光のもとで1

葉野りるは

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第十二章 自分のモノサシ

15話

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 衣装合わせが済むと私は図書室へ戻り、桃華さんと先輩ふたりは歌合せに向かった。
 相変わらず何を歌うのかは教えてもらえないのだけれど、順番で言うなら私の前に生徒会女子メンバーの歌がある。
 私が立つステージは円形ステージで、桃華さんたちが立つのは北側にある備え付けの半月ステージ。
「……遠いな。そのステージ、私見られるのかな?」
「ん?」
 一緒に会計の作業に当たっていた優太先輩にひとり言を聞かれてしまった。
「すみません、なんでもないです」
 今はツカサも歌合せで図書室にはいなかった。
「なんのステージ?」
「え? あ……桃華さんたちのステージです」
 でも、考えてみればツカサのステージだって見られるのかは不明なのだ。スタンバイ時は必ず円形ステージの下にいるのだから。
「嵐子たちの歌のあとが翠葉ちゃんの歌だからね。ま、なんとかなるよ。基本、どこのステージの下にも映像が見られるモニターが設置されるから。映像班が撮ってるものはリアルタイムで見られる」
「そうなんですかっ!?」
「うん。今、朝陽がその打ち合わせに行ってるとこ。最終確認はステージができてからだけど、前日のリハでモニターも見れるようになる」
「前日のリハーサルでほかの人の歌も聞けますか?」
「んー、ごめん。それは無理」
 優太先輩は苦笑して、
「運営側でもさ、楽しみはあってもいいよね?」
「……でも、リハーサルって当日の流れを確認するためのものじゃ……」
「それは大丈夫!」
 話に入ってきたのは久先輩。
「実行委員に誘導班がいて、ちゃんと誘導してくれるようになってる」
 そうなんだ……。
「それにしても、この金額どう捌くかなぁ……」
 優太先輩はわしわしと頭を掻く。
「優太、俺、見回りに行ってくる。で、そのまま小体育館に行くから」
「あ、もうそんな時間か。了解です」
 生徒会男子メンバーはリクエストの多かった嵐の曲を六曲歌うことになっていた。
 それらすべてを文化部に演奏させるのは文化部へのウェイトがかかるうえ、練習時間を捻出するのが難しいという結論に至り、二曲以外はカラオケ機材を利用するのだとか。
 どうやらサザナミくんのお母さんが音楽スタジオ兼カラオケショップを経営しているらしく、そこから機材を借りてきたらしい。
 振り付けの練習もあることから、時間を見つけてはツカサ以外のメンバーは小体育館で練習をしているという話。
 歌いながら踊るなんてすごいな、と思う。

 ここ図書室では、ライブで歌われる音楽が随時流れているため、私もだいたいの曲は覚えた。
 ツカサの歌う曲と私の歌う曲、そして表向き伏せられている曲は流れない。
 正しく言うなら、私とツカサは辞退したのだ。
 なんだか自分と似た声の歌が流れるのは落ち着かなくて……。
 一方、ツカサがどうして辞退したのかは謎。
「司はこれどうするつもりかなぁ……。何か考え聞いてる?」
「いえ」
 優太先輩は時間を気にしつつもノートパソコンのディスプレイを睨んでいる。
 それは使途不明金未遂の寄せ集め。寄せ集めとはいってもかなりの金額だ。
「先輩、それなんですけど……」
「ん?」
「このお祭りの運営執行部はここですよね?」
「うん、そうだね」
「それが何?」というような顔をされた。
 これがツカサなら、眉間にしわを寄せ怪訝な顔をされたことだろう。
「全団体の予算申請書や報告書を見てきたのですが……」
「うん」
「カボチャ、仕入れてるところが少ないんです」
「……え?」
「カボチャを買っている団体が二組しかありません」
「……それがどうかした?」
「あ、えと……この紅葉祭ってハロウィンパーティーも兼ねてるんですよね?」
「そうだけど……あっ――」
「なのにカボチャを買ってる団体が二組しかないんです」
 その二組のうちのひとつがうちのクラスで、もうひとつは調理部。
「翠葉ちゃん、その先、ぐわっと喋ってくださいなっ!」
「あのですね……どこの部もどのクラスも忙しいのかもしれないのですが、今からならカボチャの手配も間に合うと思うし、ジャックオーランタンコンテストとかやってみたらどうでしょう? イベントをひとつ盛り込むことができるし、後夜祭で火を灯したらきれいじゃないかな。もちろん、防災対策をしなくてはいけないので、ランタンの近くには水を張ったバケツ、もしくは水場のみに展示等、考えなくてはいけないことも出てくるのですが……。でも、ジャックオーランタンをツリーにしたらとてもきれいだと思いませんか? それから、くりぬいた中身はすべてパンプキンスープにして、ご来場いただいたお客様に無料、もしくは有料で振舞うなんてどうでしょう?」
「すっごくいい案だと思うけど、それだけじゃこの金額は捌けないよ」
 確かにそうだ。カボチャひとつの単価など高が知れている。でも――
「執行部がバイトを雇うことは可能でしょうか?」
「え?」
「前日も当日も、調理部は調理部の出し物でパンプキンスープを作る人は望めそうにありません。それに、飲食店を企画しているクラスで調理室は二教室とも埋まってしまっています。でも、食堂は……? そこに頼めないでしょうか?」
「……もしかして雇うって――食堂の厨房の人たちっ!?」
 コクリと頷き、
「この金額を日給分配にすれば捌けないこともないかと――」
 突如、背後の空気が動いた。
「その案、採用。もっとも、学校長の許可が下りればの話だけど」
「司っ!」
「ツカサっ!」
 振り向くと、手帳を片手に持ったツカサがいた。
 ノートパソコンのディスプレイを見ながら話していたこともあり、ツカサが戻ってきたことには気づきもしなかった。
 もっとも、今は人の出入りが激しいこともあり、図書室のドアは開きっぱなしになっているため、出入り口への注意は完全に欠けていた。
「その案なら、このあとどれだけ金額に動きがあってもすべてそこで帳尻を合わせることが可能。いっそのこと、パンプキンスープを有料にして売り上げは学校への寄付として献納すれば、全体評価がプラスに加算されるだろ。もしくは、ジャックオーランタンコンテストの入賞者に景品を用意することも可能。すぐに起案書作成。材料費の目処だけは必要になるだろうから厨房の責任者に話通して」
「はいっ!」
「翠じゃなくて優太」
 え……?
「翠は休憩の時間」
 声音は変わらないけれど、目が早く隣の部屋へ行けと言っている。
「……はい」
 なんともいえない気分で席を立つと、
「翠葉ちゃん、俺もこれから歌合せ」
 優太先輩がにこりと笑った。そしてすぐにツカサへ向き直る。
「厨房との打ち合わせは司が行ってよ。それが終わってから起案書作成」
「俺はこれから実行委員との打ち合わせが入ってるから三十分は――」
「知ってる」
 優太先輩はにこりと笑んだ。
「俺は一時間合わせだから、司のほうが早くにフリーになるだろ? だから、司が厨房との打ち合わせしてきてよ。で、戻ってきてから起案書作れば? そのころには俺も戻ってくるし翠葉ちゃんの休憩時間も終わるよね?」
「……わかった。その代わり、翠はきっちり一時間休むこと。そしたら起案書は翠に任せる」
 目の前で繰り広げられた会話はちょっとした攻防のようにも見え、優太先輩に視線を向けると、
「良かったね」
 にっこり笑顔が返ってきた。
「っ……優太先輩、ありがとうございます!」
「いいえ。ほら、司に角が生える前に撤収撤収!」
「はいっ!」
「優太、俺に角は生えない……」
「いや、俺と翠葉ちゃんには見えるんだ」
 そんな会話を聞きながらカウンターへ向かう。
 起案書なんて作るの初めて……。
 いつも人間計算機よろしく的に扱われていたから。
 どうしよう、すごく嬉しい――
 私が作ったものがあの白いファイルの中の一枚に加われるのかな……。
 そう思うと、さらなる嬉しさがこみ上げてきて、自然と顔が緩んでしまう。
「お? 姫、いいことあった? 嬉しそう」
 カウンターに入ると神谷先輩に声をかけられた。
「はい!」
 嬉しいままに返事をすると、放送委員でそこにいた飛鳥ちゃんに抱きしめられた。
「翠葉充電ーっ! 翠葉が笑ってると私も嬉しいっ! よぉしっ、がんばるぞー!」
「いや……おまえはもう少しパワーを抑えてくれ――」
 そんなやり取りをあとに、秋斗さんの仕事部屋へ入った。
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