたりの近くへ行く。
「やっぱ御園生さん、結構いっぱいいっぱいみたい」
「……でしょうね。会計の仕事をひとりでこなしてるうえ、衣装作りもあるわけですから」
「その会計の仕事ってどうしてそんなことになってるのさ」
理由は知っている。知ってはいるが納得はしていない。
俺が口を閉ざすと、御園生翠葉が申し訳なさそうに口を開いた。
「あの、それも私がいけないというか……」
「ん?」
「去年の紅葉祭のとき、私が生徒会できちんと機能するための規約が作られたんです」
先日、そのいきさつなるものを聞いて、「また優遇かよ」と思った。
なんだってそこまでしてこの女を生徒会に残すのか、と不満に思いこそすれ、納得するには程遠い。
「なるほど……それに加えて、今回は出る競技種目が少ない御園生さんに大半が振られてたわけね」
「紅葉祭や紫苑祭における会計は確かに大変です。でも、手分けしてやれるなら、別にひとりが負う必要はないはずなんですけど……。それらひとりで請け負って、挙句体調崩してるんじゃどこになんの意味があるんだか……」
体調が理由でそんな規約ができたのだとしても、今はその規約がネックになっているのではないのか。
「会計、今からでも四人で回せばいいだけじゃない?」
俺にしては優しい言葉をかけたつもりだった。けれども、
「それだけは嫌っ」
御園生翠葉は噛み付く勢いで抵抗を見せた。
「嫌とかそういう問題じゃないと思うんだけど」
「それでも嫌なの。……だって、優太先輩が言ってたもの。私が会計の作業をするから副団長の仕事ができるって」
「それ、あの時点ではって話だろ? 今となっては状況が違う。あんただって副団長を任されてる」
「そうなんだけど……組別のスケジュールが出来上がっている今、みんなにお願いなんて――」
人に迷惑をかけるのは嫌、そういうことなのだろう。でも、このまま進んだとしたら間違いなくどこかでトラブルが生じる。そんなこともこの女はわからないのか。……なら、突きつけてやる。
「そうやって自分追い詰めて、人に迷惑かけてどうしたいの?」
「飛翔、言いすぎ」
「自分、本当のことしか口にしてません」
御園生翠葉は俯いたまま、
「あのっ、大丈夫なのでっっっ――すみません、今日は帰りますっ」
やけにゆっくり立ち上がったかと思うと、くるりと身体の向きを変えて早足で立ち去った。
「飛翔~……追い詰めてどうするよ」
「別にどうも……。ただ、突きつけられないとわからないバカなのかと思って」
「きっついなぁ……。おまえ、そんなにきついのになんで女子に人気あんの?」
そんなこと知るか。
「やっぱ顔か? 顔なのか!?」
そんなバカっぽい会話をしながら応援団の練習に戻った。
司先輩は相変わらず不機嫌そうに窓際に座っている。対して、御園生翠葉は海斗たちに背を押されてテーブルまでやってきた。
「今回の姫と王子のイベントなんだけど、権利取りリレーだから」
競技の説明を朝陽先輩がすると、司先輩は違えず的をついてくる。
「褒美って……?」
「勝った組の人間を抽選で三人選んで、当選者には姫または王子と一緒にお弁当を食べられる権利を発行。それから、全校生徒へ発行するものとして、姫のチア姿、王子の長ラン姿のスチル写真をデジタルアルバムに収録することが決まってる」
「やですっ」
「ごめん被る」
他人事ながらに思う。この女にとって今日は厄日だろう、と。
「おふたりさん、ごめんね? これ、もう決定事項だから」
嫌がるふたりにプリントを差し出したのは春日先輩だった。
すでに決定事項であることを突きつける。そんな感じ。
「基本、姫と王子の出し物って全校生徒に還元されることが前提だし、写真以外に何か案があるなら聞くけど? 正直、前回の紅葉祭よりはいいと思うし、前回の紅葉祭並みに全校生徒に還元できる出し物があるなら提案してくれてかまわないよ? 全校生徒に還元する、という意味で、写真撮影とライブステージを比べれば、写真撮影のほうが企画価値は低いよね。それゆえ、抽選で選ばれた人のみにお弁当タイムを付加したんだけど」
朝陽先輩の口述に反論したのは司先輩。
「第一、翠が男とふたりで弁当を食べられるとは思えない」
……これはフォローだろうか。それとも、逃れるための口実?
なんとなく、前者のような気がして面白くない。
司先輩がフォローするほどこの女に価値があるとは思えない。
そんなことを考えていると、飛竜が場にそぐわない声音で疑問を問う。
「え? なんでですかー? みんなで楽しくお弁当食べるだけですよ?」
「あの人、面倒なことに男性恐怖症の気がある」
俺の簡潔な答えに飛竜はひどく驚いて見せた。
「えっ!? そうだったんですかっ!? じゃ、何? 俺とか生徒会メンバーって男って見られてないんですか? あれ? でも、そうすると司先輩はっ!?」
その様が癇に障ったのか、司先輩は飛竜のことを無視して朝陽先輩に視線を定めた。
「司も心配性だなぁ……。その点は桃ちゃんがしっかりクリアしてくれてるよ。別にふたりきりで食べろって言ってるわけじゃない。当選した人間への風当たりが強くならないように、当選した人間は友達を五人まで誘っていいことになっているし、姫と王子も五人まで友達を誘っていいことになってる。それにさ、必ずしも姫だけが指名されるとも限らない。当選した人間は、姫と王子の両者を指名することもできる」
その言葉に納得したのか、これ以上何を言っても無駄だと思ったのか、司先輩は口を閉ざし窓の外へと視線を向けた。
そんな司先輩を見た御園生翠葉も、同様に肩を落とした。
その後、何事もなくミーティングは終わったが――
……あんた、自分が副団長に任命されたこと忘れてないか? 今言わずしてどうする。
そうは思ったが、面白いことになりそうだったからそのまま放置した。
競技という競技に出ない御園生翠葉の練習は、応援団とダンスの練習のみ。それらのスケジュールを見ると、月水金の練習日以外は帰って会計の仕事をしているようだった。
しかし、女には衣装とハチマキを作るという作業がある。それは御園生翠葉も例に漏れず。
噂を聞いたところによると、御園生翠葉は司先輩の長ランも作ることになったはず。
普通に考えて、長ランふたつを作るというのは大変な部類に入るだろう。果たしてすべてを平行作業できているのかどうか……。
疑問に思った俺は図書室へ赴きパソコンを起動させ、リトルバンクとエクセルをチェックした。
データを見る限り、毎日きちんと更新がなされている。しかし、会計の仕事ができていても、ほかへしわ寄せがいっているかもしれない。
それとなく千里に探りを入れたものの、授業始めにある小テストで御園生翠葉が失点している事実はなかった。
成績にも影響が出ていないとしたら、残るはひとつしかない。衣装作りだ。
どこで根を上げるだろうか、そんなことを考えていたある日――
「翠葉、刺繍進んでる?」
「んー……がんばってはいるのだけど、普段やり慣れないものって難しいね。今ハチマキにする刺繍が三分の一終わったくらい」
「私も同じくらいよ」
簾条先輩との会話を聞いてしまった。
……衣装作りも平行してできている?
いや、いくらなんでもそんな時間は――
鈍臭く見えて、実はそうじゃないのか……?
疑問に思いながら応援団の練習が始まった。
練習が始まって二十分が経過したころ、
「翠葉っっっ」
海斗の声に何事かと隣を見ると、御園生翠葉がぐらりと傾いだ。
バスケットボールをキャッチする要領で頭を抱えたものの、頭を抱えたところで倒れることを防げるわけではなく、俺は御園生翠葉の頭を抱えたままその場に尻餅をついた。
手に収まる頭はバスケットボールよりも小さい。そして、長い髪の合間から見える頬に赤味は差していなかった。
駆けつけた海斗と佐野が声をかけても御園生翠葉は反応を見せない。完全に気を失っていた。
何を思ったのか、海斗は横たわる御園生翠葉のポケットから携帯を取り出すと、すぐにディスプレイを表示させる。そこには、よくわからない数値が並んでいた。
「何それ」
「翠葉のバイタル」
「は?」
「ま、色々あんだよ。団長、俺、保健室に連れてきます」
「頼んだ」
「飛翔、咄嗟に頭かばってくれてありがと。助かったよ」
海斗は佐野とふたり揃って校庭をあとにした。
その背を見ながら団長は頭を掻く。
「今日初めての屋外練習だったからかなー? それとも、やっぱ色々負担だったかな?」
俺は知っていることをすべて話すことにした。
「実は今、会計の仕事を全部あの人がやってるんです」
「は……?」
「そのうえ、司先輩の長ランを作ることになったそうですよ」
「……マジ?」
俺は無言で頷いた。
「これはちょっと色々話を聞いたほうが良さそうだなぁ……。ま、御園生さんが戻ってきてから話そう」
御園生翠葉は四十分ほどで戻ってきた。
先に気づいた団長は休憩を言い渡し、走って観覧席へ向かった。
その背を追って校庭を離脱するも、どんな話になるのか、と考えただけで面倒臭さが全面に出てしまう。
「もう大丈夫?」
「はい。ご迷惑をおかけしてすみません……」
「急に倒れるからびっくりしたよ。ま、今日は暑かったし初めての屋外練習だったしね」
「本当にすみません……」
「いいよいいよ。あ、咄嗟に飛翔が頭かばってくれたから大丈夫だとは思うけど、頭痛かったりしない?」
「……大丈夫です」
「そう、なら良かった。ま、ちょっと座ろうか」
俺はふたりからは少し離れたところに立っており、御園生翠葉は団長に言われて観覧席に浅く腰掛けた。
「飛翔に聞いたんだけどさ、生徒会の会計の仕事、ほぼほぼ御園生さんに振られてるんだって? もしかして応援団と会計、衣装作りで結構負担になってたりする?」
御園生翠葉は目を泳がせ硬い表情で口を噤む。
その様は、呼吸をしているのかすら怪しい。
同じことを感じたらしき団長が深呼吸を促すと、びっくりした顔を団長に向けた。
「ほら、吸って……吐いて……吸って……吐いて……」
そこまでされて、ようやく呼吸再開。
やっぱり手間のかかる人間にしか見えない。
「もう一度訊くよ。今、結構しんどい?」
御園生翠葉は情けない顔で口を真一文字に引き結ぶ。
ここで白状しなかったら本当のバカだけど……?
「御園生さん、本当のところを教えて」
「……ちょっと、つらいです」
「うん。それ、ちょっとじゃないでしょ?」
目に涙を溜める姿を見て、ざまぁみろ、と思った自分がいた。
やっぱりとくに秀でたものなど何も持っていないのだ。
「よしよし、がんばってたね。でも、このまま進めるのには問題あると思うんだ。だから、どうしたらいいか考えよう? 飛翔っ」
呼ばれて仕方なくふたりの近くへ行く。
「やっぱ御園生さん、結構いっぱいいっぱいみたい」
「……でしょうね。会計の仕事をひとりでこなしてるうえ、衣装作りもあるわけですから」
「その会計の仕事ってどうしてそんなことになってるのさ」
理由は知っている。知ってはいるが納得はしていない。
俺が口を閉ざすと、御園生翠葉が申し訳なさそうに口を開いた。
「あの、それも私がいけないというか……」
「ん?」
「去年の紅葉祭のとき、私が生徒会できちんと機能するための規約が作られたんです」
先日、そのいきさつなるものを聞いて、「また優遇かよ」と思った。
なんだってそこまでしてこの女を生徒会に残すのか、と不満に思いこそすれ、納得するには程遠い。
「なるほど……それに加えて、今回は出る競技種目が少ない御園生さんに大半が振られてたわけね」
「紅葉祭や紫苑祭における会計は確かに大変です。でも、手分けしてやれるなら、別にひとりが負う必要はないはずなんですけど……。それらひとりで請け負って、挙句体調崩してるんじゃどこになんの意味があるんだか……」
体調が理由でそんな規約ができたのだとしても、今はその規約がネックになっているのではないのか。
「会計、今からでも四人で回せばいいだけじゃない?」
俺にしては優しい言葉をかけたつもりだった。けれども、
「それだけは嫌っ」
御園生翠葉は噛み付く勢いで抵抗を見せた。
「嫌とかそういう問題じゃないと思うんだけど」
「それでも嫌なの。……だって、優太先輩が言ってたもの。私が会計の作業をするから副団長の仕事ができるって」
「それ、あの時点ではって話だろ? 今となっては状況が違う。あんただって副団長を任されてる」
「そうなんだけど……組別のスケジュールが出来上がっている今、みんなにお願いなんて――」
人に迷惑をかけるのは嫌、そういうことなのだろう。でも、このまま進んだとしたら間違いなくどこかでトラブルが生じる。そんなこともこの女はわからないのか。……なら、突きつけてやる。
「そうやって自分追い詰めて、人に迷惑かけてどうしたいの?」
「飛翔、言いすぎ」
「自分、本当のことしか口にしてません」
御園生翠葉は俯いたまま、
「あのっ、大丈夫なのでっっっ――すみません、今日は帰りますっ」
やけにゆっくり立ち上がったかと思うと、くるりと身体の向きを変えて早足で立ち去った。
「飛翔~……追い詰めてどうするよ」
「別にどうも……。ただ、突きつけられないとわからないバカなのかと思って」
「きっついなぁ……。おまえ、そんなにきついのになんで女子に人気あんの?」
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「やっぱ顔か? 顔なのか!?」
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